作品タイトル不明
635 不死の霊山
「ドラゴンはなー。簡単なんだよ、割と。戦わずに逃げようと思えば」
S級冒険者ゴールデンバットが言う。
「ドラゴンは最強生物だから、大体どんな生き物に対してもゴリ押しで勝てるから、人間相手でも力で押し込もうとしてくるんだ。かつ人間なんてドラゴンに比べたら虫けらのように弱いから百%侮ってくる。油断してくる。そこに活路があるんだよ」
ゴールデンバットの長い自慢話を簡潔にまとめると、こうだ。
山ダンジョンでドラゴンに遭遇したとしても相手は必ず侮ってくるから、即座に焼き払われることはない。
大体、本攻撃が来る前におちょくってきたり言葉で嬲ってきたりするので、その間に閃光弾などの逃走道具を準備する、そして不意打ちダッシュ。相手より遥かに小さい体を利用し物陰に隠れながら走ればまず確実に逃げられるのだという。
「考えなくても大体何とかなる生き物だから、普段から考えないんだよな。だから不意打ちをくらうし簡単に騙せる。言葉だけで丸め込んで切り抜けられたこともあったしな」
「言われてますよヴィールさん?」
「ぐぬぬぬぬぬぬぬ……!?」
倒そうと思えば絶対無理。しかし上手く丸め込んでいなそうと思えばドラゴンは案外簡単な相手なんだという。
他のヤツが言えば『何言ってんだ?』と鼻で笑うが、地上最高S級冒険者の口から語られると不思議な説得力があった。
それでも一般人の一般的な体力なら、どれだけ上手く出し抜いても周囲の地帯ごと吹き飛ばされて必死なんだろう。
S級に任じられるほどの高い身体能力、知識、機転、それら全部揃ってこそドラゴンは逃げようと思えば何とかなる相手まで引き下げられるのだ。
「しかしノーライフキングはどうしようもない! アイツらは元人間だけあって人間の狡さも賢さもすべて知り抜いている! その上人間を遥かに超える長生で経験値を重ねているから、賢さも狡さも人間以上なのだ! 遥かに!」
その上魔力や身体能力だって人間を遥かに凌ぐのだからどうしようもない。
人間程度の浅知恵で出し抜こうとしても、必ずウラをかかれるんだという。
元々人間がアンデッドと化して最悪のバケモノとなったのがノーライフキングなので、かつての同族を侮ることもドラゴンほどではない。
強者の慢心こそが最大の活路である人間冒険者にとって、ノーライフキングとの相性は悪夢だという。
「オレにとって救いなのは、ノーライフキングは主に洞窟ダンジョンを根城にするところだな。アンデッドだけあって光が嫌いなのか、地下深くで日の届かぬ方がいいのかもしれない」
ゴールデンバットは山大好き山男なので、山ダンジョンを渡り歩く限りノーライフキングと遭遇することはない。
冒険者としての責務を果たすため洞窟ダンジョンに潜らなければならない時もあるが、厄介なノーライフキングが居座っていた場合、迷わず撤退することができる。
洞窟には執着がないから。
しかし山となるとそうもいかない!
「老師は! ノーライフキングの老師だけは何故か山ダンジョンの主なんだよ! しかも魔国と人間国の国境沿いに聳え立ち、標高でもトップクラスのベストマウンテン……不死山に居座るなんて!」
地面を叩いて悔しさを表現するゴールデンバットさん。
この人、山に対して意気込みが強すぎない?
「不死山は! 不死山は絶対にオレが選定する『異世界百名山』に入れたいんだ! しかも第一番目に!」
山には物凄い執着を示しやがる。
「あ、あの……、入れればいいんじゃないですか『異世界百名山』に。素晴らしさは充分わかってるんでしょう?」
「ダメだッ!!」
なんでさ?
「山を愛し、山を紹介したいオレにとって、自分の脚で頂上まで登った山しか載せたくないんだ! それが山をヒトに勧める者の責任だ! 自分で登って自分で体験しなければ、ただの又聞き紹介になってしまう!!」
めんどくせえ。
趣味人の独特なこだわりを垣間見たが、これでやっとコイツの頼みたいことがわかってきた。
『異世界百名山』を編纂するにあたって、どうしても外せない山……不死山に登りたいゴールデンバット。
しかしそこには冒険者の天敵というべきノーライフキングがいて、彼のS級冒険者の実力をもってしてもどうにもならない。
「だから俺たちの助けを借りたいと? ノーライフキングを退けて不死山に登るために」
「そうです」
「やったぁああああああッッ!!」
やっと正解した!
辛抱強くこの野郎の話を聞き取りしてようやく目的を明らかにすることができた!
