軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

578 マスター就任

はい、俺です。

喫茶店の話を進めるよー。

魔族商人のシャクスさんから、魔都で開く喫茶店の予定地を見繕ったと連絡が来たので実際に行って確認しにいくことにした。

重要なことはこの目でたしかめないとね。

ということで転移魔法で魔都へと渡り、シャクスさんの案内で辿りついたのがここ。

「いい雰囲気ですね……!」

目の前には、いい感じに古びた洋館風の建物があった。

中に入るとカウンターがあって、いかにも飲食店という内装になっている。

「これなら建て替えとかする必要もなく、すぐ開店できそうですね。オークたちが寂しがりそうですが……」

建築マニアのアイツらは隙あらばすぐでっかい建物を拵えようとするから。

まあリフォームぐらいは必要かな?

ミエラルにお願いして立派なイスやテーブルを作ってもらおう。

「メインストリートからやや外れた裏路地にございますが、その分喧騒から離れて静かに過ごせましょう。『雰囲気を大事にする』という聖者様の御注文に適うと思われます」

「大変いいですね!」

さすがシャクスさん。

俺の要望にピッタリと合った手ごろな物件を見つけてくるとは! しかもこんなに手早く!

「凄くよい物件ですね! きっと大人気なんでしょう!?」

それにカウンターやらなんやら必要な設備も揃っていて至れり尽くせり。

こんな優良物件が、人目にもつかずここまで売れ残っていたなんて、何と幸運なんだろう!?

やっぱりお高いんですか? 地代が?

「ハハハ……、それがですね……」

なんかシャクスさんが乾いた笑いを漏らした。

「元々この土地には好事家が開いたバーがありまして。それこそ趣味全快で店内をコーディーネートし、メニューにも拘り、完璧に自分好みな店に仕上げたそうなのです」

カウンターがあったりするのって、その名残?

でも今、空き家になってるってことは……?

「あまりにも自分好みを追求しすぎたがために客の理解を得ることができず、経営不振に陥って最終的には閉店しました。それ以来、新たな買い手も付かずに浮いたままとなっている土地です」

思ったより世知辛い来歴の土地だった。

「先にも言った通り、メインストリートから離れていますので人もあまり通りがからず、そういう意味でも厳しい立地です。その上、最初の経営者が心血注いで建てた店は細部まで拘り、壊して新しい店を立てるということもしづらく……!!」

ということで過去にも何回か、建物ごと利用して飲食店が新規開店されたこともあったらしいが、結局上手くいかず撤退していったという。

いわくつきの土地じゃねーですか。

「なので聖者様にも強くお勧めできる土地ではありません。他にも候補地はありますので、それらを一通り見終わってから決めていただくのが最善かと……!」

「ここにしましょう」

「ええええええええええッッ!?」

即断即決の男、俺。

大通りからちょっと離れているのも隠れ家感があっていいし、何より建物の雰囲気が気に入った。

まさにザ・喫茶店となるべき立地だ。

多少の人通りの不利など跳ね返して見せるさ。

俺のコーヒーにはそれだけの力がある!

「よ、よろしいのですか? もちろん、こんなゲンの悪い物件なので料金は割安とさせていただきますが」

「一括払いで」

「上客ッ!?」

今までの色んな企画で入ってきたお金が唸るようにあるので。

ジュニアや、これから生まれる第二子を養育するためにも多少は蓄えておいてとプラティから言われているが、それを差し置いてもまだ唸るほどあるから大丈夫!!

「本当に聖者様は神様のような御方です……! それでは開店準備のために入れる業者などは……!?」

「全部こっちでやるんで大丈夫です」

「ですよね……!?」

たとえ年季の入った良建築であろうと空き家の期間が続くと荒れるので、手直しはウチのオークチームにお願いしよう。

一から建てられないのを不満がるかもしれないが、既存のいい建物を間近に見る機会は勉強になって喜ぶ可能性もある。

テーブルや椅子などの調度品はミエラルたちエルフ木工班にお願いして、食器類調理器具の類も順次エルロンやポーエルに作製してもらって入れていく。

……エルフたちは自分らのお茶企画に傾注して脇目を振らないかもしれないけれど。

「金払いはとてもよろしいのですが、大抵のことは自分たちで完璧に行って余分にお金を落とさない……! 聖者様は手強いお客様です……!」

なんかすみません……!?

