軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

577 くたびれた傭兵

オレの名はグレイシルバ。

かつて人間国で傭兵をやっていた。

人族と魔族の尽きることなき戦い。それがオレたちにとっては生涯の安定収入をくれる飯の種だった。

しかし、そんな飯の種も今はない。

魔族が人族を倒して戦争終結してしまったからだ。

戦いを奪われた傭兵ほど惨めなものはない。

オレを含めた多くの同業は食い扶持を失い、儲けるアテも失って彷徨うばかりだった。

元々定まった主も持たず、漂泊する浮草のような存在でもある傭兵。

弱り目となっても頼る相手もなくば、ただひたすらに沈んでいくばかり。

せめて勝利したのが自軍の人間国ならいくらかマシだったろうが、敗者側に身を置いたとあっては落ちぶれようも星が落ちるようであった。

それでも人間国が決定的敗北を喫して滅ぼされてからもう数年が経つ。

この時間の間に、同じ傭兵でもこの困難をうまく乗り切った者、乗り切れずに沈んでいった者の明暗が益々ハッキリ分かれるようになった。

結局のところ主なき傭兵稼業は自分自身の才覚こそが頼み。

実際くいっぱぐれた傭兵稼業の中にも、今の時代の激動を好機として逆に成り上がっていく者すら出始めた。

その代表格というべきは、あのブル・ビルソンだろう。

今ではピンクトントンなどと名を改めたそうだが。

冒険者……手に職を失った傭兵の転向先としてはもっともポピュラーなその道を進み、見事その頂点に立った。

元から冒険者登録して傭兵との二足の草鞋を履いていたというが、傭兵を廃業し冒険者一本に集中した途端にS級にまで成り上がるというのは前代未聞。

彼女以外にも大多数流入した傭兵崩れの新人冒険者を統率するため、冒険者ギルドが下した政治的判断とも言われているが、それでも当人の実力なくば実現しないことだ。

今の時代では珍しい獣人で、無双の怪力を誇り、魔王軍四天王と数度にわたる名勝負を繰り広げ、かつ女。

ここまで派手な実力実績を重ね持っているなら、それこそ傭兵からの転向冒険者として代表の地位に押し上げられるのは仕方がない。

彼女が存在感を発揮することによって、どれだけの傭兵が冒険者への転向を果たし、受け入れられたことか。

ピンクトントンは何百人という傭兵を飢え死にの危機から救った女神というべきだろう。

しかしすべてが救われたわけではない。

傭兵の中には、生まれつき世渡りが不器用だったり、犯罪歴があったり、また単純に性状残虐な者などがいて冒険者への転向すらままならない者が数千人といた。

そうした者たちも生きるからには食い扶持を得る必要があり、そうした連中が求める職は大抵がろくでもないものだ。

戦勝者となった魔族が敷く新体制に反発して、陰で蠢く地下組織。その手足となって刃を振るう者。

人間国各地に古くからある犯罪組織の用心棒に成り下がる者。

そしてみずからが犯罪者となって、盗賊山賊へ落ちぶれていく者。

傭兵は、結局のところ殺し合いをする仕事であるのだが、それも究極的には戦場という限定された空間の中だけでの話。

戦場は、ある意味であまりにも異常な空間だ。

普段人々が生きている日常の常識がほとんど通用しない。

あまりにも長く戦場で生きていると、その異常さに気づけなくなって戦場の理屈を戦場の外へ持ち出してしまう者が出てくる。

そう言った連中が野盗となり人攫いとなり、侠客の用心棒となったりテロリストの手先になったりと道を踏み外していく。

前置きが長くなってしまったが、オレ自身長い人生を傭兵として過ごしてきた男。

器用な方ではないということは自分でもわかっていた。

あのピンクトントンのごとく器用に自分を売り込み、まったく新しい自分を再スタートさせるなど、とても能力が追い付かない。

かといって犯罪に手を染めるほど良心が擦り切れてもいなかった。

戦場と日常の区別がつかなくなり、家族や世の中ために生きようとする人々の平穏を身勝手に引き裂くなどオレにはできない。

黙って見過ごすことも。

かつて戦場で一緒に戦った傭兵仲間にも、山賊団を立ち上げるのに俺へ声をかけたりもしてきた。

『冒険者になることもできず、稼ぎもないなら一緒にどうだ?』と。

オレはそんな連中を例外なく斬り伏せて、魔族占領府へ引き渡してきた。

賊が、この地に蔓延ることは許せなかった。

オレたち傭兵は、第一の目的には金儲けであったが、戦う理由は国土を異種族から防衛し、平和に生きる人々を守るためではなかったのか。

それなのに。

戦争が終わったから、自分たちが平和を脅かす側に回ってどうする?

