軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

75 田植え

こうして始まりました。

第一回チキチキ我が開拓地女子対抗、田植えレース。

田植えの速さを急い、より多くの苗を植えた者が勝者になるようです。

優勝賞品はナシ。

だって最初は競い合う趣旨で開催した催しじゃないし。

みんなで仲良く田植えを体験しようよって趣旨だったはずだし。

アイツらが勝手に自分たちの威信を賭けだしたのだ。

だから俺は知らん。

賞品など用意していない。

「この勝負に勝った者は!」

「ご主人様からの一層の寵愛を受ける!!」

なんか変な賞品が勝手に設定されとる!?

火花を散らすプラティとヴィール。

「わたくしはプラティ様のお役に立てれば、それ以上望むことはありません。わたくしが優勝した場合、聖者様の寵愛を受ける権利はプラティ様にお譲りします」

ブレないランプアイ。

そしてもう一人、パッファは……。

「アタイは燃えねえなあ。あんなヒョロッちい陸人に興味なんか出ないし。ガラ・ルファと一緒に棄権しようかな……?」

「アナタが優勝したら特別に、バカ兄とのデートを設定してあげてもいいわよ。妹であるアタシみずから!」

「だから違うっつってんだろうがよ!」

口では否定するもののパッファは、みずからの頬をパンパン叩いて明らかに気合いが増した。

本当にエキサイティングしすぎてない?

ケガだけはしないでくれよ?

そんな感じで始まる勝負。

勝負内容はごく簡単で、制限時間内に一番多くの苗を植えた者が勝者となるらしい。

いつの間にか各出場者が植えた苗をカウントするボードが設置されていた。

オークボたちが作ったのか。

モンスター軍団たちは既にそれぞれ好き勝手に応援する選手を選び、会場は完全に勝負の雰囲気一色だ。

そしてついに競技本番スタート。

「うりゃりゃりゃりゃりゃりゃりゃッッ!!」

「のわあああああああああああああああああああああッッ!!」

スタートダッシュをかけたのは最古参にして大本命、プラティとヴィールの二人。

腰をかがめ、苗を次々泥の中に突き刺していく。

そのスピードは、他の選手の倍近く。

……。

普通に考えれば、どんな種類の勝負であったとしてもヴィールが他の選手に後れを取るとは思えない。

ヴィールはドラゴンなのだ。

ヴィールは、その超越魔力によって姿をドラゴンにも人間にも自由に変えることができる。

一度、興味があって「人間時の強さはどんなもんなの?」と尋ねたことがある。

本人が言うには、人間形態の時でも竜魔法は遜色なく使用可能らしい。

だから仮に人間形態のまま戦闘に入ったとしても人族や魔族の一軍ぐらい片手で全滅させられる。むしろドラゴン形態の時より体が小さくなったので細かい処置ができて便利な面もあるそうだ。

