軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

912 天下一舞踏会

おいおいおいおい。

いつもテキトーにノリでタイトルつけやがって。

何が『天下一舞踏会』じゃ?

パクリ臭がプンプン臭ってくんだよ!

なんで異世界のネタにそんな柔軟に対応できるんだ!?

舞踏会で世界最強が決まるとでも言うんか!?

「重鎮たちが言いますには、舞踏会こそが男女の出会う打ってつけの場所。よって最高の伴侶を探し出すのは舞踏会こそが相応しいと……!」

ゆえに天下一舞踏会。

天下一の妻を決めるための舞台。

それに戦い抜いて、最後まで勝ち残った一人が世界最高の男に嫁げる。

「肝心のエリンギアは何と言ってるんだね?」

晴れてキミの隣を射止めた女性は?

さすがにこんなちゃぶ台返し、キレ散らかすんではないのかね?

「いえそれが……『私がリテセウスに相応しいと示す絶好の機会ね!』とむしろ前向きで。邪魔するヤツは指先一つで八つ裂きなどと言っています……!」

エリンギアらしいというかなんだか。

しかし口ぶりから言って、催しの趣旨をしっかり理解しているかは怪しい感じだな。

むしろ争いと混沌の申し子みたいな発想。彼女が次期大統領夫人で本当に大丈夫? とも思えてくる。

「僕も愛する女性のことを信じたいのは山々です……。しかし相手は、人間国に古くからいる重鎮たち。歴史を陰で操ってきた妖怪ともいうべき人たちです。そんな海千山千の人たちに、知恵比べでエリンギアさんが勝ちきれるかどうかというのは……、ちょっと……」

リテセウスくんの危惧もわかる。

世の中にはただの腕力暴力ではない……気づかぬところから音もなく忍び寄ってくる類の脅威も存在する。

知らぬ間に足元から絡みついてきて、気づいたらガッチリ全身を固められているような、そういういやらしい力。

特に今人間国の中枢に残っているヤツらは、旧人間国の滅亡から魔王軍の占領時代を生き残った、それこそ選りすぐりのヤツら。

益々一筋縄ではいかないことだろう。

「純粋なエリンギアでは、彼らにまんまと騙される可能性が高いです。僕は大統領の立場から気軽に手助けできません。公正を欠いてしまいますから」

たしかに。

「そこで聖者様に陰ながら助けていただきたいんです! 聖者様は、俗世のしがらみにまったく囚われませんし、その気になれば誰にも悟られずに介入するぐらい朝飯前でしょう!? その全知全能のお力で、どうにかこうにか人間国の旧悪にお仕置きしてやってはくださいませんか!?」

ヒトのこと持ち上げすぎじゃない?

そもそも全知全能にお願いするなら、そんなささやかな願いでいいの? 何なら人間国を天地無双の千年王国にチューンアップするよ?

……ダメか。

そこに住む人々全員の努力が少しずついい方向へ進ませないとダメだもんな。

神のごとき強大な力がすべてを決めてはダメだ。

……よしわかった。

微力でよければ俺たちにも何かさせてもらおうではないか。

リテセウスくんだけに色々面倒事を押し付けた後ろめたさもあることだし……。

* * *

そして日にちは経ち。

実際に『天下一舞踏会』の開催日となった。

まさしく天下一の令嬢を決めるために開催される舞踏会。

このパロディ臭濃厚に漂うネーミングも、そこまで冗談でもないんだよな、釈然としないが。

会場となっているのは、かつて人間国の王族たちが暮らした王城。

そして今は共和制となった新人間国の政庁として利用されているが、今日だけはかつての王城としての栄華を思い出したかのようにシャンデリアのごとく輝いている。

「いや、これから王城は毎日のように輝き続けるのじゃ。かつての栄光がやっと戻ってくる……」

などと呟いているのは、王城の廊下を歩く老人。

その風体態度から、噂の人間共和国の首脳部を務める重鎮の一人かと思われる。

「長い忍耐でしたからなあ。魔族に蹂躙され、もはや二度と戻らぬと思っていたこの人間王国が奇跡の復活を果たしたのです」

老人の隣には、一世代か二世代ほど年齢が下の、太鼓持ちのような男が続いている。

見るからにわかりやすい主従の構図だった。

「この灯火を消さずに次世代へと渡さねば。それゆえに新王様にはしかるべき妃を迎えてもらわねばならん。魔族の女などを王妃としては折角断ち切ることのできた魔国からの影響を再びまとわせるも同然じゃ」

