軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

里帰り編11 遊んだからにはお仕事します③異変

モーちゃんがいつもの足を折り伏せるような体勢でなく、横に倒れたような姿で木の根元にいた。その横でぴーちゃんがオロオロしている。

「モーちゃん」

声をかけながら、背中に手をやると、いつもより熱い気がする。首のところに手をやるとうっすら辛そうに目を開けた。

「モーちゃん、苦しい? どこが痛い?」

モーちゃんは荒く息をしているだけで、他に動きはない。

これが人ならお医者さんを呼ぶところだが、モーちゃんは魔物だ。

あ。

わたしはモーちゃんを鑑定してみる。でもレベルが高くはないから、ホルスタについてのあたりさわりのない情報しか見えてこない。

え? 半分のHPが見ている間に1ずつ減っていく。嘘!

わたしはモーちゃんの胸部分に手を置いて目をつむる。聖なる光をイメージする。モーちゃんの体の中を聖なる光でいっぱいにする。体の中の悪いものを排出する。わたしの聖魔法のレベルは低い。でも、何もしないよりはマシなはず。お医者様は魔物を診てはくれないだろうし。

モーちゃんがカッと目を見開いたかと思うと、少し顔を上げてペッと黄色い液体を吐き出した。そして荒く何度か息をしてから、スッと立ち上がった。

小さな耳を動かし、体をブルっと震わせる。そして優しい目で、わたしに頭をなすりつけてきた。

「大丈夫?」

「んもーーーーーーー」

『スッキリしゅたって』

ミミが通訳してくれてわたしの肩に上がってくる。

「クー、ミミ、近くに人はいる?」

『近くに誰もいにゃい』

『いにゃいわ』

おさまったようだから、人がいなくて見られなくてよかった。

モーちゃんを鑑定すると、HPは減ったままだが、さらに減ることはないようだ。

黄色い液体は酸っぱい匂いがある。鑑定してみても、吐瀉物としか出てこない。わたしは瓶を呼び出して、その液体の一部を掬うようにして瓶におさめた。

「みんな、わたしがモーちゃんにしたことは口にしないでね。内緒だよ」

お願いすれば、みんな頷いてくれた。

山裾から、ゆっくり歩いて厩舎に戻る。会うホルスタたちは特に変わったところはなかったけれど、やはり酸っぱい匂いがする気がする。そしてHPは満タンではない。減ってもいかないが。

「オーナー」

買い出しから帰ってきたと思われるパズーさんが厩舎に来ていた。

厩舎に戻っていたホルスタの匂いを嗅いでいる。

「どうですか?」

「ええ、何か匂いますね。ホルスタたちもイライラしているみたいで」

パズーさんは次に穀物の餌を掬い上げて匂いを嗅いでいる。

わたしも餌を見ているふりで辺りを鑑定したが、怪しいものは何もなかった。

厩舎にいるコッコやメイメイのHPはほぼ満タンだ。

わたしは今さっきあったモーちゃんのことを話して、瓶を見せた。

パズーさんは躊躇いなく瓶の栓を抜いて、匂いを嗅いだ。

「この匂いですね。なんか変なもの食べたのかな?」

「全員がですか?」

本当にそう思うのかと訝しんで尋ねると、パズーさんは眉を八の字にした。

「ここ2、3日でいつもと違ったことは、オーナーが留守にされたこと、留守時の責任者がカイル王子ということだけです」

「……どういう意味で言っています?」

それは事実確認で言ってるんだよね? まさか王子を疑うとかいうんじゃないよね?

「まだ何が起きたかはわかりません。ただ、オーナーが今の認識のまま騒ぎ立てると、変わったこととはカイル王子がいたことだけとなってしまうという意味です」

今の認識のまま?

