軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

106話 モード氏の受難③奪取

「なんだよ」

ってぶちぶち言いながら手をつかんできた男は離れていったが、なんだよって言いたいのはわたし、だ。

間違えて入ってこようとした人はわたしに頭を下げる。

「先ほどは、本当にすいませんでした」

「ええ」

「え?」

多分、謝ったら「いいえ」とか「大丈夫ですよ」とか言うと思っていたんだろう。肯定したから、驚いている。

「あ、そうですよね。いえ、すいません。本当にすいませんでした」

と逃げて行った。

ああ、おにぎりなんか売ったりせずに、無視しておけばよかった。そしたら、困っている姫君を助け出す騎士みたいなモードさんを見なくてすんだのに!

黄虎やクーやミミも起きてきた。挨拶を交わして、軽い朝ごはんをいただく。モードさんがロディアーヌ様の体調の確認をとって、大丈夫とのことなので、3階に上がることにする。3階からはボス部屋があるそうだ。

「お前、その手、どうした?」

手首が一周赤くなっている。向こうでもすぐに治るけど痕がつきやすかった。重たいものを手にかけていたり、傘を一駅分手首にかけたていたりすると、その痕が鬱血して痕が残る。長時間気づかずひっかけているとあざになることもあった。そんなところは新しい体で引き継がなくていいのにな。

「さっきの人たちだよ。勧誘で、手引っ張られた。痕が残りやすいだけで、すぐひくから大丈夫」

大丈夫と言ったのに、モードさんは険しい顔をしたままだった。

階段で3階に上がる。

牧草地に、いた!

「モードさん、ホルスタちゃん?」

「ああ。ホルスタだ」

牛だよ、まさに。わたしの知ってる! 白黒のぶち。きっとモーと鳴くはずだ。クイズ番組のうんちくで知ったんだけど、白い体に黒のぶちがあるのかと思ったら、黒の体に白く色素が抜けているかなんかの斑点なんだよね。こっちの子もそうなんだろうか。テンションが上がってくる。

ようっし、仕留めようじゃありませんか。

牛肉? バター? 生クリームかな?

わたしが牛に魅入られたように近づこうとしたのを、モードさんの手で止められる。

「ちょっと、待て。ホルスタはお前には無理だ」

強いのか。

「メメがいる、あれに行ってみろ。キトラ、クー、ミミ、一緒に行け」

メメ? 指差す方を見ると、ああ、羊ちゃんか。羊の魔物はメメっていうのか。

羊肉出るかな?

わたしは駆け出す。先手必勝じゃないと痛い思いをするからだ。

魔法の準備をして、ラケットバットを構えて走っていく。黄虎とクーとミミもついて来る。

メメはわたしに気づき、草を食むのをやめた。

チラッと目を走らせると、ホルスタにモードさんとロディアーヌ様が突撃している。なんかロディオみたいになってる。ふたりで戦う姿は……見たくない。

スッと黄虎が離れていき、横から合流しようとしていたメメたちを、軽く音を立ててドロップさせていく。

クーとミミもふたり1組で着実にメメを倒していく。

わたしもラケットバットを振り上げて、メメ目掛けて振り下ろす。景気良く音がしてお肉がでて来る。横からメメが走ってきていた。避けられなくて体当たりされて吹っ飛ぶ。地面に体を打ちつけた。すぐに立ち上がったがもう目の前にはメメがいて、まずいとバットだけ前に掲げたとき、目の前のメメに矢が突き刺さった。白い煙が立って、メメが消える。

「大丈夫ですか?」

肩で息をしていると、近づいてきたのは、テント間違えさんだった。弓を持っている。この人が助けてくれたみたいだ。

「助けてくれたんですね。ありがとうございました」

わたしは頭を下げた。

「いえいえ。気をつけて」

テント間違えさんは、颯爽と去って行った。悪い人じゃなかったみたいだ。そういえば朝も、あれは助けてくれたんだっけ。お礼も言ってないや。イライラしてたからな、悪いことをした。

あたりに魔物はいなくなっていた。黄虎とクー&ミミが倒してドロップした戦利品を拾い集める。モードさんたちも終わったみたいで、バッグを持ってきてくれた。

「何がドロップした?」

ウキウキ尋ねると、牛乳、生クリーム、バター、お肉がドロップしたと。

「それは売らないで食べる用にしてもいい?」

ふたりは勢いに押されたように頷いた。

やったー!

