軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

372 キングオブフルーツ

そして出てきた、ダンジョン果樹園に住むすべての樹霊を代表するという……。

『ドリアンの樹霊です』

来たよ。

果実を依り代とする樹霊たちの中でも一際大きく、しかも果皮からトゲのような鋭い突起が無数に飛び出している。

その異様な姿こそ見間違えようがない。

ドリアン。

南国フルーツの一種ドリアンである。

フルーツの中でも強力な特徴を様々に備えているところから別名『フルーツの王様』などとも呼ばれている。

……だからか?

だから樹霊たちの中で一番偉いとでも言うつもりか!?

『……そう、ドリアンはフルーツ界の王。その樹霊である私はドリアン界の王。そこで……』

ドリアンの樹霊名乗る。

『ドリアン・カイオウと申します』

自己紹介が終わったところで……。

『ダンジョン果樹園は我ら樹霊の理想郷。相手がドラゴンと言えども易々明け渡すわけにはいかん。どうしてもというならこのドリアン・カイオウが全樹霊の代表として戦う!』

いや、だからここは元からヴィールの領地……。

「ぐっふふふ……! よかろうなのだ。このグリンツェルドラゴンのヴィールを恐れず挑もうとは植物風情が見上げた度胸。その心意気に免じて……!」

ヴィールの姿が変わった。

ドラゴン本来の見上げるほどの巨体へ変わる。

『この真の姿で戦ってやるのだー!! 諸共すべての樹霊どもを焼き払い、おれのダンジョンに平和を取り戻すのだー!』

言ってることは悪役っぽいが、理は圧倒的にヴィールの方にある。

これどうした方がいいのかな?

俺も武泳大会から帰って来たばかりで疲れてるからしばらく見守ろう。

『先手必勝! くらえドリアン頭突きーーーッ!!』

まずドリアンの樹霊ドリアン・カイオウが突進した。

他のフルーツより格段に大きくて硬くて重そうな体を利用しての体当たり。

しかもドリアンの果皮はトゲトゲで埋め尽くされているため、相応の速度で直撃するとメチャ痛そう。

しかし……。

『はーん、効かんのだ!』

ヴィールは攻撃を受けながら鼻で笑った。

『その程度でドラゴンのウロコを破れるわけがないのだ。このおれに歯向かった愚かさを思い知らせてやろう』

まあ、わかりきっていたことだが……。

いかに王様でもフルーツの王様ではドラゴンに勝ち目はないよなあ。

ドリアン側は何をやってもダメージを与えられず。

対してヴィールの側からの攻撃はかすっただけでも即死級。

そんな無理ゲーがこの戦いなので、適当なところで俺が止めるのが適切であろう。

そして和解のあと、互いの居住権を巡って話し合えばよい。

そう思っていたが……。

『さすがドラゴン。しかし攻撃が通じないからと言って万策尽きたわけではない。憑依した樹木の特徴すべてを使いこなせることが樹霊の強みと知れ!』

既にどんな攻撃も効かないと証明されているというのに、ドリアン・カイオウはこの上何をするというのか?

斬っても叩いてもドラゴンのウロコはかすり傷もつかない。

残る手段があるとすれば……。

『食らえ! いや、香れえええええーーーッ!!』

ドリアン・カイオウの果実のごとき外見の、その総身がパカッと割れた。

果皮に覆われた内部が露わとなる。

内の果肉が晒される。

その時。

視覚が果肉を確認するより先に……。

『臭ええええええええええええッ!?』

「臭えええええええええええええええええええええッ!?」

ヴィールだけでなく俺まであまりの悪臭に悶絶した!?

何この臭い!?

肉が腐ったような!? でも実際のそれより何倍も臭い!? いやもうこの悪臭の混じった空気を吸いたくない吐きそう!?

『臭い臭い臭い!? この匂い!? 原因はお前か!?』

『いかにもその通り!』

果肉を外気に晒してドリアン・カイオウは勝ち誇る。

「そうか!?」

俺は、小耳にはさんだ記憶を引っ張り上げる。

前の世界でもお目にかかったことのないフルーツの王様ドリアン。

きっと物凄く高いんだろうし、当時の俺にはとても手の出ない代物だった。

何より近所のスーパーにも置いてなかったし。

しかし。

気軽に店頭に置いていない理由は別にあった。

聞くところによればドリアンは滅茶苦茶臭いのだ!