「うーーーん。私の意見を言わせていただきますと……」

そう言ったかと思うと、急にパズーさんの雰囲気が変わった。

「皆さん過保護ですよ。あなたは強くはないけれど、弱くはないから」

隣にいつの間にかルークさんがいた。

「どういうつもりだ?」

パズーさんの胸ぐらをつかむ。

「ええ、ですから、そういうところですよ。ティアさんにもしっかり情勢を理解してもらった方が自衛しやすいんじゃないかって話です」

ルークさんが手を放す。

「モード氏がいないときに、雇い主の意向を無碍にするんですか?」

わたしの知らない認識は、そうか、モードさんの意向なのか。

「正確な雇い主はオーナーたちじゃありませんから」

「パズーさんは、王子側の人なんですね?」

ルークさんと元々の知り合いって感じだからだ。

「そこはわかるんですね? おれドジりましたっけ?」

口調が違う。パズーさんの問いかけには答えない。

……ということはペクさんもだね。さて、どうしよう。

「ペクさんを連れて居間まで来てください。そこで話しましょう」

ここでは魔物たちや従業員の視線がある。

モーちゃんに休むよう促して、ぴーちゃんにもモーちゃんについていてくれてありがとうとお礼を言う。そして家に向かう。

家で王子はロッキングチェアに揺られて本を読んでいた。ただそれだけなのに絵になるのだから羨ましい限りだ。

『ティア、怒ってりゅ?』

『怒ってりゅのか?』

「うーうん、そんなことないよ。知らせてくれてありがとうね」

頭を撫でると、ふたりはテーブルに駆け上がった。とりあえずお茶の用意をして、テーブルにつく。

もう猫を被るのをやめたパズーさんと緊張した面持ちでペクさんが入ってきた。座ってもらう。

「それで、あなた方は仮そめの雇い主に従う気はあります?」

ブホッと王子が吹いている。

「今、牧場で起きている問題を解決する必要があります。それについてあなたたちを信用していいんですか? それともわたしにバレて出ていくんですか?」

「協力しますよ。おれが契約した魔物に手出されたんですからね、オーナーがなんと言ってもケリつけますよ」

……パズーさんは手を出されたって思ってるんだ。

「協力いたします」

「ペクさんはどこの人なの?」

窺うようにわたしを見ている。ペクさんはバツが悪そうだ。

「パズーさんがアルバーレン、ペクさんは違うよね? そのほか、関わりがある国といったら、ハーバンデルクかな?」

ペクさんは頷いた。

「そう」

わたしはふたりがわたしに対して罪悪感を持つといいなと思って、少し黙ってみせる。沈黙が重たくなったタイミングでまた口を開く。

「まあ、それは置いておくとして。ホルスタたちに『何か』がありました。それを一緒に解明と助けてください。で、パズーさんがわたしにさせたかった認識はなんですか?」

パズーさんはにこりと笑う。

「私がアルバーレンの者で、ペクはハーバンデルクの者。モード氏もご存知です。私たちは国に不利益になるようなことはしません。それは知っていて欲しかったんです」

まー、そうなんだろうけど。一緒に牧場を育ててきてくれたと思っていたのに、国の不利益にならないよう監視されていたとわかると、なんとも言えない気持ちになる。

「いつもと違ったことといえば、カイル王子がいたことだけ、ですからね。王子は、我が国は、あなた方を害しません。そこをおさえて考えてください」

そんなことを言うとは王子はパズーさんに詳細は話していないんだろうと察する。だからわたしが王子を疑うと思って?

「わたしはアルバーレンは信じませんが、王子は信用していますよ」

じゃなかったら、2日でも牧場を預けたりしない。パズーさんは探るようにわたしを見た。

「それならよかったです。さて。今のところ症状があるのはホルスタだけです。ホルスタ特有の病気なのか、それともホルスタの食べたものに何か悪いものがあったのかは、まだわかりません。酷い症状になったのは1頭ですが、ホルスタ全員から匂いがすることから、変な物を拾い食いをしたわけでなく、餌に何かを混ぜられたのではないかと推測します」

おちゃらけモードは解除されたようだ。

「餌にという根拠はなんですか?」

「牧場の草が原因だったら、メイメイや馬たちにもなんらかがあるでしょう。水に何かあったとしても同じです。餌自体はいつもの同じものを購入していますし、餌を与えたのも子供たちのはずです」

