軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

538 ファイナルマッチ

プラティ第二子、懐妊!!

やったぜ!

ひゃっほい!!

唐突なる吉報に狂喜乱舞する俺!

たまたまその場にいた魔王さんやアロワナさんからも祝福を受けて、幸せいっぱい夢いっぱい!

それはそれとして人魔人魚混交の一大イベントを成功させるべく、俺たちのいる城外でも精一杯囃していかないとな!

結論から言って、城外にいる観客たちは常に大盛り上がり。

熱狂に包まれ、一時たりとも静まることがないほどだった。

グラシャラさんとピンクトントンさんの二名によって。

そうただ今、新・龍帝城正門前では世紀の一戦が開催中。

第二魔王妃にして元・魔王軍四天王の一角、その類まれなる体躯とパワーで戦場では敵軍を蹴散らした暴虐将軍グラシャラ。

そんなグラシャラさんに戦場で唯一対抗できたという獣人傭兵。今はS級冒険者として名を馳せる猪獣人ピンクトントン。

かつて幾度となくぶつかり合い、そのたび戦局を混沌とさせてきた両者が、この平和な時代に図らずも再会し、そして図り合うまでもなく再び衝突。

それが運命だとでもいうかのように。

戦場でつけられなかった決着を、今この場でつけるため二人は過去に立ち戻る。

あの日捨て去ったはずの、もう一人の自分……一頭の獣となって、野性赴くままに牙を剥き、ぶつかり合う!

その激突を目撃することとなった観客たちは大盛り上がり。

本来は魔王軍四天王とS級冒険者たちのダンジョン攻略競争を観戦しに来たはずの彼らだが、むしろこっちの方に視線が釘付け。

何しろかつては魔王軍屈指のパワータイプであったグラシャラさんと、そのグラシャラさんに唯一真正面からぶつかり合える猪獣人のピンクトントンさん。

パワー自慢なだけに双方逞しい体格の持ち主で、女性らしからぬ太くて巨大な肉体が激突する様はド迫力。

筋肉と筋肉がぶつかり合う衝撃が、ビリビリと周囲に飛び散るほどだった。

それが視界に収まる範囲内にいては無視することなど不可能。

観客たちは人魔に関わらず、そちらへと視線を引き寄せられて、ついには独占。

果ては観客席を熱狂させるに至った。

魔族の観客はグラシャラさんを。

人族の観客はピンクトントンさんをそれぞれに応援。

出身種族からすれば当然の色分けだが、それぞれの声援を背に受けた二人はまさしく人魔双方の代表者のごとくなり……。

種族の威信を懸けた一大決戦の様相を帯びてきた。

そこまで盛り上がっては運営側としても捨て置けまいということで。

こんなこともあろうかと待機させておいたオークたちにお願いし、即興ながらリングを設営してもらった。

あと金網も。

周囲を炎で囲ってみたり。

そして電流爆破も導入するか!?

そんな感じで環境も整い、本格的なフィールドで雌雄を決さんとする二人。

彼女たちの決戦に見届け人は必要であろうと、不肖の俺がレフェリーを務めることとなった。

レフェリーといえば、とかく試合の巻き添えになって危険にさらされることの多いポジション。

選手と一緒にリング外に落っこちたり。

間違って関節技きめられたり。

包帯でグルグル巻きにされたあとストローぶっ刺されて体液を吸い取られてミイラになったり。

第二子を授かろうとする俺も、家族を路頭に迷わせる危険は避けたいところだが、しかし俺にも今回のイベントを企画した一人として最高に盛り上げる責務がある。

ということで俺もリングに上がり、二人の勝負をもっとも近いところで見届けようではないか。

レッツ、ファイッ!

ぐふぉッ!?

いきなりグラシャラさんとピンクトントンさんのクロスボンバーかまされて死ぬかと思った。

そのあと二人はがっぷり組み合って、純粋な力比べを続行!

双方、小手先に頼らぬ純粋なパワータイプのため、試合は常に迫力に満ち、観客を熱狂させた。

グラシャラさんが殴りつけたら、ピンクトントンさんが殴り返し……。

ピンクトントンさんが投げ飛ばしたら、グラシャラさんは華麗に受け身をとって着地し、反動をつけるようにしてピンクトントンさんにぶつかる。

そして……、ああーっと、ピンクトントンさんコーナーポストから飛翔した!?

空中で一回転しつつ、リングでダウンするグラシャラさんへ全身直撃!

あの巨体で華麗な空中技もこなすとは!?

