軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

634 異世界百名山

俺が前にいた世界にも似たようなものがあってさ。

『百名山』っていう日本中の山から凄いものを選んで紹介していくっていうもので。ポスターとかパンフレットとかで色々見かけた記憶がある。

観光協会的なものが立ち上げた企画かと思いきや、ふとある時思い立って調べたら個人が編纂したらしいな。

山にありがちマニア登山家の、愛が溢れ出した結晶的なものだったらしい。

異世界に渡って、何もかも違い世界へやってきたかと思いきや、山好きの山を愛する気持ちは次元を隔ててなお変わらないらしいな。

こっちの世界でも同じようなことをしようとするものが現れるとは!?

「ひゃくめいざん? ……百名山か。なるほどいい名前の響きだな」

一方ゴールデンバットのヤツは、思わず俺が口走った百名山のフレーズに思いのほか食いついていた。

「企画名はまだ決めていなかったが、その名はいいかもしれんな。さすが聖者と称えられるヤツだ。オレの思いの丈を明かしただけですぐさまそれを一言で表す良名を思いつくとは!」

「いえいえ……!?」

素直にヒトを褒めることをキミができたのも驚きですがね?

「その名前、いただいてもいいか? これからオレが書き記す名山の資料を『百名山』と銘打って世に送り出そう!」

「できればオリジナルとの区別がつくようにしてください」

「オリジナル?」

「『異世界百名山』というのはどうでしょう?」

「それでいいと言うなら」

よし……!

これで紛らわしいことにはならない……!

「問題はオレの厳選する名山良山が、たった百っぽっちの中に収まるかどうかだな……!? もう少し範囲を広げて『千名山』とするのはどうだろうか!?」

「ちゃんと厳選してください」

まあ、それで話が戻ってくるわけだな?

要するに最初に言ってたゴールデンバットのヤツの『生涯をかけた大事業』『ライフワーク』というのは、これまで登った山からいいものを選り抜いて資料化することだったのだ!

何かに打ち込むのはいいことだし、ヒトの迷惑にならない範囲であれば『どうぞ頑張ってください』と言う他ない。

ないのだが……。

「……それで、どうして俺のところに来たの?」

まだゴールデンバットの農場来訪の目的が定かでない。

『異世界百名山』の編纂なら好きなようにやってくれればいいが、そこで俺の関わることなんて特にないはずだ。

何しろ平地を耕すだけしか能のない農家なんで当方?

……息が詰まる。

一体コイツは、俺の何をアテにしているんだ!?

「そんなのは決まっているのだー!!」

そこへ現れたヴィール。

どこにでも現れるドラゴンだ。

「話は聞かせてもらったのだ。世界中のいい山を選び出そうというお前の企み。であればここに来た理由など推測するまでもないのだー!」

何ッ? ヴィール?

ゴールデンバットの目論見を見抜いたというのか?

「おれ様の山ダンジョンを、そのひゃくめーざんとやらに加えるつもりなんだろう!!」

「あッ、そうか!」

この世界では、マナの淀みで空間が濁り亜空間化するダンジョンが山でも起こりえる。

なので、異世界で名山を編纂しようと思ったら必然的にダンジョンもサンプルに加えることになるのだろう。

山=ダンジョンということがありえるのだから!

「おれたちドラゴンは山ダンジョンを棲み処にすることが多いからな! その中でも特に素晴らしいおれ様の住むダンジョンを取り上げようとは見る目があるのだー!」

「たしかに、ここ農場にある山ダンジョンには一度登らせてもらったが、他に類を見ないユニークな山ダンジョンだった。標高、攻略難易度も適度で、四季折々のエリアに分かれて変化に富み、同時に採取できる素材も豊富であることが素晴らしい」

「うむうむ! よくわかっているのだ!」

ヴィールは褒められた分だけいい気になる素直なドラゴンだった。

「そこまでおれの山ダンジョンのことをわかっているなら無下にはできないな! よかろう、今回だけ特別におれ様の棲み処を紹介するがいいのだ! 飛び切りカッコよく書かないと許さないのだー!!」

「申し訳ありません」

「あれーーーッ!?」

採用されると確信していたところへまさかの拒否。

期待外れの展開にヴィールはただただ困惑する。

「たしかに農場の山ダンジョンは素晴らしいダンジョンだ。山そのものとしても非常にいい。このようにいいダンジョンは百どころか十に絞っても余裕でランク入りするだろう」

「そうだろう! そうだろう!?」

ならばなおさら何故、ご縁がなかったコールを?

