軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

76 魔王再訪問

田植えが終わって直後の頃、魔王ゼダンさんが再び我が開拓地へ訪問しに来た。

彼のこの土地への行き来は、魔族娘ベレナが管理している転移ポイントが活用されるので、割と気楽に遊びに来れる。

それでも久々のご訪問だったので皆大喜びの歓迎ムードだ。

魔王さんは人格者なので誰からも慕われる。

当然魔王妃となられたアスタレスさんも同行していて、元部下であるバティやベレナとも再会を喜び合っていた。

「アスタレス様! お久しぶりです!!」

「ちょっと見ない間にまたお美しくなられて!!」

これは元部下からのお世辞ではなく、赤の他人の俺から見てもそう思う。

魔王四天王の一人から魔王の妻――、魔王妃へと昇格したアスタレスさんは、その肩書きに合わせるかのように美しくなった。

ただ美しいだけじゃなく、美しさに貫禄まで漂っている。

四天王時代には着ていなかったゆったりしたドレス(バティ作)は、動きを制限しそうだが、それゆえに魔王妃らしさが一段と引き立つのだ。

二人もこれまで通りだな……、と思いきや、ちょっと違うところがあった。

「……こちら、どなたさん?」

二人の他にもう一人、同行者がいた。

女性だった。

ただし、パッと見に女性かどうかの判断が難しい、たくましい女性。

全体的に太くてワイルドなのだ。

筋肉質で、魔族特有の濃い肌が日焼けなのかさらに浅黒い。

身長も下手をしたら魔王さんに迫りそうだし、大柄でガッシリして堅牢そうな、野生美女だった。

「一応紹介しておこう。我が腹心四天王の一人、『怨』のグラシャラと言う」

へえ、この人が。

「こやつの詳しい説明の前に、無沙汰を詫びさせてもらおう」

魔王さんの話では、彼の魔都不在中に焙れ出てきた反乱分子の掃討に時間を掛けていたそうだ。

それが先日、やっと終わったんだと。

「プラティ殿との縁談話を勝手に進めていたり、アスタレスの排斥に暗躍していたのは、やはり他の四天王であった」

「それがもしかして、そこの……?」

ふてくされた顔をしている女四天王さんを見る。

「いいや、これともまた別の者だ。既にソイツは全責任を取って、四天王の座から降りた。それをもって聖者殿やプラティ殿にも、事態の決着と受け取っていただきたい」

「それはいいけれど……! じゃあますます、今日連れてきたその人は何なの?」

と、皆の興味はやっぱりふてくされ顔の女四天王さんに集中する。

もちろん魔王妃になった方じゃない女四天王ね。

そして一方の魔王妃様は苦笑を浮かべるばかりだった。

「今日の訪問は、その件でな。心苦しいが、またしても聖者殿の御力を貸してほしいのだ」

「と、言いますと?」

詳しい話を聞くと、この四天王グラシャラ。

魔王不在中に、みずからがその座に就こうと反旗を翻したのだそうだ。

そんな動きを見せた有象無象は他にもいたが、それも今回の焙り出し作戦で一挙撃滅。

アスタレスさんを魔王妃に迎えて新体制を確立するに、実に望ましい状況になったわけだ。

「その中で唯一残る問題が、このグラシャラでな」

魔王さんが難しげに言う。

「こやつ、今回反乱を企てた連中においては立場も最上。行動の派手さも群を抜いている。何しろ大々的に、我を倒して次なる魔王になる、と公言したのだからな」

「それって完全に後戻りできないじゃない。じゃあ、制圧したからには処刑を?」

プラティの怖い質問に、魔王さんは被りを振る。

「我はグラシャラの豪快さを良しとした。何しろ他の連中は、権謀術策を巡らせて合法的に我を魔王の座から引きずり下ろそうと、姑息な陰謀を巡らせるばかりだったからな」

などと魔王さんが豪傑なことを言う。

「なのでグラシャラほどの傑物は惜しいと、再び四天王の一人として用いることにした。徹底的に叩きのめして屈服を受け入れさせれば、周囲を納得させ規律も保てると思ってな」

ちなみに他の、陰謀とかで魔王の座を掠め取ろうとした人たちは全員ただでは済まなかったという。

領地を取り上げられたり、今就いている役職をクビになったりと。

とにかくよからぬことを企むような力を一切剥ぎ取られたんだとか。

「……しかし、グラシャラの決意は固いようでな。どれだけ帰順を促しても。何度叩きのめしても一向に従わぬ。一言の謝罪すらせぬので、このままでは本当に処刑するしかなくてな。困っているのだ」

本当に心から困った様子で魔王さんは言う。

人死にを避けたいのだろう。基本的に優しいのだ彼は。

「魔王さんたちの困っている事情はわかりましたが、でも何故ウチに?」

相談しに来たのか。

問題の内容を聞くに、それこそ魔族の内政問題で、部外者の俺たちが口出しすることじゃないと思う。

「それがだな……!!」

魔王さんが口ごもった。

珍しい。

一体何を言い淀んでいるのか?

「ゼダン様、ここから先は私が話しましょう」

とアスタレスさんが魔王妃の貫禄で言った。

心なしかその声にも艶が乗っているように感じる。

「問題ですが……。このグラシャラ、ゼダン様に恋していまして」

「は?」

「自分も魔王妃にしろ、それが無理ならいっそ処刑しろ、とゴネまくっているのです」

魔国を揺るがす反乱騒動は、思ったより俗っぽい方向にシフトしていく。