軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

346 特別講師帰還する

はい、俺です。

急に暇になってしまった。

先生が『生徒たちにノーライフキングの恐ろしさを授業する』と出て行ってしまわれて……。

何故か俺だけ取り残された。

俺も先生以外のノーライフキングって興味あったから見てみたかったんだけど『せっかく招いた冒険者さんを残して出掛けるのもどうでしょう?』という意見があったので残った。

まあ一応俺も農場の主だから、ホストがゲストを放っとくわけにもいかんか。

なので俺もシルバーウルフさんを追ってヴィールのダンジョンに入った。

対抗意識を燃やしたヴィールが半ば無理やりシルバーウルフさんを連れ去ったのだ。

シルバーウルフさんが先生のダンジョンをやたら絶賛するので、自分のダンジョンも褒めてもらいたくなったようだ。

承認欲求の深いヤツめ。

俺がヴィールの山ダンジョンに入り、あちこち捜し回ってようやく見つけだしたところ、シルバーウルフさんが泣き崩れていた。

「こんな……、こんな凄まじいダンジョンがまだあったなんて……!?」

既にヴィールのダンジョンを体験したあとだったようだ。

「出てくるモンスターも、拾える素材も最高級。何よりダンジョン果樹園が……、アレキサンダー様のダンジョン発祥と思われた果樹園の元祖がここだったなんて……!?」

「御主人様ー、コイツ酷いんだぞ!? おれと御主人様で始めたダンジョン果樹園をアレキサンダー兄上のパクリだって言うんだぞ!? パクったのは兄上の方なのに!!」

ヴィールはプリプリしながら言った。

「さっきの洞窟ダンジョンですら、公になればギルドがひっくり返るくらいの超絶クオリティなのに……!? 空前絶後だとばかり思っていた傍から同レベルの超絶の山ダンジョン……!?」

シルバーウルフさん?

その……泣かないで?

「出てくる素材だけじゃなくてダンジョンの構造も褒めろよ? おれが神アイデアで作り出した四季折々の多重構造ダンジョンだぞ!?」

「ヴィール……、俺があとで滅茶苦茶褒めてやるから、今は彼をそっとしておいてあげて……!」

直面した出来事に心のキャパがオーバーしたらしいから……。

すべてを飲み込むのにもう少し時間を与えてください。

「なあアンタ……!? 一体ここは何なんだ!?」

そしてシルバーウルフさんは、俺に縋りついてきた。

「こんな接近したところに二つもダンジョンが並び立っていて、しかも二つとも超優良! ギルドの審査にかけたら五つ星は確実で、ひょっとしたら六つ星まで取れるかもしれない!?」

「アレキサンダー兄上のダンジョンは星六つなんだろ? だったらおれのは七つの星だ!」

ヴィール、今は茶々入れないで……!?

「こんな凄いダンジョンが立ち並ぶ、この場所は一体何なんだ!?」

「だから聖者の農場だぞ?」

懲りずに入れられたヴィールの茶々に、シルバーウルフさんはハッとする。

「そうか……!? 聖者の農場……!? 噂もちきりで、探検家系冒険者がこぞって探し出そうとしているフロンティア……!? そうか、そうだったな……!?」

シルバーウルフさんが一人納得したようにブツブツ語りだす。

なんか怖い。

「皆が血眼になって探そうとするわけだ……! こんなにも巨大な富が眠っているのだから……! 聖者の農場。それはこの世界に残された最後の秘境……!」

いや、そんな大層なものじゃないですよ?

俺たちが日々静かに暮らしているだけの場所ですよ?

「……わかっている。誰にも喋ったりはしないさ」

何も言ってませんけど?

「……私は、この場所を自分の力で見つけたわけじゃない。アレキサンダー様という超越者の手で連れてこられただけだ。そんな幸運で秘境第一発見者を名乗ろうなどと恥知らずなマネはしない!」

「そうすか……」

「それは冒険者の誇りを知らぬ者の所業だ」

よくわからないがシルバーウルフさん、ここのことは誰にも喋らないそうだ。

別に言ってくれてもかまわないけどな?

いやダメか?

「じゃあ、どうしようか? 引き続き若い子たちに冒険者の心得を教えてもらいたいところだけど……!?」

その肝心の教える相手がいない。

先生に引率されて社会見学に出ているからだ。

夕飯までには帰ってくると言っていたが……、その間シルバーウルフさんにはどう過ごして貰えばいいのだろう?

