軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

105話 モード氏の受難②自立

隣の隣の街中にあるダンジョンについた。

わたしの唐突な提案に驚いたようだけど、モードさんは引き受けてくれた。そしてなんとロディアーヌ様も一緒だ。出かけようとしたところに現れて、一緒に行く宣言をしてきたのだ、冒険者の格好をして。どこで聞きつけたのか謎だが、わたしとモードさんふたりにするのは嫌だったんだろう。黄虎やクーやミミもいるのにね。まぁ、そんなことはいい。牧場買う資金を貯めないと。

ロディアーヌ様にはわたしが弱っちぃことは言っておいた。ランクの低い水、風、土魔法が使えるが戦えるほどではないこと。完全にAランクのモードさんの戦力頼りなこと。

「あなた、何をなさりたくてダンジョンに入るんですの?」

ダンジョンはレベル上げに好まれるところらしいから、戦力はモードさん頼りだと言うのを不思議に思ったんだろう、そう尋ねられる。

「もちろん、資金作り」

配当はいろんな意見は出たが、計算が面倒なのできれいに三等分にしようと言うことになった。

ロディアーヌ様からもこそっと申告があった。自分はモードさんと結婚したいと思っている。それは告げていなくて、今までソロのモードさんに自分とパーティを組まないかと誘ったところだという。弟子がいるのは聞いていたが、女の子だと知って焦り、わたしの反応を見るために、婚約者だと名乗った、と。反応でわたしがどう思っているのか分かったが、譲るつもりはない、と。このダンジョン攻略で、パーティのパートナーとしてどうかの判断をしてもらうと言った。今日のダンジョン行きはお屋敷で働く人に小金を握らせて、知ったらしい。モードさんをゲットするために多少の汚いことは厭わないと、わたしにそう告げてくるあたり、ロディアーヌ様はある意味、真っ直ぐな人みたいだ。

ここもホリデのような塔タイプのダンジョンだった。初級者から中級者向けのダンジョンだという。

『ティア、ここ、くしゃい』

『いやなニオイがしゅるわ』

クーとミミの機嫌が悪くなる。よくよく見ると黄虎も眉をひそめていた。

森の中風なフィールドだが、神獣たちには臭く感じられるらしい。わたしは意識して匂いを嗅いでみたが、別段なんとも思わなかった。

隊列は黄虎とモードさん、わたしとクーとミミ、そしてしんがりがロディアーヌ様だ。

木と木の間になんか見えた? と思ったら、突進してきたのはラットだった。黄虎が片手でハエを払うような動作をしたらラットが高級毛皮になった。黄虎、強い!

『なーティア、俺しゃまもやる!』

「え?」

「え?」

わたしが驚くと、そのわたしの声に驚いてロディアーヌ様が不審顔だ。

「どうなさいましたの?」

「クーが戦いたいと」

「アンモニャナイトが戦いますの?」

「……猫だからネズミに反応するのかと」

苦しいが。

「あなた、テイマーですの?」

「……ええ、ちょっとだけ」

なんじゃそりゃと思いながら、話を流すために、モードさんに話かける。

「モードさん、クーにできると思う?」

モードさんも立ち止まって、クーを見る。

「キトラ、フォローしてやれるか?」

モードさんが黄虎に聞いてくれる。

「がりゅ」

黄虎が可愛らしい声をあげる。

クーはタタっと黄虎の頭の上に移動した。

「黄虎、ありがとう。よろしくね」

黄虎の首んとこをもふる。

「来るぞ」

モードさんが鋭い声をあげる。

ラットが3匹だ。

「俺が2匹倒すから、残った1匹をクー、やってみろ」

そう言って、半歩前に出て剣を振るった。ポンポンと音をたてて、高級毛皮になるラット。

残った1匹が牙を剥いて鳴き声をあげる。

「キィーーーーーーーーー」

ネズミはチューチュー鳴くんだとばかり思い込んでいたのだが、金切り声と恐ろしい表情にビビって半歩下がったわたしと違い、クーは黄虎の頭からラットに向かってジャンプした。ラットの頭に乗ってシャシャシャと爪を立てた。堪らなかったらしいラットが頭を振る。ラットの頭から地面に着地して唸り声をあげるクー。そのクーを目指してラットが上からガブっといこうとした時。

え?

わたしの肩から高速移動したミミがラットの頬に飛び蹴りした。ラットがポンと音をたてて高級毛皮に。

モードさんが大笑い。

「すげーな。ティア、こいつらお前よりひょっとして強いんじゃないか?」

確かにラケットバットがなかったら間違いなくふたりの方が強い。

クーとミミはわたしが教えてから気にいっている、一瞬だけ後ろ足で立ってハイタッチをしている。

「アンモニャナイトがラットを倒した……」

ロディアーヌ様が口の中でモゴモゴと呟いている。そうだよね、ブルードラゴンと知らなければ、子猫が魔物倒したんだもんね、何かがガラガラと崩れるよね。

そっからは黄虎もスイッチが入っちゃったみたいで、黄虎とクーとミミの独壇場となった。

そのドロップ品を人が拾うという。今日はドロップ品はロディアーヌ様の目を気にして、モードさんのマジックバッグに入れている。

1階はラットとハナバサミと言う植物モンスターしか出てこなかった。ハナバサミはキレイでいい匂いだなと顔を寄せると、花びらをハサミのようにして襲ってくる魔物だ。これもいとも簡単にクーとミミの猫ひっかきで倒した。

