軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

721 ベテラン魔女の結婚

「ゴブ吉様! 私、アナタのことをお慕い申し上げていました!」

おおおおおおおッ!?

イッたぁあああああああああッッ!?

いざとなったら度胸のあるカープさん。さすがは教師というか人魚族というか。

ここまでの対戦は、カープさんのテンションに勢いをつけさせようという目論見だったのか。

さすがシーラお義母さん、人生経験豊富。

「なのでその、私と、私と……!」

おおお。

そのまま一気に押し切ってしまうか。

対戦の観客がまだ注目しているというのに凄まじい決意力。

「私と、未来の教育について語り合いませんか?」

そうでもなかった。

最後の最後になってヘタれやがった。

「なーにやっとんじゃあのアホは。シーラ姉様がここまで場を整えてやったというのに根性見せんでどうするか?」

これには対戦相手として度胸付けに協力したゾス・サイラも苦笑い。

「何言ってるのゾスちゃん、アナタも告白するのよ?」

「ええええええッ!? なんでぇえええええええッ!?」

しかし突如として火の粉は彼女にも降りかかる。

「だってアナタのお相手もこの場所にいるんでしょう? だからこそ対戦者をアナタに選んだのよ。単に度胸をつけさせたかったら戦うのは別にアナタじゃなくてもよかったんですから。アタシでもよかったわ」

「それカープ瞬殺されるだけじゃないですか!?」

「二人の妹分の恋路を一挙に橋渡しする。……こういうのを陸の確言でなんと言ったかしら? ……一石二竜?」

投石で何を仕留めるつもりなんですか、お義母様?

ゾス・サイラもまた恋する人であるのはもはや周知。意中の相手も農場ではもはや公然の秘密と言っていいぐらいになっている。

そもそも、この農場を最初に訪ねた時からぞっこんの様子だったしな。

その相手とは……。

農場のオークチームを率いるオークボくん。

彼も、観戦者の一人に加わっていたのでこの場にはいる。

基本的に農場に住む者たちは皆お祭り騒ぎが好きだから。

「ずっと長いこと恋い焦がれていたんでしょう? だったらこれを機会と思いきってみなさい」

「ぐぅう……!?」

彼女自身、心のどこかで踏み出さないとという思いはあったのだろう。

少しだけグジグジした表情をしてから、……しかしいち早く表情を引き結んでオークボに向かい合う。

「なあ、オークボや……その、そのじゃな……! わらわと……!」

決意を込めて、言う。

「わらわと一緒に戦争を引き起こして、世界の王にならんか?」

「コイツもヘタレた!?」

しかも照れ隠しの内容が不穏にして壮大。

ある意味求婚より衝撃的な申し出なんですが。

「どうしてこう、アタシの妹分たちは意気地がないのかしらねえ」

さすがにシーラさんも落胆のため息を留められない。

「普通人魚族の女は恋をしたら一直線。見初めた殿方にどこまでも食らいついてけっして離さないというのが定番だというのに……」

「わかります」

なんと言うか……まあ、その実例に多く出会ってきたので……!

「それで、そちらの方々」

「「はいッ!?」」

「オークボさんと、ゴブ吉さんとおっしゃいましたわね?」

今回の重要人物ではあったが、これまで一言として喋らず存在感のなかった二人。

それがシーラさんに名指しされて初めて正式な登場人物となり……。

……あいつら、当惑しておる。

「あの子らは意気地がなくてハッキリしたことは言いませんが、それでもおおよそのことは伝わったでしょう。本来こういったことは殿方から切り出すものです。それなのに先手を取られたのですから切り返しぐらいは上手くやらないと、でしょう?」

