軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

639 不死山案内

『厭わず犬馬の労、露を払いて切り拓きし道を献じる、ご覧じよ不死の山、高く貴き神さびて……』

『老師みずから不死山を案内してくれるらしいにゃー!』

通訳がいてくれて助かる。

不死山登頂にもっとも不安要素だったノーライフキングの老師があっさり受け入れてくれたのは大助かりだ。

普段はこの聖域に、みだりに人の脚を踏み入れさせないようにするためにこそ結界などを張って侵入者を遮断しているそうだが。

それを向こうから解いて歓迎してくれるのは、旧友の博士と、あとウチのジュニアの存在あってこそ。

釈然としないものは感じたが、今はスムーズに事が進んでいるからよしとするか。

「キミもよかったねゴールデンバットくん?」

「うむ、これで不死山を思うがままに登頂でき『異世界百名山』に書き記すことができるぞ!」

ウチのジュニアのお陰ですからね。

そこのところお忘れなきよう。

「よぉし! それでは早速頂上へ向かって出発進行……!」

『皆集まるにゃ~! 老師が飛天の術で頂上まで一っ飛びで送ってくれるらしいのにゃ~ッ!!』

「えッ?」

さすが変わり種と言えどもノーライフキング。

案内してくれるとなったら一切の不便もなく至るところへ導いてくれる。

「ちょっと待って!? オレは自分の脚で実際に登って不死山の素晴らしさをね……!?」

『もう遅いにゃあ。術は組み上がったにゃ! 皆さんを不死山頂へご案内にゃああああ~ッ!』

「うへぁッ!」

有無を言わさず俺たちは転移魔法に巻き込まれ、一瞬のうちに移動させられてしまうのだった。

* * *

そして着きました。

ここが不死山の頂上かぁ~。

「うわああああああッ! 段階が! 一歩一歩踏みしめて山のすべてを知るプロセスがああああッ!!」

ゴールデンバット黙って。

せっかく山頂からの雄大な景色に感動しているところなんだから。

「うおおおおッ! 凄い景色だなあッ! 地平の向こうまで見渡せるぞ!」

「ぜっけいかなー」

「見ろ見ろジュニア! ここからなら農場も見えるんじゃないか?」

「ながめは、あたいせんきんー」

ジュニアも山頂からの眺めの凄さに大喜びだ。

こんなにいい風景を望めるのならば、山登りが趣味の人の気持ちもあるいはわかるかもしれない。

「ゴールデンバットも細かいことに拘ってないで見てみなよー。ここに来てこの景色を見ずに帰ることこそダメだって……」

「そうは言われてもな……!? 自分の力で踏みしめてみる景色こそ感無量であって、今ヒトの助けを借りて景色を見てしまったら、いずれ自力で登り詰めた時の感動が半減に……!?」

ネタバレ絶対許さない系の人みたいな面倒くささだな。

いいじゃないか、過程はどうあれ辿りついてしまったんだし。

「うおおおおッ!! こうなれば仕方ない! おわ凄ええええええッ!!」

一気に顔を上げたゴールデンバットの感動が激震だった。

「あっちの向きからは魔国を見渡せて、こっちの向きからは人間国を見渡せるううううッ!? なんて贅沢な眺望なんだああああッッ!? これこそ人魔両国の境界にある不死山だからこそ見れる景色いいいいいいッ!!」

一度受け入れてしまえば、もうその激動に抗うことはない。

体は正直なものよ。

「遥か遠くにあるオリュンポス山や『聖なる白乙女の山』もここから見えるううううッ!?」

「騒がしいニンゲンなのだ。これくらいの景色ドラゴンのおれ様なら毎日のように空飛んで見ているのだ」

おや? なんかヴィールが機嫌悪いな?

さっきまでジュニアとお出かけで楽しそうだったのにどうした?

人間の姿になって何やらブツブツ言っているが……。

「おれのブレスが、あの死体モドキにも通用しなかった……!」

ああ、さっき老師に攻撃したのがまったく効いていなくてショックを受けていたのか。

「でもヴィールって先生にも勝てなかったんだろう? さらに老師に勝てないからって今さらじゃん元気出そう?」

「一回負けたら二回も三回もいいわけではないのだ! おれ様はドラゴンだぞ! 地上最強で負けることなど絶対ないのがドラゴンだ! 負けるとしたら同種だけ! 自分以外の種族に負けるなど絶対あってはならないのだ!」

しかしノーライフキングには負けております。

一度ならず。

「そうなのだー。最強であるはずのドラゴンがどうにもならねえ唯一があの死体モドキどもだ。ずっと前に父上から試練を与えられた時も、先生……死体モドキを倒せなかったし。今日のヤツも一回打ち合っただけで勝てる気が全然しなかったのだー」