「新王様はお若いゆえに、そうした機微にお気づきでない様子。しっかり我々がお導きせねばですなあ」

勝手なことを申しやがる。

「我々の切々たる説得が効いて、とりあえず選定の場を整えて下されただけでも僥倖じゃ。この機会を最大限利用して、真に人間国王妃に相応しい令嬢を新王様のために選別しようぞ」

「それはもちろん、アナタ様の孫姫様のことにございますね?」

「皆まで言うでない。フォフォフォフォフォフォ……」

越後屋と悪代官みたいなトーンの会話をしている。

「誰が選ばれるにしても、それは生粋の人族令嬢……それも貴い血の入った高位貴族の娘でなければならん。汚らわしい魔力などもっての外じゃ。……わかっておろうな?」

「無論です。論外の娘を弾き出すための仕掛けは既に流々整っております」

太鼓持ちみたいな若い方の男はニヤリと笑った。

「『天下一舞踏会』の予備審査として、とある問題を設定しておきました。『人間国の歴代国王の名を諳んじてみせよ』と」

「それはよい! 人族の令嬢にとっては一般教養でも、魔族なんぞにはわかるわけもあるまいよ!!」

呵々と笑う重鎮。

いやそもそも歴代の王って、旧人間国の王様たちのことだろう?

そんなの共和制に移った新人間国には何の関係もないし、今やただの歴史だろう。

それを何必須教養みたいに扱っとんねん?

と思う俺。

「ともかくこれで目障りな魔族女は脱落することであろう。そのあとは、我ら人族の娘たちだけで純粋な妃選びを……!」

「誰が選ばれるにしても新人間国の未来は耀うございますなあ。これでアナタ様の孫姫が選ばれればさらに明るい未来となりますが……」

「皆まで言うでない! フォフォフォフォフォフォ……!」

……。

世の中、越後屋と悪代官みたいな会話をする人が本当にいたんだなぁ。

ヤツらが歩き去って行ったあと、誰もいなくなった廊下で隠形の術を解き、姿を現す俺と先生。

それまで何もなかった空間が蜃気楼のように歪んだと思えば、カーテンを下したかのように背景が消えていき、代わりに姿を現すミイラのごとき痩せた体とオッサン一人。

そう、隠れていました。

そう、盗み聞きです。

『……いつの世も、どこにおいても小賢しい者は棲息しているようですなあ』

ノーライフキングの先生が言った。

今回リテセウスくんからの秘密救難要請が届いてから俺たちは秘かに王城に忍び込み、見えないところから様子を窺っていた。

先生に協力願ったのは、その方がスムーズに進むかなと思って。

案の定千の術を操る先生にかかれば隠形、気配遮断もお手の物。こうして企みごとをする人々の会話を至近で窺うこともできた。

そんな先生、益々呆れた声音を隠さない。

『この王城は、昔もそうでしたが今も変わらず伏魔殿ですのう。いつだって陰謀が巡らされなかった時がない。いや、政治の中枢とはそういうものでしょうが……』

しかしながら陰謀も、適切に企まれているならまだましな方で今回のケースはまったく唐変木じゃないですか。

今人間共和国の中枢にいる人たちが民主制のことを何もわかっておらずに、旧態以前の王制を続けようとしていること……。

……マジだったのか。

話には聞いていたが、ここまで本当に昔のことに固執していたとは……。

『千年前を生きたワシですら新しい理解を示しておるというのに。最近の若者は柔軟な思考を知りませんな』

先生も苛立ち交じりに言う。

これを言われた側の重鎮たちも、老齢に差し掛かって若僧呼ばわりされるなんて夢にも思わんかったろうけれど、ノーライフキングである先生から言われたら、それはもう反論の余地もないよな。

「これは考える余地もなく、俺たちが手を出すべきですな。今の盗み聞きで僅かな迷いも消え去った!」

人間共和国の未来のためにも、真の民主性というものを教えてやろうじゃないか。

本場の民主制を知って異世界から渡ってきた俺と、千年以上を生きて豊富な知識を持つ先生とで!

「やりましょう」

『やりますか』

俺と先生の心が一つとなった。

会場への乱入決定だ!!