軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

638 飛仙降臨

そのノーライフキングは、今まで出会ってきたそれとは著しく異なる様相だった。

俺の知ってるノーライフキングといえば不死化して、生命活動をしなくなった肉体がミイラ化したり白骨化したりして容易に『死』を連想させる存在だった。

しかしながら今目の前にいる死の王者は、それらの印象とはまったく違う。

なめらかで綺麗なご尊顔だった。

少なくとも俺たちのような生きている人間と変わらない顔つき。

いやそれどころかとても整っていて美男と言っていいほどの顔つき。青年もしくは少年のごとき汚れを知らぬあどけない顔。

……いや待て。

よく見ればやっぱり違う。

生きている人間にしてはあまりに顔貌が整いすぎている。

超一流の彫刻家が仕立て上げた彫像というか、そんな感じに作り物めいた究極の美顔だ。

改めて見たら表面の質感も生きた皮膚とは違う感じがする。

石膏とか……よく磨かれた材木?

そう思ったら、老師の無表情ながらほのかに笑みをたたえた顔貌が、仏像のアルカイックスマイルに見えてきた。

菩薩像だ!?

何とか観音菩薩像が襤褸を着て、石とか木とかの質感のまま自立稼働している。

そんな感じがノーライフキング老師の様相だった。

つまり見た目からして別格ということだ。

世間一般のノーライフキングと比較して。いやノーライフキング自体が世間一般的じゃないんだけど。

とにかく異質の中の異質ってことだ。

フワッと。

それまで上空に浮かんでいたノーライフキングの老師が地上に降りてきた。

あんなに高くから降りてきたのに、降下の勢いを少しも感じさせない。

実際には『フワッと』という空気感すら感じさせない、本当に上から下へ移動してきただけのような着地だった。

皆息を飲んで、一言も発せない。

この存在が、遭遇することは『死』と同義になるノーライフキングの究極ともなればなおさら。

仏像を彷彿とさせる様相のせいか尚更、もう一段グレードアップした上等の『死』の訪れが予感できた。

「……!?」

「…………うぅッ!?」

『……こ、このおれが気圧されるなんて……!?』

あまりにも純粋な静の気配に、居合わせた誰もが圧倒され沈黙させられる。

まるでこの静謐に塗り潰されるかのように、自身の心臓の音すら煩くて消してしまいたくなる。

ひょっとしたら並の生物が老師に相対したら、そのあまりの静けさに溶け込むように自分の心臓の音すら消して、勝手に死んでくんではなかろうか?

あまりにヤバい存在。

そのヤバい存在とこれ以上黙って見詰めあっていたら本当にヤバいんじゃないかと思い始めた矢先……。

『老師ーッ! ひっさしぶりにゃーッ!!』

死の菩薩像の、頭の上にぴょーんと飛び乗る猫。

「うわはあああああッッ!!」

『相変わらず黙然としたヤツにゃあ! もっと楽しく音を出して過ごすにゃああああッ! のーみゅーじっく、のーらいふにゃあああああッッ!!』

あっぶない。

猫博士がにゃーにゃー騒ぎ立てたおかげで浸食するような静寂が消え去った。

さすが同格のノーライフキング。

この圧倒的空気をあえて読まない肝の太さ。

『のーきゃっと、のーらいふにゃああああああッ!!』

そして菩薩像の頭の上に乗った猫は、その頭頂を猫舌でペロペロ舐め回し出した。

いや待てやめろ猫!?

ヒトの髪の毛を毛づくろいするな!?

『…………』

老師すげええええええッ!?

何が凄いかって、猫にここまでじゃれつかれて表情一つ変えないところだ。

どんなにいかつい男だろうと、あんな全身で使って猫がじゃれついてきたら苦笑の一つも漏らすんじゃないのか?

ニヤけたりはしないのか!?

それを、あの表情はまったくの『空』。

完全に悟り開かれた無の心は、猫の可愛さをもってしても揺るがないというのか!?

究極ノーライフキング三賢である博士と老師。

その格の凄さは……今のところ互角?

『……博士や、術に敵なし』

「ん?」

今の声は?

喋った?

老師がシャベッタああああああッッ!?

『飄然として想いは群ならず、君を想う不死山の月、煌々として蕭々たる、我、歌わん喜びの詩』

「?」

???????

