軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

477 新米皇帝発展記その十 お宅訪問二件目

おれはガイザードラゴンのアードヘッグだ。

聖者殿の結婚式にも参加したぞ。

アロワナ殿の挙式と間もあかずに連続という印象だったがな。

『はあ……、花嫁衣装いい……!』

そしてまたマリー姉上が物思いに耽っている。

アロワナ殿の時もそうだったが、何故か姉上は結婚式の直後に沈んでしまう。

『ニンゲンどもは……! なんで連続で結婚式するのよ!? こんな立て続けに見せられたら気持ちも高まるに決まってるじゃない!』

とブツブツ呟かれている。

どういう意味かわからんけど。

『お姉さま元気出して。それにあの二つの結婚式は全く別件で、連続で執り行われたのは単なる偶然ですから、お姉さまのは言いがかりですわ』

『聖者は、人魚のヤツに触発されて結婚式言い出したらしいからまったくの偶然でもないがな』

シードゥルと父上もいつも通りだ。

『姉上! そういつまでも気落ちなさいますな! 毎日元気に励んでいればいつか幸せに辿りつけますぞ!』

『私の幸せはすぐ目の前にある気がするんだけど……!』

そうですな!

なんでもない毎日が小さな幸せだったりしますよな!

『ああッ、もういいわよ頑張ればいいんでしょう頑張れば! 今日もニンゲンの冒険者どもを蹴散らして幸せの礎にしてやるー!』

今日も我々はアレキサンダー兄上のダンジョンで、侵入する冒険者を追い回しては吹き飛ばす作業にかかるとしよう。

……。

なんでそんなことする運びになったんだっけ?

もう思い出せない。

『いや、それはもうやらないぞ』

『え?』

父上から急に止められた。

何故?

『あれは「ドラゴン強化月間」と銘打って始まったイベントだったろ。もう一月経ったからな。無事終了だ』

『えッ、もう?』

始まったのはつい昨日のように思ったのに。

時が過ぎるのは早い。

『我らドラゴンの感覚で計るとニンゲンの暦ではどうしてもな、一日二日も一年二年もそう変わらん。アイツらは何でそんな細かいことを律義に区切りたいのか』

『父上様、もうちょっと続けられませんの? わたくしもやっとコツをつかみ始めたところなんですのに!』

名残惜しいのかシードゥルが延長を願い出る。

しかし……。

『ダメだ。既に冒険者ギルドから「延長せぬように」という嘆願書が出されててな。ニンゲン贔屓のアレキサンダーなら聞き入れるだろう』

『じゃあここでの楽しい日々も終わりなんですのね。せっかくニンゲンさんたちと仲よくなれたのに残念ですわー』

シードゥルがそこまで満喫していたとは。

数ある竜の中でも一段とよくわからないヤツだが、やっぱりよくわからん。

『ちなみにヴィールの屋台は続けてくれるように別の嘆願書が捧げられたらしい』

『どうでもいいわ。じゃあどうするのアードヘッグ。未完成の龍帝城へ帰るの?』

マリー姉上に聞かれ、おれは答える。

『そうはいきません、当初の目的を果たすためにも、おれはまだまだ帰れません』

『目的ってなんでしたっけ?』

皆忘れていた。

仕方ないから改めて述べよう。

新たにガイザードラゴンに就任したこのおれアードヘッグ。

しかしまだ若輩者ゆえいたらぬところばかり。

特に歴代ガイザードラゴンが居城とするダンジョン龍帝城の作製もままならない。

『龍帝城を築く参考とするために、アレキサンダー兄上のダンジョンを見学に来たのがそもそもの発端ではなかったですか?』

『ああ、そうだったわね。……そうだったわ』

何故だろう?

マリー姉上の放つ気配が怖い。

『じゃあどうするの? まだアレキサンダーのところに居座り続けるの?』

『いえ、あまり一ヶ所に留まり続けても多くは得られないでしょう』

アレキサンダー兄上のダンジョンは古今無双の最優良ダンジョン。

それをこのおれごときが簡単に真似できまい。

だからできるだけ多くの参考をもって、イメージの肥やしにしなければ!

