軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

109話 モード氏の受難⑥言質

竜人さんへのプレゼンの揚げ物はフライドポテトにした。

オリーブを潰すのが意外に面倒だったから、油も少量にしかならなかった。ビニールがあれば上から叩いたりできるからいけそうなんだけどね。器の中で棒で実を潰すのはなかなか難しかった。最初は試しに少量だけ錬金釜のミキサー機能で砕いてみたのだが、それでは果肉自体が砕かれすぎてうまくいかなかった。労力が少なく簡単に済ませるためには、いろいろと試す必要がある。昨日の今日ならこんなもんだよね。

モードさんのお屋敷にはマットマが大量に保冷されていてソースも作れたので、ハンバーグをプラスすることにした。モードさんのお屋敷には氷室みたいのがあったのだ。

豪雪地帯みたいなので、冬に氷を入れ替え部屋を作り、ウォルターお兄さんの作った魔具で夏でも溶けない氷のあるところと空間をつなげているらしい。転移のスキルがあり、魔力がいっぱい、さらに付与もできるお兄さんだからできる技で、シャーベットができたのもこの一年中氷漬けの部屋があるからみたいだ。今、アイスクリームもどきも作って凍らせ中だ。全てが適当なので、うまくできますようにと祈るしかない。

お屋敷にいる方たちのランチにはバンズを焼いて、葉っぱ野菜とハンバーグを挟んだハンバーガーとフライドポテトを用意してきた。お屋敷の揚げ油はクルミ油を使用している。もちろん帰ったら、黄虎とクーとミミ、そしてわたしたちもそれをランチにするつもりだ。

竜人さんたちにフライドポテトは好評で、ハンバーグも食いつきがよかった。人族の食べ物はうまいと味をしめたみたいだ。人族を嫌悪しながらも、人族の作るものに興味もあり、わたしが嫌なら余計に微笑んでみろを実践してみたところ、本当におまけしてもらえたらしい。それですっかり気分が上がっている。お手軽な。っていうか昨日の今日でもう市場に行ってるあたり、地上にそうとう興味あったんだね。

あとはゼノお兄さんに丸投げだ。今まで手紙みたいので連絡を取り合っているのは知っていたけれど、詳しくは知らなかった。モードさんのお家にはウォルターお兄さんの作った魔具で、それぞれ手紙のやりとりができるみたいだ。これでゼノお兄さんに連絡をとってみたところ、最初の反応はあんまりよくなかったみたいだけど、まぁ、竜人との取引なんて面白そうかなと承諾してくれたみたいだ。

話していると竜人は翼があって飛べると聞いて驚く。だって、じゃぁ、なんでエレベーター使ってるの?って疑問が湧くじゃん。尋ねると、それは翼を広げると服が破れるからだそうだ。夏は上半身裸で飛ぶこともあるが、寒い冬はほとんど翼では飛ばないというからちょっとウケてしまった。翼を出せる服作ればいいのに。

ぽろっと言った一言がどういうことだと詰め寄られ、デザイナーに翼のだせる服でも考えてもらえばと丸投げする。デザイナーを紹介しろというので、街のブランド洋服店に行くか、未来のデザイナーなら紹介できるよと、ソングクを紹介しておいた。

ソングクはわたしがこういったものがあると言わなくても、リュックの蓋の部分をつけてみたり、考えてポケットをつけたりしていたからね、機能的で見栄えのいいのを。だからきっとできると思うんだ。17番目の知り合いの紹介と言うように伝えて、トントのスラムを教えた。もしいいものができたら、見合う報酬をちゃんと払ってねとお願いしておく。

商売を始めるなら、庭園で作ったものは竜人族印の判子でも作ってパッケージに押すことも勧めておく。もしスラムに行くなら、判子は手先が器用なマッケンができるかもと呟いておいた。

竜人さんのところからの帰り道、お屋敷のゲートを通りすぎたところでモードさんに尋ねられる。

「お前の好きってのは、どういう好きなんだ?」

「どういう好きって?」

「一緒にいたいって言ったよな。結婚ってことか? 結婚ってのは伴侶になることだ。俺と家庭を持って、子供を作る気があるってことか?」

ど直球なのきた。そして気づいた顔をする。

「あ、お前に謝らなきゃな。嘘をついた。お前に教えた子供の作り方は、あれは大人が小さな子供に教える用のものでな。本当は結婚しただけでは子供は生まれなくてだなー」

ガシガシ頭をかいている。

モードさんは噴水の池の淵に腰掛けた。隣をポンと叩くので、座れってことだなと隣に座る。

クーとミミはわたしたちの肩から飛び降りて、地面に仲良く並んだ。

わたしは腕を組んで、モードさんを見守る。

「で、あれだ。男と女がだなー」

言いにくそうだ。

「知ってる」

「知ってる?」

「アジトのみんなが教えてくれた」

「教えるって」

「ちゃんと説明してくれた」

「……説明」

「モードさん嘘ついたと思わないから、みんなに言っちゃって、恥かいたんだから」

ああ、違う。そんなこと言うつもりなかったのに。

5歳のメイに言いづらいと思ったように、話してくれたモードさんにお礼言うつもりだったのに。

でも、口から出てしまった言葉は絶対に戻らないのだ。

「そりゃ、悪かったな。ティア、こっち見ろ」

あー、まずった。合わす顔がない。いい年して当て付けみたいになってしまった。

モードさんがわたしの肩を持って、強制的に向き合わされる。

「お前が全身で俺に信頼を寄せてくれてるのはわかってる。好いてくれてるのも全力だから知っている。でも、それが幼すぎる思いなんじゃないかと思えるんだ。けど、お前は知ってるって言うんだな、男女のありかたを?」

