軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

里帰り編10 遊んだからにはお仕事します②宿題

お昼ご飯を終えて、ルシーラは販売の手伝いに、わたしはトニーの働くところを見守ることにした。

トニーとテオとマロンのお子様男の子組は、魔物部屋の掃除をすることになった。普段なら午前中に従業員か正規で働く子供たちが行う作業だけれど、今日はホルスタたちの機嫌が悪くて午前中は外に出ていかなかったので、順序が狂ったらしい。

寝床に敷き詰めていたワラをかきだしていると、突然鋭いトニーの声が聞こえた。

「んなこともできないのかよ」

テオの顔が泣きそうに歪んでいた。

対する言い放ったトニーは言葉以上の意味はなかったみたいだ。多分本人は、できないのかと言う事実を言っただけなんだろう。テオのことはそっちのけで作業を続けていて、テオのことなんかこれっぽちも見えていない。

トニーはそんなふうに誰かに言葉を投げられるのが普通のことで、だから自分も口にするのだと思う。

テオはわたしの視線に気づいて、口を結び、作業を再開する。熊手のような物でワラをかき出すのに苦労している。大人用だから身の丈には大きいし、使ったことがないとこれは難しい。

ワラをかき出せたら、今度は新しいワラを補充していく。3輪の手押し車にワラを入れて、寝床にワラをおいていく。トニーが手押し車を運行しマロンにワラを置かせ、平坦にならしていくのをテオがやっている。わたしは入ってきそうになるホルスタたちを止めておく係をしている。

何で今日に限ってこの子たち寝床にいたがるんだろう?

いつも放牧から帰ってくるのを嫌がって散々追い立てられるのに。

背中で押して入ってこないように止めていると、腕と体の間に頭を入れてくる。遊んで欲しいみたいだ。首のところを掻いて抱きしめる。うーあったかい。

ん?

魔物は独特の匂いがする。ホルスタちゃんたちにも、ホルスタちゃんの匂いがあり。それは正直にいうと匂いを嗅ぎたくなるようないい匂いではない。

だけど、いつもの匂いにプラスしてなんとなく酸っぱい匂いがする。ホルスタから?

わたしは鼻を近づけて匂いを嗅いだ。やっぱり、微かにだけど、酸っぱいような匂いがする。どこか汚れている? 足の付近も見てみたけれど、どこか汚れてもいなさそうだ。後でパズーさんに確かめてもらおう。

