軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

里帰り編12 遊んだからにはお仕事します④くさい飯

夜が明けた。定期的に見回りをし、倒れたりする子は出なかった。よくお水を飲んでいたが、排泄する度に酸っぱい匂いは体からはしなくなっていった。

朝、パズーさんもやってきてみんなの調子を見てもらい、大丈夫そうだと話し合う。わたしは午前中寝ることを勧められ、そうすることにした。お昼にクーとミミに起こされたときにはすんなり起きることができた。食事をし、牧場を見回る。ホルスタたちは元気に気ままに過ごしていた。鑑定をかけてもHPがあからさまに減っている子はひとりもいなかった。

モーちゃんをみつけたのでクーとミミを通訳に話を聞く。何かいつもと違う物を食べたりしなかったか尋ねたが、いつものものしか食べていないという。いつから具合が悪かったのかも聞いてみたが、なんとなーく外へ出るのがイヤな気がしたぐらいの認識しかなかったみたい。いつものように山裾に向かったが、そこでなんだか歩くのが嫌になり、よくわからないが首を上げていられなくなり倒れたようだ。気づいたら胸が熱くなり、ペッとしたら起き上がれるようになった、ということだった。うーーん、病気かな。でも吐き出してスッとしたっていうことは、やはり良くない物が体に入ったんじゃないかと思える。

夕方、ご飯の用意をしていると、ペクさんが数人を引き連れてやってきた。パズーさんも何事かと一行の後ろから入ってきた。不審そうな顔をしている。わたしも同じような表情だと思う。

ひとりはホルスタのあれこれを調べてもらった機関の受付の人だそうで青い顔をしている。痩せ細った兄ちゃんだ。ひとりは冒険者ギルドの職員、そしてもうひとりは自警団の人だった。ギルドの人も自警団の人も体が大きくていかついので、居間が狭くなったようなそんな錯覚さえする。

ギルド職員、そして自警団員が何故?

ペクさんがわたしがオーナーだと紹介する。

3人は軽くわたしに会釈する。わたしもオーナーだと名乗った。

「ホルスタの吐瀉物からマドベーラが検出されました」

自警団員だという人から伝えられる。

パズーさんが眉を寄せ、暖炉の前から王子は冷たい目で呼ばれざる客たちを見る。

「そのマドなんとかとは何ですか?」

みんなの反応が良いものではない。

「マドベーラ、違法薬物です」

違法薬物? なんだってそんなものがモーちゃんから……。鑑定でモーちゃんのHPがまた下がっていくとかの異常はないようにみえたけれど、急に心配になる。

「それを飲むとどうなるんです? 体にどんな影響が?」

客3人が顔を見合わせている。答えてくれないのでパズーさんに尋ねる。

「パズーさん、違法薬物ってモーちゃんは大丈夫なんですか? お医者さんとかに診てもらえないんでしょうか?」

「どう作用するかはわかりませんが、もう機嫌も悪くはないですから恐らく体調も大丈夫だと思います」

パズーさんは、薬物を摂取していても今は問題ないと思っているようだ。それなら大丈夫なのかな。

「SS級冒険者、モード氏は、帰っておられますか?」

ギルド職員だとかの人に訊かれる。

「夫は帰っておりません」

「隠し立てするといいことありませんよ?」

何それ、どういう意味?

「夫がこの件に何か関係が?」

オーナーだから? わたしだってそうなんだけど。

「まさに! そうでしょう。今上級冒険者が躍起になって追っているのがマドベーラです。それがこの件のトップであるモード氏の経営する牧場から出てきた。これ以上の証拠がどこにあるっていうんです?」

「上級冒険者の案件は外に漏らすことは禁止のはずでは?」

モードさんのような上級が司る案件は国を跨ぐぐらいの案件になることが多いため社外秘が絶対のはずだ。今ここで話すのはうかつすぎないか?