「知ってる」

わたしは頷く。

「お前が俺を全力で好いていてくれるのはわかっているが、子供の好きと大人の好きは違ってだな。お前は平気で俺と一緒に眠れるだろ? それはな、好きは好きでも家族みたいな好きなんだと思ったんだ」

幼い幼いって言われているようで、それはへこむ。見かけのことじゃなく、想いが幼いと言われた。ショックだ。でも、確かに、思いきり見せる恋をしていた。

って言うか、だって公明正大にしていなきゃわたしはとんだ痴女じゃないか。

影で忍んで慕って、セクシーとか思っていたらそれはいかがわしすぎると思って、なるべくオープンに思いを寄せていたつもりだ。それを逆に幼いと言われるとは。

「俺とお前は歳も離れているし。お前が成長したら、いずれ好きな奴ができるんじゃないかと思う。だから俺を好きだと決めるのはまだ早いと思った」

「何でわたしの思いを、モードさんが決めるの?」

「お前が気付いてないだけじゃないかって気がするからだ。お前、アジトのみんな大好きだろ。特にトーマス、それとカルランにチャーリーだっけ。すっごい好きだよな」

「な」

好きは好きだけど。

「見かけの好みはソングクとソウショウだろ?」

ひとっこともそうは言ってないのに、なんでわかるんだ!?

「わたしはモードさんがっ」

「家族みたいに好きなんだろ? 保護者として、だろ?」

何でわかってくれないんだろう? それとも、モードさんがそう考えたいから?

だから、そう言うの?

「そう言えば満足なの? 惚れた腫れたじゃなくて、保護者としての好きなんだって言わせたいの?」

『なぁ、ミミ、ティアとモードは何しゅてりゅんだ? ケンカか?』

『チワゲンカよ。人ってアイジョウを言葉にしゅてたしゅかめないとわからないヤッカイなイキモノだって、母しゃまが言ってた』

ま(・) だ(・) 痴話喧嘩じゃないし。突っ込みたいが、話がそれそうなので我慢する。

『ティアもモードがしゅきだし、モードもティアがしゅきなんだから、コウビしちゃえばいいじゃんなー。しょしたりゃハンリョでずっと一緒にいりゃれりゅんだろ?』

正真正銘の子供ドラゴンが何をいう。

『ティアがしゅきなものがいっぱいありゅからモードがシットしゅてるのよ』

「違う!」

大きな声に驚いて、クーとミミが一目散にわたしの肩に乗ってきた。毛を逆立ててフーっと息をはきだす。

「あ、悪い。驚いて大声を出した」

モードさんがクーとミミに謝る。そして咳払いをする。

「嫉妬ではなくてだなー。ティアが本当の恋をする妨げになるのが嫌なんだ」

「だから、わたしの気持ちなのに、何でモードさんが決めるの? 何で本当の恋じゃないなんていうの? わたしはモードさんにわたしの気持ちを考えて欲しいんじゃないのに!」

「お前は俺の腕の中で安心して眠れるだろ? それが幼いっていうんだ」

「……確かに、モードさんにひっついているのが一番安心するよ。だって、ずっとそうしてくれてたじゃん。ずっとギュッとしてもらって眠ってたんだもん、一番安心に決まってるじゃん。それに、わたしがドキドキしてたら、モードさん困るでしょ? だからなるべく考えないようにしているのに」

驚いたようにモードさんの眉が上がった。

「俺にドキドキするのか?」

「そりゃあ、そうに決まってるじゃん」

モードさんの嬉しい言葉も、してくれることも、誤解して喜びすぎないようにいつも抑え込んでいる。

「お前、何か拗ねてるか?」

「拗ねてない」

「もう、俺には何も教わりたくもないか?」

わたしは首を横に振る。

「じゃあ俺は遠慮しなくていいんだな? 散々、確認は取ったからな?」

遠慮、何の? 確認、何を?

「モード様」

声がかかる。ロディアーヌ様だ。お屋敷からこちらに向かって歩いてくる。今日はアイスクリームを食べてもらう約束になっている。固まるのを待っている間に、竜人さんに料理を渡してきたのだ。

「お帰りなさいませ、おふたりとも。モード様、ゼノお兄様がお呼びです」

ゼノお兄さんは、わたしたちが出かけている間に帰っていらしていたようだ。門番からわたしたちが帰った連絡が入ったのだろう。それにしては遅いと迎えに来た感じ、か。

「そうか、ありがとう」

ロディアーヌ様の後をついて歩き出し、そして、振り返り、言い忘れたと言うようにわたしに告げる。

「じゃぁ、ティア、嘘を教えたからな。いつか俺が実地でちゃんと教えてやる」

それって……。モードさんはわたしの返事を待っている。

「絶対だよ。今度こそ嘘ついたら許さないから」

なんだってわたしの口から出てくる言葉は、いつも可愛げというものが存在しないのだろう。

モードさんが微笑んだ。柔らかく、素敵な笑顔で。

そして背を向ける。

嬉しいのに、背を向けられたことはどこか寂しくて。心臓だけがドキドキしていて。わたしはモードさんの背中を見送りながらへたり込んだ。

『なぁ、ミミ、ティアが喜んでりゅ。何があったんだ?』

『人ってわかりゃないわ』

クーとミミが肩越しに変な会話をしているけれど、それは全くもって気にならなかった。