軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

里帰り編8 実家に帰らせていただきます⑤恩人

トーマスの仕事部屋から出てくる人をマジマジと見てしまう。背中を丸め、口をへの字に曲げている。わたしとすれ違っても、ちろりとも見なかった。悪そうな人には見えない……けど……。

急いで部屋に滑り込んで、トーマスに尋ねる。

「今の人、誰? 何?」

今のはお金の無心だよね?

トーマス以外の声がしたのでお客さんかと改めてこようと思ったのだが、次に聞こえた内容が内容なので、去ることができなくなり聞き耳を立ててしまった。

「……3つ上の代のにーちゃんだ」

「用意するの?」

「ああ」

「一度渡したら、ずっとになるよ?」

「恩人なんだ」

「恩人?」

「アジトは子供を拒まないけど、メイはちっちゃすぎた。俺がメイの面倒を見られるわけないって。赤ん坊がいるといろいろ大変だろ。食べ物だって別にいるし。だからみんないい顔しなかった。そん時にはクリスがいて、ひとりでも大変で、それより小さいのは無理だって。その中でにーちゃんだけが、自分が一緒に面倒みるからいいだろって掛け合ってくれたんだ。俺は自分ひとりで面倒みるつもりだったし、できてると思っていたけど、その前も誰かしらに助けてもらってたんだな、ひとりじゃとてもメイの面倒は見られなくて。それをにーちゃんが本当に助けてくれたんだ。それを見て、他のにーちゃんたちも可愛がってくれるようになってさ」

そうか、あの人はトーマスとメイの大恩人なんだ。

でもそれなら尚更、そこにつけ込むなんて……。

わたしがそんなことを思っていると、見透かすようにトーマスは言った。

「それにさ、にーちゃんが、好きでそんなこと言ってるとは思えないんだ。なんか理由があるんだよ」

でも、3つ上ってことは5年とか会っていなかったんだよね? 人って簡単に変われちゃったりもするんだよ、言いかけて言えなくて、わたしは言葉を飲み込んだ。

「ずっとになったら、どうするの?」

「どうすっかなー」

椅子の後ろ脚2つに体重をかけて、前脚を浮かせて天井を仰ぐ。

「トーマスでも解決難しいことあるんだね」

「いっつもだよ」

トーマスはニッと笑った。

「でも仲間がいるから。家族がいるから、みんなで補い合ってなんとかしていくんだ」

「補い合って……」

「お前もいるじゃねーか。侯爵サマはもちろんだけどよー、お前が疲れ切っているのを見て、お前に今何が必要か考えて、それを与えてくれる人が。お前の魔物もいっつもお前を見てついて回っているし。できないことはできないで、どうしたらいいかは、どうすればいいかって投げかけてもいいと思うぜ。他にできることをすればいいんだから」

そうかトーマスでさえ、難しかったりするのか。

補い合う、か。わたしだと補ってもらってばかりになりそうなところがマズイが。

そして確かに、なんだかんだでよくしてもらってるよな。王子とルークさんもそうだし。パズーさんやペクさんからも受けている恩恵は多い。クーやミミもだし、ぴーちゃんやモーちゃん、牧場の魔物たちにも、従業員さんにも、みんなに助けてもらっている。

急にトーマスは自分の膝を叩いた。

「そうだな、補い合おう。俺もティアを助けるから、ティアも俺を助けてくれるか?」

「そりゃできることなら、なんでも」

トーマスに助けてもらうことがあっても、わたしがトーマスを助けるのは難しい気がするけど。

「ルシーラとトニーを連れて行け」

「え? どういうこと?」

「兄貴を信じろ。ルシーラとトニーを連れていくのが、お前の助けと俺の助けになる」

そりゃ、トーマスの采配を疑いはしないけどさ。

「詳細は? わたしが何をするとトーマスの助けになるの?」

「ただ、連れてってくれればいい」

えーーーー。

「俺も何がどう作用するとかわかってるわけじゃねーんだよ。けど、ルシーラとトニーって気がするんだ」

みんな今日は午前中だけの仕事で切り上げてきてくれたみたいだ。お昼のメニューは玄米のおにぎりでこれはずっと守り通しているらしい。握るのをわたしも手伝った。シャケのおにぎりと、シーチキンマヨの具材も追加しておいた。シャケとシーチキンとマヨもどきの瓶詰めもチャーリーに渡しておいた。この人数ではとても足りないだろうけれど。