1階はいくつかのパーティと追い越されたり、すれ違ったりした。子猫が戦って、しかも勝っているので、目を大きくしていく。

2階へと上がると、草原と川らしきものが流れていた。平和的な風景だ。モードさんも緊張していないし、アラートにも何も引っかからないから、油断はするもんじゃないけど、大丈夫だろう。こっそりとモードさんを盗み見る。

そうだよね。あの時別れたままになるより、もう一度会えて、本当によかった。モードさんのご家族にもいっぱい優しくしてもらったし。少し見ていたら、気づいたみたいで、スッとこちらを見る。わたしは何気ない感じでラケットバットを構えながら視線を逸らした。

『ティア、おしゃかながいりゅ』

「魚?」

川を覗き込んでいるふたりに走り寄る。ホントだ。鑑定してみると、魚だ。魔物じゃない。

『ティア、食べりゅ?』

ミミに聞かれたので頷くと、ミミが手を伸ばして、水面を触ったかと思うと、魚が3匹ほど跳ね上がって地面に落ちた。

え?

モードさん爆笑。

「生活力あるなー」

「ミミ、すごい! ありがとう」

わたしは拾い上げてお水と一緒にぴちぴち跳ねている魚をお鍋に入れる。

ロディアーヌ様がぶつぶつまた言いながら呆けている。

『俺しゃまだって、できるぞ』

クーが手を翳すと、水が噴水のように上へと巻き上がって、魚たちがしぶきと一緒に地面へと降ってくる。

魔法ですか??

「く、クーも、すごいね。ありがとう。十分だよ」

ダンジョン内の川にて、お魚10匹もゲットだ。

「え、黄虎?」

突然走り出し見えなくなり、あっという間に帰ってきたと思ったら、ドロップ品のお肉を咥えている。わたしの前に置く。

「黄虎もお肉とってきてくれたんだ、さすがだね。ありがとう」

抱きついて、顔を埋めちゃう。

化粧しないでいいって、これがいいよね。大人になるとお化粧だとか、日焼け止めだとか、ハンドクリームとか何かとつけることになって。そうすると、運よく人懐っこい野良ちゃんや、お散歩中の愛想のいい子に遭遇しても、わたしのつけている何かがどう害になるかわからないから、触れ合うことができなかった。今は何もつけてないからね、いつでもこうやって、もふれちゃう。

そうしていると、クーとミミがわたしと黄虎の間に入ってきたがる。くすぐったくて笑ってしまう。

「ティア、ダンジョンの中だぞ、気を抜きすぎだ」

「はい、ごめんなさい」

そうだった! わたしは顔を離して、辺りを伺う。黄虎の頭を撫でてお礼を言って、ドロップ品をモードさんのバッグに入れさせてもらう。

「キトラ様とも仲良しですのね」

「わたし、黄虎に拾ってもらったんで」

そう告げると、スッと一瞬にして顔を青ざめさせた。

「大丈夫ですか? 顔色が……」

わたしは倒れるんじゃないかと思って、ロディアーヌ様を支える。

「どした?」

「ロディアーヌ様が……」

モードさんはロディアーヌ様を見ると、スッとお姫様抱っこをして、ズンズンと歩く。

「ティア、こっちだ。セーフティスペースがある」

わたしは黄虎とクーとミミと一緒にモードさんの後を追った。

ロディアーヌ様の心配をするところなのに、自分勝手な思いが浮かぶ。

……振られても気持ちよくいい思い出にしたかったのに、これじゃぁ、嫉妬が残りそうだ。

セーフティスペースに毛布を置き、そこにロディアーヌ様を寝かせる。

「大丈夫か?」

モードさんが問いかけると

「申し訳ありません。少し休めば大丈夫です」

そう目を閉じる。

みんながいても休めないだろうと、黄虎についてもらって、わたしたちはフィールドに出た。

歩きながらモードさんが言う。

「なぜ急にダンジョンに来たかったんだ?」

「牧場を買いたいと思ったの」

「ぼくじょうってなんだ?」

「うーーーん、家畜を飼育する敷地?」

「家畜って何を飼うんだ? 馬か?」

「ああ、馬もいいけど……。ミルクとか卵で作って売りたいものがあるんだよね。そしたら暮らしていけるでしょ?」

「は? 馬のミルク? 卵?」

「強い人と一緒じゃないとダンジョンに入れないから。今のうちって思って。打算的でもあるけど。まずね、モードさんと採集に行ったり、ご飯作って食べたりしたかったんだ、ずっと」