『というわけでアレキサンダー兄上の下を辞去し、新たに別のダンジョンを見学しに行こうと思います』

『ふーん、今度はどこへ行くの、ヴィールのとこ?』

なんだか投遣り気味のマリー姉上。

『いいえ、アレキサンダー兄上のダンジョンを見学し終えたなら、順番から言って次は第二位の強豪ドラゴンの下へ』

かつてのガイザードラゴン後継争いにおいて、権利を放棄したアレキサンダー兄上に代わり最有力候補と謳われた女帝竜。

『マリー姉上、アナタのダンジョンを拝見させていただきたい』

『えッ!?』

* * *

こうして我々は、アレキサンダー兄上に別れの挨拶を告げてのち去った。

次に向かうはマリー姉上のダンジョンだ。

『ン~フフフ~♪ ラララ~♪』

『マリー姉上が上機嫌だ!?』

アレキサンダー兄上の元を離れるまではあんなに不機嫌だったのに。

そんなに兄上が嫌いだったということか。

皆ドラゴン本来の姿で空を駆け、マリー姉上が主を務めるダンジョンへと向かう。

アレキサンダー兄上のダンジョン『聖なる白乙女の山』は人間国に。

対するマリー姉上のダンジョンは魔国にある。

けっこう距離が隔たっているのでドラゴンの飛翔能力をもってしてもそれなりに時間がかかる。

強弱様々でもドラゴンが四体も揃って飛んでたらニンゲンたちがパニックに陥るので、あえて人里から離れたコースを飛ぶため回り道。

『うふふ! やっと見るべきものがわかってきたようね現皇帝竜! 早く私のダンジョンに行きましょう! 真の王者の城構えを見せてあげるわ!』

『勉強させてもらいます!』

姉上の声が弾んでるなあ。

よほど機嫌がいいようだが、もう少し飛ぶスピードを落としませんか?

父上とシードゥルがついてこれなくなっています。

『くっそ……! 力を失ったおれに無茶させやがって……!』

先代ガイザードラゴンの父上もおれに負けて最弱ドラゴンになってしまったからな。

マリー姉上のトップスピードにとても追いつけない。

『仕方ないわねえ、じゃあ時間を活用するために今のうちに予習をしておきましょう』

『アードヘッグよ、お前の体につかまらせて?』

答える前からおれの肩にしがみつく父上。

『私が主をするダンジョンは、名を「黒寡婦連山」。世界一美しく壮麗なダンジョンですわ』

空中を駆けながら講釈を述べる姉上。

『ダンジョンのタイプは山。アレキサンダーには僅かに、ほんの僅かに劣るけれども、それに迫る最大規模ダンジョンなのよ。ニンゲンどもの引いた境界に依るのは癪だけど、魔国で一、二を争う巨大さだわ』

国境で区切らなかったらアレキサンダー兄上の『聖なる白乙女の山』と競り合うことになっちゃうからな。

兄上のダンジョンは人間国側。

『なんで一、二を争うんですの?』

『えッ!?』

マリー姉上が得意げに語っていたところへ唐突にぶち込んでくるシードゥル。

『マリー姉さまの性格なら明確に「一番」って言い切るのに。魔国内と区切った上でなんでそんな曖昧な言い方なんですの?』

『そりゃあ、明確に言ったら二番になってしまうからさ』

疑問を引き受けたのは父上だった。

意地悪そうにクツクツ笑う。

『ニンゲンどもの言う魔国内で最大規模の山タイプは不死山と呼ばれるダンジョンだ。あそこは老師とか名乗るノーライフキングがいてな。大抵穴倉にこもりたがる死人どもの中で珍しく山ダンジョンに巣食う変わり者だ』

マリー姉上の山ダンジョンはそれに次ぐ第二位……?

『マリーのヤツ、最初は不死山を自分のものにしたがった。そこで元から住んでる老師を追い出そうと挑んだんだが、逆にコテンパンにやられて追い返されてしまったのさ』

『父上! 余計なことを言わないで!』

色をなすマリー姉上。

『コテンパンになんかされてません! あれは、優雅に戦えそうにないんでこっちから打ち切ってやったんですわ!!』

『はいはい』

『それにいざ住処にしてみたら「黒寡婦連山」の方が遥かに綺麗で住み心地がいいとわかったの。だから後悔していません! いいことアードヘッグ!』

おれに振られてきた。

『ダンジョンの価値は規模じゃないのよ! 構造の美しさ、住みやすさこそに価値があるの! その点私の「黒寡婦連山」は他のどのダンジョンにも負けないわ! その点をよく見学するのね!』

『わかりました!』

マリー姉上自慢のダンジョンへ向かうおれたち。

しかしその先に争いが待っているとは思いもよらないのだった。