軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

369 武泳大会・優勝決定

続く準決勝第二試合はアロワナ王子vsヘンドラーくん。

これも意外な好勝負で長丁場となった。

全体的な実力ではやはりアロワナ王子に分があるものの、ヘンドラーくん異様の粘りで食い下がり、時には優勢に立つシーンも。

しかし結局は基礎力の差でアロワナ王子が勝利し、ヘンドラーくんは準決勝に散った。

ちなみにヘンドラーくんベスト4進出は自己最高戦績なんだそうな。

また論客に関係ないキャリアを着実に積んでいた。

こうして決定した決勝戦の組み合わせは……。

アロワナ王子vs俺。

大方がアロワナ王子とナーガス王の王家親子対決を予想していた中でのどんでん返し。

皆予想が外れて盛り下がってるんじゃないかな? と心配になるぐらいだった。

しかし実際のところ熱気は衰えない。

親子対決は見送りになったとはいえ、代わりのカードは未来の人魚王とその妹婿。

つまり義理の兄弟対決。

老いた父王にバトンを託された俺が、次期王の資質を計るために挑むのが今大会の決勝。

そんな位置づけとなっているようだ。

決勝戦に向けてコンディションを整えているところへプラティが言う。

「周りの声なんてかまうことはないわ! このまま兄さんを倒して旦那様が人魚国の王になりましょう!」

「野心を露わにするな」

俺が王様になったら誰が農場を営んでいくというのか?

勝つと面倒だが今さら手抜きもできない大舞台へと俺は向かう。

「プラティ、エアもずくちょうだい?」

「もう飲み込むのも吐き出すのもダメよ」

* * *

エアもずくで水中呼吸可能になって出陣。

決勝の舞台は一際豪華な試合場だった。

もうこれ以降に試合はないため。全観客が注目している大舞台だ。

そこでアロワナ王子と対峙する。

「……聖者殿、客としてお招きしたというのに、このような仕儀になって申し訳ない」

口では畏まってはいるが、体の表面から湧き上がる闘気の濃度は凄まじい。

いつも農場に遊びに来てアホなことやって帰るアロワナ王子とは別人のようだった。

でもこれがアロワナ王子の真の姿。

人魚国を背負って立つ未来の王の姿なのだ。

その王の偉大さを示すのも武泳大会の意義だとするなら、もっとも注目を浴びる決勝戦。

相手に選ばれた以上は恥ずかしくない戦いをしなければ。

「……アロワナ王子」

俺は口を開いた。

「アナタは妻プラティのお兄さんにして大切な友人。そのアナタと刃を交えるのは心苦しいが、これも一種の競技と考えてぐぼごぼぼぼぼ……!?」

あれ?

なんだなんか息苦しいぞ?

そういえば!

今俺は、水中で呼吸できるようにするためのエアもずくを噛んでるんだった!

喋って口を開けちゃうと口内のエアもずくが海中に流れ出ちゃうよ。

「あがばばばばば!! ごぼぼぼぼぼぼ!!」

「だから何回同じ間違いを繰り返すのよ旦那様! アホなの!?」

だって! ここでアロワナ王子に口上を返さなければ宿敵に失礼になると思って!

あるでしょう!? 男同士だからこそ通じ合えることが!?

「ぐぼおおおおおッ!?」

いや待って!

今はとにかくそれどころではない!

口の中にどんどん海水が入ってきて呼吸できない!!

プラティ! プラティ早く新しいエアもずくを!!

俺が窒息してしまうより先に!

「しょうがないわねえ、本当にアホな旦那様……!? えーと、あれ?」

新しいエアもずくを取り出そうと懐をまさぐるプラティ。

どうしたの早く!? もったいぶるのとかいいから、一刻も早く新鮮な酸素がなければ死ぬ!?

「……エアもずくがもうない」

何いッ!?

「旦那様が悪いのよ! その辺の草でも食むかのごとく簡単に吐いたり飲み込んだりするんだから消費量が半端なかったのよ!! そもそも今回、旦那様が出場するなんて夢にも思ってなかったしあくまで用心としての携帯だったから量もそんなに多くないし!!」

たしかに俺が雑に使っていたのは悪かったかもしれません謝ります!

