軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

104話 モード氏の受難①不意打ち

次の日、ほぼ眠れなかったが、心配をかけないように元気を前面へと押し出した。

一晩中、ぐるぐるぐるぐる考えた。

わたしはモードさんと一緒にいたいと思っている。ずっと。ずーっと。詰まるところ、そういうことだ。モードさんと離れたくなくて。モードさんに一緒にいて欲しいのだ。

それは、わたしの気持ち。

状況は。

モードさんには過去に婚約者がいた。

モードさんはこの依頼で仕事を通してその元婚約者に、いい感情を持っている。一緒に仕事をしていけると思っている。

元婚約者さんも、弟子のわたしに牽制をかけるぐらい、モードさんにいい感情を持っている。

さて。わたしはどうするべきなんだろう。

当たって砕けて撤退がわだかまりが残らないだろうか。

だって、ね、わたしは完全に女としては映っていない。そしたら、わたしはそう見て欲しいんだよってアピールするしかない。アピールしたら、そりゃ気持ちはバレる。バレたら結論は出るだろう。せめて3歳の出会いじゃなければ。いや、それよりも、本来の年齢を知られたら、そんな歳で添い寝してもらったことを知られたら、拒絶されるかもしれない。二度とわたしを見て笑ってくれなくなるかもしれない。トラウマを植えつけて、恩を仇で返すことになるかもしれない。だったら何も言わずに撤退という選択肢もあるわけだけど、そんなことをしたら、ずっとしつこくこの思いを持ち続けるんじゃないかと思えた。

「あんたって見かけはトドとかアザラシとかセイウチなのに、中身は気の小さいキャンキャン吠えてる小動物だよね」

実花には悪気がない、辛辣ではあるが。わたしが毛長族を好きであるように、高校からの友達の実花は水辺の生物が好きなのだ。彼女にとってトドやアザラシやセイウチは愛する可愛い姿で、それを知らなかった時は、周りが爆弾発言と受け取ってどん引いたけどね。水辺の可愛い生物の中で、くびれがなく、しまりがなく、陸にあがってひなたぼっこをする鈍臭そうに見える姿を思い出させる生物を、引き合いに出してきたところが、全くもってうまく似ているの持ってきたなってところだけど。

それから、小動物っていうのは小さくて可愛らしくて庇護欲をそそられるものを表す時に使われがちだが、わたしを差した時はそういう可愛らしいものではない。よくよく聞いてみると実花は言葉を間違えて使っていて、彼女が言いたいのは小動物ではなく、ちっこい動物だった。目つきを変えて犬に突進する子猫とか、猫に突撃する子アヒルとか、尻尾を足に挟んで震えているくせに大型犬に無謀に吠えている小型犬とか、そういうのを差す。

つまり「愚鈍そうな見かけで、怖がりなくせに突っかかっていくよね」と。

わたしは怖いと思うものに突っかかっていく性質があるというのだ。怖いなら爪を立てなきゃいいのに。よく、他の友達にもそう言われた。

でも、わたしは思う。怖いのがいつまでも続くなんて耐えられない。本気で怖いと思ったら、目に入らないぐらい安全な遠くに行くか、もしそれができないなら、怖くないまで気持ちを持っていけないと安心できない。逆に怖いことを怖いままになんてよくしておけると思う。

だからわたしは突っかかる。少しでも理解できるように。理由に納得できるように。少しでも怖さのハードルが低くなるように。怖くないじゃんって思えるように。

いつかモードさんに好きな人ができて恋に落ちていくところを、そんな日が訪れるのは今日なのかなんて怯え続けるなんて怖すぎてできない。

ミリセントお姉さんはお出かけし、居間にはわたしとモードさんだけだ。クーとミミは黄虎とお散歩に行った。お茶を飲んでいるのに、喉がカラカラだ。言葉が発せられるか不安になるほどだ。

「モードさん」

「んー?」

新聞みたいのを広げて読みつつ、モードさんが生返事をする。

「モードさんの中で、わたしは今何歳?」

「16歳って言ってなかったか?」

「そうなんだけど。体感として。モードさんはわたしが3歳の姿から見てるよね」

モードさんは新聞を畳んで、テーブルの上に置いた。

「ああ、ちっちゃかったな。そのちっこいのが舌ったらずにペラペラペラペラ。なりは大きくなったが、そこら辺はあまり変わらないか」

「子供だってことだよね?」

「そりゃ、子供だろ」

モードさんは含み笑いをしながらカップを持ち上げて、喉を潤す。

「わたしはモードさんの恋愛対象になれる?」

ブフォっとモードさんは器用にお茶を吹き出した。

「大丈夫?」

わたしはタオルを差し出す。

モードさんはそれを受け取り、口の周りを拭いた。

「何を突然言い出すんだ」

「わたしはまずモードさんに会いたかった。後のことは考えてなくてそれだけが目標だった。

でもよく考えると、会ってそのまま一緒にいられるんじゃないかって思っていたと思う。

でも、ひとりで生きて行けるようになるまでの契約は終わっちゃってるし。後は預かっているものを返したら、モードさんとわたしは、師匠と弟子なだけ。弟子も独り立ちしないとでしょ? モードさんには婚約者がいたし」

「元、婚約者な」

「うん。でも彼女はモードさんを想ってるし。今はそうじゃないとしても、……いつかモードさんも恋人とかできるでしょ? そしたらわたしは一緒に居られない。モードさんはわたしを3歳から見てきたのと一緒。子供だよね。わたしを保護対象ではなくて、恋愛の対象として見られることってありそう? 無理そう?」

モードさんが言葉をなくしている。考えてもなかったってことだ。もうそれが答えだ。

「ごめん、変なこと聞いた」

「ティア」

部屋を出て行こうとした手を取られる。

「少し、時間をくれ」

モードさんは真摯にわたしに向き合ってくれている。それだけで十分だとわたしには思えた。

立ち止まってしまいそうなときは、もうそのことは考えない、が基本だ。自分でどうにもできないことは、時が過ぎて、時間に癒されるのを待つしかない。だから考えない。考えたくないから他のことを考える。

これからどうしよう。

わたしのやりたいことってなんだろう? できることってなんだろう?

ご飯作るのは好き。みんなでワイワイやるのが好き。

食堂とかいっても、わたしはまかないを作るのはいいけど、お店ご飯は無理だよなぁ。料理人を雇うか。

それとかお金貯めて土地を買って、牧場作るとかどうよ。コッコを飼って。そしたら卵使い放題だよね。プリンとか売れるんじゃない? 私有地なら魔物飼っても大丈夫かな? 街の外でないと飼えないのかな? まぁ、それは追々考えることとして。

土地を買うにはお金がいるね。採集能力はあるけど、弱っちいからな。

あ、強い人がいるじゃない。これは今のうちだけだ。

それはとてもいい案のような気がした。

わたしはモードさんと一緒に採集をしたいと思っていた。採集して、売って、そのお金で食材を買ったりして、ご飯を作って食べて。そういうことがしたかった。もうできなくなっちゃうから、最後にそういうことをしたい。

わたしはモードさんのいる部屋に舞い戻る。

「ねぇ、モードさん、暇? だったらダンジョンに行かない?」

「ダンジョン?」

モードさんは驚いたような顔でわたしを見た。