軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

371 山ダンジョンの争い

武泳大会観戦(参戦?)イベントも終わり……。

俺は我が家というべき農場に戻ってきた。

「いやー、やっぱ地上はいいなあー」

根っからの陸棲生物である俺は、海底から帰ってくるなり実感するのであった。

何処でも気兼ねなく呼吸できるところがいい!

空気美味しい!

呼吸楽しい!

この感覚を自覚できたのも海底を旅して得たものの一つと言えるだろう。

「楽しかったなご主人様!!」

そう叫ぶのはドラゴンのヴィールである。

彼女も武泳大会観戦ツアーに参加していたが、途中から存在感が空気だった。

ドラゴンの存在感が消える大会というのも凄いことだが、ヴィールはヴィールで同族のアードヘッグさんやマリーさん共々観戦を楽しんでいたようだ。

途中から俺の参戦が決まってプラティがセコンドまがいのマネをし始めると代わってジュニアを見てくれたりしたので非常に助かった。

ある意味両親である俺たちよりジュニアの扱いに手慣れたヴィールである。

「おれは興奮したぞ! 下等種族どものしょっぼい戦いだったけど、やっぱり互いに本気になって勝利を奪いうあう姿は白熱するな! シュッシュ!」

本当に興奮しているのか、人間形態でシャドーボクシングし始めるヴィール。

異世界でも興奮すればシャドーなのだろうか?

元々最強種族ドラゴンだから戦いに対する意欲もあるのだろう。

ヴィールのヤツは人魚国からの帰途中ずっとこんな調子だった。

興奮のあまりドラゴンに還らないかと冷や冷やしたものだ。

「ご主人様! おれは改めて気づいたぞ! やっぱり生物の本質は闘争だ! 戦いこそが生物を高めるのだ!!」

なんか物騒なこと言い出した。

「だからおれも戦うぞ! ドラゴンとして最強に恥じない生き方をするのだ!!」

「ちょッ!?」

影響受けて軽はずみなこと言い出したよ!?

やめてよ!

ドラゴンのお前がひとたび戦い始めたら周囲にどんなとばっちりが及ぶかわかったものじゃない。

高い確率で色んなものが滅ぶでしょう!?

「大体戦うって何と戦う気だよ!? 最強のドラゴンに対抗できる存在なんてそうそうないでしょう!?」

あるとすれば同じドラゴンくらい。

まさか同族のアレキサンダーさんやアードヘッグさんに気分でケンカ売りに行くつもりか!?

「違うな。おれにはもうずっと以前から敵がいるのだ。雌雄を決さなければならない」

「なんですって!?」

「本当ならずっと以前に叩き潰しておくべき相手だった。しかしおれは色んな理由をつけて後回しにしてしまった。ドラゴンとして凶暴性が鈍っていたと言わざるを得ない!!」

「鈍ってても全然オッケーですけど!?」

ヴィールの口調からは憎しみが溢れ出るようであり、ドラゴンであるコイツにここまで敵意を覚えさせる相手とは一体何だろうと困惑する。

「今日こそヤツらを叩き潰してスッキリするのだ! 人魚どもが思い出させてくれた戦闘本能を開放するー!」

と言って走り去っていくヴィール。

言うことが物騒すぎるために放置するわけにもいかず、俺も彼女を追いかけ駆け出す。

「ま、待てえーーーッ!? 何処へ行くというんだ!? っていうかドラゴンの姿に戻って飛ばないの!?」

お陰で俺も律儀に走って追いかけるしかなく、持続的運動で息苦しくなるのだった。

「せっかく海底から戻ってきたのに……! また酸素不足に!?」

* * *

そうしてヴィールを追って辿り着いた場所は、どこかというと……。

「山ダンジョンじゃないか?」

農場最寄りにあるヴィールが主をしているダンジョン。

勇ましいこと言ってどこに攻め込むかと思いきや、アイツ自身のホーム。

「本拠地に帰ってきて誰をぶっ飛ばすというんだ?」

「御主人様もわかっているだろう! 最近おれのダンジョンに我が物顔で住みつく侵入者たちを!!」

「?」

一体何の話をしているのかと首を傾げていたら、ダンジョンの奥から賑やかな音が接近してきた。

『聖者様! 聖者様ではないですか!?』

『よくおいで下さいました!』

『私たちに御用でございますか!?』

と言ってくるのは色とりどりのフルーツたち。

フルーツが喋っている?