みんなでおにぎりを食べた。とんでもないご馳走じゃなくても、とってもおいしかった。

仕事以外の時はわたしにひっついていたメイは、クーとミミともすっかり仲良しだ。わたしは手先が器用じゃないけれど、サイドの髪を編み込みにして紐で結ぶとものすごく喜んでくれた。12歳の金髪の女の子、ミンちゃんから編み込みのやり方を尋ねられたので、女の子で集まって、三つ編みと編み込みを伝授した。ゼノお兄さんからいただいたいくつもの紐が大活躍だ。

食べ終わって、クリスがハーモニアを披露してくれた。潮の満ち引きのような穏やかな優しいメロディから、小鳥たちのさえずりのような楽しげなパートがあり、ダイナミックな喜びを表すような音が響き、そしてとても穏やかに優しい気持ちになる終わり方で、ハーモニアから口を離すと、みんなから割れるような拍手が起こった。

「クリス、お前が作ったんだよな? すげー」

「なんかよかった」

「いい気持ちになった」

「なんか嬉しい感じ」

「楽しい感じがした!」

「クリスにーちゃん、すごい!」

「ティア、どうだった?」

興奮したような顔でクリスが聞いてくるから、わたしも興奮して感想を伝える。

「物語みたいだった。優しい気持ちになる嬉しくなる曲だった!」

クリスは口横を指でかいて、嬉しそうにしている。

「おお、将来の音楽家くん。この素晴らしい曲の題名はなんだね?」

カルランがおちゃらけながらも、クリスにタイトルはなんだと促す。

「この曲は……『ランディ』っていうんだ」

「……クリス、ありがとう。すっごい素敵な曲を聞かせてくれて!」

わたしが泣きそうになりながらもお礼を言うと、クリスは顔中で嬉しそうに頷いた。

そしてトーマスからルシーラとトニーはわたしと一緒に牧場に少し行って来いと指令が下る。

「了解」

ルシーラはニコッと笑ってくれたけど、トニーは怒り爆発だ。

「なんでおれがそんな貴族の女と一緒に行かなきゃいけないんだよ。追い出すのか?」

「ちげーよ。お前、外国で牧場行けるんだぞ。すっごいラッキーだぞ」

トーマスがなだめるとカルランが食いつく。

「そうだよ。なんで? トニーじゃなくて、おれ行きたい!」

「お前は女に甘いから駄目だ」

カルランがブーたれる。チャーリーも言っていたから女に甘いのは事実なようだ。カルランは甘いんじゃなくて甘ったれじゃないかと思うのだが。

「おれは?」

エバンスが自分を指差す。

「お前はコトを大きくしすぎるから駄目。っていうか、ボスが何言ってんだ」

「おれも行ってみたい」

「リックはまた別の機会でな」

チェッとリックは下を向く。

「にーちゃん!」

「お前も今日はダメだ。10歳未満はまだダメ」

メイはダメと言われて、わたしの腕にしがみついてくるから頭を撫でた。クーとミミもメイのほっぺを舐めてあげている。

「おれもダメなの?」

「そ、お前も10歳未満」

ベルンがうなだれる。

「じゃぁ、おれは?」

「今回は我慢しろ」

クリスがぶんむくれる。クリスがそんな顔をしたのを初めて見たので、ちょっと新鮮だ。

「おれは?」

「おれは?」

「マッケンとソングクは指名の仕事終わってんのか?」

マッケンとソングクは同時に首をカクンと落とした。

「おれは?」

「だからチャーリー、自分だけじゃなくて、他のやつ育てとけって言っただろ。お前がいなくなってアジトの料理長どうすんだよ」

チャーリーが眉を八の字にしてわたしを見る。

「いいなー、おれも行ってみたい」

「おれも!」

