軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

370 武泳大会総評・観戦者の視点

ボクの名はイワ。

人魚国に住むごく一般的な人魚だよ。

何の変哲もなく日々を暮らすだけの平民のボクたちが、毎年楽しみにしているイベントといえば武泳大会。

国中から腕に覚えのある男人魚が集い、戦って戦って戦い抜いて、最強を決めるお祭り。

男なら誰であろうと血湧き立つお祭りさ。

普段は国内でイクラ売りの仕事をしているボクも、この日が近づくと自然虚空にジャブを打ち出してしまう。

今年の武泳大会の目玉はやっぱりアロワナ王子。

次期人魚王という高貴な血筋もさることながら、昨年度優勝者という最高のネームバリュー。

しかも栄光に驕ることなく地獄の陸で一年近くの修行をしてきたという。

今年の大会は、アロワナ王子の修行の成果を見る絶好のチャンスだと皆が注目していた。

その他にもシャーク将軍や斬泳闘法師範タチウオ、戦う論客ヘンドラーといった決勝トーナメント常連組にも期待が集まっている。

凄まじい倍率のチケットを手に入れて、ボクは会場でナマ観戦することができる。

この日ばかりは仕事はお休み、お客さんにはイクラは我慢してとびこを食っていてもらおう。

ボクの注目もアロワナ王子。きっと今年も優勝する。

王子の連覇の瞬間をこの目で焼き付けるぞ!!

* * *

大会は、実際始まったら予想以上に盛り上がった。

なんと現人魚王ナーガス陛下が電撃参戦なさったのだから。

十五年連続優勝という大記録を最後に引退宣言し、以降一回も出場なさらなかった陛下が。

これには往年の武泳大会ウォッチャーたちも興奮し、その胸の内を様々に推察した。

十年近くの沈黙を破りリングに舞い戻った陛下の胸の内を。

大多数の意見が、やはり『後継者たるアロワナ王子の資質を見極めること』で一致した。

勝負の結果によっては、このまま王位継承もありえるか!? となって観客席も興奮の極致に。

ボクらは歴史の変わる瞬間を目撃するのかもしれないのだから。

アロワナ王子もナーガス王も予選すべての試合を瞬殺勝利し、最速で決勝進出確定。

強すぎる。

ナーガス王がお強いのは当然のことながら、アロワナ王子もそれに近い滅茶苦茶を発揮されて対戦相手を次々粉砕していた。

やはり王子は有意義な修行をされたのだ……!

それを証明するパワーアップ!

しかもアロワナ王子に寄り添い、全試合で適切なサポートをする女人魚は誰?

去年の大会でもいたような気がするけど?

玄人ウォッチャーに聞いてみたら、あれこそ狂乱六魔女傑の一人『凍寒の魔女』パッファだという。

ボクはそっちの方あまり知らないのでわからなかったが、極秘情報ではアロワナ王子の婚約者ということ。

魔女を妻にするなんて凄い!

やっぱりアロワナ王子は稀代の英傑だぜー!!

もはや今日にでも人魚王を継承するに足る強さを見せつけ人魚国は安泰という感じだ。

もはや今年の大会は人魚王父子の独壇場になる。

そう思われた矢先。

思いもよらない展開が武泳大会で起こった。

* * *

事件は決勝トーナメント本戦で起きた。

なんと決勝進出選手の中で性転換してしまった者がいて欠場になってしまったのだ。

『まーたイシダイ族かー』と会場も不安にざわついたが、驚くのはこれからだった。

欠場した選手に代わって登場したのが、何と武泳大会史上初の他種族だったからだ。

プラティ王女の夫。

聖者と呼ばれる陸人。

人魚王の長女にして、自身卓越した魔法薬使いであることで人魚国民からの圧倒的人気を誇っていたプラティ王女。

その王女様が結婚してしまって密かにショックを受けていた男性国民も少なくない。

実はボクもその一人だが。

そんなプラティ王女が嫁いだ相手が陸人だということは、一時期話題になって『どんなヤツだろう?』と興味が集まった。

先ごろプラティ王女の里帰りということで共に人魚国入りし、初めて公に姿を現したが、顔を出しただけで『普通だなあ?』という印象しか残さなかった。

そのプラティ様の夫が武泳大会に出る!?

由緒ある人魚族の武祭に他種族が出場すること自体に賛否がありそうだが、それらをすっ飛ばして観客皆が注目した。

プラティ王女の夫。

王女様自体が物凄い御方なのだから、その相手として選ばれた陸人もさぞかし凄いのではないか?

