軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

621 大相撲・人魚場所

「相撲大会ッ!?」

何を言い出すんですかアロワナさん!?

それが第一の用件って、第一の用件は生まれたばかりのお子さんを俺たちに見せてくれることでしょう!?

違うの!?

「私が国王となって取り掛かった、重要な改革の一つです。人魚国で相撲大会を開く。それが王となって私が是非ともやりたいと思ったことの一つなのです」

「他に何かありませんでしたか!?」

何故、相撲大会なのか?

そういえば農場で一時期、相撲が流行ったことがあり、アロワナさんも王子時代ブームに参加していた。

人魚の下半身は、荒波の中を泳ぎ進むせいか非常に強健で粘り強く、そのパワーは薬で地上人化しても健在。

王子時代のアロワナさんは農場相撲では常に上位に食い込んでいた。

あの当時、相撲に熱狂するアロワナ王子を眺めて『人間、相撲しようや……』という河童を彷彿させられたほどだ。

あの時に撒いた種が、今頃になって芽吹いた!?

「この素晴らしい文化を、我が人魚国の民にも伝えたい。そう思って相撲大会を企画させたのです。王の権限を使って!」

大丈夫ですかアロワナさん?

暴君になってない?

「具体的な進行は、宰相のゾス・サイラ殿に全面的に任せましたから、完璧に仕立ててくれるに違いありません!」

「ゾス・サイラさんを追い込まないで!」

あの人、ただでさえ色々追い込まれてるんですから!

余計な作業を課さないでください苦労人なんです!

「その甲斐あって、武泳大会の直後に相撲大会を開催する運びとなりました。これもすべてゾス・サイラ殿のお陰です!」

滅茶苦茶タイトなスケジュールになっていません?

武泳大会自体が、人魚国を代表する一大イベントですよね?

その準備を進めつつ、間髪入れず別のイベント準備を進めるなんて運営側からしたら、どれほどの負担になるのだろうか?

「大丈夫でしょうゾス・サイラ殿なら!」

「ゾス・サイラさんを万能アイテム化しないで!」

「それでですな! 近日開催される相撲大会に是非とも聖者殿をお招きしたいと! もちろん参加者として!」

グイグイ話を進めてくるアロワナさん。

やっぱりこの人、相撲の話になると目の色変わるな。

「この大会は、ただ私の相撲心を満足させるだけではない。地上の各種族との交流を深めたいという気持ちもあるのです!」

相撲心って何さ?

「過去の聖者殿の武泳大会参加を、反省として取り入れたのです。海中にて行う通常の武泳大会ではどうしても陸人が不利すぎる。これからの、外界と広く交わっていくことを目指す新生人魚国においてこのままではいけないと!」

「それで相撲と……!?」

「そうです! 陸の上にて繰り広げる相撲であれば、陸人にも何ら不利はありません。土俵の中で戦いのスペースが限られる分、陸人の足に慣れない人魚でも対応しやすいでしょう! まさに相撲は、陸と海とを繋ぐ接点になりえるのです!」

主張がまるで河童。

「ゆえにこそ相撲の発案者である聖者殿にも是非ともご参加を! 実は人魚国では、聖者殿の人気が密かに上がっており、再び勇姿を見たいという声が年々大きくなっているのです。陸から殴り込みをかけて武泳大会準優勝をさらっていった猛者ですからな!」

海中で溺れて窒息という情けない敗因でしたけどね。

「相撲なら溺れる心配はありませんし、他にも魔国よりゲストの招来を打診しているのです! 上手くすれば人魔魚の三種族が交じり合って織りなす融和イベントがまた開催されるやもしれません!」

「いや、しかしですね……!?」

皆が誤解しているが、俺は別に戦闘キャラじゃないのだ。

修行なんかしてないし、修羅場をくぐったこともない。

だからそんないかにも少年漫画的なイベントに誘われても困るのですが!

「いいえ旦那様、ここは参加すべきよ!」

と言ったのはプラティ。

出産という大仕事を成し遂げたばかりの我が妻よ、何故!?

「わからないの? これこそジュニアとノリトに父の威厳を見せるチャンスじゃないの。華麗に優勝し、自分たちの父親が誰より強いのだということを示せば子どもたちはきっとアナタを尊敬するわ!」

父の威厳……!?

子どもたちからの尊敬……!?

何それ凄くそそる!

