軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

里帰り編9 遊んだからにはお仕事します①真意はどこに

「……君は……」

ルシーラは悪びれもせずにっこりと王子に笑いかける。

「お久しぶりです。私を覚えていてくださったんですか?」

そうだ。ルシーラはわたしを庇って、アジトの新参者は自分だと表にたってくれたんだっけ。

王子って圧がある人なんだよね。それをさ、13歳のルシーラが少しも動じてないって凄いことだと思う。まさかここに王子がいるとは思っていなかっただろうけれど、ルシーラのそういうところをトーマスはわかっていて、彼を送ってくれたのかもしれなかった。

「気分は良くなったようだな」

王子に言われて、わたしは王子とルークさんに心から感謝の言葉を述べた。

「おい、なんで王子って呼ぶんだ?」

トニーに憮然とした顔で尋ねられる。

「ああ、王子だからだよ。アルバーレンの第一王子、カイル王子。そして王子の護衛のルークさんだよ」

「な、なんでこんなところに王子がいるんだよ」

「それはおれも聞きたいな」

ルシーラはにこりと笑っているけど、有無を言わせない何かを感じる。

「前からの知り合いなの」

「お前、元は平民なんだろ? なんで王族の知り合いがいるんだよ」

「そりゃあ、知り合ったからだよ」

トニーはすごい顔つきだ。

王子たちにふたりを紹介する。

「こちらはルシーラ。わたしのお兄ちゃん。こちらはトニー、弟なの」

「ハナの兄貴と弟か。わたしはハナの友達だ。よくここに来るからこれからも会うことがあるだろう。よろしくな」

ルークさんは黙礼した。

「ルシーラです。ハナ、とはティアのことですか?」

「ああ。私と会った時はハナだったんだ」

ルシーラはなるほどと頷く。トニーはますますわからない顔をしている。

「トニー、ルールは守れ。大切なのは?」

「トニーだ」

トニーはこくんと頭を下げた。

王子は面白そうなおもちゃでもみつけたようにニヤニヤしている。

「変わったことはなかったですか?」

テーブルにみんなついてもらって、お茶を用意する。

クーとミミは外の池の水を飲みに行った。暗いからすぐ帰っておいでと言っておく。

「個人的にアマン子爵から晩餐への誘いがあったが断った。子爵が王族に声をかけてくるなんて、頭のネジがゆるんでいるようだ。牧場は休みだし、特に何もないが、パズーがなんか気づいたことがあるらしい。後でハナに報告をすると言っていた」

お茶うけにくるみの蜜がけを置いておくと、トニーが気に入ったようでリスみたいに口いっぱいに頬張っている。お菓子に夢中になっているところを見ると、年相応に無邪気に見えた。

とりあえず休んでいてもらって、もうひとつ客間の用意を整える。ルシーラとトニーはひとつの部屋でいいそうだ。

部屋に案内して、ご飯の用意をするからと、好きにしていてもらう。

ご飯の準備ができたところでパズーさんが報告に来てくれた。留守時のお礼とお詫びをして、報告を聞く。アマン子爵のこのところの動きだった。パズーさんがルークさんみたいなことをしている! アマン子爵邸では婚礼の用意がすすめられているという。未婚者はゼフィーさんだけなので、全く話にはのぼってないが、ゼフィーさんが結婚されるのではないかとのこと。

それじゃあ、もうすぐここを辞める?