「このダンジョンの最大の問題は、アクセスの悪さだ。人里から隔絶された秘境にあって、そこに辿りつくまでが既に大冒険。仮のこの山を『異世界百名山』に加えたとしても、実際にここまで来て確認できなければオレがウソを書いている、ありもしない山のことを空想で書いているなどと言われかねない」

著作そのものの信用度を下げないために、確認可能な記事しか載せないと?

いつもはあんな本能のまま動いているのに、山のこととなると慎重だな?

「ということでまことに心苦しいが、農場山ダンジョンの採用は見送りということにさせてもらう! 本当にすまない!」

「うわーん!」

深く頭を下げたゴールデンバットに、ヴィールは泣き崩れるのだった。

「悔しいのだご主人様! まさかここの秘境っぷりが仇になるなんてー!!」

「はいはい、仕方ないねー」

ヴィールの山ダンジョンは、せめて俺の個人的文化遺産に登録しておくから、それで勘弁してくれい。

「それじゃ益々何のためにゴールデンバットはウチに来たんだ?」

農場近辺にあるヴィールの山ダンジョンを『異世界百名山』に登録したいというならと一時納得しかけていたのだが。

それが違うとなるとまた謎が謎のままに逆戻り!?

「ふむ、ではいよいよ頼み事の本題なのだが……!」

「おうよ」

なんか普通に話聞く態勢になってしまった。

「『異世界百名山』を編纂するにあたり、オレがもっとも懸念しているのが、この世界の不完全さだ」

不完全?

アナタじゃなくて世界が?

「この世界はいまだ魔国と人間国の間に垣根が立ち、双方を自由に行き来することはできない」

「ああ、それね」

それでも、もう随分前に人魔戦争が終結し、勝者である魔王さん統治の下、両国の往来は少しずつ活発になっている。

今はまだ全面解禁されていないが、もうあと一、二年も経たないうちに冒険者の魔国ダンジョン探索が解禁されて魔国側にも冒険者がたくさんやってくるだろうって話になってるんでしょう?

「しかし今の時点ではまだ魔国の許可なしに両国を行き来できないのはたしかだ。オレの『異世界百名山』が完璧を期すためには。もちろん人間国側にある山々だけでは足りない。魔国側にある峻嶮、霊山を網羅し、紹介してこそ完璧になるのだ!」

そうだなあ。

ゴールデンバットは人間国で活動する冒険者であるだけに、活動範囲が人間国内に限定されることは容易に想像できた。

きっとここまで見つけて登ってきた山も、人間国内にある山々なのだろう。

その中から名山を選別するとしたら『異世界百名山』ではなく『人間国百名山』になってしまう。

それでもいいんじゃないかと思うのだが、それはゴールデンバットのプライドが許さぬことなのだろう。

S級冒険者として、そして無類の山好きとしてのプライドが。

「んむ、何となくわかってきたぞ」

俺は膝を打った。

「俺は魔王さんとも友だちだし、魔国への強力なツテがある。そのツテで、キミが魔国の山々を上り百名山の選別作業を行う手助けをしてくれというんだな!?」

「違うけど?」

「あれぇーーーーーッ!?」

お前ホント何しに来たんだ!?

何しに来たんだよッ!?

「このS級冒険者ゴールデンバットを舐めてもらっては困るぞ。法や軍事ごときでオレを縛ることはできない。魔国と人間国の国境ぐらい『獣性解放』して何度でも飛び越えてきたわ!」

「不法入国者! 不法入国者ですよぉーッ!!」

そして不法出国者でもある。

「そうやって何年も前から人知れず魔国へと忍び込み、主だった山にはあらかた登ってきた! 魔国側の山々データもこの頭にしっかり記録されているぞ!」

「何やってんだよお前!?」

山に登りたいという欲求によって、あらゆる障害を排除する男!

あらゆる趣味人の鑑!

誰にも真似してほしくないが!

「はあ……、じゃあもうキミ、独力で問題なく出版できるじゃん『異世界百名山』。そんな無敵のキミが、この上一体何を助けてほしいというの?」

俺らに?

「オレが無敵で最高というのはたしかだが。しかし一つだけ、オレにもまだ登頂できていない山があるんだ」

「なんと?」

「あの山だけは、オレの山愛をもってしてもどうにもならない。あそこに住む守護者が難敵すぎるのだ。数多の山ダンジョンを巡り、そこの主であるドラゴンに追いかけられながら何十回と逃げ切ったオレでも、ヤツからは逃げ切れる気がしない……!」

あの自信の塊というべきゴールデンバットがここまで臆するなんて……!?

一体どんな鬼畜難易度の山なんだ?

彼が独力では登頂不可能と降参してしまった山、それは……。

ノーライフキングの老師が住む、不死山。