軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

532 新・龍帝城の戦い 六魔女編その二

……プラティが去って行きおったのう。

二人目妊娠。おめでたいことじゃ。

しっかしまあ、すべてを押し付けられたわらわこと『アビスの魔女』ゾス・サイラとしては釈然としない気持ちが強いわ。

わらわまだダンジョン攻略しないといかんのえ?

その意義サッパリ感じないんじゃけども?

しかも一人だけではなく……。

「…………」

「……!? ……!?」

このよく知らん女と一緒に?

「えーと……? ガラ・ルファ、さん? だったかの?」

アウトローわらわ、遺憾ながらも慣れない『さん』付け。

だって面識なくて得体が知れんし……!?

同じ六魔女とは言え、わらわコイツのこと何も知らんのじゃよなー。

そもそも六魔女自体、人魚界トップクラスに恐ろしい魔法薬使いを集めてみたってだけの集団じゃし、最初は皆赤の他人、六魔女に並び称されたことで知り合いになったって流れなぐらいじゃ。

それでもわらわはパッファやらシーラ姉様やら魔女選定以前に知り合いなヤツも多いが……。

少なくともこのガラ・ルファとは面識がない。今日初めて言葉を交わしたぐらいじゃ。

「はい、そうです! お話しできて光栄ですー!」

「おッ、おう、そうじゃの?」

話してみるとそこまで厄介そうではないかの?

見た目の佇まいだってパッファかプラティ辺りの方が数段怖そうじゃし。むしろこの女からは覇気を感じん。服装も特に傾いたところもなく一般人のようじゃ。

「まあ、……普通かの?」

「そうなんです!!」

ガバリと手を掴まれた。

「私なんて本当に、ただの普通の人魚なんですよ! 率直に普通です! プラティ王女とか、あんな凄い人たちに交ざって魔女とか呼ばれるのなんておこがましいんです! 普通!」

「あ!? ……ああ、そうじゃの?」

普通推しがエグいな?

「私のことを普通に評価してくれたのなんてゾス・サイラさんが久々です! 嬉しいです! これから仲良くしてくださいね!!」

「お、おう……!?」

なんじゃろうな、この娘?

なんでこのように人懐っこさげな娘が六魔女に入っとるんじゃろう?

ガラ・ルファ。

こやつの魔女としての称号は『疫病の魔女』だったか。

しかし実際に会ってみてそんな恐ろし気なイメージはまったく感じられんがの?

世人はコイツの何を恐れて六魔女に入れたのやら?

「あッ?」

いかん。

敵地であったのに話し込んでしまったわ。

プラティに破壊された黒水晶のバケモノどもが、もう復活しているではないか。

「復活というより新手が投入された感じか?」

わらわもアホじゃわ。

手薄なうちに駆け抜けてしまえばよかったものを、話し込んでチャンスを逸するとは。

「まあよい、プラティが脱落したところで戦力的に何の損失もないことを見せてくれるわ」

わらわの使う魔法もまた人魚界の誰もが恐れる、最悪の禁呪であることを思い知らせてやろうぞ!

「いでよディープ・ワン!!」

投げ放つ試験管。

それが地面に落ちて割れ、中身の魔法薬がこぼれ出る。

空気に触れることで反応を起こした魔法薬は泡立ち、その泡は次第に増えて大きくなり、ついには人間大のサイズに。

たしかな実体を持ち、恐ろしい外見で爪や牙を持つ!

「これこそわらわ特製の戦闘用ホムンクルス、ディープ・ワンじゃ! 行け我が下僕よ! 眼前の敵を食らい尽くせ!」

次々試験管を投げつけ、配下のディープ・ワンを増やす。

プラティのアホは散々バカにしよったが、わらわが専攻するホムンクルス製造魔法とて余人の恐れる禁忌の魔法。

自然の理に逆らった方法で生命を生み出し、使役する魔法は、神をも恐れぬ傲慢さなくば使いこなすことはできん。

まさしく異端なのじゃ!

「ゾス・サイラさんの魔法って、親近感湧きますねー」

と背後から言ってきたのは例のガラ・ルファじゃ。

え? 親近感?

あんまり言われたことないのう?

「同じ特性なんですよね。私の細菌魔法と、ホムンクルスちゃんを生み出す魔法って。魔法薬で生命をデザインするという点で同じじゃないですかー」

「え? サイキン?」

何じゃそれ?

……うわッ!? 気をとられている間にわらわのディープ・ワンが劣勢じゃ!? 次々と斬り裂かれて撃破されていく!?

やはり一体一体の戦闘能力では向こうが上か……!? 悔しいことにプラティの言った通りではないか!?

「だから私とゾス・サイラさんの魔法って相性がいいと思うんですよ。じゃーん! これなんだと思います!?」

知るかあ!? こっちは襲い来る敵の対処で忙しいんじゃ!