トニーさえもヘロヘロになる手前だったので、わたしは休憩を提案した。

厩舎から出て、思い思いの場所で座り込む。

テオが厩舎を回り込んだ。ついて行ってわたしが隣に座り込むと、テオは涙を拭いて泣くのを止めようとした。それでも止まらなくて涙が後から後から頬を伝わる。

悔しかった? かける言葉はあったけれど、わたしが言うのは相応しくない気がして、ただ隣に居座る。

「おれは大丈夫。本当のことだし」

「うん、テオがすぐにできるようになるのは、わたし知ってる」

テオが顔を上げてわたしを見る。

「ミルク搾りだって、メイメイの毛刈りだって、最初はうまくいかなかったけど、誰よりも熱心にやってすぐ誰よりも上手にできるようになった」

「でも、あいつは初めてやったことでも、できるんだ」

トニーは他の分野でも何でもできちゃうタイプの子かもしれない。それが彼にとって幸か不幸かは、本人のこれからの生き方にかかってくる。

「うん。でも、だからうまくできないのは何故か考えたり、できない気持ちを知るのが難しい子かもしれない」

そう言うと、テオは考えを巡らせるような表情をして、そしてしっかり涙を拭いた。

休憩を終えて、後半戦だ。短い時間でコツをつかんだみたいで、作業自体が早くなっている。

3人で淡々とこなしている。わたしはこの場を離れることを3人に告げて、ホルスタを連れ出す。そのままパズーさんを探した。

「あ、ペクさん。パズーさん知りません?」

ペクさんを見つけたので、パズーさんの居所を尋ねる。

「街に買い出しに出かけました。何か問題が?」

「ちょっと匂い嗅いでくれません?」

「はい?」

のっぽのペクさんの顔が赤く染まる。

「この子たち、なんか酸っぱい匂いがする気がするんですけど」

ペクさんは大股で近寄ってきたと思ったら、ホルスタに鼻をつける勢いで匂いを嗅ぐ。

「ちょっと私にはわかりませんが、オーナーがそう感じるなら確かでしょう」

「いえ、わたしも自信はなくて。それでこの子たちの体調が大丈夫かパズーさんに聞いてもらおうと思って」

クーとミミでもいいんだけど、今はぴーちゃんと遊びに行っちゃってるからな。

「パズーが帰ってきたら、すぐ確かめさせましょう」

それが一番だ。

「それが良さそうですね」

わたしも頷く。

「そういえば、もう体調は大丈夫なんですか?」

「ええ、はい。大丈夫です。ご心配かけてすいません、ありがとうございます」

「いえいえ。それにしても、よほどオーナーの心休まるところに行かれたのですね。表情がいく前と後では全然違いますよ。ルシーラさんとは本当の家族なんですか?」

ありふれた色ではあるけれど、ルシーラと髪と瞳の色が同じだから信憑性があるのかも。

「ハナ様」

急にルークさんに呼びかけられて、わたしはびくっとした。

どっから湧いた? いやルークさんの〝唐突さ〟は今に始まったことじゃないんだけど。

「何かありました?」

「ちょっと、よろしいですか?」

わたしはルークさんに頷いてペクさんに頭を下げる。そして話の途中のことを思い出して声をかける。

「ペクさん、家族ですよ」

「そうなんですね」

ペクさんも微笑んでくれた。

ホルスタちゃんたちは草を食みだしていたので、そのままルークさんにわたしだけついていく。

「ハナ様」

少し歩いたところでルークさんが立ち止まる。

「なに?」

「ハナ様はアルバーレンの篭り花です。スラムで、ある勝負をして兄貴分ができた。差し出がましいですが、信頼を置けるものでもお気をつけください」

あ、ルークさんは警告するのに出てきてくれたんだ。っていうか、牧場の中なのに護衛を続けてくれてたんだ。

「ペクさんはもう3年も一緒にいるよ」

「……判断はハナ様がされるのでいいと思います。ただ、あなたに取り入ろうとするものは今後も現れることでしょう。そしてあなたの守りが盤石になればなるほど、あなたの大切にしているものに目を向けることでしょう」

ルークさんはわたしにお辞儀をして踵を返した。

侯爵家には隙がない。わたしにも護りがつく。そしたらわたしの大切なものに、護りが薄いところを弱点とされる……。『家族』と呼んだら『縁あって意気投合した提携先』より強い絆に見られてしまう。それが危険に晒すことになるのだろうか。……それは嫌だ。でも……だからって距離は置きたくない。

どうするのがいいんだろう?

空を見上げる。秋の空は果てしなく高い気がする。白い絵具をにじませたような薄い雲が点在している。

身に余るものを手にしたら、嘲笑うかのように奪われるのだろうか? 弱い者が欲しがっても、弱い故に護りきれないのだから、欲しがるべきではないのだろうか? 貴族でなかったら弱みと思われることはないのだろうか? そう思いながらも、侯爵家という権力の恩恵をもう数多く受けていることもよくわかっていた。

厩舎の様子を見に戻れば、3人は仲良くなっているように見えた。

イートインコーナーにいるルシーラの様子を見に行けば、お客さんに囲まれているルシーラが見える。イートインコーナーにはお土産にちょうどいい子供たちの手作りの物を置いている。ペリトンの破片のブレスレットと、ペリトンの破片をビーズに見立て魔物をワンポイントに描いたポーチは飛ぶように売れる。

「こちらも皆さまよく手に取られますよ。手ごろなお値段ですし、お土産にちょうどいいみたいで」

できる売り子だ! 会計にお金を持っていくのも、従業員さんとの呼吸も、商品の受け渡しも完璧だ。それに何より従業員さんたちがルシーラを可愛がっている。

まだ1日経っていないのに、溶け込み具合が凄い。ゼフィーさんとも言葉を交わしている。

ルシーラも問題なし。

よし、じゃあ、わたしも仕事をしよう。

池を洗うことにする。これは考え事をするのにちょうどいい作業となる。水を扱うので少し寒いが、そろそろやらなくちゃと思っていたし。今日は他の仕事に手が足りているみたいだからね。

デローという魔物の皮から作った長靴みたいなものに履き替える。

ざぶんと池の中に入って、栓を抜く。水が結構な勢いで流れていく。ブラシで底部分と石を洗っていく。苔とかがどうしてもついてしまうからだ。少しずつずらしながらブラシで汚れを落とし、ゼフィーさんのことを考える。

結局のところ牧場は被害にあってはいない。ゼフィーさんは正しい契約内容は知らなかったみたいだ。アマン子爵がどういうつもりだったのかは、もうわかることはないだろう。決定的なことがないということは、それが辞めてもらう理由にはならないということだ。仕事上の問題はないとしたら、問題はわたしが彼女と合わない気がする、そこだけだ。

気が重いが、果てしなく気が重いが、明日、彼女と一緒に行動をしてみよう。そうしたら彼女のことが見えてくるかもしれない。

トーマスからもらった宿題。

ひとつは、ゼフィーさんに体当たりすること。

ひとつは、交換仕事体験を事業にするべく、全ての資金の流れをしっかりはっきりさせること。

ひとつは、ルシーラとトニーを気にかけること。

この3つだ。

ひとつ目はとりあえず明日ゼフィーさんと行動することにして。

2つ目の資金、これは難解かもしれない。何故なら、わたしは資金に困ったときは自分の資金から補充するつもりでいたからだ。寄付という形で。でも、わたしに何かあったらそこで終わりになってしまう。できることなら、スラムのように、救われる場所は続いて欲しい。しっかりした骨組みにしておけば、発案者がどうなっても、それは受け継がれて続けていくことは可能だ。

この世界の子供たちは、子供といっても十分戦力になる。それなのに大人より対価は安く済むので需要はある。働き手を交換する際、子供たちの人数を合わせれば、住むところや食費が困るということもない。1番の問題は移動費なのだ。

『ティア、たいへん!』

『ティア、来てくりぇ!』

クーとミミが飛ぶように走ってきた。

「どうしたの?」

『モーちゃんがたおりぇた』

え?

「モーちゃんはどこ?」

『こっち』

セグウェイをアイテムボックスから出して、すぐに乗り、クーとミミを追いかけた。