軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

622 土俵入り

そうして始まりました人魚国主催……。

烈!

大相撲やりたい祭!

まずは主催者を代表し、人魚王アロワナさんが開会の辞を述べる。

「我が親愛なる人魚国の民よ……。そして招待に応じてくれた各国の重鎮たちよ……。この晴れの日に集まってくれたことを心より感謝する」

あ、これ話の長くなりそうなノリだ。

アロワナさんの言葉遣いに校長的なものを感じ取った。

「これからの時代……世界は垣根を取り払い深く交わっていくことになるだろう。それは我が人魚国とて例外ではない。今まで深い海に潜り、外界との接触を断ってきた我々だが、それではいかんという段階にきている。……井の中の蛙、大海を知らず!!」

アナタたちが住んでいるのは大海ですけどね。

「本日の催しは、我ら人魚族が外を知るきっかけとして用意した。先日武泳大会が行われ、海にて最強の男たちが競い合ったばかりであるが……それで満足してはいけない。真に最強を目指すなら、海から上がり、地上にすらチャレンジするスピリットがなくば!」

実際地上にて一年ほど武者修行してきたアロワナさんだからこそ実感のこもるセリフだ。

観客として集まった人魚さんたちもそのことを知っているから、言葉の迫力に息をのむ。

「今回の相撲大会はあくまで試みであるため、参加者の公募は行っておらぬ。先日の武泳大会、決勝出場者の中から打診を行い、応じてくれた者のみが参加している。当然この本年優勝者アロワナも、この相撲大会に一選手として参加する!」

そう発表した瞬間、会場が大歓声に沸き返った。

やはり若き人魚王アロワナさんの人気は国民からも絶大なのだ。

「さらに陸からも魔族人族の双方から手強い猛者を招聘した! 人魚国のマスラオたちは、果たして彼らに太刀打ちできるかな!? それを実証するためにも始めよう! 地の上に最後まで立っていた者が勝つ相撲という戦いを!」

海上をプカプカ漂っていた人魚たちの中から、尾で海面を叩き、その反動で跳躍する者たちがいた。

いずれも男の人魚だ。

筋骨隆々で逞しく、いずれも猛者だということが一目でわかる。

彼らが大相撲大会に出場する……先の武泳大会で好成績をとった強豪たちなのか!?

「我が頼もしき剛健人魚たちよ! 相撲で競うには陸人の姿になり、尾びれを二本の足に変えなければならぬ! 支給されし陸人化薬を服用するがいい!」

促され、次々と瓶を呷っていく男人魚たち。

あのすべてに、人魚を地上人へと変える薬が?

「陸人の特徴たる、大地に立つ二本の足! それが最大限の意味を発揮する相撲こそ、陸を代表する競技と言って過言ではない!!」

過言です。

それはともかく次々と薬が効果を発揮し、男人魚の下半身が光に包まれ変化していく。

さすが鍛え抜かれた男人魚だけあって、変化した足も筋肉に覆われたしなやかなものだった。

そして、その変化した右足と左足の中間にあるブラブラしたものも……。

「Oh……!?」

薬で変化した人魚たちの下半身は、当然着るものなんて伴っていないから、当然のごとくその中身がブラブラと!?

しかも大会参加者はたくさんいるからブラブラするものも数多く!?

とても公には晒せないものが白日の下、百花繚乱だあああああッ!?

「久しぶりに見たな……! 人魚さんの露出ネタ……!」

プラティとかアロワナさんとか陸の事情に精通しているから忘れ去られたネタだったのに。

「ジュニア! ノリト! あんな汚いもの見ちゃダメよ!」

「ダメなのだーッ!!」

今では息子たちの視界から追いやらんとするまでになった。

アスタレスさんも顔を真っ赤にしながら長男ゴティアくんの目を覆っている。

「……ランプアイとハーフムーンを留守番させておいて本当によかった……!!」

と呟いたのは同じく参加者陣の中にいたヘンドラーくぅんだった。

何度か地上を往来したことのある彼だけは、しっかり腰巻で覆っていた。

* * *

地上に出る時はしっかり股間を隠さないといけません。

そのことを人魚さんたちに広めるというだけでもこの大会の意義はあったのではあるまいか?

とにかく、ちょっとしたトラブルに見舞われながらも相撲大会は遺漏なく進行していく。

フルチンだった下半身にはマワシが着けられた。

相撲には欠かせないもので、上手く状況が合致したように思える。

大会の進行は、前の世界の本家本元相撲場所と違いトーナメント形式で行われるようだ。

参加者は、事前の武泳大会で選りすぐられており最初から高レベルの取り組みが予想される。

「シャークに障るぜーッ!!」

第一試合。

いきなりヤバそうな人が土俵に上がった。

「このシャーク将軍様を陸の上で戦わせようなんて、新王様も小シャークなことをなさるぜええええ!! フカいお考えがあるのかなああああッ!?」

あの人は?

