作品タイトル不明
531 新・龍帝城の戦い 六魔女編その一
『アビスの魔女』ゾス・サイラじゃ。
不本意ながらも陸人どもの企画したダンジョン攻略競争? とかいうものに参加しておる。
最初、宰相宛に挙がってくる案件の中にこの提案が紛れているのを見つけ出した時、ぶん殴ってやろうかと思ったが結局押し切られて参加することになった。
案外大した権力ないのう人魚宰相。
「本当にこれ参加する意義あるのかのう? 陸人どもの間で勝手にやらせておけばいいんではないか?」
「何言ってるの! これからの時代はグローバルになっていくのよ! アタシたち人魚族も重要イベントは押えておかないと時代に取り残されるわ!」
そんな流行に追い立てられているような……!?
そのせいで現在宰相としてクソ忙しいわらわを呼び立てるほどの意義があったとでも?
「何言ってるのよー? これでもアナタにはそこそこ遠慮もしているのよー? アレを作るのにも本当ならアナタに意見を聞きたかったのにー」
「アレか……!?」
振り向くとそこには、大きな目を一つだけ持っていて、それ以外は特にない、という感じの生き物がおった。
あんなふざけた造形の生き物が自然のうちに生まれるわけがない。
つまりは……。
「ホムンクルスじゃな、あれ?」
「そうよー。あの子が見たものを念波として送り、離れた別地点で映像化する仕組みなのー。カメラアイと名付けたわ! あの子が見ているものはリアルタイムで外のスクリーンに映し出されるから、観客もそれをみてたのしめるってわけ!」
「わー、大した仕組みじゃのー」
って言うかあれ作ったのお前か?
ホムンクルスである以上、誰か製作者がいるはずでわらわが作った覚えない以上、他にそんなことできる心当たりは目の前のお姫様しかおらん。
「そうよー、本当は専門のアナタに意見を聞きながら作りたかったんだけど、宰相の仕事で忙しいなあと思って控えていたのよ。この心遣いを察してほしいわね!!」
いやそれ以前に、我が生涯を賭して極めたホムンクルス生産魔法をそんな簡単に真似されて、わらわのプライド的なものがな?
そういや普段からの奇行で忘れがちになるが、コイツ人魚族きっての天才じゃったわ。
しかもわらわのような一分野限りの天才じゃない、全分野にわたっての。
ムカつくなあ。
「ちなみに、あの子が見ている映像は観客席だけでなく人魚国にも送られているから。人魚族の皆さんもアタシたちの活躍を見守ってるから恥ずかしい戦いはできないわよ」
「なんでそんなことするんじゃ!?」
「人族魔族も外のスタンドで応援しているのに、人魚族だけハブにしたらダメじゃない! このイベントは三種族全員で楽しむのよ!」
楽しむのは勝手じゃけれど、わらわ宰相の仕事がなあ……!?
あ、いかん。
何よりまず仕事のことを気にしているわらわ、最悪のアウトローっぽくないぞよ?
「それにアタシ自身、この競争で試したいことがあるからね。……実はこのカメラアイホムンクルス、まだまだ不完全で音声を伝える機能はないのよ」
「映像だけってことか?」
「だから今頃、スクリーンの前で旦那様が必死に実況しながら盛り上げてるんだろうけど。それがアタシにとっては好都合でもあるのよね。ある理由から」
「?」
イヒヒ、といかにも魔女らしい笑い声をあげて気持ち悪いヤツじゃな。
何か企んでるな。
そんなことを考えつつも進んでいたら、なんか様子の違う区域にたどり着いた。
「なんじゃこのギラギラめいた空間は?」
床一面、黒いものが生えてひしめいておるではないか?
何これ?
水晶?
「黒水晶か?」
「おほほほほほほ! よくぞ私が担当するエリアにやってきたわね」
なんか一段高いところで高らかなアホ笑いをこだませるヤツがおった。
なんか黒一色のドレスをまとった大仰な女じゃ。
「ここは新・龍帝城における、この皇帝竜の妃グィーンドラゴンのブラッディマリーが設営担当したエリア。私の竜魔力によって無限に湧き出る黒水晶のガーディアンと戦うがいいわ!」
そうあの黒女が言った途端、地面に生えた無数の黒水晶がボコッと立ち上がる。
そして人型に変形しおる!?
「どうやらマリーの竜魔法で作り出された魔法生命体みたいね。鉱物と生物の中間? みたいな?」
「わらわのホムンクルスのようなものか?」
「どっちかというとオートマトンじゃない? でも、あっちの方が遥かに高次元っぽい?」
くっそ。
だからドラゴンやノーライフキングどもはこっちの限界をあっさり突破していきおって!
この世の真理はすべてアイツらのものとでも言うつもりか!?
わらわも将来ノーライフキングになったろうかのう!?
