軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

366 武泳大会・聖者の実力

そんなわけで俺……。

急きょ武泳大会参戦決定!!

欠場になってしまった選手の穴を埋めるために飛び入り参加とあいなりました。

「そんなこと言ったって、どうすりゃいいの……!?」

俺、人間ですよ?

肺呼吸しかできませんのよ?

そんな俺が、人魚相手に水中戦を挑もうなんて身の程知らずにもほどがある……!?

「まともな勝負になる以前に、窒息で死ぬと思うんですけども!?」

ここは海中深く。

人魚の特殊な秘術による空気に満たされた空間内にいるから溺れずに済んでいるものの、そこから一歩でも出たら哀れな溺死体ができましたーってなる!?

しかし我が妻プラティはジュニアを抱いたまま少しも動じず……。

「大丈夫よ、こんなこともあろうかといいものを用意してきたわ」

「予想してたのこの事態を!?」

プラティが手に乗せて差し出してきたのは、もずくのような湿気った海藻の塊だった。

やたら細かくてぬるぬるしている。

「これを口に含んで。飲み込んだらダメよ」

「あ、これもしかして……?」

「はい、あーん」

「あーん……ッ!?」

言われた通り、俺はプラティの手から直接もずくを口つけ吸う。

口内に粘性海藻のもっちゃりした感じが。

しかし同時に口の中に広がる清涼な味。

これはイケる。

俺は王族用観覧席の空気エリアから飛び出した。

途端に海水に包まれることになるが慌てない溺れない。

俺は今海中で呼吸できている。

プラティがくれたもずくのお陰で。

「あらプラティちゃんたら、あんな面白そうなものまで拵えてたの?」

「噛めば噛むほど空気を発生させるエアもずくよ! あれを口に含んでいる限り陸人だって海中で活動可能だわ!!」

プラティが魔法薬の応用で生み出したもの。

やっぱりウチの奥さんは天才だぜ!

ジュニアを抱きかかえている時は空気をちゃんと確保するシャボン玉の方が安全だろうが、服が濡れるのもかまわず荒事で俊敏な動きを求める場合こっちのもずくの方が断然有利だ。

これで海中で戦う不利は解決。

何だか行けそうな気がしたぜ!

ところで口の中のもずくがもう噛み飽きてきた。

よっしゃ飲み込もう。

ごくん。

「ぐごごごごごごご……!?」

「だから飲み込むなっつったでしょうがあ!! もずくが口の中にあるおかげで呼吸できているのよ!」

そうでした!

* * *

プラティから新しいエアもずくを貰って俺、本格的に参加。

武泳大会決勝トーナメントに。

居合わせたギャラリーの多くのリアクションが『何なんアレ?』という感じだった。

神聖なる人魚の武闘大会に、他種族が出場しようということ自体前代未聞。

受け入れるべきかという戸惑いと警戒が伝わってくるかのようだ。

やっべえ針の筵にいるかのよう……!!

「聖者殿が出場されるとは! これは面白くなってきた!!」

その重苦しい空気を一息に笑い飛ばすのはアロワナ王子だった。

さすが王子の貫禄。

「武祭に集まりし物見高い者たちよ! 聖者殿の実力は、この私が保証しよう。人魚族が誇る武の祭典にて見応えある戦いを見せてくれるに違いない! 皆、期待して観覧するがよい!」

「もっす!」

人魚王さんまで!?

俺のことフォローしてくれるのは有り難いですが、あんまりハードル上げないでいただけますか!?

* * *

そんな感じで始まる俺の武泳大会。

所詮リザーバーだから適当なところまで勝ち進められればいいかなあ、と思っている。

第一試合。

俺の対戦相手はシャーク将軍とかいう人だった。

……。

……うーん?

なんか聞き覚えある名前?

「旦那様ー、シャーク将軍は決勝トーナメント常連組の一人よー」

試合場脇まで来てくれたプラティがアドバイスしてくれる。

セコンド気取りか。

「人魚国の将軍だけど獰猛で、優勝経験もあるから気を付けてねー」

そんな彼女。

ジュニアを抱っこするためにわざわざ人間形態になってシャボンに包まれていた。

まあ、それはいいとして……。

……初っ端から凄い人と当たった!?