むしろ凄くなければ納得できない。

人魚国に数万人規模のファンを持つプラティ王女を独占するのならば。

嫉妬であった。

しかしその当人。少なくとも外見からは普通にしか見えない。

強そうには見えないし、むしろ弱そう。

大丈夫なの?

本当にプラティ王女に相応しい特別な存在なの?

真実をたしかめるためにも今日の急きょ参戦はおあつらえ向きであった。

さらに都合がいいことに、一回戦でプラティ様の夫と当たるのは、あのシャーク将軍だった。

獰猛なるシャーク将軍。

人魚王宮に仕える軍人ではあるが、生来の好戦的性格で武勲を上げ将軍にまで登り詰めた。

とにかく戦闘が大好きで、毎年の武泳大会にも欠かさず出場するバトルマニアだ。

過去に優勝経験もあり、あの陸人の実力を暴くには充分な実力者。

「将軍いけええええーーッ!!」

「プラティ様とイチャイチャする羨ましい陸人を殺せええーーッ!!」

観客席からは私怨による声援も溢れ出る。

シャーク将軍の実力は本物だから、相手が雑魚なら一瞬もたずに粉砕されるだろう。

プラティ王女を我が物にした羨ましい立場なんだから、それぐらいの困難があった方がバランス取れるよね? という私怨をボクも若干含めつつ、一人魚格闘ファンとして未知なる試合を見届ける。

試合開始。

そして凄まじい結果に終わった。

「ほげええええええッ!? 飲まれる!? 渦に飲まれるうううううッ!? 流れに逆らえないいいいいッ!? 回る!? グルグル回るうううううッ!?」

シャーク将軍が渦潮に飲み込まれたー!?

陸人が海水を手繰るようにして渦を発生させた!?

何なのあの技!?

陸人は誰でもああいうのできるの!?

とにかく勝負は一瞬で決着し、プラティ様と結婚した陸人は人魚族強豪の一人をいともたやすく撃破した。

その実力は本物なのか……!?

* * *

本物だった。

プラティ王女の夫の陸人は、続く二回戦でも渦潮攻撃で対戦者を瞬殺。

さらに準決勝で当たったのは何と今大会最注目の一方、我らが人魚王ナーガス陛下。

決勝でアロワナ王子殿下と当たるまですべて消化試合と思われたが、準決勝で凄まじい好試合が演じられたものだ。

過去歴代の武泳大会で最強伝説を打ち立てたナーガス陛下を相手に、一歩も引かないなんて……!?

ナーガス陛下にトライデントを使わせた!? 過去の十五年連続優勝でも一度も振るうことなく素手で勝ち抜いたナーガス王なのに!?

しかもトライデントを使わせただけでなく、トライデントとまともに打ち合っている!? 神の矛と互角にやり合う陸人の剣は一体何!?

陸の伝説の武器なのか!?

全試合中でも屈指の長丁場となったナーガス陛下vs陸人との激戦は、それでいて退屈が一瞬たりともない最高の攻防となった。

そして決着は誰もが予想しなかったもの。

ナーガス陛下の方が先にギブアップしてしまったのだ。

既にお年を召されているから仕方ないとはいえ、最後には若さのスタミナで陸人が勝負を制した。

伝説が打ち砕かれた。

武泳大会にて不敗神話を更新し続けたナーガス陛下の、その生きた伝説がついに断たれたのだ。

しかも他種族の手によって。

それはボクたち人魚族にとってプライドを傷つけられる事実かもしれないが、何故かボクを含めた観客全員は心から満足していた。

これだけ白熱する好勝負を見せてもらったのだ。

満足するに決まっている。

対戦相手も、他の陸人が勝者なら悔しさもあったかもしれないが、何よりプラティ王女の旦那様というのがよい。

さすがプラティ様が選んだ男と思うことができる。

プラティ王女の夫。

いや聖者が人魚王家と誼を持つというのは非常に喜ばしいことではないか。

これで人魚国も人魚王家も安泰だ。

バンザイ!

……まあ、最後のアロワナ王子との決勝戦は、どうかと思ったけども。

海中で陸人は呼吸できないとは聞き及んでいたが、それを可能にする特別な薬が切れて溺れてしまうとは。

それでアロワナ王子の不戦勝とは。

しらけることこの上なかったけども。

でも全体的に見れば例年以上に見応えのある試合の多いいい大会となりました!

玄人ファンの僕も大いに満足。

さあ元気いっぱいで明日からししゃもっこを売るぞ!!