作品タイトル不明
743 健康の秘訣
俺から言いたいことがあります。
気づいたら農場の住人がまた一人増えていた。
人族のヤーテレンスさん?
はあどうも、よろしくお願いします。
で、この人が農場学校の教師として働きたいんだって?
『小生の理想はここにあった! ここに骨を埋めるまで貢献する所存!!』とか言ってるんだって?
俺たちの生活域を勝手に終焉の地にされても困るんですけど。
まあ、とにかく先生が気に入って採用したんなら俺から言うことはない。
俺は先生の人格と判断力を尊重しているので。
俺などという若僧の何十倍と生きている御方に生意気な口ぶりかもしれないが。
まあ、そんな感じで今日も平和だごはんが美味い農場の、日常一ページが始まるよ。
* * *
「健康こそ生活の屋台骨なのだ!」
ヴィールが唐突になんか言ってきたが、なんだ?
言っていることはこの上なく正論じみているのだが。たしかに健康大事よね。
健康こそがすべての根幹。
健康でいることこそが重要で、他の何よりも優先されなければいけない。
健康のためなら命もいらない!
……違うな。
「で、いきなりどうしたのヴィール?」
健康は大事だろうが、お前らドラゴンは気にしなくたって確定健康だろう。
むしろ不健康でいることの方が難しい。
「別におれらドラゴンのことに限ったことでもないのだー。特にニンゲンどもはちょっとしたことですぐ死んじまうからなー。存在が脆弱なのだ」
「はいはい」
そりゃドラゴンから見た人間なんて、大きな音がしただけで死にそうなぐらいデリケートな生き物なんだろうけれども。
今さらそんなことほじくり返してどうした?
「ジュニアも人間であるからには、おれの思いもしないところでヤバくなることもあるかもだからなー。ちゃんと備えをしておきたいのだ。ジュニアには生涯健康でいてほしいのだー」
ヴィール。
なんといういたわりのある言葉を……!?
ジュニアという小さな命が、強大なるドラゴンに命を慈しむ心を芽生えさせたか。
「と、言うわけでまずは農場にいる他のどうでもいい人間で実験して、ジュニアの健康を保つ術を研究していくのだー」
やっぱりドラゴン横暴だった。
ジュニア以外の人間は、塵芥とも思っていないご様子。
まあ、そこは追々折り合いをつけていくとして。
「健康の研究って何するつもりなの? 人体実験的なことをするなら常識と良心に則って断固止めさせてもらうが」
「そこまで試行錯誤はしないので大丈夫なのだー!」
倫理に従うという意味での大丈夫さを示してほしかった。
「実はな、人間を健康にするとっておきの方法を既に解明済みなのだ! あとはそれを実証するだけだ!」
「ふーん」
それは何?
またドラゴンの血を飲ませるとかそんなトンデモ食事療法とかではあるまいな?
それも断固阻止させてもらうが。
「それはなー……」
「それは?」
答えはCMのあと。
CM明け。
「ヨガなのだッ!!」
ヨガ?
またヴィールの口から絶対出なさそうなフレーズが出てきたな。
口から出るならまだ暗黒ブレスの方が可能性ありそう。
「ヨガってアレ? インドの山奥で修行してそうなアレ?」
俺の中では火を噴いたり手足を伸ばしたり短距離テレポートしそうなイメージであった。
世代だ。
「知っているかご主人様! ヨガというのはな、気息を整えることで体内の異常を取り除くのだ! 体から悪いものを追い出して健康になるのだ!!」
やっぱり今のヨガだとそういうことになるのか。
なんか女の人がパツパツした衣装を着てマットの上で伸びたり屈したりする、ダイエットとか美容とかを目的にしてするもの。
俺の知るものに当てはめるとエアロビクスみたいなものだ。
世代。
「しかしヴィールがよくヨガなんて知ってたなあ」
「つい最近友だちになったヤツから教えてもらったのだ!」
友だち?
