軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

911 騒動は続く

俺、思う。

ドラゴンラーメンが世界中に売り出されることにより、どんな変化がもたらされるだろうか、と。

そもそもゴンこつスープは濃厚抽出されたドラゴンエキスによって、摂取者に凄まじいパワーアップを促す禁断の増強剤。

その効き目は、スープそのものを禁薬というか産業廃棄物たらしめるものであった。

何せ、何の加工もしていない原液ゴンこつスープであれば、人が飲んだ途端に不死身の狂戦士にしてしまう極悪レベルのシロモノだからして。

それを常人にも摂取可能なレベルにまで薄めたとして、さらには世界全土にくまなく行き渡らせたら、次に起こることは何か?

ドラゴンラーメンを食した方々が、一斉にパワーアップするんでしょうなあ。

半端な人数ではあるまい。

何しろドラゴンラーメンは大量生産されたのだからして。

世界中の人々が一斉にパワーアップしたら、それぞれの力量差の比較に変化はないと思える。

だって誰もが同じだけ力を増しているんだから。

人類全体が知らぬ間に一段階強化された。

そのことに気づく者はきっと少ないに違いない。

この強化に一体どんな意味が現れるのかは今のところわからないが……。

とりあえずヴィール個人にしてみれば、抱え込んだ負債をここで一気に処理できて大満足のご様子。

「一気に減ったのだー! これで残るはあと少しなのだー!!」

あれだけ使ってまだ残っているというのも怖い話だが。

ただ、常人が連続的にドラゴンエキス成分を摂取するのも健康問題的になんやらだから、ここからさらに摂取させるのは難しい。

消費者の健康に配慮して、第二次販売からはドラゴンエキスは使わず、それこそとんこつ鶏がらをメインにした安全なスープへ、秘かなシフトチェンジをしていくとのこと。

……なんか隠れて悪いことしているように見えてしまうのは気のせい?

「スープを切り替えるからと言って妥協しないのだ! おれ様の経験と知識をフル活用し、変わらず液体スープでコクと香りを保った最上級スープに仕立て上げるのだー!」

ラーメン職人と化したヴィールが燃え上がっておる。

……ただ、今回のこの件で、もう世界中の人類にゴンこつスープを飲ませてしまったわけじゃないか。

でもスープはまだ残っている。

これ以上どうやって消費するんだ?

アレを飲んでまだ問題ない人がこの世界に残っている?

……などという地球環境問題を憂うような不安に一瞬襲われたが、ヴィールが喜んでいるなら水を差すのも野暮か……と思って黙っておいた。

いいのさ。今の順調さがアイツを救ってくれるなら。

あとの問題は、あとになった時に考えよう。

ドラゴンラーメンは、これからも需要と供給が噛み合っているうちは販売が繰り返されることだろう。

総括はここらへんにしておいて、次なる話題を始めていこうと思う。

今まさに巻き起こる問題だ。

それは現職人間大統領を務めるリテセウスくんの訪問から始まった……。

* * *

「聖者様! 助けてください!」

人間大統領になってからのリテセウスくんがどんどん俗世じみてきている。

ここ農場で学んでいた頃の、天才肌ライトノベル主人公風なリテセウスくんはどこへやら。

今じゃヤング誌のビジネスマンガの主人公みたいなリテセウスくんになっているじゃないか。

主人公キャラということには変わりないが……なんとも泥臭い。

これが社会の荒波に揉まれるってことなのか……!?

「で、今度は何があったのかね?」

相談に訪れたかつての生徒を無下にするわけにもいかぬ。

結局ここ農場へ駆け込んでくる多くの人々と同じように相談に乗ってやるのであった。

「こないだ結婚の報告をしに来てくれたばかりじゃん」

「その結婚のことで問題大発生なのです!」

リテセウスくんは人間大統領……国家元首へと登り詰めたことで早急に身を固める必要性が出てきた。

男たるもの家庭を持って一人前と見做される風潮。

リテセウスくんが生涯の伴侶に選んだ(選ばされた?)のは、かつてここ農場で一緒に学んだ魔族の女性エリンギア。

エリンギアの方が圧倒的にリテセウスくんのことを恋い慕っていたという状況もあるものの、これから独立国として歩んでいく人族にとって隣国との結びつきを強くしておくのも一つの手だろう。

魔国との平和路線をわかりやすく広くアピールするにも有用な手段だ。

それでもってリテセウスくんとエリンギアの結婚は祝福されるべきだが……。

「それに人間共和国の重鎮たちがこぞって反対してるんです」

「それまえに聞いた気がする」

前もにね。

リテセウスくんが結婚のことを提案した時に議論は荒れまくったという。

人間共和国の重臣たち……いや、リテセウスくんが上に立った時に共和制に移行したので、家臣とかいう概念はその時なくなったのだが。

じゃあ何て呼べばいいんだ?

