軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

364 武泳大会・予選編

俺たちが招待された王族用席は、観戦するには非常に都合がよかった。

野外会場の中央に建てられ、しかも一際高い位置にあるので同時並行的に行われる予選試合を一望できる。

特等席と呼ぶならまさにこういうのを言うべきだろう。

「こんなところにいると何か落ち着かないなあ……!」

なんかズルいことしているみたいで。

そういうところ俺の庶民感覚が骨の髄まで染み込んでいるなー、と思った。

「これは必要なことよ?」

プラティがジュニアをあやしながら言う。

「王族の観戦は義務でもあるんだから」

「義務?」

「そうよ。武泳大会はただの力比べじゃない。実力ある人魚戦士を見つけ出す意義もある。身分出自に関係なく強い人魚は大会を勝ち進めば嫌でも注目が集まるからね」

そうして活躍した人魚を王宮で召し抱えたり、重要なポストにつけたりと、そういう出世登竜門的意味合いもある武泳大会。

「そういう判断を下す役割も王族はあるんだから、それこそ予選を通して全試合を見逃すわけにはいかないわ。だから多少特別扱いされても見やすい位置に座らせてもらわないと」

「なるほど……!」

プラティの解説のお陰で、多少罪悪感は薄れたものの、俺は実際王族じゃないのでそうした判断に関わることはないし『やっぱり場違いなんじゃ!?』という不安感に苛まれてきた。

「今日はダーリンもアロワナちゃんもいないから、ますますアタシたちが目を光らせておかないとね。プラティちゃんも頼むわよ」

「はいさー」

どどど、どうしよう俺も頑張った方がいいのかな?

スポーツ観戦なんてまったくわからないんだけど……!?

……ん?

「そういえば、アロワナ王子と国王様は? まったく姿を見かけませんが?」

本来なら彼らこそ、この場にいて然るべきだろう。

それこそ王族の中心人物として。

「あの子たちはいませんよ。だって当たり前じゃないですか……」

王妃様がクスクス笑った。

「あの子たち自身が出場者なんですから」

* * *

そういやそうだった。

アロワナ王子なんて去年の大会で優勝したと聞いていたのに、今大会も出場しているに決まっているじゃないか。

「ほらちょうど、あっちのブロックで試合していますわ」

シーラ王妃の指さす先に、なかなか盛り上がる試合場があった。

アロワナ王子がいた。

王子様で前回優勝者が出場ともなれば盛り上がるか。

「ママ、今年の兄さんのオッズはどれくらいになってるの?」

「1.01倍。いやー鉄板の本命ね。賭け甲斐がないわ」

賭け事してるんですか!?

しかしそれぐらいアロワナ王子は本命中の本命。優勝最有力候補といったところなのだろう。

試合直前でまだ嵐の前の静けさという風だが、対戦相手の男人魚はもう王子の覇気に圧倒されブルブル震えていた。

まだ年端のいかない少年人魚だった。くじ運の妙かいきなり優勝候補とぶつかって可哀相に。

「試合……、始めッ!!」

審判からの無慈悲なコール。

それと共に少年人魚は試合場の外まで吹っ飛ばされた。

「ぐはあああああッ!?」

えッ何?

何が起こったの?

一瞬過ぎて何が起こったかわからんかった。王族席に座るならちゃんと有用の人材を見出さなきゃいけないのに!?

……あ、いいのか。あの試合は観戦対象が王族だから!?

「……兄さん、気合いだけで対戦相手を押し出したわね……!?」

プラティ解説。

そんなことができるように?