お詫びに土地代には多少色を付けて支払いますので……!

「しかし吾輩は商人! 商機をそう簡単には逃がしませぬぞ!」

「諦めない!」

「店を開くからには従業員が必要でしょう! 人材はこちらで用意することが可能です!」

と言って詰め寄ってくるシャクスさん。

「居酒屋ギルドに協力をお願いして、実働経験豊富な接客スタッフを三千人待機しております!」

「多い!?」

「聖者様のゴーサインをもらい次第、すぐさまこちらに馳せ参じ、服務することができます。吾輩と、居酒屋ギルドマスターのサミジュラ殿が折り紙を付けた人材です! きっと役立つことかと!」

いや、これから改装とかしないといけないんだから今すぐは無理だよ。

開店準備は必要。

それに……。

「もう店主は誰にするか決めてあるんですよね……!」

「ええッ!?」

今までシャクスさんに言ってなくて、すみませんが。

というわけでお入りください。

「この喫茶店でマスターを務めていただくことになったグレイシルバさんです」

「よろしくお願いする」

登場する中年男性。

引き締まった体つきに、歴戦を思わせる鋭い眼光。

一目でわかる、カタギじゃない気配。

それもそのはず、この人は幾多の修羅場を潜り抜けてきた元傭兵なのだから。

「こ……、この人を店主に……!?」

案の定、グレイシルバさんのただならぬ気配を感じ取ってシャクスさんが震えている。

恐怖で。

「あの…………、この人見るからに真っ当な感じではありませんし……それに見た感じ人族ですよね? 魔国の首都では悪目立ちするのでは?」

「これからの時代はグローバルです」

魔族の街で人間族がコーヒーを淹れて何が悪い?

きっかけは降臨したベラスアレス神の依頼で、彼の保護を引き受けたことだった。

戦争を司る神であるベラスアレスさんは戦後処理にも相当気を配っていて、そんな中でグレイシルバさんのことに注目していたそうな。

犯罪者を取り締まるグレイシルバさんは、間違いなく戦後の混乱を収束させるのに大きく貢献していた。

しかし、このままいくと逆恨みした犯罪組織によって謀殺されてしまう未来を見たベラスアレス神は、神様として直接手出しできない代わり俺に対処を託したのだった。

「まさかオレの行いを神様がご覧になっていたとは……!」

そんな話をしてから、ことあるごとに感涙に咽ぶようになったグレイシルバさん。

これが戦場帰りによくあるというフラッシュバックかな?

「その上このような救いの手を差し伸べてくださり、さらに新しい人生の舞台まで用意してくださるとは……! ここまでしていただいたからには神と聖者様の御厚恩に全力で応えねば……! 斬った張ったしかできないなどと甘えたことを言わず、一生懸命コーヒーを淹れられるよう励まねば……!」

グレイシルバさんもやる気たっぷりなようでよかった。

「あの……ですが何故、彼をマスターに? 一連の流れは了解いたしましたが。彼を保護するにしろ、喫茶店のマスターを募集しているにしろ、その二つを結びつける必要はまったくなかったのでは!?」

と恐る恐るいうシャクスさん。

それは心得違いというものですよ!

「グレイシルバさんほど、この職場にうってつけの人材はいないよ」

「そうでしょうか? せめて接客経験がある方がよろしいのでは!?」

わかってないなあシャクスさん。

「いいかい、彼は元傭兵なんだよ?」

「そのようですな……?」

「元傭兵の喫茶店のマスターなんて滅茶苦茶カッコいいじゃないか!!」

一種のド定番だよ!

数々の修羅場を潜り抜けた傭兵が、引退後の余生として選んだ喫茶店のマスター!

決して愛想はよくないがそれでも誠実な接客に、次第と固定客がつき始め、平穏な日々がこのまま続くかと思われた矢先に現れる、因縁の戦友!

「……的な?」

「わけわかりませんが!?」

「とにかく喫茶店のマスターにとって元傭兵の経歴はステータスなんですよ。それを持つ彼こそマスターに相応しい!」

けっこう悩んでいた喫茶店マスターの選出が、こんないい具合にあっさり言ってよかった。

さすがはベラスアレス神。

人の縁を結ぶのは神様の十八番だね!