軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

347 失踪冒険者の帰還

オレはシャベ。しがない駆け出し冒険者だぜ。

噂を聞いた時はビビった。

S級冒険者のシルバーウルフさんが死んだって!?

冒険者の間でそんな話が飛び交っていた。

シルバーウルフさんと言えば、世界でたった五人しかいないS級冒険者の一人。

その中でも特に技巧派で知られる人だ。

一匹狼でパーティを組まず、常に一人でダンジョンに挑戦する。

その孤高の振る舞いに、多くの冒険者が憧れを抱く。

かく言うオレだってシルバーウルフ兄貴の大ファンさ。

駆け出し冒険者の間では大抵『現役S級冒険者のうち誰のファンか』でゴールデンバッド派かブラックキャット派が主流となるが。

通はシルバーウルフ兄貴を選ぶもんなのさ。

だからウルフ兄貴の死亡説が流れた時にはショックだった。

『そんなバカな! ウソだろ! オレは信じないぜ!』と思った。

何でもウルフ兄貴は六つ星ダンジョン『聖なる白乙女の山』を定期攻略中に忽然と姿を消したそうだ。

いなくなる直前、ギルドに呼ばれたとかいう目撃情報もあったりなかったり。

そこからさまざまな推測が飛び交い。

『ギルドマスターの娘と結婚を強制されて逃走』説。

『ギルドマスターの嫁との不倫がバレて逃走』説。

『ギルドマスターから同性愛を迫られて逃走』説。

色々な噂が立った。

ちなみにギルドマスター一家との愛欲関係は後に一切否定された。

なんでそんな噂が立ったんだ?

とにかく一週間経っても二週間経ってもウルフ兄貴の音信はわからず……。

これはいよいよどこかのダンジョンで野垂れ死にしてしまったか?

モンスターに食われたら死体も残らないから死亡確認もできないぞ?

そう言われていた矢先……。

シルバーウルフの兄貴が帰って来た。

約一ヶ月ぶりの帰還。

すっかり死んだものとばかり思っていたため、皆心底驚いていた。

オレも、奇跡の生還を果たした生ウルフ兄貴をこの目で直見したぜ。

ウルフ兄貴の安否を気遣うあまり、アニキが最後に目撃された『聖なる白乙女の山』に渡って、そこを拠点にダンジョン攻略してたんだ。

改修工事が終わっててよかった。

前に来た時色々登録してて助かったぜ。

そんなわけで再び『聖なる白乙女の山』ギルド支部に現れたシルバーウルフ兄貴だけどよ。

雰囲気が無茶苦茶変わってたぜ!?

なんだか静かで、それでいて凄味があって……!?

まるでオレたちの知らない高みへ一人で上がっちまったみてーだった。

もちろん下っ端のオレなんか遠くから眺めるだけで精一杯だったけど。

A級やB級の人たちが頑張って話しかけても、ウルフ兄貴は何も答えないみたいだった。

行方不明だった一ヶ月間、一体どこで何をしていたのか?

聞かれても何も答えない。

だから噂は『空白の一か月間シルバーウルフは何をしていたのか?』という方向で広がっていき……。

『ギルドマスターの娘と結婚を強制されて軟禁されてた』説。

『ギルドマスターの嫁との不倫がバレて軟禁されてた』説。

『ギルドマスターから同性愛を迫られて軟禁されてた』説。

ギルドマスター一家との愛欲関係は後に一切否定された。

しかし当人であるウルフ兄貴が一切口を噤むために発展のしようがなく、いつしか噂も立ち消えになった。

兄貴自身も不在の期間なんか最初からなかったように『聖なる白乙女の山』を攻略し、ガンガン上層まで進んでいるという。

オレは下層でザコカエルモンスターに四苦八苦している。

……その日も。

倒したカエルモンスターの肉と皮と油を換金して何とかその日の宿代を確保。

余った僅かな金で酒を飲んでいたら。

「……相席、いいか?」

「えッ!?」

信じられないことが起こった。

席の向かいにウルフ兄貴が座ったのだ。

うおスゲエ!

シルバーウルフの兄貴! 本当に狼の顔してるんだ!?

獣人ワーウルフかっけぇ!!

ウルフ兄貴のファンを公言するオレだが、当然面識はなく会話したこともない。

向こうはオレの名前も存在すら知らないに違いない。

そう思っていたのに何故いきなり!?

