軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

541 タコ訪問

我が農場にタコが来た。

唐突すぎて何のことかわからないかもしれないが、とにかくウチにタコが来たんだ。

しかも、ただのタコじゃない。

めっちゃ巨大なタコ。

大型の帆船だってコイツに絡みつかれたら沈むんじゃないかという怖さを感じるほど。

そんな巨大タコが海岸へ這い上がるように現れたのだからみんな大騒ぎだ。

オークボ、ゴブ吉など戦える者を中心に海岸へ集結し、即迎撃に移れる警戒態勢をとっていたら……!

『プラティちゃんおひさー!』

「わー! クラちゃんじゃない懐かしいーッ!!」

なんかウチの妻と打ち解けていた。

え? 知り合い?

「紹介するわ旦那様! アタシのマブダチのクラーケンちゃんよ!」

『初めましてー! いやー、プラティちゃんが結婚するなんて意外だわー! 気が強すぎて男なんか誰も気後れすると思ってたからー!』

「こらー、友だちだからって歯に衣着せなさすぎだぞー?」

『あら、ごめんあさせー!』

俺の奥さんタコとめっちゃ仲いい。

人魚だから、海棲生物すべてと仲よしになれるってことなんだろうか?

そのうちタイやヒラメと舞い踊りそうだが。

いやでもその割に食卓に上る魚料理ガツガツと食っているよねプラティは?

彼女の心の境界線はどこにあるの?

「クラちゃんは、一見タコのように見えるけど本質的には精霊なのよ! いわゆる上級精霊ってヤツね!」

『とはいっても特に精霊としての役割もなく自由に海中を漂っているだけなんですけどねー。プラティちゃんともそうしている時に出会ってー』

大ダコと友だちになっちゃうウチの妻。

「懐かしいわ……、あの頃のアタシはマーメイドウィッチアカデミアを中退したばかりで自由を満喫してたのよね。大海を泳ぎ回っていた先でクラちゃんと出会って……!」

『三日三晩殴り合って……!』

「絆を結んでいったのよね……!」

嫁の友情エピソードが番カラすぎる。

「意気投合したアタシたちはどこへでもつるんでいくようになって……。二人で七つの海を荒らし回り……」

『一繋ぎの財宝を追い求め……』

「とにかく楽しい青春時代だったわ。でもいきなりどうしたのクラちゃん? アタシが陸に住んでるって連絡したっけ?」

『してないわよー、もうプラティちゃんったら! こないだ皇帝竜様のところで大騒ぎしてたじゃない? 私のところにも聞こえてきてさー』

「ああ、あれね」

アードヘッグさんのところで催された、三大種族の代表によるダンジョン攻略競争。

アレがけっこうな大イベントで、海中でもその噂が駆け巡ったらしい。

競争出場者の中に旧知を見つけて、それで縁を頼ってここまで来たと。

「やだクラちゃんったらー、そうまでしてアタシに会いたかったなんて友だち思いなんだからー!」

『私とプラティちゃんの仲なら当然でしょー?』

と八本の足をそれぞれくねらせるタコ。

しかしタコがこんな長いこと浜辺に留まってて大丈夫なのかな?

まあ本質的には精霊らしいし陸上呼吸もOKなのか。

『まあ、でも実のところは、プラティちゃんに久々会うついでにお願いしたいことがあってー』

「あら、何かしら?」

『この場所を探し求める途中で聞いたんだけど、プラティちゃんの旦那さんってとってもお料理が上手なんですって?』

なんか俺のことが話題に出た。

「ええぇー? 上手って言うかー? 旦那様が作るごはんは究極的に美味しいわよ!!」

謙遜するかと思いきや全力で肯定した。

語調にやや自慢気味な感じが宿るのは気のせいだろうか?

まあ俺も、自身がプラティの自慢の種になれるなら嬉しいが。

『よかったー。実はプラティちゃんに相談したいことって、料理上手な人を紹介してほしいってことだったのよー』

「料理? なんで?」

プラティは首を傾げる。

「クラちゃんって結局タコだから、貝でも魚でもそのままバリバリ食べちゃうでしょう? 調理なんて必要ないんじゃ?」

食べることは食べるんだ。

精霊なのに。

とは思ったが、ウチに住む大地の精霊もケーキやらアイスやらバクバク食っておった。

『それはそうなんだけど、今回はちょっと事情があって、是非とも拵えてほしいのよ』

大ダコは、そのつぶらな瞳に深淵なる輝きを浮かべて、言う。

『世界一美味しいタコ料理を』

「ちょっと待って?」

タコからタコ料理をリクエストされた。

どういうこと?

