軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

110話 モード氏の受難⑦呼び出し

あれ、また、モードさんの姿が見えない。

わたしの出したふれあい牧場案は、突飛な物だったようだ。けれど、アイスクリームやプリンをつけてのプレゼンをしてみると、食べ物だけでも勝算はあるかもと思ってくれたみたいだ。軽食として、ハンバーガーとフライドポテトも出してみたが、こちらもそれだけでも人を呼べるだろうと言われた!

基本、領主が許可すれば領地内でやることは可能だそうだ。テイマーが登録している魔物は一緒に街にも入れるしね。それを敷地内で放し飼いにするのは考慮するところだけれど、結界を張るとか、要は絶対街の人々に害をなさない案件になればいいわけで。ただ、安易に真似する人がでてきて、魔物が街の中で暴れるなんてことになったらシャレにならないので、国に相談する形をとるそうだ。

その案件でどっかに行ったのかな?

モードさんを探しながらお屋敷を彷徨うと、デジャブを感じて、あの時の全身がひゅっと冷える感覚を思い出して怖くなる。

「どこ行っちゃったんだろう?」

不安から呟いてしまう。

『にゃにがだ?』

クーに尋ねられて答える。

「モードさんだよ」

『モードにゃら、ルークからどこかにいくように言わりぇてたぞ』

え? ルークさん、いるの? 何で?

「ルークさん、いますよね? 出てきてください」

ルークさんがひゅっと降ってきた。本当にいた。なんで?

「モードさんはどこへ?」

久しぶりだが、嫌な予感がして挨拶も飛ばす。

「なぜ私がモード氏の行方を知るんです?」

「クーから聞きました。ルークさんがモードさんと話しているのを」

ルークさんはため息をつく。

「セイラまでご足労願っています」

「なぜ?」

ルークさんが 命(めい) を受けるのはひとりだろうけど、一応確かめる。

「王子がモード氏に話があると」

「それはわたしが関係すること?」

「あなたはもう少し王子を信用してみては? 王子はあなたが不利になるようなことは絶対にしませんよ」

「そうかもしれないけど、それがモードさんの不利にならないのとは同じじゃないでしょ? 案内してください」

拒否られたので、セイラまでいく事にする。

ミリセントお姉さんやゼノお兄さんと執事さんに断って、モードさんの後を追うことにした。

モードさん厄払いでもした方がいいんじゃない?

竜人に連れて行かれるわ、あ、わたしに指輪を渡したせいだけど。

王子に呼び出されるわ。う、これもわたし関係か? う、わたしか? ひょっとしてわたしがモードさんの厄なのか? いやいやいや。そんなことは決してない。うん、ないはずだ。縁起でもない考えは封印だ。

つけられている。そう気づいた時、道が分かれているところで本能的に大きな通りを選んだ。けれどそれは誘導だったんだ。人通りがあり賑やかに見えた街道はひとところを過ぎると人の影も見えなくなり、そして人がいたと思ったら、道の両側にならず者たちが座り込んでいた。嫌な感じだ。

引き返しても追いつかれる。森の中に入る? まだその方が安全かも。わたしは覚悟を決めて何気なく森の中に入った。

「気づいたみたいだぜ」

やっぱり! 目をつけられたのはわたしみたいだ。

声が聞こえたのでラケットバットを手に取って、少し走る。すぐに追いつかれる。

リュックを後ろから引っ張られた。

「おい、なんで逃げるんだよ?」

「なんで追ってくるんだよ?」

わたしは言い返す。

手首を掴まれる。後ろからやってきたもう一人の背の高い男に顎を持ち上げられる。

「いきがいいじゃねーか」

クーとミミが手首を掴んだ男の手と顔を引っ掻いた。

ひっかかれた男が声をあげた際に、わたしもわたしの顎を持つ男の足を蹴る。

手を離した隙に走り出す。

どうしよう、走っても、わたしの足じゃ追いつかれる。

どうしようと思っていると、ルークさんが降ってきた。わたしを抱え込んでまた飛ぶ。木の上だ。後で状況を理解したものの、反射的に驚いて声をあげそうになった口を抑えられる。クーとミミもいつの間にかわたしの胸元にいた。

「どこ行った?」

「探せ。髪と瞳の色もバッチリだ」

「男じゃないですか」

「お前、目が悪いのか? ありゃぁ、男の格好をした女だ。顔は大したことねーけど、あの突っかかって来るのはいいじゃねーか。売るんじゃなくて、俺が可愛がってやるかな」

「そんなことしたら、ハバマ様に殺されますよ」

「まぁ、逃げられないだろう。お前ら、しらみ潰しに探せ」

全員で10人ぐらいいる。

人が見当たらなくなってから、ルークさんはわたしを抱え込んだまま下に飛び降りる。

おろしてもらって、へなっと座り込む。

「ありがとうございました」

助けてもらいすぎだ、わたし。

「 命(めい) ですので、お気になさらず」

「どんな 命(めい) ?」

ルークさんは華麗にスルーをする。ひとつはモードさんの呼び出し。そしてお屋敷に残ったということは、またまたわたしの護衛ってところか?