今回も、人間形態の体を魔法で筋力強化し、凄まじい速さで苗を植えていく。

それに負けないのがプラティだ。

人魚族は元々筋力が強い。大海を泳ぎ進む種族なので、身をくねらせ海水を掻き分けるために腰回りが粘り強いのだ。

その強さは、アロワナ王子が相撲大会で優勝した件でも立証済み。

妹プラティだってエビのようなプリップリの筋力が乗った尻が強力。その尻をドッシリ沈めて、足場の悪い泥の上でしっかりとした安定感をもって、着実に苗を植えていく。

「下馬評通り、奥方様二人の一騎打ちの様相を呈してきましたな」

「下馬評あるの!?」

「オッズ、プラティ様一.二倍、ヴィール様一.一倍で伯仲しております」

「賭け事してるのッ!?」

実況オークボ。解説、俺でお送りしております。

しかし戦況は、最強種族ドラゴン有利。

ヴィールの植えた苗の数が、プラティを上回って段々差をつけてきた。

「いかん……! このままではプラティ様が敗北を喫してしまう……!」

他所で、それなりに苗を植えているランプアイが呻く。

「このランプアイ。プラティ様のためなら蛇にもウツボにも化す所存。こうなれば……、プラティ様の勝利の礎となる!!」

彼女らは現在、田植えのために中腰になりながら、苗を植えては後退、苗を植えては後退、を繰り返している。

しかしランプアイは、その後退速度だけを何倍も速めて、闘牛のような突進力でヴィール目掛けて特攻した。

ヴィールも田植えで中腰後退中だったので、背後から迫ってくるランプアイに気づけない。

正面衝突する尻と尻。

しかし当然竜魔法で強化されていたヴィールの尻は、一方的にぶつかってきたランプアイの尻を逆にはじき返し、跳ね飛ばした。

「うきゃああああああッ!?」

ランプアイ。

妨害行為の反則及び場外落ちでリタイヤ。

ヴィールの人間形態は小柄なロリ少女風なのに。ランプアイの分厚い筋肉尻を、小さい尻で弾き飛ばすとは。

これはやっぱりヴィールの圧勝で決まりかな。

やはり最強種族の壁は厚かったか、と思いきや、意外な展開が起こる。

* * *

「飽きた」

「ええええええええええッッッ!?」

二位以下を大きく引き離してトップを爆走中のヴィールが、急にそう言いだした。

一見完璧と思える最強種ドラゴンに、唯一足りない力があった。

それは集中力。

長時間同じことをし続けられる我慢強さがない。

田植え開始から三十分も経っていないというのにヴィールはもう飽き飽きとした表情だ。

田植えなんて、手作業なら普通は数日がかりだろうに。

「こんな地味で退屈なことやってられるか。おれはさっさと勝利してのんべんたらりと遊ぶのだ!」

最強種族ゆえ、大抵の相手はワンターンキルしてしまうドラゴン。

瞬殺ばかりでは、腰を据える粘り強さが身につくはずもない。

「さっきのヤツもやっていたし、妨害ありなら、それでさっさと片付けるか。我がブレスで邪魔者どもを一掃し、それでおれが優勝だ」

いや、妨害なしですよ。

即失格。事実ランプアイはそれで脱落しましたし。

「くっ、こうなったら競争どころじゃないわ!!」

賢いプラティが、即座に状況判断。

「出場者全員で力を合わせてヴィールに対抗するわよ!」

「はい!」

「わかりましたプラティ様!!」

バティ、ベレナの魔族コンビがプラティに続いて、三方からヴィール一人に飛びかかった。

三人がかりで、ガッシリとヴィールを抑え込む。

「なんだこの非力さは? この程度でおれを封じたつもりなのか?」

「……ッ!?」

「この程度、ドラゴンの姿に戻るだけで跳ねのけられるぞ? どれ今実際に……」

「待って」

プラティがやけに切迫した声で言った。

「……こんな、ぬかるんだ泥の上を二本の足で走るって初めての経験でさ。思った以上に足とられるのよね」

「走れば走るほどバランスを崩して……!」

「そのまま止まったら即こけるので、走り続けるしかなく……!」

バティやベレナも同じらしい。

「『ああ、もうダメ倒れる!』って思った先にヴィールがいて……! 当然よね、攻撃目標なんだから……!」

「プラティ様もそうでしたか……!」

「こうしてヴィール様に寄りかかることでしか体勢を維持できないというか……! 今も足が泥に沈み続けてコケそうというか……!」

彼女らの言葉の通り。

ヴィールの体に寄りかかって斜めっているプラティ、バティ、ベレナの三人は、その斜めっている姿勢の角度がどんどん浅くなっている。

恐るべしは水田のぬかるみ。

「アホかーッ! くそッ!? 離せ!! お前らなんぞコケて盛大に泥だらけになってしまえ!!」

「それは酷いですヴィール様!!」

「そうです! この衣装、今日のために特別に縫った運動着なんですよ! 着てもらった初日に泥だらけとか悲しすぎます!!」

製作者のバティ悲痛な叫び。

「知るかァ!! こうなったらドラゴン化してその勢いで跳ね飛ばして……!」

「ヴィール」

田んぼの外から俺が言う。

「そこでドラゴン化したり攻撃魔法使ったら、その時点で失格とみなすよ。それだけじゃ収まらんから罰として三日、ごはん抜きね」

「なああああーーーーーーッ!?」

仕方ないじゃん。

ドラゴン化なんかされたら田んぼがボコボコの台無しになる。

「じゃあどうすればいいんだよー!! お前ら離れろ! おれに寄りかかるな! おっぱい握るな! 尻に顔押し付けてるヤツは誰だ!?」

「ぎゃああああ。動かないで動かないで。振動でますます泥に沈む!」

「ヴィール様。こうなったら一緒に泥まみれになりましょう。皆で田んぼの肥やしになりましょう!!」

こうしてヴィール、プラティ、バティ、ベレナの三人は互いに潰し合って動けなくなりリタイヤ。

全員自滅で無効試合になるかと思いきや、一人だけ残っているヤツがいた。

パッファだ。

ヴィールの暴走にも動じず、プラティの扇動にも乗らず、一人黙々と苗を植え続けた彼女が結局リタイヤ直前の全員の記録を抜き去って優勝した。

不良っぽい態度のくせに地道でコツコツ頑張る子だった。

* * *

こうした催しのあと、他にもたくさん拓いた田んぼにモンスター軍を含めた全員で田植え。穂が実るのを待つ。

先に撒いておいたハイパー魚肥のおかげで成長も早まるだろうから、刈り入れが今から楽しみだ。