あまりに臭すぎるために、とてもじゃないが他のフルーツとは同様に店では扱えない!

客からクレームが来る!

そんな危険な果物がドリアンなのだ!!

『ぎゃあああああッ!? 臭ええええええッ!! 死ぬうううううッ!?』

その悪臭はヴィールにもバッチリ効果を発揮していた。

斬ろうが叩こうが何も通じないドラゴンも、悪臭には耐えがたい。

『臭えええッ!? 羽女の作るネバネバ豆より何百倍も臭ええええッ!!』

『ふはははは見たか! 我がフレグランスの前にはドラゴンすら敵ではない!』

『うっせえ! ただ臭いだけじゃねえか! ぐおおおッ!? しかし臭すぎて近づけん!!』

驚いたことに悪臭攻撃はたしかに有効だった。

最強生物であるがゆえに感覚器も発達しているらしいドラゴンは、ドリアンの放つ悪臭はより一層キツいらしい。

他の生命より優れていることが却って仇になるとは。

そういえば獣人のシルバーウルフさんがここにいたらやっぱ臭すぎて死んだだろうか?

「これは……!?」

本当に実現するか?

ドリアンによる打倒ドラゴン!?

『舐めるなあああああ!! おれがこれぐらいで負けるかあああ!!』

ヴィール、ドラゴンの翼を大いに羽ばたかせる。

嵐のごとく巻き起こる風。それによって揚力を得て天空高くへ飛び上がる。

『これぐらい離れればくっせーのも届かないぞ! ここから遠距離攻撃で消滅させてやる!!』

やっぱドラゴン。臭いだけで押し切れる相手ではなかったか。

ヴィールの竜魔法をもってすれば海の向こうだって射程範囲内だろうし、やっぱり勝負は一方的だったな。

ドリアンの方にこれ以上の攻撃手段はあるまい。

そろそろ止めねば。

「待ったあああああああッ!? ごぼげぼッ!?」

俺自身はまだドリアンの悪臭空間の範囲内だったので悪臭で大いにむせた。

前回からやけに新鮮な空気と縁が薄い。

「そこまでにしておくんだヴィール! お前の勝ちは決まった! これ以上の破壊は意味がない!」

『バカを言うなご主人様! こんなくっせーフルーツ、絶対有害だぞ! 灰も残さず焼き払ってしまわないと被害が広がるぞ!!』

ヴィールの言うことが正論めいているのが悲しい。

「いや待て! そんなことはない! たしかにドリアンは臭いこと災害のごとしだが! それを補って余りある利点があるんだ!」

『何だそれは!?』

「美味いんだ!」

フルーツは食すもの。

さすれば食して美味しければ大正義であろう。

ドリアンが『フルーツの王様』と食されるゆえんこそが、その美味しさ。

ヴィールは地上に降り立ち、人間形態に戻って……。

ドリアン・カイオウが差し出すドリアンの果肉を一口食べてみた。

「うめええええええええッ!!」

そんなに美味いんだ!?

俺も前の世界にいた時食べたわけじゃないからなドリアン。

とても手が出るシロモノじゃなかったし、食べたいとも思わなかった。

そもそもなんでダンジョン果樹園にドリアン植えたのか? いや植えたっけ俺?

その辺どうも記憶が曖昧ながら、せっかくなので俺も噂のドリアンを一口味見してみる。

「うお、うまッ!?」

とても果物とは思えない肉厚な味。

しかし美味しい。

これを食べるために借金する人もいるなんて与太話も信じてしまえそうなぐらい。

「おい臭いの!」

『はいッ!!』

突然名指しされてドリアン・カイオウがビクつく。焼き尽くされる寸前まで追い込まれて相当ビビったようだ。

「お前の美味さに免じて存在を許してやろう! 以後毎日お前の果実を献上しに来るのだー!」

『わ、わかりました!!』

その横で俺は他の樹霊たちにも口頭注意。

「このように、このダンジョンの主はヴィールなんだからアイツにも敬意を払うように。トラブルはご法度ですからね」

『『『『『『はーい』』』』』』

こうして山ダンジョンでの仁義なき抗争は平和裏に終わりを迎えた。

今回の事件をまとめると……。

ドラゴン強い。

ドリアン臭い美味い。

の二点だった。

「ご主人様! ドリアン美味いぞ! ジュニアにも食べさせてやろう!!」

「やめろ」

赤子にドリアンはまだ早い。