軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

478 新米皇帝発展記その十一 黒の趣味

引き続きガイザードラゴンのアードヘッグだ。

到着した。

マリー姉上が支配するダンジョン『黒寡婦連山』に。

『ほー、これはまた壮麗な』

まずは上空から全体を俯瞰する。

山タイプである姉上のダンジョンは、いくつかの山が連なりながら雄大な風景を形作っていた。

『連山』と名がつくだけあって複数の峰で形成されているようだ。

それだけでそんじょそこらの山ダンジョンとは一線を画した壮大さであるが、それに加えて圧倒されるのが、山全体が漆黒で覆われているということだった。

まさに『黒寡婦』。

あの黒は一体どんな仕組みで山を覆っているのだろう?

最初は濃い色の葉を茂らせる木が並び立っているのかと思ったが、違うようだ。

黒に僅かな艶がある。

どんなに色を濃くしようと植物からあんな艶めく黒が発せられるとは思えない。

より近づいてみてわかった。

『あれは水晶……!?』

大きな黒水晶が山肌から無数に生え伸びていた。

それこそ木々が生い茂るように。

これは一体。

『驚いた? これこそ私の魔力で起こしている現象よ』

マリー姉上が誇らしげに言う。

『最強ドラゴンの住処ですもの。それに見合った壮麗な造りにしなければ。私の竜魔力を養分にして生い茂る水晶樹は、特別な品種改良を行ってすべて黒水晶のみになるよう調整しているのよ? おかげでどう? 山全体を覆う黒一色は見事でしょう?』

竜の魔力を養分にして樹のように生え伸びる水晶か。

降下し、着陸してみるとますます幻想的な風景だった。

『私のもっとも好きな色が黒なのよ。黒は高貴なる色。強者の威厳を表し、貴種の高尚さも表す。漆黒に包まれし貴婦人の竜、それがこの私グラウグリンツェルドラゴンのブラッディマリーなのよ』

『姉上が黒好きなのは知っていましたが……』

ここまで徹底しているとは。

お家総黒一色ではないですか。

『何事にも限度があると思いますわー』

『どっち向いても黒ばっかりで気が滅入るわ。ニンゲンどもの葬式かッ』

シードゥルや父上もあとに続きながら好き勝手な感想を呟いていた。

総黒の是非は置いておくとして、そんなことを実現できるマリー姉上の魔力には感服するしかない。

これだけ広範囲に、黒水晶を生い茂らせるにはどれほど大量の竜魔力が必要となるのだろう。

そもそも水晶が生い茂るなどというのは言うまでもなく自然の理に逆らった魔力現象。

それを数えきれないほどの規模、生い茂らせてなおかつ維持しているというのは、たとえドラゴンでも並の者には実現不可能だ。

かつて皇帝竜の後継を決める、その争いのトップに立っていたマリー姉上だけのことはあった。

『この水晶一本だけ折って持って帰ってもバレませんわよね?』

『甘いなシードゥル。おれは最低十本はガメて帰るぞ』

シードゥルと父上がしょうもないことを話し合っている。

『外縁に立った程度で驚かれては張り合いがないわ。今度は中を案内しましょう。ダンジョンは内部こそが本体なのですから』

おれたちをダンジョン内へいざなうマリー姉上。

なんかさっきからずっと機嫌がいい。

アレキサンダー兄上のダンジョンにいた頃は終始イライラした感じだったのだが、何か変わったのだろうか?

やっぱりマリー姉上は、究極最強ドラゴンであるアレキサンダー兄上を快く思ってないのかな?

『ささ、ここから内部よ! 人間形態に変身しましょうね!」

へ?

そういうルールが?

『ここでは靴を脱ぎましょう』とばかりに変身を要請されるおれたち。

断る理由もないので素直に従おう。

「ダンジョン内を人間サイズに合わせているのよ。色々試してみた結果、それが一番景観がいいの。どう? 地上から見る黒水晶の樹海も幻想的でしょう?」

「た、たしかに……!?」

ところでシードゥルと父上がところかまわず水晶樹を叩き折ってガメようとしておりますが、取り締まらなくていいんですか?