ヴィールってドラゴンではかなり強い方なのになあ。

何度か同種のドラゴンを一方的にボコったこともあるし、以前のガイザードラゴン後継者争いで大本命だったブラッディマリーさんにも勝っていた。

そのヴィールですらノーライフキングの三賢には歯が立たない。

「そういやマリー姉上も、ここの死体モドキには手も足も出なかったと聞いてるなあ。惨敗だったらしいぞ」

『惨敗じゃないわよ! 戦うのが面倒だから引いてやっただけよ!』というマリーさんの抗議が幻聴として聞こえた。

実際ドラゴンたちが常々『最強生物』を自称しているのも、ノーライフキングはアンデッドなのだから厳密に生物に属していない、という屁理屈かららしい。

なんかどっかで聞いた。

多くのケースでドラゴンがノーライフキングにしてやられるのを鑑みるに、世界二大災厄のどちらが優位に立っているか推し量れそうなものだった。

「ううぅんムズムズするのだ……! おれたちは常日頃から地上最強を名乗っているのに、そんなおれらより優位のヤツがいるなんて。それなのに地上最強を名乗っていいものか……!」

自分より凄い人がいるってことは、謙虚さを学べていいことじゃないですか。

『究極的にはドラゴンの方が強いにゃよ? アレキサンダー殿には三賢が束になっても敵わないにゃー。純粋な大質量の暴力の前には術も理も無意味にゃー』

「それはアレキサンダー兄上が個人的に凄いだけなのだー!」

益体のない最強議論で盛り上がっているが、せっかくこんな素晴らしい頂上に遥々やってきたのだから、もっとここにいることを楽しもう。

具体的には観光を!

『眼中明らかなり』

博士ぇ~!

通訳お願いします博士ぇ~ッ!!

『なんか老師が見てほしいものがあるらしいにゃ。山の外側じゃなく、内側をご覧くださいにゃ!』

内側?

山に外も内もあるのかなんて……あった!?

山に内側があった!?

「山頂がえぐれてる!? 山のてっぺんに穴が開いている!?」

つまりこれは火口!?

不死山って火山だったのか!?

「この世界にも火山があったのか! いやそりゃあるだろうけれど!」

「火山といえば有名なのが『ヴァルカンの巣』と言われる五つ星ダンジョンだな。ダンジョン内を常に溶岩が流れ、危険度は世界最大級だ。それも百名山に加える予定だぞ?」

ゴールデンバットが補足してくる。

「しかし! 不死山までもが火山であったとは知らなかった! もし噴火したら世界が滅びるんじゃないか!?」

「えぇ~? やめてよぉ~!?」

たしかにこんな大きな火山が大噴火などしたら、大災害にはなるだろうな。

『それは心配ないにゃ。不死山は死火山にゃ』

「そうなんですか?」

でも不死山なのに死火山というのはまた奇妙な。

『少なくともワシが存在する四千年、不死山が噴火したことは一度もにゃー。火山としての活動は既に終えていると考えていいにゃ』

「それならば不死山が火山だと伝わっていないのも納得だな。老師が守られているおかげで不死山に踏み入る者もほぼない。この火口を最後に見た人類も、一体何百年前の人になるのか……!?」

ジュニアも、大きく深い不死山の火口を興味深げに望み込む。

でも万が一にも落ちたりしたら大変なことだから気をつけてなー。

『天地開闢の盟、語りたり万象の女神』

『どうやらこの火口には曰くがあるようだにゃー』

博士が自動翻訳になってきた。

『えーと? この山には太古のとんでもないバケモノが封印されているらしいにゃー。いつの日か神々が傲慢を極め、すべての生物の掣肘もはねのけて世界を蹂躙するようになれば、そのバケモノは復活し世界諸共神々を滅ぼすんだそうにゃ。……そんなのワシですら初めて聞くにゃ!?』

在世四千年の博士すら知らないって凄いな。

『え、え~? そのバケモノが復活した時に出てくるのが、この火口らしいにゃ。老師は修行時代、世界を生み出した女神から命じられて、バケモノが眠るこの山の番人を務めるようになったらしいにゃ。……だからなんでワシの知らない事実がそんなポンポン出てくるにゃ!?』

それで老師は、普通ならノーライフキングが住まない山ダンジョンの主となり。

不死山を聖域として数千年と守ってきたというのか。

たしかにそんな凄まじいバケモノが眠っているとしたら人々が周りにいるのも危険だからなあ。

老師が結界を敷いてみだりに出入りしないよう管理していたのか。

そのバケモノとは……。

世界最初のドラゴン。

原始皇帝竜、プロトガイザードラゴンのテュポン。