ああ、でも、契約書のことを聞いて、どうにかしなくてはね。

わたしはゼフィーさんが契約においてどれくらい関わり、どういう認識だったのか話し合わなくてはいけないこと、そこに同席して欲しいことをパズーさんにお願いした。

「ペクにも同席させましょうか?」

「ん? ペクさんにも? 何かありそう?」

パズーさんは少し考えての発言をする。

「ハーバンデルクの情勢はペクが詳しいので」

「そうなの?」

ペクさんは背が高いしがっしりもしているので、力を借りたい時要員に思っていた。 へー、ハーバンデルクの情勢にパズーさんが認めるくらい詳しいのか……。

まあ、でもふたりも付いてもらったら、その分のいつもの仕事が遅くなるわけだし。

「もしその必要性が出たらペクさんにもお願いしましょう。最初はパズーさんだけで」

はい、とパズーさんは頷いてくれた。

普段だったら、1泊か2泊で帰るのに、ふたりはまだ滞在するという。ひょっとしてルシーラやトニーが帰る時、ルークさんの魔鳥を使うために残ってくれているのかも。尋ねると、まだわたしのご飯をそう食べてないからだといい、自分が帰る際もルークさんは置いていってくれるという。ありがたいので、王子たちの好きなご飯をいっぱい作ろう。王子はジャガモの煮っころがしのような茶色っぽい料理が意外に好きなんだよね。夜はお鍋にいっぱい作ろう!

トニーはアジトにくるまで朝ごはんを食べる環境になかったらしく、喉に通りにくいみたいだ。

パンの方が食べやすかったかな。

ベーコンと目玉焼き、葉っぱのサラダとポテサラ、具沢山野菜のお味噌汁のご飯にしちゃったんだよね。

よし、これはご飯が食べやすくなるようとっておきのを出すか。

わたしはルシーラとトニーのご飯の上にバターをひとかけらおいて、ソイジーをかけた。

熱々ご飯の上でバターが溶け、それがお醤油、もとい、ソイジーとすっごく合うんだよね。小さい頃ご飯が食べられないでいると、こういったもので食べやすくしてもらってた。

ふたりは、じっとご飯の上で溶けていくバターを見守っていたけれど、鼻をひくっとさせたかと思うと、スプーンでご飯をすくい、口に持っていく。

そしてかきこむように食べ出した。

「ハナ、私もそれが食べてみたい」

『ティアー、俺しゃまも』

『ティア、わたしも』

王子にもルークさんにも、クーとミミにもバターをのせてソイジーをかける。

みんなあっという間に完食だ。

ここにいる間は、いろんなふりかけでトニーに食べてもらおう。朝ごはんが待ち遠しくなるようにね。

ルシーラには販売系でアキさんの元へ、トニーには魔物系の仕事をとペクさんに預ける。

わたしはパズーさんに来てもらい、ゼフィーさんを呼び出した。

「何のご用でしょう?」

「座ってください」

テーブルについているのはわたしたち3人だが、暖炉の前のロッキングチェアで王子がくつろいでいる。

座ってくれたところで切り出す。

「ハンスト商会さんにご挨拶に行ってきました。そこで契約内容を確認したのですが。ゼフィーさんはアキさんが契約を結んだ時、一緒に同席されていましたよね? 契約内容をご存知でしたか?」

「はい、同席していました。我が家では手広く商売をしております。ハンスト商会にも野菜を卸してもらっています。その縁で、牧場でも安く野菜を卸してもいいと言ってくださったので、牧場のためになると思って仲介させていただいたのですわ」

誇らしそうだ。

「安くという具体的な数字は?」

「5%安くするとおっしゃってくださりましたわ」

「いつまでの契約でしょうか?」

「3ヶ月ですわよ。これは何ですの? 私に尋ねるのではなく、契約書に目を通せばいいことではなくて?」

冷たい青い瞳で睨まれる。不思議だ。青い瞳は他にもいっぱいいて、冷たい色と思ったことはなかったのに。

「契約書に記載がなかったので尋ねました」

「記載がない?」

訝しんでいる。これは本当に知らなかったのか、演技なのか。

「どういうことですの?」

「ご実家との取引で、3ヶ月5%引き、その後10%乗せで販売する契約だったようです、その乗せの期限は口約束でもでていなかったようで」

「嘘ですわ。言いがかりですわね?」

「嘘でも言いがかりでもありません。幸い支部長さんと話し合うことができ、契約書の不備からその契約は破棄して、新たな契約を結びました」

ゼフィーさんがキッと睨みつけてくる。

「父が介入していたのですね……。でもそれなら余計に、この縁ある牧場の不利になるようなことをするはずはありません。きっと10%乗せも父が上乗せするつもりでいたのでしょう。ご迷惑をお掛けしたことを謝罪いたしますわ。申し訳ありません」

