作品タイトル不明
540 魔女と女神の談義
農場に戻ってきて、改めて言います。
プラティ、二人目懐妊!
嬉しい!
きゃっほう!
我が家に家族が増えるだけでなく、ついにジュニアもお兄ちゃんになるということか!
それだけでも大変めでたいというのに、吉報はそれだけにとどまらない。
なんとパッファ、ランプアイをも同時にご懐妊。
二人は同時期に結婚したとはいえ、子どもを授かる時期まで同じだとはちょっと出来すぎと思えるほど。
特にパッファは新たなる人魚王妃なので、その懐妊はお世継ぎ誕生ということで国を挙げて祝う慶事。
もう本当になまらめでたい!
この俄かなベビーブームに農場も湧きかえり、なんかお祝いでもしようぜということになった。
「神を呼びましょう!」
とプラティがなんか言い出した。
「こうしてアタシたちが赤ちゃんを授かるのも、すべて神様が見守ってくださるからよ! その神様を呼び出して、捧げものなどしながら直接感謝の言葉を述べようじゃないの!」
感謝するのに呼びつけるんですか?
まあ、いいか。
プラティの言うことにも一応理があるため……そして神を呼び出す手段もあるので、しめやかに執り行うこととした。
人魚国で忙しく働いているアロワナさんパッファの人魚王夫妻と、ヘンドラーくんランプアイの側近夫婦にも予定を組んでもらい久々に農場訪問。
……なんかゾス・サイラさんからの呪いの波動を受け取った気もするが、一日だけでも勘弁してください。
祝い事なので。
そして神を呼び出すと言えば絶対欠かせないこの御方。
ノーライフキングの先生。
「先生、今日もよろしくお願いいたします」
『心得ましたぞ』
気軽に神を呼び出すと言えば先生ぐらいしかできないので、素直にお願いする。
この人も、神召喚は半分趣味みたいなものなので頼めば喜んで引き受けてくれる。
そうして先生が杖を振るって呼び出した神は……。
『ばんこらん(呪文)』
……女神たち。
二神いるうちの一方は、朝日を映し込む海原のように輝く金髪を持った女神で、逆にもう一方は夜の海のごときたゆたう黒髪の女神だった。
金髪の方が海母神アンフィトルテ。
黒髪の方が海神妃メドゥーサ。
双方、海神ポセイドスの妃神で、海よりいずる生命の育み手だ。
新たな命を授かった報告に、彼女たちこそ相応しい神々はおるまい。
海においては。
「肝心のポセイドス神は呼ばなかったんだ?」
『当り前よー、楽しいお出かけにあの人がついてきたら一気にむさくるしくなるじゃないー』
神においても夫は妻から蔑ろにされるらしい。
「偉大なる海の女神たちよ! アナタたちの加護のおかげでアタシたちは新たなる命を授かることができました!」
プラティが代表して神へ言挙げする。まるで神に仕える祭司のように。
ああいうところ見るとプラティが天才で王族だって思い出す。
「この感謝をお伝えするために、こうしてお出ましいただきました。アタシたち三人揃いまして感謝申し上げます!」
プラティの左右にパッファ、ランプアイに二人も並んで跪く。
『そういうのいいからいいから! 感謝の捧げものをプリーズ!』
「くッ、そっちもお見抜きか……!」
神を呼び出すのにもてなしの品もないわけがなく、しっかりと用意してありました。
俺が事前に用意しておいたケーキワンホール。
『きゃあああああッ!! これがあるから召喚されたのよおおおお!! 聖者が作った美味しいケーキいいいいいッ!!』
『いつも美味しいものをご馳走してくださって感謝ですわ。……ちょっとアンフィトルテさん?「いただきます」も言わずに齧りつくんじゃありません。まだ切り分けてもいませんのよ?』
『そんなことする前に誰かに食われたらどうするのよ!? 世界は常に早い者勝ち! 好きなものから食らいつくんじゃああああ!』
『それが神の振舞いですかはしたない。……って言うかもう半分以上食べてる!? 少しは分け合うことを知りなさい!!』
相変わらず神々の振舞いは意地汚い。
神の中では多少マシなアンフィトルテ女神とメドゥーサ女神でさえこの始末。
『……まあ、とにかく二人目懐妊おめでとうプラティちゃん。異世界人の子を授かるというのは本来不可能なはずなのに、アタシの加護を得てよく二人目までも身籠ったものね。本当に見事だわ』
「すべてアンフィトルテ様の加護ゆえに」
今更神らしい威厳を正されても……。
顔中クリームでベットベトですよ女神。
『あら、それを言うなら私が加護を与えたパッファさんも見事なものですわ。王たる者に嫁ぎ、ついに世継ぎまで懐妊なさるなんて。私の目に狂いはありませんでしたわね』
「恐悦至極にございます!」
パッファも深々お辞儀する。
昔はツッパリの権化みたいだった彼女も、人魚王妃になり礼節を弁えるようになったか。
……いや、自分の恋愛のためなら躊躇なく変節するのは昔からだったか。
『パッファさん、プラティさん、アナタたちにはそれぞれ「海神妃の祝福」と「海母神の祝福」が授けられました。それは私たち海神の妻に認められた証。これからもそれを誇りとし、よき妻よき母であることを忘れなきようにね』
『だったらやっぱりプラティちゃんの方が期待だよね。アタシの授けた「海母神の祝福」の方が格としては上なんだから』
『あ? なんだやんのか?』
怒ると口調が変わるらしいメドゥーサ女神。
ともかく厳かに神への言上を進め、つつがなく終わっていくかと思いきや……。
「……そういえば……」
神に対面するメイン三人の中で、一人だけまだ何も喋っていないことに気づいた。
『獄炎の魔女』ことランプアイだ。
「ごめんなさいねランプアイだけハブにしちゃって。どうしても加護を受けた人と神同士で会話が弾むから……!」
「この際だからランプアイに加護をくれた神も呼んでやったらどうだ。どうせお前も誰からか貰ってるんだろう?」
というのは、以前ある出来事からウチの農場の住民は大体皆、神から何がしかの加護を貰っているのだ。
ランプアイもあの時の現場にいたので、きっと加護を与えてくれた神がいるはず……。
「いいえ、わたくしは特に何も貰っていません」
「「『『え?」」』』
プラティパッファだけじゃなく、神々まで驚く。
「たしかに昔、皆様と一緒に神の加護をいただく機会があったのですが、わたくしは辞退しました」
『え? なんで? 神の加護は人の子なら誰でも欲しがる超いいものじゃないの?』
自分たちの施しを拒否されたと感じたのか、アンフィトルテ女神若干の動揺ぶり。
「いえ、わたくしは炎の魔法薬を得意としますので、できれば火炎を司る神様の加護をいただきたかったのです。しかしあの当の神の顔触れに、そういった方が見当たらなかったので……」
お断りしたと?