「そして兄さんの魂胆も同じじゃないの? 武泳大会を四連覇しただけじゃ飽き足らず、さらに陸人まで巻き込んだ大会で強さを示し、我が子から尊敬されたいのよ!」

「さすが我が妹……見事な読みだ。そう私の直近の夢は、成長した息子と親子で相撲を取ること! そのためにも今のうちから相撲を流行らせて、我が子モビィに自然と相撲に興味を持てる環境を整えるのだ!」

国王、政策にめっちゃ私情を絡めていた。

大丈夫若い王?

息子のことになると色々見境なくなってない?

「ここは……王妃様! 人魚王妃様! 夫を諌めるのもアナタの役目ですよ!」

パッファなら冷静な意見でアロワナさんを正気に戻せるはず!

生んだばかりの可愛い我が子を抱きかかえながらパッファは……!

「実はさ、伝言を預かっててさ……」

……と言ってきた。

伝言? 誰から?

「えーと『相撲大会には必ずオークボを連れてくるのじゃ! 参加させるのじゃ! いいな絶対じゃぞ!』とのこと」

「ゾス・サイラさんですか!?」

「冬のオークボ城から早くもオークボ分が切れてきたらしいんだよ。あの人に宰相を続けてもらうためにも相撲大会は重要な役割を担いそうなんだ。頼むよ、ここは観念してオークボと一緒に参加してくれよー」

ゾス・サイラさんも相撲大会開催に前向きだったとは……!?

そうか、ゾス・サイラさんは定期的にオークボに会って成分補給する必要があったんだな。

……それにプラティの言う通り、子どもたちから尊敬されたいという願望も俺の中にはある。

ここは腹を括って……。

出るとするか! 人魚国主催の相撲大会!

* * *

そして数日経った大会当日。

俺たちは用意された相撲大会、本会場へと訪れていた。

移動にはそんなに手間暇かからなかった。

主催者側が転移ポイントをあらかじめ設定してくれたから転移魔法で一っ飛びで来た。

「転移魔法ってホントに便利!」

特に子どもを抱えてるとなー。

普通なら赤ちゃん抱えて遠出なんて怖いけど、転移魔法さえあれば何かあってもすぐ家に戻れるし、ホント転移魔法バンザイ!

相撲大会参加メンバーは、俺たち一家に加えてヴィール、オークボ、それにゴブ吉にもついて来てもらった。

今回の訪問は、新たに誕生したノリトをお祖父ちゃんお祖母ちゃんに見てもらうという目的もあるので、子どもたちは家でお留守番という選択肢はなかった。

一応、国主催なので前王夫妻もゲストとして出席しているらしい。

ジュニアは既に二歳になって手間がかからなくなってきているというか……!?

二歳にあるまじき手間のかからなさだし……!

あとはプラティと共にヴィールが見てくれていれば安心かなって。

そしてオーダーが出ている以上オークボを連れてこないわけにはいかない。

ゾス・サイラさんの心を救うため、今日はオークボには大いに活躍してもらいたいところだ。

「……で、ここは具体的にどこなんだ?」

「人魚族が保養地として利用している岩礁地帯ね。岩場が入り組んでいて陸人の船はとても入れないけど、アタシたち人魚族にとっては都合がいいのよ」

プラティが説明する。

「何しろ所々に岩場が突き出ているから、人魚姿のまま海上に出るにはもってこいの地形なのよね。……土俵も比較的大きな岩場の上に設定したみたい。陸人用の観覧席も岩場に作ってあるみたいだから、そちらに行きましょう」

「お、おう……!」

会場に桟橋のようなものが設定してあって、それを伝って各岩場へ移動できるようだ。

人魚たちは普通に泳いでいけばいいから、ゲストの地上人専用かな?

観覧席に着くと、早くも見知った人に遭遇できた。

「魔王さん!?」

「聖者殿、会えると思っていましたぞ!」

魔国の主、魔王さんがいた。

やはり人魚国の国を挙げてのイベントとのことなのでゲストとして招待されたのだろうか。

「我も参加しますぞ」

「参加するんですか!?」

「無論、我とて聖者殿の下で相撲の楽しさを教え込まれた一人ですからな! その相撲を公の場で競い合えると聞いて、政務を置いて乗り込んできましたぞ!」

魔王さんまでやる気っぷりが強い。

傍らには、二児を抱えた魔王妃のアスタレスさんも座っていた。

いよいよ彼女も魔王妃として公務に復帰か。

……いやこれ公務?

「是非とも本戦でアロワナ殿や聖者殿に立ちあえることを楽しみにしていますぞ! 土俵で当たった際には、国同士の親交など気にせず全力でぶつかりますゆえ!」

そして魔王さんのガチ感が凄かった。

何やら平穏に終わる予感がしないまま、人魚国主催の相撲大会は幕を開ける。