軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

365 武泳大会・急きょ参戦

こうして人魚王みずから出場というサプライズもあり、本年の武泳大会は大盛り上がり。

決勝も始まっていないのに予選の段階でお祭り騒ぎが極まっていた。

* * *

「そろそろ決勝出場者も出揃ってきましたわねえ……」

それぐらい試合が進んできた。

予選ブロックの中には既に全試合が完了して閑散としているところもあり、矛と盾の打ち合う音もだいぶまばらとなっていた。

「ダーリンと坊やも順調に決勝へと進んだわね」

シーラ王妃の言う通り、ナーガス陛下とアロワナ王子は断トツの速さで予選突破。

二人とも全試合瞬殺で終えるのだからさもありなん。

ただ僅かにナーガス王が先に決勝進出を決め、まず一本取った感じだった。

別にそこは競うところじゃないけどさ。

「シャーク将軍やタチウオ師範といった決勝常連組も残っているし、変わり映えしない顔ぶれになりそうねえ……?」

「そういえば今年はサンマ師匠の姿が見えないわね?」

「あの方は今年参加していないわよ。『陛下が出場されんのやったらワテはもうええやろ』って言って。やっぱりシニアの威信を背負って出場し続けてたのねー」

「さすが人魚界の生ける伝説ねー」

プラティとシーラ王妃が玄人顔で、ここまで消化された予選の総評を述べていた。

俺はあんまりわからない。

「決勝って何人でやるの?」

「十六人よ」

十六人……。

ってことはトーナメント形式で四回戦やるってことか。

この規模の大会としては、まあ見応えがあるんじゃないかな。

「武泳大会は、男人魚にとってプライドを懸けた戦いですから。女は魔法薬で、男は矛で。それが人魚の戦いの鉄則なれば、矛の扱いに劣ることこそ男人魚にとっては恥なのよ」

「実戦を除けば、この武泳大会こそが矛の強さを示す最高の舞台だからねえ。男どもは躍起になるってわけよ」

人魚族にとっては特別な思い入れのある大会ということだ。

俺もそれ相応に気を引き締めて観戦しなければ。

「残ってる枠はあといくつくらいママ?」

「まだ四つか五つぐらいあるわね。あ、でも今一つ減ったわ」

シーラ王妃の言う通り、もはや数少なくなった予選ブロックで激しい動きの、その一つが収束した。

「試合終了! 勝者ヘンドラー!」

しかも勝者は顔見知りだった。

「ヘンドラーくんじゃないか。彼も出場してたのか?」

「あの子、家出したくせに武泳大会には欠かさず出場しているのよね。しかも割かし高い確率で決勝まで残るし」

ヘンドラーくぅんは、アロワナ王子が武者修行に出た一時期代理として我が農場に出入りしていた。

だから俺もよく知っているが、強かったんだな彼。

「っていうかこの大会で決勝に出れるってことは、滅茶苦茶強いんじゃない?」

「まあ間違いなく人魚国で二十位以内に入れる強さでしょうよ。人魚国指折りの軍人家系の、面目躍如ってところね」

でも彼は論客なんでしょう?

才能が浪費されておる。

「……ちなみにヘンドラーくんの生家であるベタ家からは他にも数人の兄弟が参加していたけど、決勝まで残ったのは彼だけね」

「今年も!? たしかベタ家の長男は近衛兵隊長でしょう!? 大丈夫なの闘魚の家系!?」

何かよくわからないが、つまりヘンドラーくんがいなければ名門の面子が丸潰れとなる事態だったようだ。

彼も大変だなあ……、と注目していたら戦いを終えたばかりのヘンドラーくんに駆け寄る赤髪の美女人魚がいるではないか。

いや水中だから、泳ぎ寄る?

「……あれは!?」

『獄炎の魔女』ランプアイではないか!?

ウチの農場で働いているはずの!?

「アイツまで農場から抜け出してきたのか!?」

彼女がヘンドラーくんと付き合っているのは周知だが……!?

ランプアイまで彼氏の応援に会場入りしていたとは!?

「するって―と今農場に残っている魔女はガラ・ルファしかいないじゃん!?」

まーた彼女に作業のしわ寄せが!?

ダメだよ! 帰ったらちゃんと皆してガラ・ルファに謝れよ!