何作ろうかな。

そこからはホルスタをメインに狩っていくことにした。わたしがいっぱい欲しいと言ったからだ。3人と3頭の総攻撃だ。これはなかなかいいチームプレイだった。わたしの弱っちぃ魔法も貢献したしね。かなりのホルスタちゃん系をゲットすることができた。

夕飯は野菜のスープと牛肉入りの炒飯にした。炒飯にも野菜たっぷりだ。醤油を隠し味にそして仕上げにバターも入れる。このバターが、いい仕事するんだよ。牛肉にバターに醤油は間違いない、うん。多めに作って、残りごはんをおにぎりにする。

「どうするんだ、それ?」

「お礼に渡してくる」

「お礼?」

「さっきメメと戦って危ない時に矢で助けてもらったから、お礼」

嫌な態度もとっちゃったしね。

状況を聞かれ話すと、ああ、あの時かと苦虫を噛み潰したような顔をする。ホルスタでも強いのだったみたいで、周りに気を配れなかったと謝られた。

モードさんは自分も行くと言って、一緒に行ってもらうことになった。

同じタイプのテントを探す。すぐに見つかった。

「ごめんください」

入り口部分を揺らしながら声をかけると、のそっと男が出てくる。

わたしと続くモードさんを見て、目を丸くする。間違えさんのテントで合っていた。

「先ほどは、危ないところをありがとうございました。それから朝も助けていただいたのに、失礼な態度をとってすいませんでした。ありがとうございました。こちら、ホルスタのお肉と野菜の入ったライズを握ったものです。よかったら召し上がってください」

とおにぎりを渡す。

「あなたのこの三角の買った人がおいしいと言っていたので、気になっていたんです。ありがとう、嬉しいです。最初に悪いことをしたのは俺なんで、気にしなくてよかったのに、でもありがたくいただきますね」

男のテントを後にする。

「三角の買ったってなんだ?」

「朝、おにぎり作っていたら、売って欲しいって言われて、何人かに売ったの」

「……そうか」

一瞬静けさが降りる。

「最初に悪いことしたってなんだ?」

「テントが似てたでしょ? 明け方に間違えられたんだよ。間違えたってすぐ気づいたから入ってこなかったけど」

モードさんが衝撃を受けたような顔をしている。

「なんですぐに俺のところに来なかった?」

「え? だって、すぐに間違いって気づいて入ってこなかったし。何か言われた訳でも、されたわけでもないし」

「怖かっただろ?」

少し考え、頷く。何をされたわけじゃないのに、確かに怖かった。

「中からロックをかけれるやつを買わないとだな」

頭をポンポンしてくれる。そしてため息をついた。

「ぼくじょうを買いたいだとかいうのは、俺から離れていくための算段か?」

「ひとりで生きることになった時、何がしたいか考えて、そう思った」

モードさんがおし黙る。

わたしは甘えた考えをすぐにしてしまうから、モードさんに『出会い』が訪れるまではなんて気持ちが頭にちらついたが、ここにきて、それが無理なことがわかってしまった。わたしは嫉妬深かった。ロディアーヌ様に優しくするモードさんは見たくないと思っちゃうし、自分が惨めに思えてすっごく悲しくなる。なんということか、わたしはわたしだけに優しいモードさんを望んでいる嫌なやつだった。

モードさんが足を止める。

「お前は、覚悟があるのか?」

「何の?」

「俺と恋愛する覚悟」

口にしてしまえば、ただの師匠と弟子に戻れなくなることはわかっていた。だからどんな思いで切り出したと思っているんだ。

「俺と恋愛するってことは、男と女の関係になるってことだぞ。保護者はいなくなるんだぞ。添い寝なんかしてやれないぞ。わかってるのか?」

「そ、そんなのわかってる」

モードさんと一緒に眠れなくなるのは、ちょっと、いや、かなり残念だけど。

「わかっているのに。モードさんはわかってないって、勘違いだって、わたしの気持ちに名前をつけようとするの?」

え?

モードさんに抱きしめられてる? それも強く。それはいつものモードさんとちょっぴり違くて、胸の奥がざわざわする。

「モードさん?」

呼び掛けた声はあまりに頼りなく小さな声だった。

モードさん指がわたしの顎を上を向かせた。

え?

モードさんの顔が近づいてきて、顔を通り過ぎ、わたしの首を軽く噛んだ。

「ぎゃわ!!」

びっくりして変な声が出た。

モードさんがクスリと笑う。

鼻をつままれる。

「恋愛ってのはな、こういうのも含まれるんだ。わかったか、お子様?」

お子様?

「お子様じゃないもん」

お子様はモードさんだ。わたしよりずっと下のくせに。

「そーだな、子供は子供じゃないってみんな言うんだ」

わたしは手を伸ばしてモードさんの顔を両手で持つ。澄んだ水色の瞳と目が合う。

グイッと引っ張って、背伸びして口付けてやる。

モードさんがすっごい驚いた顔をしている。

どうすればわかってもらえる?