共食い?

あるいはみずからを捧げる犠牲的な何か?

『待って待って、私の話をよく聞いて? 実は私にはね、ずっと以前から争い続けている永遠のライバルがいるのよ』

「永遠のライバル?」

それはまさか……。

タコに向こうを張る存在といえば……イカ。

やはりイカか!?

『カニよ』

「カニかよ」

タコは基本的にカニの天敵だが、大きな種類のカニなら逆にタコを捕食することもあると聞く。

勝ったり負けたりの間柄なんだろうか。

『カニの上級精霊でマニゴル洞に住む巨蟹デスマスくんとは、プラティちゃんと出会う以前からの宿敵よ。そんなカニ野郎と今度は、こういうお題で争うことになったの』

――『タコとカニ、より美味しいのはどっち?』。

という。

それを傍から聞いて俺は脱力した。

自分自身を食われる側に身を置くほどに、勝負の内容が煮詰まってるってことか?

そんなに何度となく争いって来たのか?

『これはタコ族のプライドを懸けた勝負よ。たとえこの身を食われることになったとしても、私たちはカニに敗北するわけにはいかないの!!』

食われた時点で自然界的には敗北なのでは?

「でも、味に関してはカニさんの方が圧倒的に上なんじゃない?」

「プラティ! そんな言いにくいことをハッキリと!?」

いやでも……。

タコにとって認めがたいかもしれないが、カニはたしかに高級食材。

種類や大きさによって一万円超えることもあるという。出汁をとってもいいしナマでもいける。

キングオブ海鮮食材と言っても過言ではない。

それに比べてタコは……いや、俺は美味しいと思うけど。

地域によってはデビルフィッシュなどと称されゲテモノ扱い。

そのタコが、生存競争ならともかく食材としてのクオリティで競い合えば敵わないのは目に見えている。

美味いじゃんカニ。

めっちゃ美味いじゃん!!

『だから相談しに来たのよ! 素じゃ敵わないかもしれないけど工夫次第じゃ私たちタコだってカニの味を超えられるかもしれない! 人間たちにはそういう技があるんでしょう! 料理っていう!』

料理を何かの秘伝暗殺術みたいに言われた。

『プラティちゃんは昔から賢かったから、きっと何か知ってるでしょう!? その料理が得意な旦那さんもいることだし! お願いよ! 昔の友だちの誼で助けて!』

「いいでしょう」

二つ返事!?

「ウチの旦那様の偉大さを示すいい機会よ! 旦那様に不可能がないことを何度でも思い知らせてやるわ!」

「だー」

最初からプラティに抱きかかえられていたジュニアが賛同するように拍手を打ち鳴らした。

可愛い嫁と息子から、あそこまで信頼されては何もしないわけにはいくまい。

では作ろうじゃないか!

異世界仕込みのタコ料理を。

「ちょっと待っていなさい。食材をとってくる」

「さすが旦那様!」

何を作るべきか頭の中では既にまとまった。

用意するのはソーセージ。

余った角イノシシの肉を保存するために常に作り置きしてあるぜ。

そのソーセージの下部に切り込みを入れて……切り込みを入れて、切り込みを入れて、もう一回切り込みを入れて……!

フライパンで焼く!!

切り込みを入れた部分が花開くように押し付けて焼き、できました!

「タコさんウインナー!」

使用しているのはソーセージですがそこはお見逃しください!

『いやそれ私を食材として一欠けらも使ってないじゃない?』

たしかに。

ではこういうのはどうでしょう?

トウモロコシで作った薄いパンに、様々な具材を乗っけて作った料理!

「タコス!」

『だからタコ使ってねえ!!』

ちなみにタコさんウインナーは出来上がった瞬間からジュニアの視線を独り占めしていた。

タコさんウインナーを見詰めるジュニアの瞳がキラキラしている。

やはりタコさんウインナーの子どもに対する求心力は天下一。