しかし今は、早いとこなんとかして酸素を補給してくれないと!

水の中で呼吸が! 当然のことながら呼吸が!?

何か他に方法はないんですか。

あー息が!?

苦しい!

息が! いき……!?

「あッ……!?」

プラティのマヌケな声が上がったと思ったら、俺、力なくプカリとなった。

海中に漂う自分自身の姿を眺めるのはおかしいなー? と思いつつ、『あ、これ幽体離脱じゃね?』と一瞬遅れて気づくのだった。

「ぎゃああああああッ!? 旦那様が!? 旦那様が死んだあああああッ!?」

結論から言って俺は死ななかった。

すぐさまプラティによってシャボンの中に引き入れられた俺は、迅速な人工呼吸によって息を吹き返し事なきを得た。

ただ、それらの騒ぎによって武泳大会の決勝は吹っ飛ばされてしまい、なんやうやむやのまま終わってしまうのだった。

* * *

結果。

今年の武泳大会、優勝はアロワナ王子。

栄光の二年連続優勝。

決勝戦は不戦勝扱いとなりました。

だって地上人の俺が海中活動なんて基本的に無理なんだもん。

プラティの天才的発明が不可能を可能にしてくれたのであって、その発明がなくなったら無理。

というわけで優勝はアロワナ王子のものとなった。

「なんとも締まりないなあ……!?」

本当ならもっと白熱する決勝戦を繰り広げたいと思っていたのに。

漫画雑誌的に言えば五十週ぐらいかけて。

それなのに敵が勝手に溺れて死にましたという最低の自滅パターンで終わってしまうとは……。

「お気になさらずに聖者殿……!」

晴れてV2達成者となったアロワナ王子がフォローしてくれる。

大会は既に表彰式まで終わり、祭りの後の静けさとなっていた。

「無理を言って出場までさせてしまったのはこちらなのですから……! 聖者殿が楽しんでいただけたのなら幸いです……!」

イベントも終わったことだし、用事のなくなった俺たちはそろそろお暇する腹づもりだった。

農場のことも気になるし。

「来年の武泳大会にも是非とも観戦に来ていただきたい。何なら最初から出場目的でもかまいませんぞ?」

「いやいや……! 今回でこういうのがとことん性に合わないということはわかったので……!」

本当にな。

俺にはバトルよりも、土を耕し家屋を建てる方がずっと合っているようだ。

ただ。

だというのに俺の隣でブツブツ呟くプラティの独り言。

「今度来るときはエアもずくを三倍の量に増やした方がよさそうね……! いや五倍? 誤飲、吐き出しを防ぐ工夫もした方がよさそうだし、もずく以外の媒体も吟味した方がよさそうね……!」

次の大会に向けて新たに戦略を練り始めるのやめてくださいませんかね?

「うふふ……、婿殿、勝ち逃げは許しませんわよ?」

見送り組に交じってシーラ王妃も怖いこと言うし。

「ウチのダーリンが必ず雪辱を果たして見せますので、来年も必ずいらっしゃいましね?」

「もっす!」

男たちと違って何かと遺恨を残す女性陣。

「……そういえば、アロワナ王子が優勝したからにはどうするんです? そろそろ本格的にパッファとの結婚を認めてあげないんですか?」

「何のことかしら?」

とぼけるシーラ王妃。

まだまだアロワナ王子とパッファの愛の道のりは険しそうだ。

「アロワナちゃんとダーリンの直接対決がなかったからには今年の判断はなしよ。また来年のチャンスに懸けるのね」

「そんなあああああッ!?」

サラッと結婚予定を来年に先送りにしやがった。

それを聞いて悲嘆するパッファ。やはり番狂わせをしてしまって悪い気がしてきた。

まあ、この家族と共に過ごす日々は楽しくて心休まる。

機会があればまた何度でも訪れたいところだ。

「そういうわけで、次は完全に観戦目的で来ますんで……!」

人魚王一家に見送られて、俺たちは円満に人魚国をあとにするのだった。