「あの……ッ!? それならば……ッ!?」

そのシルバーウルフさんはそわそわした表情で言う。

「時間の空いている間、このダンジョンに挑戦してもいいだろうか? 新しいダンジョンを見るとどうしても昂りを押さえられなくて……! しかもこんな優良ダンジョンならなおさら……!」

「……」

ダンジョンを見ると攻略せずにはいられない。

これが冒険者のさがというものだろうか?

* * *

こうしてシルバーウルフさんは、心行くまでダンジョン攻略を楽しんでいかれた。

先生のダンジョンとヴィールのダンジョンの両方を。

もちろん一日では攻略しきれず、何日もかけて。

本来お招きした用件である農場留学生への冒険者講座もそこそこに寝食も忘れてダンジョンに没頭するんで『プロのダンジョン執着心はこれほどなのか』と感心させられたものだった。

俺としてもシルバーウルフさんの冒険者知識から、倒したモンスターの死体からどんな部位がどのように役に立つかなどを詳しく聞けて有意義だった。

モンスターや拾える素材など、ダンジョンからの収穫物を有効活用する知識で冒険者を上回る者はいない。

今まで使えないと思って捨てていた部位までしっかり活用方法を伝授してもらうのだった。

これは思わぬ収穫というべきだった。

それから一ヶ月ほどシルバーウルフさんは農場の屋敷に泊まることもなくダンジョン内でキャンプして、先生とヴィールのダンジョン双方を踏破してしまった。

その頃になったら俺も生徒たちも学ぶべきことはすべて学び終えたので、シルバーウルフさんは凱旋的に農場を去ることになった。

よい交流の時間だった。

ちなみにシルバーウルフさんは、この一ヶ月間の農場滞在によって同業者間では行方不明扱いになっており、死亡説が流れていたんだそうな。

それも冒険者業界ではよくある話なのだそうだが。

こうして我が農場による、特別講師(冒険者)招聘の企画は成功裏に幕を閉じた。

* * *

以下は余談である。

久々に魔王さんが来たので、つい最近お帰りになった冒険者シルバーウルフさんの話をした。

もう少し魔王さんが早く遊びに来るか、もう少しシルバーウルフさんが長くいればお互い紹介できたのに。

「冒険者か……、我も最近、その職業に興味が湧いてな」

「え? 魔王さんまさか冒険者に転職希望?」

「そういうことではなく。人魔戦争が終わって魔王軍も少しずつ規模の縮小が図られている。魔国ではダンジョンの管理が魔王軍の主導で行われてきたが、そういうのを民間に委託しようという案も出ていてな」

なるほど。

その委託先を冒険者ギルドに。

人族特有の機関を、魔族のいる魔国にて活用する。

まさに戦争が終わったからこそできる方策ではないか。世界が進歩しているような感触がしてよいぞ。

「魔国にも当然ダンジョンがあって数も多いが、管理可能なダンジョンには常に魔王軍の一体が駐屯している。その管理を冒険者ギルドに引き継がせて魔王軍は手を引けば、相当な人員削減になるのではないかと……」

「うんうん?」

聞く限り相当な名案だと思うのですが。

なのに何故そんな夢の計画を語る魔王さんの表情は沈痛。

「実は、その計画が上手くいっていなくてな……」

「それはまたなんで?」

「反対者がいて……!」

魔王軍四天王筆頭。

『堕』のベルフェガミリア。

「今や魔軍司令として軍部の実権を握る大幹部であるからな。アイツが反対したら無下にはできん。いつもならどんな献策にも『いいんじゃないっすかね』の一言で済ましてしまうのに、今回に限ってどうして……!?」

いつも『いいんじゃないっすかね』で済ますのもどうかと……!?

一応責任ある立場なんですよね?

「……その人は何で反対してるんです?」

「それが聞いても要領をえなくてな……! ただ一言漏らしたのが……!」

一言?

『社長が……、動き出すから……!』

「と」

「なんじゃそら?」

* * *

その時俺には想像も及ばないことであったが。

人類最強、四天王ベルフェガミリアすらも恐れさせる。

ノーライフキングの社長。

その隠然たる影が魔国の奥底にあった。