以前どこかで会ったような気がするけど、どうだっけ?

「かつてこのオレ様を叩きのめしたプラティ様の旦那と、再戦の機会があるっていうから参加してやったのによおおおおッ! トーナメントで勝ち上がらなきゃいけないなんてまどろっこしいのは興ザメだぜえええええッ!?」

ああ思い出した。

一昨年の武泳大会で一回戦、俺と当たったシャーク将軍さん?

「まあ、オレ様にかかれば陸の競技なんて余裕シャクシャークだぜええええええッ!! プラティ様の旦那か、アロワナ陛下に当たるまではオレの快進撃は停止フカだぜええええッ!! 人魚将軍の力で陸の者どもの目がサメるぜええええええッ!!」

そして取り組み開始。

直後。

シャーク将軍は吹っ飛ばされた。

「ジョオオオオオオオオズッッ!!」

会場は、強豪として名を馳せた将軍の瞬殺で静まり返る。

ここまでの暴挙を成し遂げたのは一体何者か?

オークボだった。

俺と共にやってきたオークボ。ゾス・サイラさんの要請で参加した彼が即座に強さを見せつける。

「何だあの陸人は……!?」

「人じゃない? モンスター?」

「武泳大会決勝常連のシャーク将軍が一発で……!? そんなバカな!? 陸人はそんなに強いのか!?」

シャークさんはあれで人魚界の強者として認知されていたのだろう。

そんな彼がワンパン(張り手)で飛ばされたことにより、彼らの度肝が抜かれた。

「やったぞオークボおおおおおッ! さすがわらわの推薦枠なのじゃあああああッ!!」

観客席の一部から歓声が上がっている。

ゾス・サイラさんだ。

「おぬしにかかれば人魚国の猛者などザコでしかないわああああッ!! 今日はおぬしの強さを存分にわらわに見せてたもれえええええッ!!」

いや、宰相のアナタが露骨に他種族に肩入れしていいんですか?

と思うが、日々政務に忙殺されるゾス・サイラさんにとって想い人のオークボが無双してくれることこそ最高のストレス解消。

人魚国の未来のためにも、腕自慢のグラップラー人魚たちはオークボに蹴散らされた方がいいのか?

その一方、別の取り組みで……。

「ベタ家長男ワイルド! 今年は何とか弟ヘンドラー共々決勝トーナメントまで勝ち抜いて、相撲大会にも出場する権利を得たぞ! ここでも勝ち抜きベタ家の存在をアピールするぐぶふぉおッ!?」

口上が終わるより早く相手をすくい投げたのは、何者か?

農場からやってきたもう一人の刺客、ゴブ吉だった!

そうこの相撲大会、オークボだけでなくゴブ吉も参加しているのだ!

オークとゴブリン、我が農場部屋が誇る二枚看板が揃い踏み!

どうしてオークボだけでなくゴブ吉まで来ているかというと、ある女性からの要請のためでもある。

「きゃー! ゴブ吉様、凛々しいですわー!」

年甲斐もなく黄色い声援を上げるのは、カープ教諭。

マーメイドウィッチアカデミアに勤める人魚の女教師だ。

「アナタ様の素早くて的確な動きこそ世の理想ですわ! その素晴らしさを粗暴な男人魚たちに見せてくださいましー!」

人魚学校の生徒一部が農場で学び出したため、その付き添いとしてやってきたカープさんではあったが……。

なんか気づいたらゴブ吉に惚れていた。

人魚たちは本当に惚れっぽくて油断も隙もない。

「あー? なんじゃカープお前、あんなひょろっちいのが好みなのか? 男の趣味も悪いのう?」

「なんですゾス・サイラさん? ゴブ吉様のあの引き締まって無駄のないお体こそすべての生物の理想ではありませんか。アナタ贔屓のデブとは違うのですよ?」

「デブとは誰のことじゃーッ!? オークボはなああッ! あれは筋肉の塊なんじゃよ! それこそ効率化の極みじゃあああッ!?」

「大きすぎることが効率ではありませんのよ! あんな筋肉ダルマ、ゴブ吉様の素早さの前ではウドの大木ですわ!」

「あんなヒョロガキ、オークボのパワーに捕まれば一巻の終わりじゃろうが! カープお前と一緒で目先の効率しかわかってない浅薄じゃーい!」

「だったら見届けようではないですか、この大会でどちらの応援する殿方が勝つか! 正解は嫌でも決定しますわ! もちろん私の推測通りにね!!」

外野の方が厳しく争い合っておる……!?

どうして人魚はああも恋に燃え上がるんだろうと思いつつ、もっとも影響を被っているのは他でもないオークボとゴブ吉の二人なんだろう。

二人とも自分のペースで取り組みを楽しんでほしい。