高官? 大臣?……やっぱ重鎮でいいのか?

「とにかく、かつて人間国を制圧した魔王軍から嫁を取ることは『下に見られる』の一点張りで……。政略的な観点からも国内から同族の嫁を取るのがいいと一点張りで」

「結局のところ本心は、自分の縁者を嫁にして権力を掌握したいんでしょう?」

「そう! それ!!」

リテセウスくんから力いっぱい肯定された。

こんなヒートアップなリテセウスくん、学生時代にあったっけ?

「アイツらは何度教え説こうと一向に理解しようとしながらない! 大統領は王とは違うの! 絶対君主でもないし、その権力が発揮されるのは任期中でしかないの! 子どもに権力が移譲されるなんてもってのほか! だから自分の娘と結婚させて孫が次期国王とか、そんな夢展開もありえないの! わかる!?」

「どう、どうどう……!」

リテセウスくんを落ち着かせんとする日がまさか来ようとは……!?

「……とはいえ、そうやって大統領の権力が国王には及ばないからこそ重鎮たちに意見を押し切られちゃったんですがね。この件に関してはダルキッシュ様も味方に付いて抗弁してくれたんですが力及ばず……」

人間国領主の一人で、俺たちとも馴染みの深いダルキッシュさんは、魔族のヴァーリーナさんと結婚した異種間夫婦第一号。

それゆえに自分に理のある結婚をさせようとしている……などと邪推されたらしい。

こうした旧態の人間国首脳部に危機感をもったリテセウスくんは、かつて農場で学んだ頃のクラスメイトを募って、完全新体制の人間共和国首脳部を立て直そうと画策している。

しかしそれを確立させるには準備もいるし時間もかかる。

この結婚をめぐるゴタゴタが片付くまでには到底に合いそうにない。

だから今回に関してはリテセウスくんの独力で対処するしかなく、案の定対処できなかったとのこと。

「それでもまだなんとか完全な白紙に撤回させたり、重鎮側が用意した花嫁と結婚させられる……といった事態は回避できたんですが……。その代わりまた面倒な展開を押し付けられまして……!」

「面倒な展開?」

なんだろう。

触りを聞いただけでもう面倒くさく感じる。

「本当に王妃に相応しいのは誰か? 実際に王妃となったものが真に相応しいのか? そのことを内外に広く知らしめる必要がある……などと言い出しまして。いや、王妃じゃないんですけどね。何度も言ってるんですけど……!!」

本当にお疲れ様です。

リテセウスくんをしてここまでげんなりさせるなんて。

「広く知らしめるって、一体何をするんだ?って話なんですけど聞いたら連中、嬉々として答えやがりまして……!」

リテセウスくん本当に大丈夫?

お口が悪くなってますわよ?

「『競わせればいいのですよ』とか抜かしやがって……!」

「競わせる?」

益々わけのわからん方向へ行く。

リテセウスくんの伴侶……、つまりは王妃(実際は違うが)として相応しい美貌や賢さ、突発的な事態に際して角を立てることなくいなせる対応力などを兼ね備えた、真の才媛を見出すために、たくさんのお嬢様たちを審査選別しようと。

そういう意味で競わせようと?

「人間国中から自身のある令嬢を集め、あらゆる点から王妃に相応しい資質をチェックして、その中でもっとも優れた者を王妃にしようとか言うんです。僕も散々抵抗したんですが、そこを落としどころにするので精一杯でした……!!」

下手すればエリンギアとの結婚を白紙に戻されて、重鎮たちに都合のいい花嫁と強制的に結婚させられたかもしれないと思ったら。

『はーん、いいですよ? 勝負しましょうか、どうせ僕のエリンギアが勝ちますからね』といって投げつけられた手袋を拾うのがまだ上手い凌ぎ方だろう。

本当ならばリテセウスくんが、そんな戯言に付き合う必要はない。

農場で鍛えられた戦闘能力を持ってすれば、文句を言ってくるヤツ片っ端から血煙肉片に変えることなど造作もない。

そうやって自分の支配体制を確固としていくこともできる。

それをしないのは彼の目指す民主国家が、法と良識によって統制されるべきだから。

けっして暴力によっていかなる問題も解決されてはいけないから。

だからこそどんなに悪辣な愚か者が相手でも、会話で解決しようとするのを忘れない。

真の権力者は、自分自身こそが一番権力に縛られなくてはならないのだ。

大変だなあ。

「そこで急遽、僕の結婚相手を決めるための催しが旧人間国王城で開かれることになりました。その催しの名は……」

名は?

「……天下一舞踏会!!」

おい。