「お前そういうところあるよな……! 欲しくないなら『やる』と言われても受け取らないというか……!?」
ある意味ランプアイが六魔女の中で一番豪胆なのかもしれない。
『その意志の固さ気に入ったわ! そうよね! 人の子は真に尊敬する神にのみ従うべきよね!』
「わたくしとしては竈の火を司る女神ウェスタ様の加護をいただきとうございますが……。あの女神さまは家庭円満も守護されるとのことで、ヘンドラー様に嫁いだわたくしとしては、まさに理想の崇拝者」
『ああ、アイツね! よければアタシが口利きしてやってもいいわよ! 知らねー仲じゃねーし!!』
なんか知らないがアンフィトルテ女神が過剰に親切になっている。
加護を受け取らなかったというのが、そんなに動揺を呼んだのか?
「ありがとうございます。さすが海の母神、慈悲の深さに感謝いたします」
『いいってことよー! 女人魚は全部アタシの守護対象だからね、当然よ!』
ふんぞり返るアンフィトルテ女神。
その横で……。
『でもウェスタさんってたしか処女神じゃありませんでしたっけ?』
『え?』
メドゥーサ女神が指摘した。
『その関係で自分を崇める女性にも生涯純潔を強要したはずですよ? そちらの人の子は結婚してさらに懐妊までしていますので、とてもあの方のお眼鏡に適うとは……』
「まさか結婚したことが仇になるなんて……!?」
ガックリと肩を落とすランプアイ。
「……そうと知らずに結婚前に加護を受けなかっただけヨシとしますか。そうでなかったらヘンドラー様と結婚できないところでした」
『まあ、他に炎使いの上手い神を見繕っておきましょう』
神の加護というのも厄介なものだ。
魔王さんの件でもあったが、加護と引き換えに禁止される事項とかあって、色々やややこしい。
そこで俺は、あることが気になった。
かつての農場住みの人魚の中で、もう一人いた四人目。
『疫病の魔女』ガラ・ルファ。
「……そういやキミは、どんな神から加護を受けていたっけ?」
たまたま俺と一緒に神の会合を見守っていた彼女に、気になって聞いてみた。
いや、何と言うか最近ガラ・ルファが一番ヤバいオチ要員になっているような気がして、用心のため。
「はい、私はニュクスさんという女神様から加護をいただきました!」
「へー」
誰?
こっちの世界の神様にはあんまり知見がない。
『え?』
『ニュクス? なんでアイツが?』
しかしメドゥーサ、アンフィトルテ両女神が揃って反応。
『アナタが加護貰ったのって、あの時でしょう? 地と海の神々皆でごはん食べにきた日のこと!?』
『ニュクスはあの宴に参加してないはずですよ!? 彼女は三界神より古い神格ですから所属も違いますし!』
『っていうかあの女神いつもそうじゃない!? 知らないうちに現れて知らないうちに消えているのよ!!』
『さすが古代神にして夜の女神というか……!?』
大いに混乱するが、事情を知らない俺には何のことかサッパリ。
ちゃんと説明してくれないとわけわかりません。
いや、やっぱ説明してくれなくていいや、ややこしいし。
『……ときに、ニュクスのおばはんはアナタにどんな加護を与えてくださったの?』
恐る恐る尋ねる女神たちに、ガラ・ルファは快活に答えた。
「はい、『世界を終わらせる決定権』というのをいただきました!」
『あんのクソ女神、人の子になんて物騒なもの授けてんのよ!?』
『これだから古代の隠神はやることがよくわからねえ!!』
とりあえずこの会合でわかったことは……。
ガラ・ルファが益々ヤバい存在に進化しているということだった。
いや、むしろガラ・ルファのヤバさに惹かれて、その謎の神様が人知れずやってきたのか?
一体どういう意図があるのか、いずれ当人に会って聞く以外になかった。