「あらあら、ヘンドラーちゃんもお年頃なのねえ。あんな可愛い彼女を連れて隅に置けないわねえ」

「知ってるママ、あれ魔女なのよ?」

今大会に魔女がセコンドについている選手が二人。

何かの波乱の元にならなければいいが……。

* * *

そうして残りの予選も順調に消化され、決勝に進出する十六人が決定した。

いずれも屈強の男人魚たちである。

本大会は人魚王と、さらに人魚王の後継を担う王子が同時参戦しているということでとりわけ盛り上がる。

まるでこの大会自体が王位継承の儀式のようではないかと。王vs王子の対戦が実現する期待を膨らませるのであった。

しかしそんな中トラブルが持ち上がった。

* * *

「王妃様! 王妃様大変です!!」

王族専用席へ駆けこんでくる兵士さん。

急報を持ち込んできたのは彼だった。

「あら、そんなに慌ててどうしたの?」

「一大事でございます! 決勝本戦出場予定の選手の一人が……、性転換いたしました!!」

……。

……はい?

「何ですって!? もしやイシダイ族!?」

「御明察にございます……!」

シーラ王妃が驚き動揺する中、俺は横で聞いていて動けなかった。

……今なんて言った?

性転換?

耳に入ったことを理解できずに思考がフリーズしてしまっている。

性転換ってどういうこと!?

「まったく昔からあの一族は……!? やっぱり出場を禁止しておくべきだったわ……!」

「でも下手に出場制限をつけると種族差別とか言われかねないし……! 結局出場させるしかなかったんじゃないのママ?」

「だから厄介なのよ!!」

シーラ王妃とプラティががなり合っている中、俺はどうしても聞かずにはおれなかったので割って入る。

「あの……、俺の聞き間違いかもしれないんで確認したいんですが……、性転換って言わなかった?」

「言ったわよ」

くっそ。

俺の耳少しも壊れてなかった。それが悲しい。

「……イシダイ族は、人魚の中でもかなり特殊な一族。最初は皆男で生まれてくるのに、途中から半数が女に変わるという……!」

「決勝進出を決めた選手の中に、そのイシダイ族がいて、よりにもよって今、性転換したらしいの。武泳大会は男人魚のみが参加できる神聖な武祭。女人魚に参加資格はないわ!」

「困ったわねえ。その女体化した子は参加取り止めにするとしても決勝枠に一つ穴が開いてしまうわ。せっかく盛り上がっているのに水を差してしまう……!?」

王妃様たちは、欠場者が出たことによって決勝本戦が不完全になってしまうことを心配されているようだった。

いやそれ以前に……。

皆サラッと流したけど……。

人魚って性転換するんだ……!

限られた一部がとはいえ……、普通にショックなのですが……!?

「ねえママ、代わりに誰か出場させられないの? その欠場した人と予選最終試合で戦った人とか……!?」

「アタシもそれは考えたんだけれど。兵士さんの話ではもう帰っちゃったんですって。他の予選ブロックから繰り上げるにしても誰を選ぶかで揉めるだろうし……!?」

シーラ王妃もプラティも困り顔だったが、ある瞬間、ふと俺と目が合って……。

やな予感……!?

「そうだわ、旦那様を代わりに出場させましょう!」

「やっぱり!?」

やな予感的中!?

「旦那様ならアタシの夫としてネームバリューはあるし盛り上がるわ! アタシもいつかどこかでウチの旦那様の物凄さを知らしめてやりたいと思っていたから一石二鳥よ!」

「その石どこにも当たってないよ!?」

鳥にも当たらず空に吸い込まれるかのようですが!?

そもそも俺凄くないし! 人魚族ですらない! 海底の戦いなんかに参加したら即座に溺死してしまうレベルなんですが。

「そうねえ……、審判会に申請して上手く通ればいいんだけど……!」

「王妃様まで乗り気!?」

ちょっとやめてください!

さっきも言った通り窒息で戦わずして死にますよ!!

「でも考えてみて旦那様……! もし旦那様が出場してくれなかったら……!」

ん?

「おれが代わりに出場しようか?」

そう言って名乗りを上げたのはアードヘッグさんだった。

「出場資格があるのはオスのみ。ならばこの場に聖者殿以外のオスはおれかジュニアぐらいのもの。赤子は自然除外されるのでおれ以外に選択肢はない」

「だめええええええええッ!!」

ダメに決まってるだろうが!!

ドラゴン! 竜の皇帝!!

そんなアードヘッグさんが参戦したら別の意味で大会滅茶苦茶になるわ!!

「いいのではありませんか。下等種族にドラゴンの恐ろしさを示してくださいませ」

マリーさんも煽らないでええ。

このままでは! 俺が出場を拒否したら代わりにアードヘッグさんが出場して武泳大会が灰燼に帰す!?

皆たくさん頑張っているのに……。

一体どうしたら……!?

「お……!!」

「お?」

「俺が大会に出場します……!!」

見ているかジュニアよ?

これがパパの生き方だぞ!