軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

744 ヨガマスターの授業

『我、諭さん善の善なる法』

老師が喋り出した。

ただしこのノーライフキングの言うことは妙に時代がかっているというか古風めいていてイマイチ解読不能。

これでますます難解そうなヨガの秘術などちゃんとわかるように伝わるんだろうか?

『そこのところはダイジョブにゃー。ミャーがキッチリ噛み砕いて口語訳してやるんにゃす』

おお! 猫!

同じくノーライフキングである博士ならば老師のお言葉も翻訳可能!

同類だからというだけでなく数千年を生きた不死の王であればその分だけ博識であることは疑いないし、むしろ難でもありな万能翻訳機でありそう!

「よろしくお願いいたします!!」

『報酬は新巻鮭で手を打つにゃー』

くッ、抜け目ない……!?

『それでは始めるにゃー。これだけ大勢を前に老師が教えるなんて多分世界初だにゃー。幸運に打ち震えるがいいにゃー!』

『学んで時にこれを習う』

ノーライフキング最高峰の何人かのうちの二人が揃って授業なんて、なんか凄いことになってきたぞ?

しかも授業内容がヨガとは。

ここでヨガのことをちっとおさらいしておこう。

とはいっても俺に聞きかじり知識での範囲内だが。

ヨガといえば発祥はインドだった……はず。

瞑想して体に超パワーを引き込む修行だったか何だかだったというイメージがある。

その結果、異様に体が柔らかくなって体が三周半したり、剣を飲み込んでも平気になったり、挙句には髪の毛や爪が急激に伸びて武器になったりするんだったり。

ブームが始まる前で理解が浅かった頃はやたら少年漫画の異能力として活用されていたイメージがある。

それがいつごろからか健康法、美容法として取り入れられて、全国の痩せたい女性たちの憧れの的になった。

キツくなくて無理なく痩せられる、それでいてオシャレ。

そんな女性たちの願望にすべて答えられる形を、現代風に洗練されたヨガは築き上げたのだろう。

そこまで大流行を引き起こした仕掛け人は本当に凄いと思う。

一体誰なんだろうな?

そんなヨガのやり方を、よりにもよってノーライフキングの老師が教えてくださるという。

共通点といえば山奥で修行することだけ。

そんな老師が一体いかなるヨガを教授していただけるのか甚だ不安でしかなかったが、せっかく厚意でいらしてくださったのだしまずはやりたいだけやっていただいた方がいいかなあとは思う。

もしかしたら万が一にも、ちゃんとエステティックなヨガを教えてくれるかもしれないじゃないか!!

それを期待して、居合わせた農場の住人たちも目を輝かせている。

主に今年から入学した農場学校の生徒たち。学ぼうとする意志は高いわな。

『内気と外気あり。内気即ち陰気なり、外気即ち陽気なり。人、納をもって陽気を陰気とす。吐にて陰気を陽気とす。これ即ち陰陽の奥義なり』

『大事なのは腹式呼吸にゃ』

おい、この翻訳機ザックリしてんぞ。

えらく大胆な解釈を加えやがった意訳か?

『ヨガの基本は呼吸にあると老師は言っているにゃ。腹にしっかりと力を込めて細く長く吸ったり吐いたりするにゃ。さすれば吸い込んだ気が全身にいきわたって体に活力を与えるにゃ』

おお。

なんかそれっぽいこと言いだした。

『呼吸はすべての運動の根源にゃ。呼吸さえ極めれば人はどんなこともできるようになるにゃ。一を知って全を知ることこそ要諦にゃ』

博士の通訳までなんか難解になってきた。

『心を静かにして、吸って吐く動作を規則正しく行うにゃ。さすれば体内は清浄なる気で満たされ、穢れは消滅し、異状一つない身体が仕上がるにゃ。それを常態的に保ちつづければ人体は完全無欠の状態となり、ひいては……!』

ひいては?

『不老不死となるにゃ』

「ダメじゃん」

健康とかそういう次元をぶっちぎっているじゃないですか!?

ダメダメ! ダメよ不老不死は!

人間いつかは死なないと!

というか、そもそもそこまで絶対的な成果を上げたら健康法でも美容法でもないじゃん!

本当に老師はヨガを教えるつもりがあるんですか!?

『仙法もヨガも似たようなものにゃ』

「やっぱり似て非なるものだった!!」

ダメですよ、ちゃんとヨガを教えてくれないと!?

ヨガは、二十一世紀に入って年頃の乙女たちにも受け入れられるスタイリッシュな美容法へと進化したのです。

軽い気持ちで、かつオシャレにできるヤツじゃなきゃダメなんですよ!