「……どうした? そんな驚いた顔をして?」

「いえッ!? あの……!?」

「同じ冒険者同士、同じ酒場で酒を飲むこともある。それとも私と一緒に飯を食うのは嫌か?」

「とんでもないっす! 乾杯ッス!」

「…………チンチン」

そして酒杯をぶつけあうオレら。

……。

かっけぇ~~!!

ウルフ兄貴の乾杯の呼び方かっけぇ~~~~ッ!!

乾杯をチンチン!?

よくわからないけど、かっけぇぜ! オレも今度使おう!

「ところでお前……」

「はい?」

「聖者の農場へ行こうとしてるんだって?」

何故それを!?

「そ、そうッス! オレはいずれ聖者の農場を発見して、歴史に名を残すのが夢ッス!」

「デカい夢だな……。しかし聖者の農場は、本当に存在するのか?」

「えッ?」

「情報と言えば、眉唾モノの噂ばかり。実在を決定づける証拠もなければ証人もいない。もしかしたら聖者の農場など存在しないかもしれない。それでもお前は捜し続けるのか?」

な、なんかシリアスな問いかけか?

これは迂闊に答えたら、オレの冒険者人生自体がアウトになりそうな気がするぜ?

慎重に返答しなければ……!

「聖者の農場は必ずあるッス。オレは必ず見つけ出して見せるッス。それが、オレの冒険者魂ッス!!」

「見事だ」

ウルフ兄貴は満足そうに笑った。

「お前の聖者の農場に懸けた決意はよく伝わった。その情熱に免じて、いいことを教えてやろう」

兄貴が指をクイクイして『耳を貸せ』というジェスチャー。

思わず言う通りに耳を寄せると、ウルフの兄貴は、その耳以外には聞こえないような小さな声で囁いた。

「聖者の農場は存在する!」

……ッ!?

なんだってッ!?

兄貴!? 何故そんなことを自信満々に!?

まさか兄貴は、実際に聖者の農場を!?

「私には、もうあそこを発見したと宣言する資格はない。だからお前が代わりに見つけ出すがいい。……探せ、世界のすべてがそこにある!」

なんて力強い言葉!?

ま、まさか兄貴は消息不明だった一ヶ月の間…ッ!?

「シルバーウルフの兄貴……ッ! オレは必ず聖者の農場を見つけ出してみせます! そして一番に兄貴に報告に行きます!」

「それでこそ熱い魂を持った冒険者だ。多くのことは語れないが、一つ忠告しておこう」

ウルフ兄貴は言った。

「聖者の農場にはノーライフキングがいる!」

「ノーライフキング!?」

あの世界二大災厄の一方!?

そんなメチャ凶悪な存在のいる場所から生還したんですか兄貴スゲェ!?

あっ、ノーライフキングと言えば最近『カントリー・キャッスル』の伯爵がいなくなったとかでも話題になってますよね。

「……フッ、私からはこれ以上言えないが最後にもう一つだけ忠告しておこう。聖者の農場には、ノーライフキングだけじゃなくてドラゴンもいる!」

「なんですって!?」

世界二大災厄揃い踏み!?

そういえば戦争中、聖者のしもべを名乗るドラゴンが乱入してきたって話も聞くからなあ……ッ!?

想像以上の異界だぜ聖者の農場。

でもシルバーウルフ兄貴は、そんな極悪な修羅場から生きて帰ったんですねスゲェ!

「私からは何も言えないが、お前が冒険者としての夢を果たせることを祈っているぜ……! アディオス!」

そしてシルバーウルフ兄貴は席をたって行ってしまった。

……兄貴。

オレに冒険者としての夢を託してくれたんすね……ッ!?

その期待に応えられるように、オレ全力で聖者の農場を探します!!

……ところで。

オレの席から離れたシルバーウルフの兄貴は、二つ先の席まで行って再び腰かけた。

やはり相席だった。

ウルフ兄貴の向かいには若い女冒険者が座っていた。

「……ところでお前、聖者の農場へ行こうとしてるんだって?」

オレの時と同じこと言ってる?

もしかして聖者の農場目指してることを公言してる冒険者一人一人に言ってるの!?

「私にはもう、あの場所を目指す資格はないが、それでも一つだけ言わせてもらえば……」

「うっさい! 私はアンタなんかに言われなくても聖者の農場に辿り着くわ!!」

モモコちゃんキッツいなあ……。

話ぐらい聞いてあげればいいのに。