『無理やり理解しようとしなくていいにゃー。老師の喋り方は一種独特なのにゃー。とりあえず今のは「また博士に会えて嬉しいよ」的なことを言ってるってふんわり理解しておけばいいにゃー』

一瞬でわかった。

この人、絡みづらい……!

系統で言えばすべての感情を『もっす』で表現する前人魚王ナーガスさんみたいなものだろうか?

しかしナーガスさんの言語体系は完全にわからない分まだ諦めがつくが、目の前にいる老師さんは中途半端にわからんでもないのが却って厄介だ!

努力すれば読み取れそうな気もするし、読み取れないかもしれない!?

それがまた絡みづらい!?

「あの……、博士は老師とは……!?」

『マブのダチにゃー! 老師とはもう三万年来の付き合いにゃん! いや、二千年だったかにゃ?』

超仲よしじゃねーですか!?

だったら博士が同行している時点で何の問題もなかった!

この際だから通訳も博士にお願いしよう。ナーガスさんの通訳も奥様であるシーラさんに丸投げしているように!!

『しかし老師ー。おみゃー、随分早々に出てきたにゃー? セオリーだと、この石兵八陣を破ってもっと奥に進まないと出てこないんじゃなかったにゃー?』

『一驚、天を割り石を破る、天上を上る竜雲、我は見上げし日輪、天命ここに示さん』

わっかんねえ。

博士のアドバイス通り、わかったフリしてスルーしよう。

それが脳にも一番負担が軽い。

『老師は、人間だった頃から不死山に住み着き、この世界最高の山を霊場として整えてきたにゃー。いわば老師は不死山の開祖。悪役になりがちなノーライフキングが立ち上げた霊場ということで、つまり悪役霊場にゃ!!』

煩い!!

『元々デカい山にはマナが集まりやすく。そのマナを気として体内に取り込み、循環させることで自然にノーライフキングとなったようだにゃー。しかし一般的な不死化の禁呪と根本的に違うから、出来栄えもこんな風に変わっているにゃん』

「アナタの出来栄えも相当変わっていますがね」

『こういう不死の存在を別の世界では「地仙」というらしいにゃが、こっちの世界にはそんな概念自体がないので一緒くたにノーライフキングとしているにゃ。本来は別物にゃー。結局のところオーソドックスで一番強いのが先生にゃん』

仙人。

たしかに直近で会って老師に抱いた印象は、そんな感じだった。

同じ死を超越したモノだとしてもゾンビだとかとは根本的に違う、真なる意味で『死』というものへ真っ向から立ち向かい、勝利した存在。

あらゆる作為、私情を排することで、時間の流れすら無意味化してしまった不滅の存在。

それが神仙、ノーライフキングの老師なのだ。

「ぐおおおおおおッッ! そのようなお方に出会えるなんて感動そのものですうううううッ!!」

何故かそれにゴールデンバットのヤツが共感していた。

「山を愛することで究極の存在になれるなんて、まさにオレの理想そのものではないですかああああッ!! どうかオレにもその極意おおおおおおおッッ!!」

おい、そこの傲慢不遜。

普段から山愛が溢れ切っているヤツだけに山の神聖を極限化したような老師の存在が相当ヒットしたようだ。

自分の所属する冒険者ギルドにも、これくらい従順であればなあ。

『七宝に勝りし、同心の友』

「感激です!」

通じ合うな。

『しかれども我、宿願を欲す、天命おのずより門を叩き、我、門を開き千里を走らん、焦がれ、千年待つ者に出会いたり』

ん?

すると老師なんか知らんけど跪いた。

数千年を生きた仙人がこうべを垂れた!? そんな礼を払われる相手は誰だ!?

俺か?

いや違う!

俺の息子ジュニアだった!?

『星瞬き地に降りる、天命示されり、我、従卒のごときに天に従い、我乞う子の詔』

『うーん、よくわからんけど老師はジュニアくんのことが気に入ったようにゃー? それで自分から出迎えに来たにゃ? 先生からも可愛がられているしジュニアくんは将来大物になるにゃー』

やめろ!

ノーライフキングの三賢揃ってウチのジュニアを認めるな!

またジュニアが得体の知れない何かに成長する可能性が高まるだろうが!!

ウチの子には平穏無事な人生を歩んでもらいたいんですが!!