もう一度トライしようとすると、金切り声が響いた。

「あなた方は、いくらセーフティースペースだからって、ダンジョンの中で、一体何をしていらっしゃるの!?」

「だって、モードさんが分からず屋なんだもん」

そう言いつつ、わたしは思った。本当に、わたし、何しているんだろう……。

ついに手を出してしまったというか、口を出してしまったというか。ああ、マズイ、やってしまった。だけど、モードさんが先に首なんかに噛み付いて挑発するから。子供子供言うから。

チラリとモードさんを見る。普通にロディアーヌ様と話している。

勢いとはいえ、キスしちゃった、どうしよう。そりゃちょんと触れるだけのものだったけど。

夕飯の片付けをしていると、手伝ってくれているロディアーヌ様が憤慨する。

「あなた、元婚約者の前で、いい度胸ですわ」

元婚約者と自分で言っている。

「だって、大好きだから。振られるとしても足掻いて玉砕しないと諦められないんだよ」

口に出して理解する。偽りのない気持ちだ。そっか、わたしは諦められなくて足掻いているんだ。ロディアーヌ様は呆気に取られた顔をする。

そこは許して欲しい。ちゃんと終わらせないと、引きずって願えなくなりそうだから。

大好きな人の幸せはいつでも願いたいから。

「わたくし、3歳でしたのよ」

「はい?」

「婚約したのが生まれた時で、婚約破棄されたのが3歳ですの。わたくしの何がいけなかったのか」

わたしをみつめる瞳には、本気で悲しんでいるのが見て取れた。

「わかっています。我が家が竜侯爵と親族になりたくて、無理矢理、婚約を取り付けたことも。モード様が冒険者になるので貴族と婚姻は結べないとされたことも。わたくしずっと言われてきたんですの。3歳で婚約を破棄されたなんて、かわいそうって。わたくしなぜ婚約を破棄されたのかモード様の口から聞きたくて、直接聞きに行きました。モード様は冒険者になるために森で鍛錬をなさってました。凛々しくてかっこよくて、わたくし見ているだけでいっぱいで、声もかけられずにいました。……それからわたくし、モード様と同じ冒険者を目指したんです」

ほんのり頬を染めたロディアーヌ様は、美しく可愛らしかった。

森の中で鍛錬している小さな男の子と、その様子を木に隠れるようにして見ているさらに小さな女の子の映像が頭に浮かぶ。

「でも、そんな時、聞いてしまいました。侯爵家に取り入ろうとする邪な心を神獣様に見破られて、婚約破棄されたのではないかと。そう、人々が噂しているのを。家にはもしかしたらそんな思惑があるかもしれません。でもわたくしは、本当にわたくしは、ただモード様をお慕いしているんですわ。神獣様に好かれたあなたは邪な気持ちはひとつもないんでしょう。ですけれど、わたくしあなたに知っていて欲しかったのです。わたくしはただただモード様をお慕いしていることを」

「恨みっこなしで」

「なんておっしゃいまして?」

貴族のお嬢様が、平民の子にそんな打ち明け話をするのは恐らくもの凄いキツイことのはずだ。そこまで言ってくれるのなら、こちらも応対しないとじゃないか。

「足掻きましょ、お互い。どっちに転んでも恨みっこなしで。……いや、ふたりとも振られるってこともあるか」

「……あなた、なんでそんなところで弱気になりますの? 縁起でもない!」

わたしの戦い方にも急に弱気になるところが出ているとかなんとか言われて、それからラケットバットを素振りさせられ、右に重心が傾く癖があると、直るまで指導になった。お嬢様って体育会系なの? 脳筋なの?? なぜに???

次の日も、3階のホルスタ中心に倒していく。

ホルスタちゃんを仕留められるようになりたいが、わたしにはまだ無理だ。

「わたし、一角筋肉行きます」

「一角筋肉? なんですの?」

わたしは指を差す。

一角筋肉はもちろん、渾身の一撃だ。これをウサギとは認めない。

モードさんがホルスタに剣を振るうと、牛乳、生クリーム、牛肉!

ホルスタちゃんの一頭がわたしを目掛けてやってきた。土魔法でちょっとだけ走りにくくして、当たるタイミングで風魔法でターボをつける。

タイミングがあったので、転びもせず、ドロップした。倒せた!

バターだ!

