作品タイトル不明
913 最強コンビ来場
天下一舞踏会の会場は、それこそ百花繚乱に咲き乱れていた。
凄まじい女性率の高さ。
もちろん若い女性。老若男女の若女のみで厳選されて、それが百人以上はいる。
そのご令嬢どもが色とりどりのドレスをまとって赤、青、黄色、緑、ピンク、白……色彩の情報量が多すぎて目が疲れそうだ。
そんな光景を、再び隠れながら眺める俺と先生。
「鮮明すぎて消し飛ばされそうですね」
『無彩色ばかりの我々にはきつい場所ですのう』
揃って現状のあまりの眩さに掻き消えそうになるオッサン二人。
若さの溢れまくった空間。あまりの生命力は盛りを過ぎた肉体にはキツい。
そんな中で……あ。
見つけた見つけた。
問題のリテセウスくんが所在なげに会場のど真ん中で立ち尽くしている。
この会場の主役はキミだろうに、なんという借りてきた猫感よ。
「大丈夫よリテセウス! この私がついているんだからね!」
と隣にいて励ますのは……エリンギアではないか。
これまた問題になっているリテセウスくんの真・婚約者!
「う、うん、そうだね……!」
「人間国を治めていく人が何、花嫁選びくらいでビビッているのよ! 任せなさい! この私が必ず他の希望者どもを軒並み叩き潰して、アナタの真の婚約者として認められるわ!」
「で、でもせっかく僕の婚約者になってくれたっていうのにケチをつけられて……怒ってない?」
「怒ってないよ!」
「ホントに?」
何度も確認されると本当に怒っていなくても怒りが湧いてくる。
まあ、魔国でキッチリ婚約者として認められたというのに、本国でケチつけられたらブチキレたくもなるわな。
この婚約は魔王さんが直々に認めたものだという。
それにケチをつけるってことは、魔王さんの顔に泥を塗るようなものだけど、その辺政治的にわかっているのかな?
そうした気遣いの賢しさだけが彼らの取り柄じゃないのか?
『二人とも元気そうで何よりですのう。教え子たちの卒業後の活躍を見るのは、教師として最高の喜びですわい』
そんな二人の姿を隠れながら眺めて先生がジンワリしていた。
リテセウスくんがエリンギアたちはかつて農場で学び、先生から直接の指導を受けているので、先生にとっては実に可愛い教え子たちなのであった。
だからこそ人一倍今日の成り行きが先生にとっては気になる。
「あらあら、新王様はつれないのね。そんな魔族より私の相手をしていただけないかしら」
そんなラブラブの二人にお邪魔虫現る!
薔薇のように真紅のドレスを身にまとった、いかにも気の強い令嬢!?
「お初にお目にかかりますリテセウス陛下。かつて人間国の上位貴族にあったシモナン家の長女リネンゼと申します」
「はあ……」
「人間国の新しき歴史を築かれるリテセウス様こそ時代の申し子。アナタ様のお傍で一生支え続けることこそ同じ時代に生まれた私の務めと存じます」
「そっすか……」
リテセウスくん、だからどうしたと言わんばかりの対応。
徹底的に興味がない感じ。
「これからの長い人生で、私はリテセウス様に数多くの助言をしていくこととなるでしょうが、まず最初の助言をいたしますわ。ここはアナタのお妃選びの場。その中で特定の令嬢に肩入れするのはいかがなものかと存じます」
臆さずに言う赤ドレスの女性。
他の女の人たちも自然と視線を集めてくる。
「王とは公正であるべきもの。その王のパートナーとなる王妃も公正に選ばれなければなりません。リテセウス様、アナタの王としての資質を疑われる行為は厳に慎むべきですわ」
「王ではないわ、大統領よ」
すかさず昂然と言い返すエリンギア。
「その区別もつかないならリテセウスのパートナーはまったくもって務まらないわね」
「生意気ね魔族のお嬢さん? ここは人族の国よ、余所者にこの国の代表者は務まらないわ、良識があるのならさっさと故郷へ帰るべきね」
同時に周囲から轟々の非難が巻き起こる。
『リネンゼ様の言う通りだわ!』『王様を誑かして人間国を乗っ取ろうとしているのだわ!』『この侵略者』などなど。
エリンギア当人は涼しい顔で聞き流しているが、むしろリテセウスくんの方が真っ青な顔でオロオロしている。
……彼は元々女の戦いに介入できる度胸の持ち主じゃないからなあ。
「……先生」
『行きましょうぞ』
ここまでさらなる情報収集のために隠形を続行していたが、もう姿を隠す理由もないだろう。
もう我慢も必要ない。
「えー、会場にお集まりの皆々様」
姿を消したまま声を上げる。
先生の隠形術は完璧すぎるので、大声を出してなお姿を気づかれることはない。
会場の人々は戸惑いながら我々の姿を探すのみ。
「ひいッ!? 何者だ!?」「声はすれども姿は見えず!?」「曲者だ出あえ出あえ!」「私怖いですぅ!」
会場が混乱する中、俺はさらに続ける。
「ご心配なく、俺たちはこのリテセウスくんの嫁探し大会に呼ばれた特別審査員です。俺たちの決定が何より優先されて、他の意見は受け付けません!」
「何を勝手な! ええい一体何者だ姿を見せよ!!」
充分に困惑させて、そろそろ頃合いか。
「では先生、行きましょう」
『心得た』
先生が隠形の術を解いて、二人姿を現す。
『ワシは先生!』
「俺は聖者!」
二人合わせて……。
「『せんせいじゃ!」』
どうだろう?