「アロワナちゃんは武者修行で本当に成長したわねえ。練り込む気の大きさが旅立つ前とは段違いだわ」

「当然だ。アロワナ殿は旅路で数え切れない修羅場を潜ってきたのだからな!」

アードヘッグさんが身内面で自慢げだった。

しかしアロワナ王子の快進撃は止まらない。

勝ったあとにまで強者の貫禄を見せつけてきた。

「勝者アロワナ!」

審判の宣言とほぼ同時に……。

「旦那様~!」

試合場の外より泳ぎ寄り、アロワナ王子に抱きつく美女人魚。

「パッファじゃないか!?」

「アイツ今回も農場を抜け出して……!!」

六魔女の一人『凍寒の魔女』パッファ。

昨年同様アロワナ王子のセコンドについて補助を務めているらしい。

しかしながら臆面もないな。

人目もはばからず抱き合っておるではないか。

「さすがアタイの旦那様! このまま優勝まで一直線だよー!」

「パッファよ……!! 喜んでくれるのは嬉しいが、ちょっと気兼ねなさすぎではないか!? 見てる!? たくさんの人が見ているぞ!?」

試合場の真ん中で抱き合う男女は嫌でも注目を浴びるし、一方の男が王子さまともなればなおさらのこと。

「誰だ王子に抱きついている妙齢の婦人は?」

「めっちゃ美人!?」

という声が上がっていた。

「パッファは去年からアロワナ王子のセコンドについていたそうだけど。その時もあんなに露骨だったの?」

「アタシも直接見てないからわかんないけど。……明らかに今年からピッチ上げてきてるでしょ……!?」

パッファがアロワナ王子と婚約したのが本年のこと。

しかしながら彼女の魔女としての経歴が玉の輿結婚を邪魔するため、民衆の支持を得るためにも、そのまま結婚というわけにもいかない。

という理屈でまだまだ挙式までにはいかないアロワナ王子パッファのカップルである。

「ああやって周囲にラブラブぶりを見せつけることで既成事実を積み重ねていこうという作戦でしょうね」

「なんと遠大な……!?」

どれだけ時間をかけようとも必ず結婚してやるというパッファの強い意志が感じ取れた。

でもパッファさん。

最近とみに忘れられがちですがアナタお尋ね者なんですから、あまり大手を振って表に出てこられても!?

「……まあ、あの分ならアロワナ王子は問題なく勝ち上がるな」

「確実に決勝まで行くでしょう」

他の試合に注意を向けようかなと思った矢先。

凄まじい寒気を感じた。しかも至近から。

「ふっふっふ……、やってくれるじゃないのドロボー猫め……!!」

「ヒィッ!?」

シーラ王妃が!

シーラ王妃が暗黒のオーラを放っておられる!?

「アタシのアロワナちゃんにベタベタと……、身の程を弁えないドロボー猫ね……!?」

「いやいやいや! そうは言っても婚約者ですし! ベタベタする資格はあってドロボーとかでは……!?」

いや、そうは言っても嫁姑問題に理屈が介在する余地がないこともわかっている。

「しかし勝った気でいないことね。アナタのその甘い計画を砕くための一手は、既に打ってあるわよ……!」

「打ってあるんですか!?」

いや、そういう話の流れではなかったはずだが……!?

王妃様は一体何をやらかしたのと疑問に思う間もなく、その答えが判明した。

別の試合場にて高らかに宣言された。

「試合開始! 終了!!」

「早ッ!?」

別の場所でまたしても瞬殺が起こった。

一体誰が勝ったのかと目をやれば、そこには見ただけで身がすくむような巨漢人魚がいた。

「あれはッ!?」

人魚王ナーガス陛下!?

プラティやアロワナ王子のお父上にして、シーラ王妃の旦那様。

対戦相手を一撃の下に沈めて、当然のように観衆を熱狂させた。

「つえええええええッ!! 人魚王陛下やっぱりつええええええッ!?」

「十年ぶりの出場だというのに、その強さはまったく衰えない!?」

「かつて若き頃には十五年連続優勝という前人未到の大記録を打ち立て、以後は殿堂入りとして控えていたナーガス陛下がまさかの今年出場!!」

「一説では後継者であらせられるアロワナ王子の成長を、この大会で確かめられるとか!?」

「ついに起こるか世代交代!?」

観衆も、国王王子の両雄参加に大盛り上がりだ。

この凄まじい顔ぶれの仕掛け人は……。

「うふふふふ、見ていなさい不肖嫁」

……当然このシーラ王妃。

「このアタシの目の黒いうちは簡単に結婚なんてさせてあげないんだから……! ウチのダーリンに勝てなければ婚約は即解消。肝に銘じておくことね」

「いつの間にそんな話に!?」

シーラ王妃からの無茶振りが凄かった。

武泳大会は、愛する二人の運命までも巻き込んで大盛り上がりを迎えている。