軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

720 戦いの真理

ゾス・サイラvsカープさんの一戦。

いよいよクライマックス。

全方位をホムンクルス軍団に囲まれる。

これではもはやカープさんに勝ち目はない。

かつての魔女も、一線を退き教職を担い続けたブランクがあっては数十年と現役を保ち続けた魔女には敵わない。

そのことが証明されただけの戦いだった……かと思いきや。

「この戦いに敗れれば人魚国に強制送還……! ゴブ吉様との距離が遠のく……!?」

四方八方から一斉に押し寄せるホムンクルス軍団。

「それだけは嫌……そんなことになるぐらいなら私は……教職としてあるまじきあの戦い方を……今、解放する!」

発動する決意。

その瞬間、まさに今カープ教諭に触れようとしていた怪物ホムンクルスたちが、一斉に粉砕四散した!?

「はいぃッ!?」

一瞬何が起こったかわからなかった。

カープさんが何かしたのは間違いない。反撃してホムンクルスを蹴散らしたんだろうけれど、それをどうやったのかがわからない!?

「プラティわかった?」

「わからないわ……!?『王冠の魔女』たるアタシですら理解できない術式? どういうこと!?」

夫婦揃って理解不能に陥り困惑。

それはギャラリーも同様で、これだけの大観衆に見守られながら誰一人としてカープさんの所業を理解できないなんてありえるの!?

「私は、かつて捨て去ったはずの術理を今解き放つ……! 勝つために! 昔の野蛮な私に戻った以上はゾス・サイラ! アナタの勝ち目はついえたと心得なさい!」

「フン、勝負の形を数十年前に仕切り直しただけであろう? そのようにデカい口を叩くでない」

試合の雰囲気が、一瞬のうちに変わった。

より緊迫し、ヒリヒリと焼けつくような雰囲気だ。

かつてもっと荒廃した時代に魔女だった者たちが闘志をぶつけ合うことで生まれる気配なのか?

さらなる衝突。

これで今度こそカープさんの能力の正体が見極められる!?

「行きますよゾス・サイラ! 今日こそアナタとの因縁に決着をつけます!」

「わらわの勝利という結果でのう! 望むところよ!」

カープさんは単身、ホムンクルスの群に突撃を仕掛ける。

魔法薬を投げつけずに!?

そう思った次の瞬間信じがたいことが起こった。なんとカープさんは自分自身の手で、真正面にいるホムンクルスを打ち砕いた!?

素手で。

手刀で?

空手チョップで!?

「まさかの肉弾攻撃!?」

「どういうこと!? そんな戦い方、魔法薬師のやり方とはかけ離れているわ!?」

俺だけでなくプラティまで大困惑。

人魚特有の魔法・薬学魔法のエキスパートであるプラティですらわからない事態なんて!?

「まだまだ勉強不足ねえプラティちゃん」

「ママ!? ママはわかるの、今起こっていることが!?」

「当然よ、ゾスちゃんもカープちゃんも私の古くからのお友だちなんですもの」

お友だち……!?

この人の口から出るとそこはかとなく怖い響き。

「カープちゃん特有の魔法薬運用法は、ゾスちゃんに勝るとも劣らないほど独特なのよ。魔法薬学師としては間違いなく異端。マーメイドウィッチアカデミアの教員になったカープちゃんが封印しても仕方ないほど」

シーラさんが解説している間も、カープさんはガンガンとホムンクルスを撃破していくぅうううッ!?

全部素手で!?

パンチでキックで! 映画のアクションスター張りに多勢に無勢を圧倒的な単騎戦闘力で押し返しているぅうううううッ!?

「ふッ!」

あッ、カープさんがここでやっと試験管を取り出した。

魔法薬入りの試験管だ。

それを他の魔法薬使いと同様敵に向かって投げつけるかと思いきや……。

飲んだ!?

魔法薬を自分で飲んだ!?

そして……!?

「漲るぁああああああッッ!!」

カープさんさらなるパワーを発揮してホムンクルス軍団を蹴散らす!?

「そう、あれがカープちゃん特製の身体強化用魔法薬よ」

「身体強化用魔法薬となッ!?」

「あれを摂取することでカープちゃんは自分の筋力体力を何十倍にもアップできる。その極限強化された肉体で接近格闘戦を行えばカープちゃんは、陸の勇者や戦士にも引けを取らないのよ!」

し、しかし……!

いかに体を強化しても肉弾の超接近戦を行えば完全に無傷ではいられない。

カープさんの体にも次々と小さな傷が……。

対してゾス・サイラは魔法薬ある限り無限に戦闘用ホムンクルスを生産できる。

持久戦では完全に明暗が……!

と思ったら。

今度はカープさん、魔法薬を頭から被った!?

魔法薬を自分にぶっかけ!?

すると、魔法薬に濡れた部分から即座に傷が治癒し、元の絹地のように滑らかな肌が甦っていく!?

