軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

636 異世界登山

『ここがー!』

「こーこーがー!?」

『不死山にゃぁああああああああッッ!!』

「いえぇええええええええッッ!?」

同行者のテンションがたっかい。

俺です。

どうしてこうなった?

『正確には不死山登山口にゃああああああッッ!! 不死山には五合目あたりに秘密の転移ポイントがあって、転移魔法で来れるにゃああああッ!!』

「親切設定!」

『しかしここからは頂上を目指してエッチラオッチラ、自分の脚で登らないとダメにゃあああ! 文明に頼らず、ゴミを残さず、山の自然物を極力傷つけない、それが山に対する礼儀にゃあああああッッ!!』

「ごもっともです博士!!」

このさっきから煩いほど浮かれている連中は、ノーライフキングの博士&S級冒険者のゴールデンバットの二人。

山を前にしてテンションが上がっている。

「だって! だって夢にまで見た不死山にこんなに早く登れるなんて! やはり聖者に相談した甲斐があった! 凄いぞ聖者! さすが世界を裏から支配すると言われる者!」

支配してないです。

なんだその陰謀論?

「世界一の霊峰と名高い不死山! 標高は、あの天界に通ずるといわれるオリュンポス山を上回り、山麓面積はアレキサンダーが支配する『聖なる白乙女の山』に匹敵するという! それでいて登山者の記録は僅かしかなく、いまや一番ホットな聖者の農場と並ぶ未知の聖域!」

オタクが語りだすと長い。

まあ、確信をもって言うけどこのゴールデンバット……山オタクである。

「この不死山の登頂アタックすることで、オレは『異世界百名山』の編纂する準備をやっと完了できる! いくぞ、この一歩は小さな一歩でも人類にとっては大いなる一歩なのだ!」

『月面着陸並みの扱いにゃーッ!!』

ゴールデンバットのヤツがハイテンションなのはまだいいとして……。

どうして博士までこんなに浮かれてるんだろう?

じゃれ合っていたら興が乗りすぎて飼い主の腕を引っかき傷だらけにした猫のように興奮している。

『にゃー? 興奮しているヤツが一緒になって興奮するのが礼儀にゃー?』

単なる生来の賑やかしだった。

もう面倒くさいから置いていこうと思ったが、これから本格的に不死山へ入るにあたり、この一見猫にしか見えないノーライフキングの博士は絶対不可欠なのだ。

何しろこの不死山の奥底に住むというノーライフキングの老師は、世界二大災厄と名高いノーライフキングの中でも特に強力。

自然と一体化することに特化した『仙人』であるという。

あの傲慢不遜なゴールデンバットさえ、それを恐れて不死山入りを断念寸前にまで追い込まれたというのだから、その恐ろしさは推し量れようというものだった。

そんなノーライフキングに対抗しうるのはノーライフキングだけ、ということで不死王の中でも最年長、四千年を生きるというノーライフキング博士に頼るのが一番。

同じぐらい頼りになるノーライフキングの先生は、卒業試験の準備を優先して今回は欠席しております。

『安心するにゃー。ワシと老師は、同じ三賢同士のマブダチにゃー。ワシが話を通せば見学くらいは許してくれるにゃー』

と自信満々の博士。

この余裕ぶりが却って不安になる時もある。

『老師と直に会ったこともあるにゃー? 最後に会ったのは百年くらい前で、そろそろまた顔が見たいと思ってたところだからちょうどよかったにゃー。……アレ? 千年前だったかにゃ?』

不死王たちの時間感覚がユルユルになっているのはもういつものことだから気にしない。

言い出しっぺのゴールデンバットに、障害突破の切り札ノーライフキングの博士。

それに何故か俺も加わっての登山メンバーとなっております。

「何故俺まで!?」

俺、山登りにはこれっぽっちも興味はないし、不死山にも因縁ないんですが!?

しかし何故か登ることにもなった。

正直ゴールデンバットと博士の組み合わせが不穏すぎて傍で見張っておきたいのもあったし、さらにもう一つ、俺も一緒に登らねばなるまいと思った特別な理由があるからだ。

その理由とは、これだ!

「ジュニアー、高いなー、お山だぞー」

「そこにやまがあるから、のぼるのだー」

我が長男ジュニアを、ヴィールがあやしていた。

ジュニア。

&ヴィール。

そう、今回の登山メンバーにこの二人も入っていたのだ!