わたしにマウントを取ろうと思ったようだが、黙るわけでもなく噛み付いていったので驚いている。そして見下していたものに反論されると多くのものは逆上するのだ。

「あんたもグルなんだろう? ほら自警団さんよ、こんな時、夫人ってのは泣き崩れたり倒れたりするもんだろ、この様子を見ろ。こいつも関係している。早く牢にぶち込んでやれ」

「何があったのかわからないから調べに出したのに、この街、この国では、ろくに調べることもせずに、それを違法薬物所持として捕らえるというのですか?」

「それは並行して調べます。が、ここの魔物の吐瀉物から薬物が出てきたことは間違いありません。ご同行願います」

「それはどうして? 何をするためですか?」

「子供は黙ってろ」

ルシーラは一蹴されたが、黙らなかった。

「調べるのはどこにいたってできますよね。それに彼女は侯爵夫人です。侯爵夫人を、夫人が経営する牧場の魔物の吐瀉物から出てきたからといって、彼女が薬物を持っていたことにはならないでしょう? 彼女はテイマーです。生き物に違法薬物を与えるなんてするわけがない」

「だから夫がやったんだろ。隠れ蓑にして」

「だったら余計に彼女を連れていくのはおかしくありませんか?」

「ペク、お前の国は面白いな。末の竜侯爵と侯爵夫人をろくに調べもせず貶めようとするとは。そんなことをして、事実がわかった時のことは考えているのかな? それとも、それが国の意向なのかな?」

ペクさんがジロリと王子を睨みつける。

「私からは上にまだ報告をあげていません。薬物が検出され、違法物は自警団に知らせることが義務づけられています。報告を受けた自警団ではその薬物の名前が上がったもの全て冒険者ギルドに申告するよう通達があり冒険者ギルドに連絡がいった。それで私に知らせがきた時には、こんなことになっていました」

「彼女は牧場主で逃げも隠れもしない。確かな証拠がなければ捕らえるのは逃亡する恐れがあるときだけのはずだが?」

王子が言ってくれたけど。

「そりゃ、そいつの旦那が SS級冒険者だ。逃亡できるじゃねーか。それより、さっきからお前は偉そうになんなんだよ?」

このギルド職員、こともあろうに王子に!

「うちのお客様に突っかからないでいただけます? わたしがそちらに行かないと埒が明かないということですか?」

自警団の人は頷いた。そちらも仕事で仕方ないとは思うが、嫌なことだから嫌がらせはしておこう。

「わたしは今、侯爵家の一員です。ハーバンデルクの護りの竜侯爵家です。わたしは違法薬物に関与していませんし、逃げも隠れもしません。それでもですか?」

また頷く。

「わたしがそちらにいる間、どのように調べていくおつもりですか?」

「なんでそんなことをお前に話さなくちゃいけないんだ」

目の小さいところに目がいってしまうギルド職員に大声を出される。耳を塞ぎたくなるぐらいだ。驚いたクーとミミも毛を逆立てている。

「何も考えていないなら、わたしが残って調べた方がいいと思ったからです」

「都合よくねじーー」

ムカつくから、途中で遮ってやる。

「パズーさん、これからしばらくの間、牧場は休みにしてください。魔物たちの世話などは普段通りにお願いします。特にホルスタの様子には気をつけてください」

「承知いたしました」

「それから、お父様のところに行って状況の説明をお願いします。モードさんに変な嫌疑がかかっていることも伝えてください」

「それは私が引き受けよう」

「カイル王子、よろしくお願いします」

わたしが王子に頭を下げると、呼ばれざる客たちはぽかんと口を開けた。

「王子?」

「アルバーレンの第一王子様です」

紹介しておく。

「ルシーラ、トニー、せっかく来てもらっているのにこんなことになってごめん。わたしは留守にするけど、パズーさんやペクさんに従って、仕事をしていてくれる?」

「わかった。けど、大丈夫か?」

未知のことなので大丈夫と言い難い。だから返事はせずにお願いをしておく。

「それと、クーとミミをお願い」

『ティア、一緒にいく』

『いつも一緒』

「クーとミミはぴーちゃんやモーちゃんについていて。何か異変があったら誰かに知らせて欲しいの」

クーとミミはわたしをまっすぐに見た。心配そうな顔のまま、なかなか頷かない。

「お願い!」

クーとミミがわたしに飛びかかるように胸に飛んできた。

『前みたいに、なりゃない?』

『ティアをひとりにしゅるの危険』

トラウマにしちゃったんだなと反省する。クーとミミの頭を撫でる。

「牧場のオーナーのひとりだからね。できることをしてくるだけだよ。行かなくちゃいけないわたしの代わりにぴーちゃんやモーちゃん、みんなを守って欲しい」

クーとミミが顔を上げる。そして頷いて、テーブルの上にシュタッと移動した。

夕飯の用意は……火にかけっぱなしで煮込まれただろうから終わった。あとは大人がいるんだ。なんとかしてくれるだろう。

「では、行きましょう」

せいぜい後悔しろと心の中で毒づく。

お父様にモードさんが怪しまれていることを話せば、モードさんと連絡をとってくれる。

ウォルターお兄さんが、モードさんが仕事に出た時のために、手紙が送れる通信魔具をくれるって言ったんだけど断った。手段があると甘えて連絡したくなってしまうし、命の危険がある仕事をしているモードさんに余計な気をまわさせたくなかったからだ。