「身体強化魔法薬と回復魔法薬の併用で、最大出力による最長継戦能力を確保。自分の肉体による破壊で勝利する。それが『アルスの魔女』カープの能力なのよ!」

「ゴリッゴリの武闘派であった!?」

カープさんの称号『アルスの魔女』の意味とは……、『アルス』つまり何かしらの術理。

魔法薬使いとしての……魔女としての術理……。

それは……『強化して物理で殴る』という究極真理のことだったのかッ!?

「やっと昔の勝ち気を取り戻したか!? エリート学校でふんぞり返っているよりも似合っておるぞ! その闘鬼のごとき勇ましさがのう!」

「ゾス・サイラ! 私にこの戦い方をさせるのはアナタが唯一! こうなった以上は全力で、私のすべてをさらけ出して叩きのめします!!」

うおおおおおッ!!

もう開き直ったカープさんの肉弾ぶりが凄まじい!?

オーバーヘッドキックで、ホムンクルスの脳天を叩き割った!?

ホムンクルスの顎を膝で蹴り上げながら、同時に脳天に肘打ちを決める!? あの技は蹴り脚ハサミ殺し!?

キャメルクラッチで背骨をへし折ったぁあああッッ!?

本領発揮したカープさんの戦いぶりは、あまりに残虐。これ子どもに見せていいものなのか!?

「がんばえー、がんばえー」

ジュニアはけっこう楽しんで観戦している!?

これはセーフなのか!?

「昔を思い出すのう! 血に飢えた野獣のごとき『アルスの魔女』が戻って来たわい!」

「数十年前は、アナタの製造した怪物どもを突破できませんでしたが、今日こそ記録を破りますよ!『アビスの魔女』! アナタの喉笛に噛みついてあげます!!」

無限に人工生物を生み出すゾス・サイラの魔法薬と、自身を極限強化するカープさんの魔法薬。

それはいわば無限と、究極の一との戦い。

ゾス・サイラが次々とホムンクルスを創造し続けるが、それがどこまでもつか。

それともカープさんの体力が尽きるのが先か。

勝負の様相は非常に明快であり、そういう意味では二人は息の合った好敵手と思えた。

だからこそ長く長く競い合い続けたのだろう、その決着が、今日ついにつくのか。

「よし、それくらいにしておきましょう」

「「ぐえぇえええーッ!?」」

と思ったら、急にシーラさんが入れた横やりによってすべてが吹き飛んだ。

二人とも人魚界最高峰の魔法薬使いだというのに、シーラさんが介入したら一瞬で終わる。

「二人とも、腕は落ちていないばかりか冴えわたっているわねえ。本当に昔を思い出すわ」

「私たちも思い出しましたよ! 昔からこうして白熱しているとシーラ姉様が全壊させていくんですよねえ!!」

常習犯だったか、この人。

「お陰でわらわとコイツの決着がついたことが一度もないんじゃ! のう、本当に何がしたいんじゃ姉様!? 昔はともかく今回は姉様こそが発起して条件を出した戦いじゃろうに!?」

本当にな。

ゾス・サイラと戦わせて、勝ったんなら農場残留を認めるというカープ教諭への条件はどうなったんだろう?

「ふふふ、まだまだ浅いわね二人とも。この戦いに隠されたアタシの真の狙いに気づかない?」

「「真の狙い!?」」

「既にダーリンと結ばれ、多くの子どもを儲け孫までできたアタシに言わせれば、恋愛に必要なことは自分自身をさらけ出すこと。何も隠さず、奥底まですべて。それを見せ合い、認め合って初めて理想的な夫婦は完成するのよ」

その論で言うと、カープさんはたしかに思ってもみない一面を今回さらけ出したよな。

ゴリッゴリ武闘派というとんでもない隠し玉。

それは大観衆の下で披露され、もはや秘密でも何でもなくなった。

観客の中には、カープさんの想い人たるゴブ吉の姿も……?

「きゃあああああッ!? ゴブ吉様ああああッ!?」

まさか見守られていたとは知らず、気づいてカープさんは恐慌状態。

「こんな野蛮ではしたない姿をゴブ吉様に見られてしまうなんてッ!? もうお嫁には行けないわああああッ!?」

「逆よカープちゃん、自分の中に隠した見苦しいものを、目を背けずに見詰めてもらってこそ真の愛が生まれるのよ!」

なんか実感のこもった言葉だなあ、と思った。

「そりゃー姉様こそ、とんでもないものをダンナに晒した上で夫婦になっとるからのう。あそこまでやって破綻しないなら鋼の絆になるわい」

「ゾスちゃん? 余計なことは言わないべきよ?」

「すみませんッ!!」

それで、結局この状況はどう収束するの?

「さあ、すべてをさらけ出して今こそカープちゃん、愛する殿方に告白する時よ! すべてを込めて思いをぶつけなさい!!」