ニッと笑いかけると、モードさんは何か言いたげだったけれど微かに笑ってくれた。

モードさんもロディアーヌ様も、神獣はもちろん『運』がいいんだろう。ここでもわたしは足を引っ張ることなく、狩れば狩るだけドロップする。

ロディアーヌ様の体調を考えて、今日はこのまま2階で休むことにする。それぞれのテントを張る。体調の悪いロディアーヌ様のテントはモードさんが張ってあげる。

夕飯はロディアーヌ様も食べられるように卵雑炊にした。モードさんを待つ間、森でひたすら燻って作ったかつおぶしの出番だ。かつおぶしは、かつおぶしになってた! 日本の高級品という味にはなれないけれど、旨味たっぷりだ。包丁だし荒削りになったが、削るとクーとミミが大興奮。喉をゴロゴロ鳴らしてそのまま食べている。この子たち、やっぱりドラゴンじゃなくて猫なんじゃ? あ、でも黄虎もゴロゴロ鳴らしているから、神獣に好まれるものなのかな? ん? 虎がネコ科だから?

炊いておいたご飯を、昆布と鰹節の出汁で煮る。冷やご飯にして水で洗うとかは今日はしない。サラサラが好きな時もあるけど、ちょっとトロミがつくのも好き。トロミのために今日はお水洗いしない。ミツバとネギを薬味にして。醤油を隠し味に。最後に溶いた卵を回しがけて、と。

クーとミミがとってくれたお魚は内臓をとってそこにハーブを詰めて、野菜と一緒に蒸し焼きにする。

こうなると清酒が欲しいな。お米があるんだから、ありそうなものだけど。

一眠りしたからか、ロディアーヌ様も顔色が戻ってきていて、雑炊も食べてくれた。

雑炊はモードさんも、黄虎とクーとミミもおいしいと思ってくれたみたいで、お替りしてくれて全く残らなかった。

クーとミミが離れたがらないからか、黄虎もわたしのテントで休んでくれる。おかげで黄虎の毛に顔を突っ込んで眠ることができた。早くに休んだからか、朝早くに目が覚めた。黄虎の温かさと乾いた洗濯ものみたいな匂いを堪能する。黄虎のお腹の上ではクーとミミが丸くなっている。

と、いきなりテントの入り口が捲り上げられた。はっと息を飲むと、黄虎が目を開けた。

頭が入ってきて、わたしと目があったとたん、男性は目をまん丸に開いた。

「す、すいません、間違えました!」

テント間違えのようだ。ああ、驚いた。胸をなで下ろすと、わたしのほっぺをひと舐めして黄虎は目を閉じる。

そうか、ホリデのダンジョンは人気なかったからこんなことは起きなかったが、セーフティスペースでも他にも人がいるとこんなことも起こるのか。

ただ間違えられただけなのに、なぜかものすごく怖くなる。人が入ってこられなくなる何かを作らなくては。

朝ごはんを作っていると、テントから起き出してきた人たちにジロジロ見られた。みんな携帯食で済ますからだろう。中には竃の作り方をじっくり見にきて「アッタマいいな」と言ってくる人もいた。昨日雑炊の出汁をとった昆布と鰹節を刻み、甘辛く煮て水分を飛ばしふりかけにする。暇だったので小腹が減ったときのためにふりかけを混ぜたおにぎりを作っていると、売ってくれないかと言われた。包むものはトールしかないと言うとそれでいいと言う。値段をどうしようと思っていると、その三角のを2個で500Gでどうだ?と言う。暴利かなとも思ったが向こうが言い出したことだしと売ったら、俺も、俺もと、あっという間に7人に売れた。3500Gなり。まだ2階だから入って2日目だろうに、もう普通のご飯が恋しくなっているとは。あんたは何階まで行くんだ?と尋ねられ、成り行きになるからわからないと話しておく。ロディアーヌ様の具合が良くなかったら、ここで打ち切りになるだろうし。

と、騎士がお姫さまを抱っこするような場面をナマで見たのを思い出して、苦いものを感じる。

テントからロディアーヌ様が出てきた。顔色は普通に見える。

「おはようございます。お加減はいかがですか?」

尋ねると

「ええ、もう大丈夫よ。昨日は本当にごめんなさい。足を引っ張ってしまって」

と謝られた。

「あ、あんたたち、女の子ふたりのパーティなのか? だったら俺たちと一緒に回らないか?」

ロディアーヌ様にメロメロだ。鼻息があらい。

ん? わたし、女ってバレている? 相変わらず男の子の格好をしているのに。

「いいえ、ふたりではなく3人。男性もおりますし、結構ですわ」

「何ランクだ? 俺たちはパーティでCランクだ。上の方までいけるぜ」

君たち、Aランクを見て、自分より強いと思えないところでダメダメじゃない?

「な?」

と後ろから来た人に手首をもたれ引っ張られて、驚く。

「いえ、結構ですので」

手を払おうとするがなかなか離してもらえず、ロディアーヌ様の方にも男が近づいてさらに勧誘している。しつこいな!

ロディアーヌ様に手をかけようとした男の手を払ったのはモードさんだった。強そうなモードさん登場で男たちがビビる。

「なんだ、お前は飯炊きでついてきたのか?」

わたしの手を持った男は失礼なことを言う。

そんな男の手を払ってくれたのは、朝早くにわたしのテントに間違って入ってきそうになった人だった。