「お前、上手くなったな」

わたしは振り返ってドヤ顔を決めた。

コッコも、ロディアーヌ様が仕留めた。黄虎もコッコを仕留め、クーとミミは一角筋肉を仕留めた。一角筋肉でかいのに。クーとミミが昨日、今日だけですっごく強くなってる気がする。

そしてボス部屋に臨む。部屋の前には誰も並んでいなかった。

「じゃあ、開けるぞ」

気負いもなく、モードさんが扉を開ける。

一番にモードさんが入って、続いてわたし、しんがりがロディアーヌ様だ。

ここのボスはものすごく体が大きくて、なんていうのか、ところどころ筋肉が発達しすぎて嫌な感じのするホルスタちゃんだった。

でも、どんな見かけでも、まごうことなき牛肉だ。

黄虎が先制攻撃をかけた。

ロディアーヌ様が魔法を放ち、モードさんの剣が閃く。わたしに突進してきたから、バットをかざすと当たって、いきなりだったからわたしも吹っ飛ばされた。でも痛くないと思ったら、後ろにモードさんが抱え込んでくれていた。

「モードさん、大丈夫? ありがとう」

モードさんは怪我とかしなかったみたいだ。なんでもないふりをしようとして、至近距離になるとつい思い出してしまい、慌てて打ち消す。モードさんは別になんともないみたいだ。多分小さい子に口をペロンと舐められたぐらいに思っているのかもしれない。自分の想像にちょっと傷つく。ああ、いやいや、こんなことダンジョンで考えてる場合じゃない。

倒れたホルスタちゃんは、ポンと派手な音を立てて、あたりにドロップ品が撒き散らされた。

「おかしいですわ」

牛肉だ! 生クリーム! 牛乳! バター! と喜びを噛みしめながら拾っているわたしの横でロディアーヌ様が首を傾げる。

「どうしました?」

「ずっと思ってましたの。こんなにドロップするの、おかしいですわ。ボス部屋でもたくさんだし。ずっと外でもドロップしましたでしょう? 普通、一回潜って、一度ドロップすればいいぐらいですのよ?」

「ドロップしないなら悲しいけど、するんだからいいんじゃないですか?」

「まぁ、そうですけれど」

ホルスタちゃん、出てくるなら、このダンジョンいいな。

でも一人でダンジョン入るならCまでレベルを上げないとだ。4ランクか、先が長すぎ。

クーとミミもドロップ品を引きずってきてくれる。戦えるだけじゃなく、お手伝いもできて、えらい。

「ねぇ、モードさん。この国も魔物って飼っちゃいけないの?」

「は?」

ドロップ品を拾っていたモードさんが大きな声を出す。

「何を言い出すんだ、お前は。魔物なんて危険なもの、飼うなんて無理だろう。襲われるだけだ」

「コッコでもダメなのかな?」

モードさんもロディアーヌ様も拾うのを忘れて、呆れ顔だ。

わたしは、コッコやホルスタちゃんを飼って、卵や牛乳で美味しいものを作って、それを売ったりはできないものなのかを尋ねた。

二人は口を開けっ放しだ。

そんな変なことを言っただろうか。

まぁ、魔物を飼うって確かに危険か。でも、ホルスタちゃんは無理でも、コッコは人に土かけるぐらいだし、大丈夫じゃないかな?

『ティアはコッコやホルシュタを飼いたいのか?』

クー言われて、わたしは頷いた。

『だったら、テイムしゅればいいんじゃない?』

ミミがいいこと言った。

「そっか、テイムできればいいのか。テイマーを雇ってもいいし」

頭の中にアナウンスが響く。

『スキルが追加されました』

ステータスを見ると、スキルにテイムが増えている。わたしがテイムできるみたいだ。すごい!

「待て待て待て。お前は何を言ってるんだ」

「とりあえず、拾って、この部屋を出ましょう」

ロディアーヌ様に言われて、その通りにする。

ドロップ品は全てモードさんのマジックバッグの中だ。

「モードさんも好きなリンゴンパイ、ね。もっとおいしい食べ方もあるんだよ。熱々のリンゴンパイとね、アイスクリームっていう冷たいクリームみたいのと一緒に食べると、悶えるよ」

「アイスクリーム?」

ロディアーヌ様も、甘いものに敏感みたいだ。

クーとミミも目を輝かせている。

わたしは帰ったら、ホルスタの牛乳と生クリームとコッコの卵でアイスクリームを作ることを約束した。

そういうのを作れるようにホルスタちゃんやコッコを放し飼いにして飼って、卵やミルクで美味しいものを食べるような場所を作りたいんだというと、モードさんが考え出した。

「テイマーを雇うとしても、そのお菓子で利益が出るようなら、商売として成り立ちそうですわね。それに、もしティアさんのいうように、もふもふですっけ? そういったものを触ったりできる触れ合いの場所として観光の地を作るとしたら新しい目玉になるかもしれませんわ」

「確かに。兄さんたちに相談してみるか」

まだ2日だったし、3階までの攻略だったけれど、今回はここで終えることにした。

ドロップ品はそれぞれが合わせて15個まで選んで、後は売ることにした。ひとりの配当は17万だ。2日で17万に、ドロップ品15個、ホルスタちゃん系だしなかなか良い収入だ。ただホリデのダンジョンでは7階まで行ったからか、ちょっと少ない気がしてしまう。やはり、資金をためるには道のりは遠そうだ。