『せんせい』と『せいじゃ』を掛け合わせて『せんせいじゃ』。おじいちゃんが自分のことを『先生じゃ』と名乗っているようにも見せて愛嬌を感じさせる。
即興で思いついたにしてはいいコンビ名だと思う。
自画自賛するほどに心がシクシク痛む。
「うわあああああッッ!? ノーライフキング!?」
「なんで世界最凶の怪物がここに!? 憑り殺されるうううううッ!!」
「逃げろぉおおおおッッ!!」
都会でヌクヌク暮らしてきた貴族さんたちは先生の姿を見ただけで大混乱、我先にと舞踏会場から逃げ出さんとする。
『フン、ヒトの顔を見るなり失礼なヤツらよのう』
世俗との交わりもだいぶこなれてきた先生は、いきなり自分へガチビビられても傷つかないメンタルを獲得していた。
『逃げたければ勝手に逃げるがいい。……と言いたいところだが今日ばかりは用がある故な。勝手に退出するでないわ』
先生がパチンと指を鳴らすだけで会場の出入り口に禍々しき霧が立ち込め、脱走を企てんとする者たちを阻む。
「ヒィッ!?」
「何だこの霧は!? 押し戻される!? 通れない!?」
「閉じ込められたッ!?」
見苦しく混乱する人々。
彼らは我が娘、あるいは孫娘、あるいは妹、姪っ子などをリテセウスくんに輿入れさせ権力を握ろうとする人々だ。
混乱し恐怖しても、あんまり同情の念は湧かない。
「聖者様、一体これは!? 陰ながらの助力をお願いしたんですが、これはどう考えても直接的すぎ……!?」
「すまないが、もっとダイレクトに手助けすることにした」
そうでないと、この問題は解決できそうにないから。
「お前ら聞くがいいさ! お前たちの立ち上げたくだらない企画に、俺たちが審査員役を務めてやろう!」
『この我ら「せんせいじゃ」の二人がな!』
先生もそのコンビ名気に入ってくれたらしい。
飛び入り押しかけ審査員の二人に会場は困惑騒然。
妃候補の一人を連れ立った貴族っぽいオッサンが食い掛るように言う。
「何を言うか!? どこの馬の骨とも知れぬバケモノに、何の変哲もない男が、偉大なる人間国の新王リテセウス陛下の妃を勝手に選ぼうというのか!?」
ほうほう、どこの馬の骨か?
「俺は、お前らから聖者と言われているものだ。竜を従えています」
『ワシはノーライフキングとなる前は、トマクモアと呼ばれておったな。職業は大司教じゃった』
それぞれの自己紹介。
「な、何ッ!? まさかああの聖者キダン!? 世界を葬る力を持つという!?」
『トマクモア!? 教会唯一の良心と歴史的に再評価される反骨の名士!? ノーライフキングと化していたのか!?」
驚くギャラリー。
あっという間に彼らの見る目が変わったことを感じる。やっぱり名声ってのは上手く利用すると便利だ。
『さて、この催し、おぬしらの権勢欲から始まったこと察しはついておる。そのようなものを動機にして真に正しい妃を選び取れるわけがない。よってワシらが変わって判断してやろう』
「し、しかしながら聖なるお二人よ……!」
困惑しつつも誰か言う。
「この俗世で行われることは我ら俗人にお任せあるべきでは!? 聖界に住まうアナタ様方が関わっては世の乱れへとつながりかねません!」
『白亜の城に住み着くムジナは言い訳達者じゃ、さすがよの』
先生の鋭い皮肉が決まる!
『たしかに我らは既に俗世から切り離された存在。そんなものから口出しされるのは煩わしかろう。教会どもが大手を振っていた時も同じことを言えればよかったの』
「う……ッ!?」
『ではワシらの代わりに、この席の裁定者に相応しいものを呼んでしんぜよう。お前たちの誰であろうとけっして文句の言えぬ、最適の人材をな……いや、この場合「神材」とでも言った方がいいかの?』
先生がニヤリと笑った。