潔く頭を下げた。

「信じていただくしかありませんが、私も実家も、この牧場の不利益になることは絶対致しませんわ」

とりあえず事情は聞いたので、彼女は仕事に戻ってもらい、パズーさんと話し合う。

印象として、上乗せのことは知らなかったみたいだという意見が一致した。

「それより面白いことを言っていたじゃないか」

王子が言ってくる。

「面白い?」

「縁ある牧場って何だか気になるじゃないか」

「そりゃあ、ゼフィーさんが働いてるんだもん、そういうことでしょ?」

王子が可哀想な子を見るような目でわたしを見る。

「何? なんか違うの? 他に理由があるってわけ?」

「どうだろうな?」

にやにやしている。パズーさんに視線を送るとあからさまに目を逸らすし。

わかった、考えるよ。わたしはランチの準備をすることにした。

まだ時間があるので、たっぷりとできそうだ。

玄米ご飯をめいいっぱい炊いておいた。ルシーラとトニーはこれで慣れているだろうからね。今日は孤児院の子供たちもこっちがいいといったらこれを食べてもらおう。普段、従業員さんや孤児院からきている子供たちには宿舎の食堂でご飯をとってもらっている。

付け合わせ用に塩で野菜を揉んでおいて。おにぎりの具は、香りのいい葉っぱをハットンと一緒に煮込んだのとシーチキンマヨを用意した。これを永遠に握っていく。そう、ご飯か具材がなくなるまで永遠に。

わたしはひたすら作業に集中した。大量にできた。余ったら、バッグに入れておけばいいしね。おにぎりを一個ずつと野菜の塩揉みをセットにして、一人分ずつにしておく。王子たちにはおすましと卵焼きをつける。

それにしてもスラムの食堂の寸胴鍋よかったな。あんなサイズのわたしも欲しい。

あの量を作るのは大変だけど、あの量でさ、適当にやって味が決まった日には、高揚するっていうか、なんか楽しかった! 子供が隠れられそうなサイズでそれを2つ分、スープ類だけでだ。ほんとチャーリー凄い。当番制で人がつくといってもね。でも、牧場に来るために料理できる子を育てると決意していた。頑張って欲しい。チャーリーとご飯を作るのはとても楽しいから。

おにぎりは大量に作ったのに、みんな食べたいと言ってくれて配っていったら全部なくなった。子供たちと一緒に食べながら様子を見ていると、トニーはともかく、ルシーラがもう何年も一緒にいるみたいに馴染んでいるのに驚く。

「ねぇ、ティア、あの王子のこと怖がってたよね? 和解したの?」

食べ終わり、隣にやってきたルシーラにわたしは頷く。

「うん、いろいろあって仲良くなって。今も助けてもらってるんだ」

告げるとルシーラは安堵したように微笑んだ。

「ねーちゃん。その兄ちゃんはねーちゃんの兄貴って聞いた。ねーちゃんよりちっちゃいのに、なんで、ねーちゃんの兄ちゃんなの?」

テオとマロンが興味津々の顔で尋ねてくる。

「それでは3択問題です。彼は何故わたしのお兄ちゃんなのでしょう? 1、勝負に負けたので兄ちゃんと呼ぶことになった。2、本当に名前がニイチャンだから。3、お兄ちゃんのこの姿は偽りで、夜になると本当の大きな姿になるのです! さぁ、どれが答えでしょう?」

「えーーーーーー、本当にその3つの中に答えがあるの?」

「テオ、ひねくれてる」

「ひねくれてなんかない。ねーちゃんがあり得そうもない答えばかりにするから」

「あり得そうもない? ん? そんなふうに思ったのかぁ?」

ギュッとしてテオを懲らしめてやるとキャッキャ喜んでいる。

マロンは恐々、夜に本当に大きくなるのかとルシーラに尋ねている。

そんなわたしたちをトニーは不思議なものを見るような目で見ていた。