そんな衝動からオレは、犯罪者に堕ちたかつての傭兵仲間を率先して襲い、ひっ捕らえることを繰り返した。

利ととったのか、魔族占領府はオレの行動を推奨し、専用の役職を与えて犯罪傭兵狩りを支援した。

皮肉なことに、おかげで俺は給金を貰うことができ当面食うに困らずに済んだ。

オレのやることに追随して犯罪傭兵を取り締まる仕事に就いた元同業も多くいた。

オレたちは『同類狩り』などと呼ばれて揶揄されることもあったが、それでも旧人間国の平和を守り、戦争時から変わらず誇りを守って生きていけていると自負があった。

もっともそんな生活も長くは続かなかったが……。

魔族占領府に飼われて、犯罪者となったかつての傭兵仲間を取り締まること一、二年。

どうやらオレは派手に活躍しすぎたようだ。

犯罪傭兵を捕まえる傍ら、犯罪組織を潰したこともあったし、大きなテロ事件を未然に防いだことも何度かあった。

その陰でオレの顔は売れてしまい、犯罪者たちのブラックリストに名が挙がってしまったらしい。

任務から外れての休暇中に襲撃を受けたこともあった。

確実に、ヤツらは自分たちの犯罪行為を円滑に進めるため、邪魔者であるオレを排除しようとしているのだろう。本腰を上げて。

そんな気配が如実となった矢先、オレは魔族の占領府に呼び出しを受けた。

対応に出たのは驚くことに総督府を取り仕切るマルバストス総督。

オレごとき傭兵への対応にトップみずからお出ましとは随分大仰なことだ。

「グレイシルバくん、キミの特別討伐隊長の任を解く」

ああ。

そういやそんな名前だったっけかな、オレが占領府に身を寄せるのに貰った肩書は。

オレの真似をして占領府に身を寄せ、かつての同業を捕まえる仕事に就く元傭兵どもの集団が特別討伐隊。

結成されて一年そこそこだが、その間に数え切れないほどの犯罪者たちを潰したものだった。

「この一年、キミはよく働いてくれた。働きすぎなほどにな。それは深刻な反動を生むことにもなってしまった」

多くの犯罪を取り締まったオレは犯罪者からの恨みを買い、今では暗殺リストのトップに名が挙がっているという。

目の前の総督の名前も載ってるだろうけどな、きっと。

「今や我々の力をもってしてもキミを暗殺から守りきることは難しい。特別討伐隊の任務を遂行しながらではなおさらだ。そこでキミは速やかに現職を副隊長に譲り、引退したまえ。それがキミの命を守る最善の方法だ」

「そしてオレはまた無職になれと?」

そもそもは傭兵の仕事がなくなったことによって起きた、この混乱。

犯罪者に堕ちた連中も、それを取り締まるオレたちも、どちらも元は戦争によって食い扶持を得る傭兵だった。

「まあ別にかまいませんがね。この仕事だって偶然の巡り合わせのようなものです。本来オレはなすがままに野垂れ死ぬのが、あるべき姿だったのかもしれません」

「そう言うな。キミの活躍に、我々は率直なる評価と感謝を捧げたい。キミたちが協力してくれたお陰で人間国崩壊後の混乱を予想以上に速やかに治めることができた」

「そのお陰でオレたちは『共食い』呼ばわりされることになりましたが」

もっとも同じようなノリで『裏切者』呼ばわりされるのは心外だがね。

お題目とはいえオレたち傭兵も人間国の平和のため戦争に参加した。

そして終戦後に犯罪者となって人間国の平和を乱そうとする者こそが真の裏切者だろう。

「どの道オレは、斬った張った以外の生業はできない男です。その上同業殺しの仕事で多くの恨みまで買ってしまいました。この上占領府から放り出されては、復讐に燃える連中の獲物となるばかりですね」

恨みを晴らすため、最高に苦しい手段でもってジワジワ嬲り殺しにされる未来しか見えない。

まあ、ここまで来たら生に執着も薄くなってきたから慌てもしないが。

「無論、我々もただキミを放り出すマネはしない。我が占領府に、そして魔国人間国双方を含めた世界全体へここまでの貢献をしてくれたキミを見捨てては、私のプライドが成り立たない」

「プライドを大事にするのはけっこうですが、ではどうするのです? 誰にも手出しできないようオレを座敷牢にでも放り込みますか?」

「実は既に、キミの新しい仕事を用意している。キミさえ『いい』と言うならば、そこで新たな生活にチャレンジしてみないかね?」

新しい仕事?

どうせまた血なまぐさい汚れ仕事なんだろうがな。

オレは生涯そういう生業から抜け出せないらしい。

だとしたら腹を括って、修羅の道を死ぬまで歩もうではないか。

「いいでしょう。どんな職だったとしても復讐者どもの贄になるよりはマシでしょうし、やらせていただきますよ」

「それはよかった。では、キミの新らしい雇い主となる御方を既に呼んである。くれぐれも粗相のないように。ある意味、魔王様と同等の御方だ」

え? 誰?

魔王って魔族の王様で、人間国を併呑した今地上の覇者と言っていいはずだよな?

その魔王と同等って、もはや神ぐらいしか思い当たらないんだが。

「いやー、初めましてですー」

そう言って総督室のドアをガチャリと開けて入ってきたのは何の変哲もない普通の男だった。

これが魔王と同等?

「アナタがグレイシルバさんですね? 突然のことですみませんベラスアレス神からどうしてもアナタを助けてほしいって言われまして! それでね? こっちもちょうどアナタにぴったりの仕事がありまして、こうなったら是非引き受けてほしいなって!!」

え?

どういうこと?

今ベラスアレス神て言った? なんで軍神の名前がここで出る。