「ははははは、はい……!?」「その通りで……!?」

オークボとゴブ吉が頭からびっしょりと発汗しておる。

普段であれば彼らも間違いなく世界の最強者の一角。いかなる危険に身を置いても怯むどころか身じろぎ一つしない。

そんな二人でもうろたえることが……まあ、あるのね。

「で、どうなのです?」

「あああ、あのあのあの、ゾス・サイラ殿は非常に賢明で、研究熱心で魅力的な方だと存じます!」

「カープさんも真面目で、独立心を持った素敵なお方だと……!」

二人をグイグイ締め付けるシーラさんのプレッシャーも凄いな。

娘婿という立場の俺だが、あの人とあんな感じで対峙したくは絶対ない。

「お二人とも、彼女らのことを好いてらっしゃるのね?」

「はいッ!」「それはもうッ!」

「ならば、結婚すると?」

「ですがしかし、我々は人類ではなくモンスターで……! そのようなことができるとは……!?」

「それに我々は聖者様にお仕えする立場にあって、他のことにかまけるわけには……!」

しどろもどろであった。

それをシーラ様、一喝。

「うるさい」

うるさいときおった。

「どうしてこういう時は殿方の方が意気地がないのかしら? 理屈にもならないことをつらつらと……。ねえ、お婿さん」

「はいッ!?」

俺に矛先が向いてきた、何故ッ!?

「お二人はアナタへの忠義を説いていますけれど、ということはアナタが許可さえくれれば結婚は可能ということなのでしょうか?」

「許可します!!」

即答。

「では結婚ということでよろしいでしょう。これにて一件落着。また来週」

「「やったぁあああああッッ!!」」

真っ先に喝采を上げたのは、他でもないゾス・サイラとカープさんだった。

告白らしきものをしてからほぼ無言で推移を見守るだけだったもんな。

「シーラお姉様のお陰ですぅうううッ! 私だけではこんなにすんなりと進みませんでしたぁあああああッッ!?」

などと二人して縋りつく。

「姉様がいてくれてよかったと初めて思えたぁあああああああッ!!」

「……他にもあったでしょう?」

「本当に初めて思えたぁああああああッ!?」

「前にもあったでしょう?」

シーラさんは重ねて聞くが、ゾス・サイラもカープさんもただ高ぶる感情のままに縋りつくばかりであった。

* * *

こうして二組の夫婦が誕生することになった。

ゾス・サイラとオークボ。

カープさんとゴブ吉。

いやマジで。

かねてから知っていたことだがシーラさんの押しの強さには改めて感服する。

その血が流れるプラティの押しの強さもよく知っているが、その大元となった人の押しの強さは尚更ハンパないな。

それで、結ばれたことによるそれぞれの状況の変化も伝えなくてはなるまい。

まずカープさんは結婚したことで完全にマーメイドウィッチアカデミア教職員を辞した。

寿退社というヤツだ。

そして夫となるゴブ吉と共に農場に住まい、夫婦生活を営みながら農場学校の手伝いをしてくれている。

要するにマーメイドウィッチアカデミアをやめても教員であることは変わってないということだ。

だから実質、ほとんど変わっていないということだった。

そして一方ゾス・サイラの方は独身でなくなったからと言って簡単に辞められる仕事じゃない。

なんつったって宰相閣下だからな!

あれで超有能な彼女だから人魚国の運営がかかっている。人魚王のアロワナさんも最低三十年は活躍してもらいたいとコメントしておられた。

そんなゾス・サイラは人魚国から離れることはできず、オークボも農場から離れられないんで『じゃあどうするの?』となったが、それを解決したのが転移魔法薬であった。

奇しくも彼女の弟子、パッファがその想い人アロワナさんと共にあるために開発したもので、一つの発明が二組のカップルを繋げた結果になった。

ゾス・サイラは昼間、人魚国で政務に励み夜になると転移魔法薬で農場へ帰宅、という生活を送ることとなった。

転移通勤だ。

ゴブ吉オークボも家庭を営むということで、農場の一角に家を建て、そこに移り住んだ。

その一戸建てからそのうち賑わいが増すこともあるだろうか?

さらに余談としてカープさんは農場学校の生徒から、例の身体強化魔法薬による戦闘法を授業してほしいとねだられるようになった。

「いや、ですからあれは魔法薬学を修める淑女としてはあまりにもはしたない……野蛮な戦い方でですね? そんなものを教え伝えるわけにはいかないというか……!?」

と言い訳をしていたが、それでも新しいもの好きの若者たちは聞き入れず、なおも授業をねだる。

「つべこべ言わずにとっとと教えなさい! もう、こんな面白そうな魔法薬をどうして教えてくれなかったのよ!?」

「プラティ王女! 真っ当な淑女の魔法薬授業には見向きもしなかったのに、なんで熱心なんですか!?」

研究心旺盛なプラティまで乗り出してきて授業は賑わうのだった。