優勝経験者!?

しかも獰猛!? プラティの解説を裏付けるように対戦相手のシャーク将軍さんは、将軍というよりは世紀末の荒野をうろついているモヒカンみたいな雰囲気だった。

「ギャーハハハ! プラティ王女のダンナとこんなに早くぶつかれるとはなあ! サメてるぜえ! いや、冴えてるぜえ!!」

なんかやたら大きな剣を、二刀流で振りかざすのが特徴だった。

刃の部分がギザギザのノコギリ状になっている。

「それは噛み殺し鋸っていうシャーク将軍の必殺武器よー。二刀のギザギザ刃に挟み斬られるとサメに噛まれるようにブチッていくから気を付けてー」

何をどう気を付ければいいのかと!?

「プラティ王女が惚れたからには優男なだけじゃねえ! 実力だってあるだろう! 強さこそが魅力なんだぜええええ!!」

試合開始の合図もなく襲い掛かってくるシャークさん。

超怖いので腰砕けになりつつかわすものの、水中なので動きのすべてが緩慢になり、かわしたけれどもギリギリだった。

エアもずくで空気を確保できたと言えども、所詮俺は陸の者。

尾びれを持つ人魚に水中で敵うはずがない。

「ジョーズに引き裂いてやるぜー!」

人魚独特の急旋回泳法で息つく間もなく再び襲ってくる。

直線スピードも旋回の鋭さも水中では人魚が上。

一体どう対抗したらいいんだ……!?

しかし俺だって無策などではない。

俺にも俺の切り札がある。邪聖剣ドライシュバルツも海中に持って来てあるし、そして何より『至高の担い手』。

『至高の担い手』があれば上手く泳げるんじゃないか?

手でうまく水を掴んでどうみたいな感じで。

何せこれまで幾度となく奇跡を起こした『至高の担い手』。

今回だって、上手く流れを掴みましたどうとか的な理屈で人魚より速く泳げるようになるかもしれぬ。

そうなれば善は急げだ。

波を掴め俺! ウエイブアクセス!

そんな感じで、水を掴むことを意識して周囲の海水を掻いていると……!?

「げへ? なんだその意味不明な動きは? シャークに障るぜー!!」

俺の不思議な踊りを戦意喪失と受け取ったのか、付き合いきれぬとばかりに勝負を決めにくる敵。

しかし俺の方はもう少しで何かが掴めそうな気がしてきた。

一向に水を掴んでばかりだが、ただ水を掴むのではなく、水の芯を掴んだ気がした。

「ここだああああーーーーッ!!」

『至高の担い手』がしっかりと海水を掴んだことで、水のポテンシャルを充分以上に引き出す。

「ゲヒャ!? なんだこれは!? 流れが!? 海流があああああ!?」

俺の手を起点にして発生する海水の流れが、激しく渦を巻いてシャーク将軍に襲い掛かる。

俺は水を掴んだ。

海水の本質を掴んだことによって、潮流を自在に操れるようになってしまった!?

「ほげええええええッ!? 飲まれる!? 渦に飲まれるうううううッ!? 流れに逆らえないいいいいッ!? 回る!? グルグル回るうううううッ!?」

渦に飲み込まれたシャーク将軍は、自然の力に抗う術もなく。

洗濯機に放り込まれた靴下程度の存在となって渦と共に遠くに飛ばされ消えていった。

生きてはいるだろう。

多分。

「……勝者、プラティ王女の夫、聖者」

審判の宣言によって俺の二回戦進出が決まった。

一方俺は……。

「がぼぼぼぼぼぼッ!?」

「だからエアもずく含んでる時は喋るなっつったでしょうがあ! 全部吐き出しちゃってえ!!」

つい気合いを入れて叫んでしまった拍子に、口の中に思い切り海水が入っていた。

いやー。

久々に『至高の担い手』の無茶っぷりが垣間見られた。

ちょっと河童レベルの遊泳力を得られる程度でいいと思っていたのに、まさか潮流を操作するところまで行くとは。