軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

576 軍神との会話

『いや、私は元々天空神の所属なのだがな……』

前回から引き続き……。

軍神ベラスアレスが言う。

『だから源流が魔族であるエルフを助けるのはおかしいのだが、私は同時に負けいくさを司る神でもある。戦争に敗れ、居場所を失った者に救いの手を差し伸べてやらねばならんのだ』

それでエルフの祖先を助けてやったという。

盟約を交わし、正式にエルフ一族の守護神に就任して数千年。

彼女たちの住む森を聖域化したり、様々な知恵や特殊能力を与えたり……。

時に攻め込む外敵を撃退するのに力を貸したり、陰に日向にエルフを守り通してきた。

『まあ、神みずから下界の争いに介入するのは、神々の規制が緩かった伝説の時代に限られたことだがな。今やったらコンプライアンスがどうとかで非常に面倒くさい』

「神様の世間も大変なんすね……!?」

『だからここ数百年はまともな守護をしてやれずに申し訳なかったんだが……。対してゼウスのバカオヤジは法の隙をついて好き放題やりやがるし……! しかしそれらの困難を乗り越えてよく繁栄を築き上げたエルフたちよ! 守護神として誇りに思うぞ!』

軍神ベラスアレスの大号に、その場に集ったエルフたちは一斉に跪くのであった。

「ははーッ! 我らこそ古の守護神様へ直接目通りが叶い、恐悦至極に存じます!」

「守護神様! 我ら本日、特に用もなく守護神様をお呼びしたわけではありません! お願いしたいことがあります!!」

そんなエルフたちの訴えに、眉をピクンと上げる軍神。

『何? 願い事とな?』

「はい」

『できることなら聞き届けてやりたいところだが、ヒトの迷惑になるようなことはいかんぞ。特に他種族に攻め込もうとかは。今、下界は今までにないほどに安定し、平和に満ちているのだから』

良識的すぎる軍神。

戦争を司る神だけあって現場を知っており、その分感性がまともってことなんだろうか?

「ご安心ください。我々は新たな戦乱など望んでいません。むしろ逆、この世界に平穏をもたらし、人々の心を安息させる手助けをしたいのです」

と言うエルロン。

言ってることが殊勝すぎて却って胡散臭い。

「私たちは、これからあるものを世間に広めていきたいと考えています。その品物に是非とも神のお墨付きを頂ければ、万事をやり易くできるのですが……」

『品物? 一体なんだ?』

「こちらでございます」

エルロンが差し出す茶壷。

その中には青々とした新茶がギッチリ詰まっている。

『? 何だこのカラカラになった葉は?』

「これは茶葉と言いまして、茶を淹れるためのものです。こちらの聖者様がもたらしてくださいました」

俺に話を振らないで。

これ以上神様に目を付けられたくない。

「この茶を飲めば精神安定、気力充実。荒ぶる心を鎮め、失われた気力を湧き起こし、人が果たすべきあらゆる仕事を捗らせてくれることでしょう。それでいて美味しい!」

『はーん? そんなものに軍神ベラスアレスの賞賛を得ようと?』

軍神、たちまち不機嫌そうになって。

『舐められたものだな。軍神にして、あらゆる残虐と暴虐と虐殺の主であるこの私に、たかが飲み物ごときの後援者になれと言うのか? 私が司るのは血みどろの戦い。すべての破壊、すべての荒廃こそ似つかわしい私に、のどかに一服などもっとも遠いことではないか』

とイキッたことを言う。

さすがに軍神。戦争を司るこの神と親しむのは無謀なことなのか。

「では試しに、一杯ご賞味いただきましょう」

『うむ?』

その場で茶をたて始めるエルロン。

しかも茶筅で抹茶をグルグル掻き回す本格的なヤツ。

「どうぞ、お飲みください」

『お、おう? しかしな、何をされようといくさ神である私に平穏な物事など似合わんだろう? 他の神に笑われるのも嫌だし、もっと別の……』

とゴチャゴチャ言いつつも、勧められたお茶をきっちり飲むベラスアレス神。

基本いい人だよな、神だが。

そして……。

『うま……ッ』

なんと満ち足りた表情?

『何だこの……喉を通った瞬間、全身に染みわたるような温かみと落ち着きは……!? 味も渋味があるようでまろやかな……酒とはまったく違う味わいではないか』

「酒は、飲む者を酔わせて、時に体を痛めるほどの強い刺激を与えます。しかしこの茶は逆。どこまでも飲む者を労わり、味にもそれが如実に表れています」

『うむ、いい……!』

またベラスアレス神が感涙しだした。

え?

お茶の味に感動して?

『この世にこれほど優しさに満ちた飲料があったとは……!? よいのぅ……! 舌福よのぅ……! この茶が世に行き渡れば、きっと優しさや思いやりも世に行き渡ることだろう……!!』

「さすれば、その助けを是非我らの守護神にもお願いいたしたく!」

『よかろう』

うわ簡単に決まったぁ……。

軍神、案外と簡単にほだされる。いや意外でも何でもない。

コイツ怖そうに突っ張ってるだけの、ただのいい人だ!!