という摩訶不思議を説明する必要があろう。

ここ山ダンジョンには俺が農作業の一環として、果樹を植えフルーツを栽培している。

本質的に亜空間である山ダンジョンの安定した気候と、斜面の多い立地は果物を育てるために向いていたからだ。

そうして『ダンジョン果樹園』と名付けられるまでに大いに繁栄した果樹に、いつしか樹霊なるものが憑依しだした。

樹霊とはこっちのファンタジー世界の産物で、樹木に取り憑く精霊の一種。

依り代となる樹木の特徴を生かし、共存共栄していく存在だという。

俺も最初に存在を確認した時は驚いたが、害はないので結局許容した。

それどころか憑依した果樹の育成を管理し、果実をたくさん収穫できるようにしてくれるので助かるぐらいだ。

そういうわけで今やダンジョン果樹園に植えられた果樹のほとんどに樹霊が憑いているわけだが……。

今俺を出迎えてくれているのもそうした樹霊たちだ。

カカオの樹霊カカ王。柿の樹霊カキエモン。リンゴの樹霊リンゴォ。ミカンの樹霊アルミカン。レモンの樹霊ママレモン。ブドウの樹霊ストロング・ザ・ブドウ。バナナの樹霊ソンナバナナ。ベリーの樹霊ベリーナイス。栗の樹霊クリスちゃん。梅の樹霊ウメ天帝。桃の樹霊モモチタンバ。桜の樹霊錯乱坊……。

とにかくたくさんいる。

その樹霊たちの外見的特徴は、何故だか知らないがフルーツそのものだった。

みかんならみかん、リンゴならリンゴに樹霊が憑依しているのか、それがフヨフヨ浮いて俺に寄ってくる絵面。

俺人気者だった。

「皆、樹木の管理ご苦労。問題はないか?」

と挨拶代わりに聞けば……。

『何も問題ありません!』『聖者様が拓いた果樹園に問題など起こりようがありません!』『私たちが精一杯管理していますから!』『聖者様バンザイ!』

忠誠心の高さが心地よい。

こんな風に樹霊たちで益々賑やかな山ダンジョンだが……。

「きてはああああああッ!!」

『『『『『『ぎゃあああああああああッ!!』』』』』』

いきなりヴィールが人間形態のまま炎のブレスを吐いて、樹霊たちを攻撃した。

っていうか人間のままブレス吐けたの!?

「どうしたんだヴィール!? いきなり反抗期か!?」

「そうじゃねえ! 言っただろう敵を倒しに行くと!!」

ああ。

そう言えばそんな話だった。

「この樹霊どもが敵だ! おれの領域に侵食する厄介なヤツらだ! 今日こそコイツらを一匹残らず駆逐してくれる!!」

「ええー?」

そういえば。

新たにダンジョン果樹園に住みつき始めた樹霊たちとヴィールの間にはかねてから住民トラブルがあった。

元々このダンジョンの主はヴィール。

俺はそのヴィールの同意を得てダンジョン果樹園を拵えたのだが、そこに湧き出した樹霊たちはヴィールに許可を得ていない。

モンスターは正真正銘ダンジョンから発生するものではあるし、ヴィールにとっては食料になったりダンジョンを守る衛兵になったりで役立つものだから許容している。

しかし樹霊たちは根本的に精霊でモンスターとは別物らしく、捉え方も違うようだ。

「コイツらおれに許可もなくダンジョンに住みつくし、何よりおれへの敬意が一切ねー!! こんなヤツらをダンジョンの片隅にでも置いておけるものか!!」

とヴィール。

たしかに無許可は問題あるよね。

そこのところ樹霊たちにただすと……。

『失敬な許可なら取ってあるぞ!』

『聖者様から取ってあるぞ!』

俺から許可を得るだけじゃダメなんですよねー。

たしかにダンジョン果樹園の制作者は俺で、ダンジョンを支配するヴィールの飼い主(?)も俺ではあるけれど。

それでも究極的に山ダンジョンの主人はヴィールなんだから、ヴィールにこそ仁義を通してもらいたい。

そういやヴィールも事あるごとに樹霊たちを制圧しようと活動したことはあったようだが、その間にジュニアが生まれてヴィールが首ったけになったりで放置されていたからなあ。

それをいよいよ本腰上げて制圧再開するのがヴィールの決意というわけか。

「このダンジョンの主はおれだー! おれに敬意を払えー! さもなくば死ねー!!」

樹霊たちに迫るヴィール。

しかし……。

『断る!』

『我々ダンジョン果樹園の樹霊たちは聖者様にのみ忠誠を誓うのだ』

『二君に仕えず!』

なんでそんな忠誠心高いの?

俺のみに対して?

『これは侵略だ! 我々のダンジョン果樹園に対する侵略だ!』

「違うよ!?」

奪いとるまでもなく最初からヴィールの領地だよ!?

『こうなってはあの御方に出てもらうしかあるまい! 我ら樹霊の代表者を!』

『おお! 彼なら凶悪な侵略ドラゴンを退けてくれるに違いない!!』

樹霊の代表者?

そんなのがいるなんて俺も初耳なんだけど?

あらゆるフルーツを依り代とした樹霊たちの代表者。

ドラゴンと相対することまでできるという、その存在は。

まさにフルーツの王だった。