次々新たなディープ・ワンを投入し続けないと防衛線を維持できん!

かといってディープ・ワン発生魔法薬も無限にあるわけじゃないから、このままじゃジリ貧じゃ!?

「この薬品に保存された魔法細菌は、生物の傷口にとりついて再生する能力を持ってるんですよ! 先生と博士が回復魔法の開発に取り組んでるのを見て触発されちゃいました!」

「だから一体何の話……!?」

「敵からの攻撃で傷つき、倒れる寸前のディープ・ワンちゃんに、この細菌入り魔法薬を振りかけるとあら不思議ー」

な、なにをするんじゃー?

……あッ!? ガラ・ルファの魔法薬を掛けられたディープ・ワンが!?

敵にあちこち斬り刻まれ息絶え絶えだったのが……再生していく!?

致命傷と思われた傷があっという間に全快した!?

「凄いではないか! あんなに傷が見る見ると!? アレがお前のオリジナル魔法なのか!?」

「魔法ではありません、細菌の力です。私は魔法でちょちょいと、細菌さんの能力を引き出しただけです」

なんだかよくわからないが、これで逆転の目が見えてきたぞ!

再生能力が加わり、タフさが格段に増したディープ・ワンが少しずつ敵を押し返しておる!

気弱に見えたガラ・ルファもやはり魔女の一角じゃったな。

このような高次の魔法が使えるとは。

どんな外傷もたちどころに再生してしまう魔法薬など一般化したら、まこと革命的なことに。

……。

ん?

「なんじゃ……!?」

再生し続けるディープ・ワンがなんかおかしいぞい?

受けた傷が完治しながらも、完治してなお再生を続け……!?

「体が大きくなっておる!?」

「あれー? おかしいなー?」

傷がないというのに再生能力が落ち着かず、無限に再生を続けて身体が肥大化しておる!?

「そっかー、どういう状態が完治の状態か、細菌さんが認識できてないんですねー」

「なんじゃ、どういうことじゃ!?」

「だから細菌さんは自分の機能の赴くままに宿主を再生させ続け、完治しても再生させ続け、無限再生状態に陥ってるんですねー」

「どういうことじゃー!?」

もはや肥大し続けるディープ・ワンは、元の三倍以上の大きさになって、ついにはその巨体で敵を飲み込み始めた!?

黒水晶のガーディアンたちは必死に抵抗するが、そもそも斬っても再生するようになってるから止められん!?

もはや肉の波のようになってしまったディープ・ワンに飲み込まれてしまった!?

「再生にはエネルギーがいりますからねー。ああして外部から取り込んでるんですよー」

「なんでそんなに冷静なんじゃ!?」

何じゃコイツ!?

こんな素人目に見てもヤベー事態が進行中だというのに、なんでそんな落ち着き払って見続けられるんじゃ!?

いやこれ玄人目に見てももっとヤバいじゃろ!? 制御を失った生体活動が、本能の赴くまま無限に拡大し続けるんじゃろう!?

再生するから物理的に止めることは不可能。唯一可能性があるとすれば再生エネルギーを放出し続けた末路による枯死なんじゃが、他生命体を飲み込んで補充できるなら困難と言わざるを得ん。

これこのまま世界中がアレに飲み込まれるまで終わらんのじゃないか!?

『ただいまー、いやー妊婦を運ぶのって神経使って疲れたわー。……ってうお!? 何これ!?』

よかったドラゴンじゃ! ドラゴンが帰ってきた!

おぬしのブレスで、あの肉アメーバを焼き尽くしておくれ!

ドラゴンの火力ならまだ完全消滅させることができる。これからさらに養分を摂取して巨大化したら手遅れになる!

「私が手掛けたフロアがこんなに汚く! 何してくれてんのよ! えーい!!」

ドラゴンの吐いた炎で、さしもの肉アメーバも再生が追い付かず、残らず消し炭になった。

危なかった……、何気に世界の危機じゃったよ。

「残念だなあ、もう少し大きな規模で細菌さんがどう振舞うのか観察したかったのにー」

「えッ!?」

「まあでも、これはこれでいいデータが取れましたねー。これを元にさらなる細菌さんの進化を促しましょー!」

それを聞いて、わらわ戦慄した。

コイツ、ここまでのことになってヤバかったということに気づいておらぬのか?

本当にヤバいヤツは、自分がヤバいということに気づいていない。

……という言葉をどこかで耳にした気がするが、コイツがまさにそういうヤツなんではないか?

コイツに比べたら、まだ止めるべき境界線を知っておるわらわは普通なんではないか?

禁忌だ異端だと粋がってきたわらわじゃが、本物の狂気の前では実にフツーではないのか?

ガラ・ルファを見ていると、急速にそう思えてきたんじゃ。