『はあ……、しかし美味い』

ズズズ……。

『味がいいだけでなく、この瑞々しい緑色が目に落ち着きを与えてくれるな。他の色ではこうはいかん。赤は激しすぎるし青では寒々しい、黄色は目がチカチカする。緑だからこそここまで落ち着きながら、かつ生命力を与えてくれる色合いとなるのだ』

「何かいっぱしのこと言ってる!?」

評論家気取り!?

戦争の神ならもっと四の五の言わずに『皆殺しだヒャッハー!』みたいな感じにならないの!?

「つきましては茶を広めるため、茶を収める容器なりに軍神ベラスアレス様の紋章を刻み付けたく……」

『かまわんぞ。したいようにするがいい。軍神たる私のお墨付きとなれば、盗賊も天罰が怖くて手を出せんだろうてな!』

ハハハハ、と笑いまた茶を啜る。

「それだけではないぞえ? これから各地へ売り出す茶にベラスアレス様の紋章がつけば、それは一目で『エルフゆかりのもの』という証明になる」

エルフ王さんが小声で言う。

「ベラスアレス様を信奉しているのは我らエルフだけじゃからのう。これがハデス神とかアテナ女神とかだと、そうはいかぬ。あれらの神を信奉する種族団体は他にもあるからの」

「はあ……!?」

「これでパチモン対策はバッチリというわけじゃ」

エルフの商魂たくましいいいい……!?

既に先の先を見据えているじゃないか?

「ここまで万全を期して茶を売り出していこうとは、エルロン宗匠の並々ならぬ決意がうかがえるのう。自分の作る皿や碗にはここまでしなかったのに……」

「アイツはどこに行こうとしてるんでしょうかね……?」

最近エルロンが、俺の想像を超える進化を果たしていて怖い。

彼女の世界はどこまで広がっていくのだろう。

そして、それと同じぐらい今俺が戦慄しているのは、あの軍神ベラスアレスだ。

戦争を司る神なんて恐ろしげでいるものの、段々わかってきた。

あれはただの気のいいオッサンだ。

何やかんや言いつつも、こっちのお願いを聞いてくれる。

『……はー、茶が美味い……うまかっちゃん……』

しかもさっきからお茶の効能で和やかになりまくっているではないか。

軍神としての尖ったところがどっかに行ってしまった!

「あの……! 私からも軍神ベラスアレス様にお願いしたいことがあります!」

『お前は何者だ?』

「この農場で木工細工の仕事をしているミエラルと申します!」

うむ。

彼女はたしかにウチの農場に住むエルフの一人ミエラルだ。

かつてこの農場に訪れた冥神ハデスや海神ポセイドスをそのままモデルにして彫像を拵え『まるで本物そっくりじゃあああッ!!』という至極当然な感想を得て、荒稼ぎしたという経歴の持ち主だ。

「私は木工職人として木を彫って彫って! これまでいくつもの神像を拵えてきました! しかし不覚にもこれまで自族の守護神であるベラスアレス様の像は作らずに来ました!」

『気にしなくていいよ』

「しかしこうして実物を目にできたからには、それを参考に是非とも渾身のベラスアレス像を彫刻いたしたくお願いします。これまで別の神の像を彫って培ってきた技術のすべてを注ぎたいと思います!」

『よかろう』

ほらもう何でもイエスマンになっちゃってる!

『しかし我が似姿を示すからには厳めしく恐ろしげに彫るのだぞ! 軍神が優しげでは困るからな! 悪魔すら泣いて逃げだすような身の毛もよだつおぞましい像に仕上げるがよい!』

「邪神像かな?」

しかし俺は知っている。

ミエラルは結局インスピレーションに従って、偉大にして輝かしく情け深い軍神ベラスアレス像を彫るんだろうなと。

『何コレ如来?』とかなっちゃいそうな。

そして自身のイメージとまったく違うものができても『まあいいや』で済ましてしまうに違いない!

この軍神!

今まで農場にやってきた神の中でも、明らかに一線を画した人格者!

ってうか本来、神ってこういうものじゃないんですか。

『それはそうと、そこな男よ』

「はい!? 俺ですか!?」

なんかここに来て唐突に俺が名指しされた。

『お前のことはよく伝え聞いている。我が兄弟神ヘパイストスの加護を受けた聖者であろう? 我が母神や弟神が迷惑をかけているようで私からも詫びておく』

「本当にいい迷惑ですよ」

ヘラ女神やヘルメス神から被ったムカつきを思い出して、ついつい本音が出てしまった。

『うむ、天界に帰ったら私からも注意しておくので勘弁してほしい。……それで、そうして母が迷惑をかけている上で心苦しいことなのだが、私からも一つ頼みたいことがあるのだ』

「なんでしょう?」

『私は戦乱の神として、つい数年前まで繰り広げられてきた種族間戦争の後始末を気にしている。人族と魔族の悠久とも思えた戦争に翻弄された者を救う手立てに、協力してはもらえぬだろうか?』