ことの発端は、具体的な登山行程を話し合っていたところにジュニアが寄ってきて『自分も行きたい』と言い出したからだ。

普段我がままなど言わない手のかからない子ジュニアだからこそ、この唐突な

駄々には驚いたが、そんなジュニアだからこそたまの我がままくらい叶えてやりたい。

ということで連れて行くからには父親の俺も同行するしかない。

プラティは生まれたばかりの次男ノリトを見るために留守番。しかし代わりにジュニアの安全を確保する最強守護者ヴィールがついてきてくれたから、まあ安心だ。

「まったくニンゲンというのはヘンテコな生き物だなー。好き好んでこんな辺鄙なところへ登ろうとは……」

ロマンを一撃粉砕するヴィールの正論!

「しかも空を飛ぶこともできないニンゲンが歩いてだろ? 目的地に特にいいものもないのに、なんでそんな意味もない苦労を自発的にやろうとするのだー? ニンゲンってそんなにアホなのか?」

「やめてくれヴィール! それ以上趣味人の生き様を正論でボコボコにしないでくれ!」

「まあ、おれ様はジュニアの行くところならどこでもついていくがなー。そうだ、いっそおれがドラゴンの姿に戻って、皆を乗せて頂上まで飛んでやろうか? すぐ着くぞー」

おお、それは名案だな。

ドラゴンの翼をもってすれば、いかな世界最高峰でも一っ飛びで頂上まで突けるだろう。

「それで頂上で弁当食べて、記念写真撮って帰るか」

カメラ持ってないけど。

「おべんとう、たべるー」

「そうかジュニアー? アウトドア料理の準備もしてきたから、アツアツのホットサンドを作って食べようなー」

完全にピクニック気分の俺たち。

そこへ……。

「山を舐めるなあああああああッッ!?」

ゴールデンバットが激昂した。

「最近の若いヤツらは楽をすることばかり考えて! そんなことで山の真なる姿を知ったといえるのか!? 山を征服したといえるのか!? 山登りというのは山と人との真剣勝負なのだ! 正々堂々、自分の脚のみで登り切ってこそ、その勝負に勝ったと……、ぐぶぉッ!?」

「子ども相手にキレるな」

「すみません……ッ!!」

さすがにこれには俺も拳を振るわざるを得なかった。

そう言えばコイツ自身、独力で飛行する能力を持っているのにあえてそれを使わず山登りしようとしている。

物好きと言う他ない。

「そこに、やまがあるからじゃない」

「ん?」

「ここに、おれがいるからだ」

「んん?」

唐突にジュニアが言い出したことにわけがわからなかったが、何故かそれに一番反応したのはゴールデンバットだった。

「おお……! たしかにその通りだ……!」

「はぁ?」

「素晴らし子どもだ! この幼さで既に山に登ることがどういうことかがわかっている! オレは今、山の申し子と出会った!」

やめろ!

ウチの子を変な運命に引き込むな!

ジュニアにはもっと平和的な趣味に没頭してほしいんだが将来的に!?

『何してるにゃー? さっさと登るにゃー。モタモタしてると日が暮れるにゃー?』

少し上がったところで博士がピンと尻尾を立てている。

「そうだった! 山で夜を迎えるということは死と隣り合わせ! できるだけ早めに行動して、速やかに下山しなければ!」

シュタタッと速やかに登山モードに移るゴールデンバット。

「無論、世界一の霊峰たる不死山を一日そこらで手軽に征服できるとは思わない。征服とはつまり、頂上へ到達するということだ!」

「はい」

「日帰り登山やゼロ泊二日登山を強行することもできるが、それだと高山病のリスクが出て特に登山初心者にはお勧めできない。基本的に余裕を持ち、少しずつ山の空気に体を慣らしていくことが大事だ!」

「はい」

「だから本来は、山中にキャンプを立てて、数日がかりで山頂アタックしたいところだが、今日は子どもがいるから、それも無茶だ。山中テント泊は子どもには過酷すぎるし、夜になっても帰らないではお母さんも心配するだろう」

「お前、山が絡むと少し常識人になるの何なの?」

「そこで、今回はあくまで日帰りで、行けるところまで登って山の感触を確かめる偵察登山ということにしておこう。山頂まで行くことはないが、それでもルート選定や山の手強さの程度も知れて、後日の山頂アタックも有利になるはずだ!」

「はあ」

「山を舐めるな!」

なんだかよくわからないゴールデンバットの高揚で、俺たちは本格的に山へ進むことになった。

異世界一の山、不死山。

一体そこでは何が待っていることやら?