そしてできるだけ楽して痩せられればなおいい。

ガチすぎるものは求められておりませんて!

『えー、でも美しい若さが永遠に残ればこれでサイコーにゃ。皆さんもそれを望むと思うにゃー。大丈夫にゃす。老師の弟子のベルフェガミリアが、この手法で生きながらにしてノーライフキングとなった実績があるにゃ。いわば効果は立証されているにゃすよ』

『放蕩、雲を得て王佐ならん。然れども憂いやまず』

ガチすぎる実証例で引いた。

『さあ、今こそ老師の秘仙法……もといヨガを公開し、世間に教え広めるにゃ!! そうして新たなノーライフキングをたくさん誕生せしめるにゃす! この農場には才能豊かな若者が多いのできっと上手くいくにゃよ!』

『いけませんぞ』

『にゃあ?』

テンション突き上がる博士や老師に、冷や水浴びせかけるような声。

その声の主は、それこそ地獄の底から吹き上げてくる氷雪のごとき気配をまとっていた。

それもそのはず、生命の温かみなどまったく感じさせぬ死者。

アンデッドの王、ノーライフキングの一人である先生だった!

『にゃー! 先生にゃ!』

『先生、智に敵なし』

ノーライフキングの先生、博士、老師……!?

奇しくも不死王においてもっとも強大凶悪とされる『三賢一愚』のうちの『三賢』が、ここ農場に一堂に会したことになる……!?

『にゃー!』

『やー』

ハイタッチし合っている……!?

ノリが軽いな不死王の最高峰。

『それはともかくお二方、ワシの不在時に勝手に授業を始められては困りますぞ』

先生は、アンデッドとしてオーソドックスとでも言うべきか、いわゆる即身仏のような干からびたミイラのような様相をしている。

その上で上位神官を思わせる清純な法衣をまとっているから益々即身仏っぽい。

それに比べたら、同じノーライフキングでも博士や老師は遥かに異形だった。

老師はアンデッドにはあるまじき程ツルリとした肌触りをしており、というか脂漏のように硬質的な肉体は、ひとりでに動く仏像のようだ。

挙句、博士は猫。

なんてバラエティに富んだ顔ぶれなのだろう。

これが数千年に及ぶヴィンテージを誇ったノーライフキングの万能ぶり……!?

それはともかく、先生のお説教は続く。

『今年入ったばかりの農場学生には、ワシが知恵を絞って組み立てたカリキュラムを受けてもらっている最中なのです。そこに超絶最高技である「胎息」など教えられたら、すべてがグチャグチャになってしまうではありませぬか』

『そんな固いこと言うにゃー。どうせ導引法がキマッて仙化すれば、他すべての術式は勝手についてくるにゃ。不老不死となれば研究する時間などいくらでもとれるにゃす』

『それはいかぬと言っているのです』

先生は、ただでさえ誤解を受けそうな恐ろしい死相をしかめさせた。

『御二方、ワシはこれより先できる限りノーライフキングを生み出したくないと思っているのです』

『なんにゃと?』

『アンデッドが自然の理に反した存在であることは、それ自体である我らが一番よくわかっておいででしょう。人に限らずすべての生き物は、他者と交わり、次代を育て上げるために在るのです。不滅の個を手に入れ、他者との交わりを必要としなくなった我々のなんと哀れなものか』

強く主張する先生。

『このように無惨なるものを徒に増やしてはなりませぬ。我らのごとき紛い物が在り続けるのは、そうした間違いを後世に伝え、道を誤る者ができるだけ少なく済むようにと諭すためではないのでしょうか?』

『た、たしかにそうだにゃー!? 先生はミャーらの中で一番若いのによくわかってるにゃー!!』

『我、天命を得たり』

なんだかよくわからない感じに不死王たちが感極まっていた。

先生のご注進のおかげで、どうやらヨガ講座の名を借りた不老不死量産化計画は未然に阻止されたようで、……まあ、よかった。

当初はヨガという流行りを追うような主題だったのに、どうしてこんな大掛かり話になってしまったのか?

そもそも話のとっかかりを持ってきたヴィールは……。

「えー? 結局やらねーのかー不老不死―? がっかりなのだー」

といかにも落胆の様子であった。

「せっかくヨーガとやらでジュニアに永遠の生を与えようと思ったのによー。しよーがないのだー」

コイツ……!?

まだ何かにかこつけてジュニアの寿命を弄ろうとしていたか!?

ウチの子には健やかに育ってほしいんですが! この世界、人の避けられぬ運命を退ける手段が実に多くて困るな!?