「それより、どうなさるおつもりですか? ここであなたをひとりにするとみつかり、また助けるのはめんどくさいのですが。それにこの速度でセイラにあなたが行き着いた時には、モード氏はすでにお帰りになっているんじゃないですかね?」

確かに一理ある。けれど、すれ違っても、家についてわたしが探しに行ったことを知ったらモードさんは迎えに来てくれるはずだ。セイラに向かった方がいい。なんとなくそんな気がする。

「セイラに向かいます」

伝えると、ルークさんはため息をついた。

「このあたりを抜けるまで、運ばせてください。何度も捕まるとか面倒なので」

「すいません、お手数をおかけします」

お願いした途端、ルークさんに抱き上げられ、彼はまた飛び上がった。そして口を塞がれる。クーとミミも下の様子を覗き込むようにしながら静かにしている。

男たちが前方からやってきた。

「おい、これで何人捕まえたんだ?」

「7人だろ。この街はこれぐらいにしとかないと、警備がきつくなってきたからな」

男たちがわたしたちが登っている木の横を行き過ぎる。

なんの会話?

「ルークさん、今のどういうことだと思います?」

「……知りませんか? 奴隷狩りですよ。今の流行りはあなたと同じ髪と瞳の色の女性だそうです」

「聖女の子供を探して?」

ルークさんは首を横に振った。

「いいえ。聖女の子供と同じ色を持つ奴隷を持つことが、貴族の間で流行っているとか。それで奴隷狩りが流行っているんです」

「……この世界の奴隷はどんな扱いを受けるんですか?」

「ああ、ハナ様の世界では奴隷はいないんでしたっけ? 奴隷には二種類あります。犯罪奴隷と一般奴隷です。犯罪奴隷とは重犯罪を犯しその罪を贖うための使役で、危険な場所での労働作業となります。一般奴隷は、軽犯罪、それから借金で奴隷落ちになるものを指します。契約で主もちになり、労働力を買ってもらうわけです。普通の生活に準ずる労力から、仕事、そして戦力としての労力などいろいろとあります。一応、人権は守られることになっていますが、建前ですね。性奴隷は40年前に廃止されましたので、奴隷として買って娼館に売るなどされるのが一般的です。……オーデリアではそんなところですが、カノープス大陸ですと、奴隷となったら一生抜け出せないと思います。人権はほぼないと思った方がいいですね。人族ならまだしも、獣人の方たちですと余計に扱いは酷くなります。他大陸もカノープスほどひどくなくてもオーデリアほどはよくありません」

「奴隷狩りにあった人たちは犯罪を犯してもいないし、借金をしたわけでもないでしょ。それでも奴隷になっちゃうの?」

「奴隷商会に売られた時点で、商会から買われた借金を背負うことになるのです」

聖女の子供と同じ髪と瞳の色を持つものを側に置く、そんなくだらないことが流行っているだけで、人を狩るの?

「……捕らえられた人たちを逃したりできないですかね?」

「奴隷狩りからひとりで逃げられないあなたに、そんなことができると思うんですか?」

ルークさんが呆れ顔だ。ルークさんはいいことを言った。

「そうですね、……わたしにはできないや」

わたしは微笑んだ。

「できる人にやってもらわないと、ですね」

わたしの笑顔にルークさんはドン引きしたけれども、諦めて隣街まで連れて行ってくれた。

わたしはそこの自警団に飛び込んで誘拐されそうになったことを告げる。そして7人捕らえられていることも。

地図を見て場所も教えた。地図を見てわたしはわからなかったが、クーが爪で場所を指してくれた。「賢いにゃーだなー」と言われた。ここでできるのはこれくらいだ。

わたしは街を出てから、ルークさんに呼び掛けた。

「今度は何です? 私は王子の従者なのですが」

「ルークさん、最短で王子のところに連れていって」

ルークさんは大きなため息をつく。

噂は生き物だ。噂は聞いた人が作り上げる。それが事実だとわたしも知っている。

でも否定の言葉を一度でも流していたら、世の中の流れはこうならなかったかもしれない。

ルークさんはわたしに何ができるんだと突きつけた。わたしもそう思う。

わたしは何もできない。だったらできる人にやってもらおうじゃないの。

ずるいけど、彼にもこんな状況にした責任の一端はあるはずだから。

歯を食いしばる。次にやることを考える。そう強い意志を持っていないと、わたしのせいだっていう気持ちに負けそうになるからだ。

そう、発端はわたしだ。わたしが逃げ出したから、だからどこにもいない側室聖女なんて人が生まれてしまったのだ。側室聖女の子供なんて存在を作り出してしまったのだ。