ああ、スッキリした!
これで今日はもう心残りなくグッスリ寝ることができる!
もう寝よう!
ダメか!
「聖者さんはドラゴンともノーライフキングとも仲よしだろう? その恐るべき人脈の広さでもって不死山に巣食うノーライフキングとも話をつけてくれないか!? そしてオレが不死山に登頂することを助けてほしい!」
お願されてしまった。
「見返りは?」
「『異世界百名山』が完成した暁には、記念すべき第一版を寄贈しよう!」
いらない……!
ほぼ『タダ働きしろ』と言われたに等しいが、ここで恩を売っておけば後々言うことを聞かせやすくなって、シルバーウルフさんが困った時に手助けしてあげられるかもしれない。
……しかし、その時の俺は気づくことがなかった。
そもそも恩を感じるような殊勝さがあればコイツ、冒険者ギルドきっての問題児なんて呼ばれてないだろうということを……。
……という未来暗示風のナレーションをして予防線を張っておく。
「まあ、相談するぐらいはしてあげてもいいかな?」
「やっほう!!」
ノーライフキング関連の問題といえば、やはり頼るべきは同じく不死の王ノーライフキングである先生だろう。
先生を呼んで相談に乗ってもらおうと思ったができなかった。
先生は、卒業試験の準備に熱中しておりとてもそれどころじゃなかったからだ。
声をかけようとしたら召喚されたオーディン神と議論を弾ませていて、邪魔するのも悪いなと思ったのでそっとしておいた。
『フェンリルはどこに配置しますかのう?』という声が漏れ聞こえたが、空耳と思うことにした。
というわけで先生に頼ることは今回できません!
なのでピンチヒッターを呼びました!
我が農場に住まうノーライフキングはお一人だけではありません!
もう一人……というか一匹?
その辺にうろついているのを抱き上げて確保してきました!
ノーライフキングの博士!
……という名の猫です!
『よろしくにゃー!!』
見た目からして完全に猫。
しかし人語を解し、能力も人智を越えたこの存在は間違いなくノーライフキングです!
『ワシを働かせようとはいい度胸にゃー! 働かないから猫なのにゃー! どうしてもワシを働かせたいなら煮干しを持ってくるにゃー! めざしでもいいにゃー! マタタビなら五倍働くにゃー!!』
働かないといいつつコスパはいい。
一方、そんな博士を目の前にしてゴールデンバットは妙に縮こまっていた。
自信の塊がまたどうした。
『なんにゃー? ワシのダンジョンを何度か荒らしたヤツにゃー? そのたび記憶を消しているってことを教えたからビビってるにゃー?』
そう言えば、ダンジョン発見最多記録を持つゴールデンバットは、博士の『本体』が秘蔵されている博士ダンジョンも見つけたことがあるとか。
しかし自分の『本体』が明るみに出ることを好まない博士が、そのたびゴールデンバットの記憶を消し去って再び所在不明にしているんだとか。
普段はただ可愛いだけの猫だが、その奥底はノーライフキングだけあってエグいし恐ろしい。
そんな経験があるからこそ、同じく不死山とやらに住むノーライフキングを本能的に恐れているんだろうか?
『しかしにゃー、老師とは厄介な不死王を相手にしたもんだにゃー? まっしぐらに逃げたいもんだにゃー?』
「え? 博士その老師って人と知り合いなんです?」
同じノーライフキングなんだから面識があってもよさそうな気もするが。
『面識どころか、ノーライフキングの中でも最高の知恵と魔力を有する三賢のうちの一人にゃー。ワシと先生の同格にゃよ』
ノーライフキングの先生。
ノーライフキングの博士。
ノーライフキングの老師。
その三人の不死王は、数あるノーライフキングの中でもズバ抜けた存在であり、有する知識や魔力は当然のように桁違い。
生前の大魔導高僧としての徳も高く、不死化してから積み重ねた年月も最低千年と他を圧倒する。
「先生が一番ヤング……!?」
『三賢においても一番異色なのが老師にゃー。というかアイツはノーライフキングとしても異質で、アンデッドかどうかも微妙なところにゃー。アイツを表現するのにアンデットよりもしっくりくる言葉があるなら……』
あるなら……?
『仙人にゃー』
「センニン?」
『とにかくアイツの許可を受けて不死山に登りたいなら、当たって砕けるしかないにゃなー。というわけで行ってみるにゃー!』
「行くってどこへ?」
『現地にゃ』
ちょっと相談したかっただけなのに、気づいたらそのまま突入することになった。
博士に誘われ、ゴールデンバットを連れて、俺たちはノーライフキングの老師がいるという不死山へ向かう。
……え?
俺まで行くの?