軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

479 新米皇帝発展記その十二 竜たちの反乱

なんか雲行きが怪しくなってきた。

最強竜の一角であるブラッディマリー。

そのマリー姉上に取り入り、安全を確保していた取り巻き竜たちが、ここにきて反乱を!?

「……手違いが起きたようね」

マリー姉上、言う。

「アナタたちが存在するという手違いが。それを正すため今すぐ全員消滅させてやろうかしら?」

姉上怒ってるううううッ!?

そりゃそうか、忠実な下僕というべき取り巻き竜たちから反抗を受けて、群れのリーダーとしても、また一個のドラゴンとしてもこれを放置しては沽券にかかわる。

姉上はみずからのプライドを守るために、今まで自分に取り入ってきた舎弟竜たちを皆殺しにしなければなるまい。

ただ……。

「お待ちくださいマリー姉上」

「止めないで! これは私の支配するダンジョンの中での問題よ! 私はダンジョン主として反逆者を処刑する義務があるわ!」

処刑。

……という言葉がマリー姉上の口から出た途端、取り巻き竜たちから怯えの気配が上がった。

……それでますます確信ができた。

「どうやら全員が全員、姉上に反抗心を持っているわけではないようです」

「え?」

「彼らを扇動……、いや服従させて反乱に加わらせているヤツがいるな? ……お前か?」

探してみればすぐさま見つかった。

宮殿内の一番奥、何やら玉座的な椅子に座っているから、今まで気づかないのが不思議なくらいだった。

「お前は……アギベンド!?」

マリー姉上が名前をご存じなだけに、やはり取り巻き竜の一人なのだろう。

人化して中年男性の姿をしているが、細身なうえに豪奢な服装で貴族的な趣であった。

「お前、脳ミソが泥水にでもなったのかしら? そうでないとその椅子に座ることなどできないでしょう?」

マリー姉上が今にも破壊の権化と化しそう!?

「その椅子は私の席。このダンジョンでもっとも強く聡明なるものが座るべきよ。アナタごとき雑魚が触れることすら許されないわ!」

「ならばアナタなら許されると? 戯言ですな」

アギベンドとか呼ばれた竜がうすら笑いを浮かべる。

「かつての狂猛なるアナタなら資格があったでしょう。しかし今は違う。もはやアナタは最強でもなければ女王でもない。みすぼらしい敗北者でしかない」

「なんですって!?」

……マリー姉上のお宅を見学しに来たのに、意外な展開になってきた。

多数の取り巻きを率いていたマリー姉上が、その取り巻きから裏切りを食らっている?

彼女が治めるダンジョン内のことだから、おれは部外者として口出しは控えるべきだろうか?

父上から助言を求めようとしたが、その父上ときたら面倒ごとだと即座に察知してシードゥル共々宮殿の外へ逃げ去っていた。

あの二人最近仲よくない?

「アナタは……、いやマリーお前は、もはや我々の敬意に値する最強竜ではない。他の竜から無様に敗北を喫し、地に墜ちた堕竜だ」

「なるほど、私がヴィールに敗北した時、お前たちはそれを間近で見ていたものねえ。そして恐れをなして逃げ去った」

マリー姉上の見事な皮肉返しが炸裂!

やっぱりコイツら、マリー姉上が農場へ押しかけてきた時一緒にいた竜群と同じヤツらか。

「敗北した私に愛想が尽きたというなら別にいいわ。今度はヴィールのところにでも行って尻尾を振る? 竜ならぬ犬のようにね?」

「そのようなことはせぬ。我々は……、いやこのおれグリンツドラゴンのアギベンドはこれより独立独歩の道を歩む」

そう言って玉座より立ち上がるアギなんとかさん。

「ブラッディマリー、お前よりこのダンジョンを奪い取り、このおれがダンジョン主となる。そしてここから、おれの覇業が始まるのだ!」

「それで私の留守中、他の下僕どもを飼い慣らし、私の帰還を待っていたというの? 全員でかかれば私を倒せると思った?」

「黙れ! 敗北したお前など襲るるに足らん! いやそれどころか、そのような幸運だけでガイザードラゴンとなった卑怯者に寄り添い、媚びるだけのお前に何ができよう! お前は強者の誇りも失った! そんな惰弱に我らが叶わぬ道理がない」

「遥か以前から私に媚びへつらっていたヤツのセリフじゃないわね」

マリー姉上の肌から怒りの竜気が立ち昇る……?