思えばピンクトントンさんは、元々は獣人傭兵として戦場を駆けずり回った経歴の持ち主だが、人魔戦争が終結してからは冒険者に転向し、あっという間にS級冒険者に上り詰めたという。

きっと冒険者になってからも幾多の困難を潜り抜けてきたことなのだろう。

一方ライバルのグラシャラさんは、戦争終結後は魔王さんと結婚して魔王妃となり、懐妊して一子を出産。

政務や育児に追われて、実戦からは遥かに遠ざかっていたはずだ。

自然、鍛える機会を失った肉体は衰え、逆に困難を受け続けた肉体はますます頑強となる。

試合が長引くほどにその差が克明になり、露骨に追い詰められていくのは魔王妃グラシャラさんの方だった。

明らかなスタミナ切れにより動きの鈍くなったグラシャラさんへ、ピンクトントンさんがイノシシ獣人として備わった牙をもって必殺技ハリケーンミキサーでグラシャラさんを吹っ飛ばす!

獣人として、体の半分に獣因子を混在させるピンクトントンさんが背負った獣性はイノシシ。

それを戦いに活用する際もっともモノを言うのが突進力であった。

その突進力に晒されたグラシャラさん。

体力も尽き、大ダメージを負ってリングに沈む。

もはや勝敗は決したと誰もが思う。

対戦相手であるピンクトントンさんもまた勝利を確信し、とどめを刺す前にコーナーポストに登り、観客へ向けてリングパフォーマンスをするほどだった。

ダウンして起き上がる気配のないグラシャラさんを余所に。

かつて四天王の暴虐将軍と恐れられた彼女も、平和の中に闘争心を忘れてしまったか?

それが敗因か?

このままグラシャラさんは起き上がれないと思われた時、彼女を奮い立たせるたった一つの声援が飛んだ。

それは他でもないグラシャラさんの実娘マリネちゃんの声であった。

「ははうえ、がんばえー」

と。

それが、まだ幼児でしかないマリネちゃんの初めて喋った言葉であったとのちに語られる。

実の子からの応援に奮い立たない母親はいない。

怒涛の勢いで立ち上がると、リングパフォーマンスに油断しまくりピンクトントンさんの、その背中に突進。

背後からガッシリ腰をロックすると、そのままの体勢でエビ反りに投げ上げる!

これはジャーマンスープレックス!?

しかもブリッジ状態で相手を頭からリングに叩きつけたあと、ガッシリフォール体勢で固めてきたのでジャーマンスープレックスホールドだ!

俺もレフェリーとして這いつくばると、ピンクトントンさんの両肩がたしかにリングに接しているのを目視しながら地面叩いてカウントす!

ワン!

ツー!

スリャー!!

試合終了おおおおおおおおおおおおッッ!!

勝者グラシャラさん!

大ピンチからの見事なる一発逆転勝利!

この絵に描いたようにドラマティックな結末に、観客総立ちになって大興奮。

夫である魔王さんも感極まって娘のマリネちゃんを抱えたままリングに突入し、第二妃としてのグラシャラさんを抱き上げて、その勝利を称えた。

一時は巻き返しも不可かと思われたグラシャラさんに復活の息吹を与えたのは、彼女が何より愛する愛娘からの声援だった。

実戦から退き、衰えたかと思われた元四天王グラシャラさんだがそんなことはない。

彼女も今も強くなり続けている。

何よりも強い『母親』という存在にランクアップして。

平和はけっして人類を弛緩させ、衰えさせることなどなく。

壊すのではなく築き上げていくことで人それぞれをさらなる高みへ導いていくのだということを証明する一戦だった。

ダメージから回復したピンクトントンさんも、素直に勝者を称え、グラシャラさんもまたライバルの健闘を賞賛する。

ガッシリと交わされる握手。

勝者敗者の違いはあれど、それは奪い合うための勝敗ではない。

互いに実力を振り絞って高め合うための勝負だということを全観客に示し、人魔の種族同士がわかりあう一歩を踏み出した。

まさに人族魔族の融和を進める意義ある試合だったと言えよう。

「……本当にこのイベントを企画した意義があったな……!」

「…………おい」

なんだ?

呼びかけられたので振り向くと、そこに三つの顔触れがあった。

人魚ゾス・サイラさんと、S級冒険者のシルバーウルフさんと、……あと一人、誰?

顔ぶれ的に四天王のお一人かと思われるが?

「わらわたちが必死にダンジョン攻略しておったというのに、この騒ぎはなんじゃ?」

「いや、凄いんですよグラシャラさんとピンクトントンさんが! 互いに全力を尽くした名勝負で、観客大興奮! 人族魔族の融和を加速度的にですね!」

「それを目的としていたのは、ダンジョン攻略競争の方じゃなかったのか!? なんでそっちをそっちのけで突発的な試合の方に皆注目してるの!?」

「あ、ゴメン……! 二人の勝負が白熱して思い切り見過ごしちゃった……!」

「私たちの苦労は何だったんだッ!?」

どうやら時を同じくして無事龍帝城の攻略を終えた三人が帰還してきたらしい。

まあ、当初の目的である人族魔族が互いを認め合う方向へ持っていけたのは、グラシャラさんとピンクトントンさんが遂げてくれたのでよかったじゃないか。

終わり良ければすべて良し!

え? よくない!?