「気持ちはわかるが、今回はルシーラに任せたい」

行きたいと言ってくれたナッシュとホセに理由を告げる。

「ほらな、みんな牧場に行きたいからな。早く、ティアは解決しろ。そしたら誰が行ってもいいから」

トーマスにバラされた。

「解決しろって何かあったの?」

アルスに心配そうに尋ねられた。答えたのはわたしじゃなくてトーマスだ。

「コイツ、女に喧嘩売られて、尻尾丸めて逃げてきたんだ」

「ホントかよ、お前らしくない!」

「おねーさま相手ならおれでも良くない?」

ケイがキラキラした目をトーマスに向ける。

「貴族だぞ」

ケイがシュンとした。

「じゃあ、僕が」

とアルスが言い出せば

「おれの補佐は誰がするんだ?」

トーマスが真顔でアルスに尋ねる。

「トーマス、ひとりでもできるだろ?」

「おれも行きたいから、ここのこと、アルス、お前に任せていいか?」

「……わかったよ。補佐するよ」

アルスは大ボスの仕事を引き継ぐのはイヤみたいだ。

「それにしても、お前本当に負けっぱなしなのか?」

マッケンに怖い顔で詰め寄られる。

「負けるも何も、わたしは喧嘩をしているつもりはないよ」

でも、そうだ、思い出した。楽しくてすっかり忘れていたが、契約書問題があったんだっけ。あのことにゼフィーさんが関わっていたのかどうかを確かめないと。

「売られた喧嘩をかわないなんて、おれたちはお前をそんなふうに育てた覚えはないぞ」

カルランに両肩を叩かれる。

いや、わたしもみんなに育てられた覚えはないよ。

「ルシーラ、これは重症だ。弟と妹の面倒頼んだぞ」

みんながルシーラにエールを送りだした。

その後、ちびちゃんたちに遊ぼうとねだられ、鬼ごっこなど忙しく走りまわるのはわたしには無理と判断したトーマスが隠れんぼを提案し、スラム一帯でチーム戦のかくれんぼをした。みつからなくては騒ぎ、みつかってはぎゃあぎゃあ騒いでいるうちにあっという間に時は過ぎ、お別れの時間になった。

「ティア」

メイとベルンとクリスに抱きつかれる。

「また来る。みんなも来てね」

そう、もう顔見知りになったから、わたしは遠慮なく来ることができる!

わたしが笑いかけると、3人も頑張って作った笑顔をくれた。

寂しくなっちゃうからと、坂の上までの見送りにしてもらった。初期メンバーと一言二言交わして、わたしは大きく手を振って、坂道をおりていく。

ルシーラとトニーと一緒にトントを離れる。

門から出るとルークさんが待っていてくれた。

ルークさんと、ふたりを紹介しあう。

魔力の鳥で帰るよといえば、トニーはちょっと不安そうな顔をした。

空を飛んだときには、ルシーラは最高と楽しみ、トニーは顔が引きつっていた。

緊張を漲らせていたけれど、大丈夫だよと思いを込めて背中を軽く叩いてあげてたら、いつしか眠ってしまった。

「大ボスは大した者ですね」

ルークさんに褒められて、わたしは嬉しくなる。

「トーマスは凄いんだよ」

「気取られることなく、隠しきって。少し気の毒でもありますね」

わたしは頷いた。

「トップだから、不安なところを見せたら、みんなが不安になるからって完璧に隠しちゃうんだよね。だから、わたしぐらい愚痴を話せる相手でありたいんだけど、全然届かないんだ」

ルシーラを対ゼフィーさんで送り込んでくれたとすると、トーマスはトニーのことでわたしが何かできることがあると思ったんだろう。それが何かはわからないけれど。うん、わからないから。やれることを、思いついたことをやっていくしかない。