「それ以上に、お前は今言ってはならないことを言ったわね? アードヘッグのことを卑怯者? それどころか幸運だけでガイザードラゴンになっただなんて。私への侮辱は許さないけど、それ以上に彼への侮辱は一線を越えたわ。楽には死なせないわよ……!」

「ひいいいいい……ッ!?」

無理やり反乱に加えさせられたのだろうか、アギベンド以外の取り巻き竜たちがマリー姉上の怒気に怯む。

「本当にお前たちは救いがたい低能ね。私が敗北したからと言って、お前たちが強くなったわけではないでしょう? 私がお前たちより弱くなる道理もない? それなのになぜ私に勝てると踏んだのかしら? このグラウグリンツェルドラゴンであるブラッディマリーを……」

この分だと本当にマリー姉上、ここにいる取り巻き竜たちを一体残らず殲滅するなあ……。

仕方ないのでおれが声をかけた。

「お待ちください姉上」

「ダメよ、反逆者の粛清は長の役目。飼い主の手を噛んだコイツらに生き延びる謂れはないわ」

「おれにやらせてくれませんか?」

「はい?」

別に粛清をやめろとは言わない。

「どうやら彼らが姉上を侮るのは、このおれを侮ることと繋がりがあるようです」

本来、先代から言い渡される幾多の試練を乗り越えて次のガイザードラゴンが決定される。

しかしおれはそういうルールを無視して直接父上を倒し、新たなガイザードラゴンになってしまった。

彼らはそれが気に入らない。

一応、真面目に試練を受けようとしていた輩たちだからな。

おれのことを卑怯者呼ばわりしたい気持ちもわからんではない。

「しかしおれもガイザードラゴンとなった以上、同族からの侮辱の言葉を聞き流すわけにはいきません。聞き流してしまえば皇帝としての威厳が損なわれますから」

「アードヘッグ……!?」

「このおれの力を存分に見せつけてやれば、姉上への軽視も自然改まりましょう。姉上はおれの大事な方なのですから」

「…………ッッ!?!?!?」

マリー姉上、少しの間表情が目まぐるしく変わってから……。

「そ、そうね! 私とアナタは今や一心同体! 誰もがアナタを恐れるなら、私のことも誰もが恐れるようになるでしょう!」

「然り」

「ニンゲンたちも『妻は夫を立てるもの』と言っていたしね! こないだの結婚式で言ってたわ! 私もそれに倣って、弱者どもを一掃する権利を譲ってあげるわ!」

「?」

こうして無事、処刑権を譲渡されたおれは、同族たちに向き合う。

おれを前に、明らかにホッとした空気が伝わってきた。

「マリー姉上より、おれの方が弱いと思っているのか。ならホッとするのもわかるが……」

「面白い」

そう言って前に出てきたのは、あのアギベンドとかいう雄竜だった。

ここまでの流れや口ぶりから言って、コイツが反乱の首謀者であることは疑いない。

「お前たちは下がっていろ。このニセ皇帝はおれ一人で屠ってくれよう」

「お前一人で、か……?」

あわよくばおれを倒すことで次のガイザードラゴンになれるとでも思ってるのか。

そう狙ってるのなら反乱仲間たちはむしろ邪魔だ。

「愚か者め……! ブラッディマリーの陰に隠れて震えていればいいものを、わざわざ殺されるために前に出てくるとはな……!」

「殺せるとでもいうのか? お前がこのおれを?」

「当然だ! お前などまぐれと幸運でガイザードラゴンになれたにすぎん! そのような偶発など認めん! いい機会だ、このアギベンド様が直接お前を叩きのめし化けの皮を剥いでくれよう!」

いいだろう。

おれだって実のところマリー姉上を侮辱されて穏やかな気分ではない。

「お前が勝てば、ガイザードラゴンの称号でもなんでも好きに持っていくがいい。その代わりおれが勝てば逆らうことは二度と許さん。マリー姉上にはもちろん、このおれにもな」

「好きなだけほざくがいい! どっちにしろ勝つのはこのおれだ! ……くくく、おれにも運が向いてきたぞ。竜の王者、皇帝ガイザードラゴンに、こんなにも簡単になれるチャンスが巡ってくるとはな!」

おれにはラッキー卑劣だと散々なじっておきながら、自分に降りかかる幸運はいいのか?

「……しかし、ここでは決戦の舞台としていささか窮屈だな。来い、お前を血祭りにあげる舞台へ案内してやろう」

戦いは、どうやら別の場所で行われるようだ。

……。

しかし、マリー姉上のお宅を見学するのが目的だったというのに。

どんどん話が物騒な方向に流れていってるな?