言えないが、餌には何もなかった。

「メイメイやコッコならまだしも、人はホルスタには近づきにくいはずです」

ふれあいコーナーにいるのはコッコとメイメイ、そして馬だ。ホルスタはふれあいとは別に乳搾りのコーナーにいる。その時には必ずパズーさんがついている。

「乳搾りは子供もやれる」

ペクさんが呟く。

乳搾りコーナーは人気のスポットだ。

「酸っぱい匂いがしたのはメスだけじゃなくて、オスもだった」

「一昨日と昨日、今日の餌やりの者を調べましょう」

口にはしないが、自然な病気とは誰も思っていなくて、誰かが『何か』やったと思っているってことだ。そしてそれが内部の者だと。2日間、牧場は休みだったからそう思うのは自然の流れだ。

でも、どうしてみんな何かされたと思っているんだろう。かくゆう、わたしもそうだ。そう、ホルスタだけがかかる病気かもと思えていないのだ。疑っているんだ、これは危険なことだ。

「一応、確認です。オーナーのご家族は身元は確かなんですよね?」

ペクさんに尋ねられる。

「わたしが行ったのも思いつきですし、彼らがくることが決まったのは昨日のことです。あり得ません」

わたしがスラムに行ったのは突然決めたことだし、トーマスがふたりを選んだのもその場でのことだ。トニーのことはまだよく知らないけれど、厩舎の掃除をしっかりやっていた。汚いものにも躊躇いはなかった。汚れ仕事をやってきたこともあるだろうけれど、動物に嫌悪感があるようには見えなかった。動物を無闇に傷つける子ではないと思う。

「それは私が保証しよう。ハナに休暇を与えたのは私だ。それもあの場で思いつきで決めたこと。あの子たちは関係ないよ」

王子がペクさんに言った。

「ハナはこのふたりに何か言いたいことがあるんじゃないか? わだかまりを残すなら、今言った方がいいぞ」

ふたりというか、あんたにもだけどね。

「今はホルスタたちのことで気持ちがいっぱいだから、落ち着いたらお話させてもらいたいですね」

感情を込めない声音で言っておく。結局のところ、モードさんは知っていて、それでふたりにも黙っているよう通達したのだから、わたしが言えることはないのだが、こう言っておけば少しの間、悶々とすることになるだろう。今まで言わないでいたことへのささやかな嫌がらせだ。

「夜はわたしが厩舎につめるので、その前まで誰かホルスタたちを見ていてもらえますか? 倒れたり、何かあったらすぐに呼んでください」

幸い前2日休みだったので、ミルクは絞ったが加工品は作っていない。そのミルクは鑑定で何の問題もないこともわかったが、そう言えないので破棄することにし、そのミルクとモーちゃんの体から出た悪いもの、それから餌とワラを調べてもらうことにする。それはペクさんがツテを辿ってやってくれることになった。しばらくはミルクや乳製品は買い付けることにする。それにはパズーさんに動いてもらい、ホルスタや他の魔物を従業員さんについて見てもらい、様子がおかしかったらすぐにわたしに伝えるようにと場を整える。

パズーさんとペクさんを外へと見送る。

今のうちに夕飯の用意と、少しだけ寝ておこう。

仮眠をとり、夕飯中のルシーラとトニーに、ホルスタの体調が心配だから厩舎につめる旨を伝え、一緒に詰めようかと言ってくれたルシーラに断り、外に出る。

寒い、夜風が身にしみた。クーとミミはついてくるというので、籠は持った。池の掃除はやりっぱなしで忘れていたが、誰かが引き継いでくれたみたいだ。きれいに掃除され、水もいっぱいまで溜まっていた。

ホルスタたちは少し機嫌が悪そうだったけれど、今までで倒れたのはモーちゃんだけみたいだ。

そして今も、ワラの上でくつろいでいる。夜も明るくして申し訳ないが、夜光虫を入れたカンテラを持って動く。

わたしが入っていくと、奥からぴーちゃんがやってきた。

『こんな遅くにどうしたの?』

「ホルスタたちが心配だから、今日はここに泊まるの」

わたしは毛布マントを体に巻き付けた。これで寒さがマシになった。ひとりずつの首に手をやり熱を測る。モーちゃんの時は熱かったから、調子が悪くなったら多分熱くなると思うんだ。鑑定をかけてみたが、カウントダウン並みにHPが減っていっていく子はいない。わたしは胸を撫で下ろした。