でもこれは非常事態だ。牧場の中で起こったことなのに、モードさんにまで飛び火しようとしている。それもコトが起こってから1日の短期間で。これはなんだか嫌な展開だ。

「私の国にいつでも歓迎するぞ。牧場の敷地も用意する。アルバーレンならこんなことは起こさせない。モードと一緒に考えてくれ」

王子がエールを送ってくれる。ほんとわたしだけを標的にするならまだしも、モードさんを巻き込むことで何が起こるか考えないのかね。護りの一家が、末の息子にそんな扱いをする国に尽くすと考えるのかね? ハーバンデルクの護りがいなくなる、それでいいのかね? 確かな証拠が出て揺るがせない事実で悪いことをしていたならわかるけど、誰が聞いても関係ないだろうと思える、国の護りの一家の末っ子に調べてないうちから手を出すなんて。

そしてわたしは牢屋に入れられた。

牢屋じゃないか。留置場みたいなものだと思う。まだ罪が確定していない者を隔離する場所。鉄格子の部屋に入れられる。監視つきだ。

汚くはないけど、めちゃくちゃ寒い。物は取り上げられると思ったんで、毛布マントを体に巻きつけてきて正解だった。夕飯は出されたが、冷めた薄味のスープのみ。気持ち野菜の欠片が入っているが、煮込んだのではなくお皿によそってから野菜を入れたようなナマっぷりだ。

あのギルド職員がムカつく。わざわざここにわたしが収監されるのを見にきたんだ。薄ら笑いを浮かべて。

あーあ、ゼフィーさんどころの話じゃなかったな。ゼフィーさんと向き合うつもりだったのに。なんかやっぱり相性が悪い気がする。相性が悪いから、話すことさえ何かに邪魔されて難しい気が。

はあ。オーナーが捕らえられたと噂になるのかな。そして牧場に大打撃? お客さんがこなくなっちゃうのかな。今まで順調に育んできたけれど、落ちる時なんて一瞬だ。まぁ、でも、みんなが健康でさえいてくれれば、あとはなんとでもなる。

それにしても、違法薬物なんて誰が持ち込んで、そして何故ホルスタに盛ったんだろう? なんのために?

パズーさんがこのタイミングで王子の手の者だとカミングアウトした。わたしが王子を疑わないようにというつもりだったようだけど、本当にそれだけだろうか?

ケイリーさんが牧場の働き手になってくれたのには理由があった。それがわかったとき、パズーさんとペクさんもわたしは同時に疑った。募集をかけてすぐに3人みつかったのも奇跡的だったし、食いつきよかったし、それは『何か』理由があるのかなと思った。そのうちの1人がまさに理由があったわけだしね。それにただの働き口を探していたにしては、ふたりは有能すぎた。他の人を雇ってわかったのだが、彼らはあまり足音をさせない。それは訓練された何かを感じた。でも調べただろうモードさんが何も言わないから、少なくても害はないんだなと思っていた。だから3年一緒にやってきた。

でもふたりはただわたしたちに雇われているのではなく、それぞれの国から恐らく監視目的で派遣された人たちだった。アルバーレンとハーバンデルクにはわたしたちのことは筒抜けだったということだ。

パズーさんはホルスタたちのことで騒ぐと、そのとき牧場で変わったことといえば、オーナーが不在であり、代わりにアルバーレンの王子がいたということになると言った。

確かにその通りだ。でも、王子が牧場を攻撃するわけがない。今の王子の願いはロダン王子を次期国王にすることだから、そのロダン王子の功績になるこの牧場に被害を与えるわけがない。王子を陥れようとした勢力があった? でも、わたしが不在になることも、王子が牧場を見てくれると決まったことも3日前に偶然決まったことだ。そんな短期間、成り行きでなったのに、勢力が動くなんてありえるだろうか? それにアルバーレンの国絡みのことだとしたら、ここは国外だし、王子を巻き込む話にしてはスケールが小さすぎるだろう。やはり王子関係ではないと思う。

現状としては、モードさんが薬を持ち込み、わたしがホルスタたちに使ったと思われている?

なんだってこんなことにと嘆きたいが、もうそう思われているのだから、どうにかこうにかしていくしかない。だからって、どうすればいいのかは、ひとつも思いつかなかったけれども。