「とにかくアレは侵入者を排除するための衛兵みたいなもので、このまま何もしなければアタシたちは担ぎ上げられ外にポイってわけね」
「くッ! わらわもホムンクルスを出して応戦を……!?」
「やめときなさい。一体一体の戦闘能力は向こうが上よ。戦いにならないわ」
「うがあああああ……!?」
傷つくことさらっておってくるなあ、お前は!?
じゃあどうするんじゃ!? ドラゴン相手じゃお前の魔法薬だってろくに通じんじゃろう!?
「言ったでしょう、試したいことがあるって」
プラティのアホは不敵に笑いよる。
「ドラゴンが魔法で作り出した強兵たち。実験には充分な相手だわ。私が新しく修得したスキルの試し撃ちとしてね!」
だからなんでそんな自信満々なんじゃ?
どんな新魔法を修得したか知らんけど、何にしろドラゴンに対しては屁のつっぱりにもならんじゃろうに。
「いいからよく見てなさい……!」
そう言ってプラティのアホが口ずさんだのは……。
……歌?
何をこんな修羅場でのんきに歌など……!?
いや待て、歌?
歌ってまさか!?
「Hier sitz' ich, forme Menschen Nach meinem Bilde,……」
まさかと思った想像通り、黒水晶でできた魔動衛兵の表面に見る見るヒビが入り、そして砕け散っていく!?
プラティの『歌』による効果か!?
でもこれは……、圧倒的に心当たりがあるんじゃが!?
「これ聖唱魔法ではないか!? シーラ姉様の聖唱魔法ではないか!? 何故お前が使えるんじゃ!?」
「練習したからよ!」
練習したからって、できてたまるかなシロモノなんじゃけれども!?
「よく考えなさい! アタシはママの娘、しかも長女なのよ! そのアタシならママの才能を受け継いでいたとしても全然問題ナッシング!」
「受け継いでいることが問題じゃないか、この場合!?」
「ママにできることならアタシにもできる! そう思ってママに頼んで教えてもらった聖唱魔法! めっちゃ苦労したわ! 六歳の時以来の最高の駄々のこね方をつかったわ!」
学ぶことよりも教えてもらうことの方に困難を味わったんかい!?
ああ……、でもありそうじゃなあ……!?
シーラ姉様、基本的に自分の子どもには誰にでも甘いんじゃああああ……!?
だからって世界最高の禁忌である聖唱魔法を娘に教えるかのう?
娘も娘でしっかり修得しとるかのう!?
のうッッ!?
「そりゃー、まだまだママほど使いこなせてはいないけど使い魔程度ならまったく遅れはとらないわ! 食らえ聖唱魔法『凱歌』!」
わああああ……!?
黒水晶の魔動衛兵たちが、ソプラノ歌手に叫ばれたワイングラスのようにパリンパリン割れていきおる。
まあ、聖唱魔法ならあれくらいできて当然じゃな。
聖唱魔法はしっかり使いこなせればドラゴンもノーライフキングも瞬殺できる類のもんじゃからな。
……。
これが天才の所業かあああ……!?
「ラララ~♪ いいわ! まったく負ける気がしないわ! このまま世界最強に君臨してもいい気がしてきたわ! ……ッ? ぐぽッ!?」
どうした!?
プラティのヤツが、急に口を押えてうずくまりおった!?
まさか聖唱魔法の副作用か!?
言わんこっちゃない禁呪にされるにはそれなりの理由があるんじゃからの!?
「しっかりするんじゃ! おい誰か医者は!? 医者はおらんのかええええッ!?」
「いえ、待って……? この感覚、覚えがあるわ……! これはもしや……!?」
プラティ、吐き気に耐えるような重苦しい表情で言う。
「……つわり?」
「は?」
「まさか二人目がこのお腹に……!?」
お前もかい!?
パッファ、ランプアイと続いてお前もかい!? しかも二人目かい!?
何じゃこの出産ラッシュは!?
おめでたいのか!?
『妊娠ですってええええええ』
ひいッ!?
この区域を守る竜が、ドラゴンの姿に戻ってバッサバッサと寄ってきた。
『ニンゲンたちの妊娠って大変なんでしょう!? こないだ助けた村の娘たちから聞いたわ!』
「あー、多分妊娠二ヶ月か三ヶ月だろうから、慎重な時期ねー」
さすが二回目じゃな、判明した直後も冷静じゃ。
『ダメじゃないそんな時期にダンジョン探索したら! 中止よ! アナタはドクターストップで退場よ! この区域を守る私の判断でそうします、いいわね!?』
「うう……、仕方ない。何よりお腹の子優先よね……!?」
プラティはあの竜が、場外へと運び出すようじゃ。
めっちゃ手つきが慎重で、壊れ物を扱うかのようじゃ。
「ゴメンねー、アタシから言い出したのに最初にリタイヤなんて……!」
いや、あわよくばわらわも一緒に退場したいぐらいなんじゃがのう?
「あとは二人で頑張って、魔族や人族なんかに絶対負けちゃダメよ!」
とハッパかけてプラティのアホは去っていきおった。
……。
二人?
そういえばわらわの他にもう一人おったっけ?
誰じゃ?