ヴィールと友だちになってくれるような奇特な方がいらっしゃるとは。
いや命知らずな?
「明日か明後日か明明後日か来週か来年か、ソイツがここに来てヨガ講座を開いてくれるらしいのだ! ご主人様いいか?」
また予定ザックリしているなあ。
事前に確認してくるのはいいことだし、ヴィールの交友関係が広がるのも歓迎すべきこと。
コイツにも視野を広く持ってもらわなければいけないしな。
「いいとも、いつでも都合のいい日に来てもらえるようにお友だちに伝えておきなさい」
「やったー! ありがとうなのだー!!」
そうして、ヴィールがお招きしたお友だちというのは……!?
* * *
ノーライフキングの老師だった。
『朋友、遠方より来たる』
世界最強ノーライフキングの一角!?
アンデッドの通常様式とはまったく違う、ツルリと整った、まるで彫像のような整った外見!
左右非対称なアルカイクスマイルを称えて、しかしながらその表情からまったく微動だにしないせいで生命感がまったくない。
むしろひとりでに動く菩薩像のような異常感は、まさしく最強ノーライフキング老師だけの特徴!?
「っていうかヴィール!? キミの新しい友だちって、この老師だったのかッ!?」
「こないだ皆で山登りしただろー。それでコイツに会ったのだー」
知ってる!!
何しろその登山には俺も同行したのだから!!
S級冒険者の問題児ゴールデンバッドの要請で登った不死山は、老師が主をする山ダンジョンであった!
最強ノーライフキングの一人である老師の前ではいかにS級冒険者であろうと形なしということで俺たちが付き添った。
前回までのあらすじ!!
「あれで復活したプロトガイザードラゴンのヤツが、アレキサンダー兄上にケンカ売りに行ったりして。あれらの調整におれ様が行ったり来たりしていたら、そのうち仲よくなったのだ」
「ヴィール……、キミも知らないところでよく働いていたんだね」
偉いぞ。
「それでジュニアが永久不変に健康であるようになんかいい方法ないかと相談していたら、老師からいい方法を教ええ貰ったのだー」
「それがヨガか……!?」
ヨガをできんの?
このノーライフキングが?
『北天に秘法あり。遍く千変、四海に奔流あり、取り込みて内を外となす。極れば千秋を経て老いず。これ真人という』
相変わらず老師のセリフはわかるようでいてわからん!
誰か!? 通訳はいないの誰か!?
「コイツの言うことは理解しようとしちゃダメなのだ。感じるのだ」
「感覚で付き合わなきゃダメなのこの人!?」
そもそもノーライフキングが健康法って、それはアリなんだろうか?
『そもそも死んでいれば健康なんて気にしなくていいじゃない』というコペルニクス的な発想で成り立っているのがアンデッドであろうに。
そのアンデッドの頂点のノーライフキングのそのまた頂点の『三賢一愚』である老師がやっちゃっていいものなのかな!?
『老師はノーライフキングとしての成り立ちからして特殊なんだから問題ないにゃよ』
「あ、猫」
後ろ足をにゅーんと伸ばしながらやってくる猫は、猫の姿をしているけれどもその実は驚異の人外。
彼もまた『三賢一愚』の一人として恐れられるノーライフキングの博士であった。
でも基本は猫。
『老師の使う術式すべてが我々のものとは違う独自術式にゃ。中には人の健康にいいものもあるかもしれないにゃよ。どんと任せるがいいにゃす』
本当かよ?
そんなことを言っている間に、周辺には今日のことを聞きて集まってきた者どもがゴマンといる。
『ヨガって何よ?』『よくわかんないけど面白そう!』とか興味本位の連中が目白押しだ。
ここの農場の者どももすっかりなんかあるだけで寄ってくるような好事家どもになってしまった。
「では始めるのだー。ノーライフキングの老師によるヨガ講座なのだ!!」