「水晶樹なんて私の魔力に反応して次々生えてくるもの。多少抜き取られたところで気に掛ける価値もないわ」

「そ、そうですか……!?」

「実際、麓のニンゲンどもが黒水晶をとりに山に入ったりするのだけど気にせず放置するのよ? 剪定って言うんですって? 木々は茂るがままに任せるよりも、多少間引いて形を整えた方が美しく見えるそうね?」

そういやそうですね。

農場でも聖者殿が庭の木を細かく切り刻んでいましたし。

「その剪定をニンゲンどもが勝手にしてくれるんだから、私としては見逃してあげてもいいわ。絶大なる強者は、矮小なる羽虫の行いなどいちいち気に掛けないものですからね」

傲慢ともとれるセリフだが、マリー姉上であるからこそ言えるセリフでもあった。

アレキサンダー兄上やヴィール姉上に押されていまいち印象薄いが、彼女も間違いなく最強クラスの一竜なのだから。

「えー、そうなの? じゃあもっとたくさん持って帰ろうぜー!」

「わたくし一万本は伐採しますわー!」

そして父上とシードゥルがさらにはしゃいでいた。

「ぐおらー!! 誰がそこまでやっていいって言ったーッ!?」

そしてさすがにマリー姉上がブチ切れた。

何事にも限度がある。

そして幻想的なる黒水晶の森を進んだ先……。

「さあ、着いたわ。ここが我がダンジョン『黒寡婦連山』の最深部……」

そこには宮殿があった。

見上げるほどに大きく、壮麗な造りの建物。

この宮殿もまた黒水晶を材質にしているらしく、壁に屋根に柱一本一本に至るまですべて、漆黒に輝いていた。

「名付けて『玄竜宮』! 私が普段過ごしている寝所でもあるわ! 数多くいるドラゴンの中でもここまで美麗な宮殿を建てているのは私だけでしょうね!」

自慢するだけあって、豪華という点だけならマリー姉上の宮殿は、どんなニンゲンたちの作り上げた建築物をも超えているの違いない。

聖者殿のお家も豪華さよりは住み心地のよさ重視だしなあ。

…………。

……黒水晶の宮殿って住み心地どうなのかなあ?

「……姉上、おれはこの宮殿から龍帝城作りの重大なヒントを得た気がします」

「そうでしょうそうでしょう! アナタも私を見習って精々豪華な宮殿を建てることね!」

住居に一番重要なのは快適さだということを。

「ではサクサク次に行きましょう! 宮殿内を案内してあげるわ! 私の内装のセンスも勉強なさい!」

「学ばせていただきます」

そうしてさらに宮殿内へ。

一歩踏み込んだ途端、すぐさま気づく。

「姉上? この気配は……!?」

「さすがに気付いたわね。その程度の勘のよさがなくてはガイザードラゴン失格よ?」

この宮殿……。

中にドラゴンがいるな?

……いや『お前もドラゴンだろう?』とか言われたらたしかにその通りなんだが。

違うんだ。

たった今宮殿に足を踏み入れたばかりのおれ、マリー姉上、シードゥルに父上。

それ以外にもドラゴンの息づく反応がある。

しかも複数。

間違いなくこの奥に、少なくとも十体以上はいる。

「すべてのドラゴンが、アナタのように勇猛果敢であるわけじゃないのよ。アイツらは取るに足らない弱者だけど、数を束ねて引き連れれば私の強さを表すアクセサリー代わりになる。だから置いておいてあげているのよ」

マリー姉上の宮殿に住んでいる他ドラゴンは、姉上の取り巻き竜たちだ。

かつて皇帝竜の後継を決める争いに参加しながら、その勝者候補であるマリー姉上に追随して安全を保とうとしていた者たち。

前にも見たことがあったので、比較的戸惑いはなかった。

おれのガイザードラゴン就任式の時、マリー姉上と一緒に押しかけてきた集団と同じ竜たちだよな?

そういうのを知識豊富な聖者殿は『虎の威を借る狐』『コバンザメ』などと評していたが、最強種族たるはずのドラゴンが、同じドラゴンの威を借りてどうするというのか。

宮殿の奥に行って、実際に取り巻きドラゴンたちに顔を合わせる。

屋内であるせいか彼らも姿をニンゲンに変えて、無言のままおれに注目していた。

「何をボケッと突っ立っているの!? 非礼よ!」

それを本来ここの主であるマリー姉上が叱り飛ばした。

「この御方こそ新たなるガイザードラゴン、アードヘッグ! 竜の皇帝! 跪いて忠誠を誓いなさい! 私たちの新たなる支配者に!」

マリー姉上が率先していた。

意外な。おれがガイザードラゴンであることにもっとも不満を持っているのは、彼女だと思っていたんだが。

本当は認めてくれていたんだと思って涙が出る。

それに対し、彼女に取り入っていた竜たちは……。

「……断る」

「なんですって?」

「マリー様、いやブラッディマリー。そんなニセ皇帝竜に屈したお前などもはや媚を売る価値もない。このダンジョンも我々のものだ。敗者は尻尾を巻いて立ち去るがいい」