軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

345 不死伯爵

吾輩の名は……。

……いや、忘れた。

自分の名前などとっくの昔に忘れた。それが死を超越した存在ノーライフキングのトレンド。

死の克服者たる我らにとって、老いと滅びに囚われた生者だった頃の時代はすべて恥。

だから捨て去る。

生きていた頃に呼ばれていた名前も含めて。

死に勝利した今の吾輩を、有象無象共は『伯爵』と呼んで恐れる。

強いて挙げるなら、それこそ吾輩の超越者としての呼称。

ダンジョンの濃厚マナを吸収し、それでも自我を失うことなく不死者として転生した。

そうした超越者に冠される称号をノーライフキング。

そう、吾輩はノーライフキングの伯爵。

世界でもっとも凶悪なる存在の一人である。

吾輩が支配する『カントリー・キャッスル』は半洞窟半遺跡型の混成ダンジョン。

ノーライフキングは大抵洞窟ダンジョンを住み処とするが、それではやや優雅に欠けるため、吾輩の手で改築したのだ。

この豪勢にして奇怪な迷宮に、今日もネズミのような冒険者どもが侵入してきおる。

浅ましいことだ。

入れば死ぬとわかっていても財宝欲しさに踏み込まざるを得ないか?

この吾輩に狙われて逃げ切れると思い上がったか?

どちらにしても吾輩は、この不遜な侵入者たちを歓迎しよう。

絶好の退屈しのぎなのだから。

『狩り』という遊びは、獲物がいなければ成立しない。

勇敢なるコソ泥。冒険者とかいう侵入者。

勇気ある彼らこそ、この伯爵の獲物となる資格があると言ってよい。

『狩り』は貴種のスポーツだ。

獲物との命を賭けた争い。知略と膂力のすべてを動員し、獲物を追い詰め、苦しめるだけ苦しめてから仕留める。

その残虐性はなるほど強者が嗜むに相応しいと言える。

吾輩は、そんな『狩り』という遊びが大好きだ。

特に冒険者という小賢しい獲物とのゲームがな。

さあ、今日やって来た冒険者はどんな類の獲物かな?

小知恵が回る者もいい、俊敏なる者もいい、美しくともいい。

結局はどんな者だろうと、吾輩に追い詰められ仕留められる運命なのだから。

せいぜい不様に逃げ回って吾輩を楽しませてほしいものだ。

頑張って吾輩を楽しませれば、褒美としてはく製にして我が書斎に飾ってやってもいい。

褒美というヤツだ。

吾輩のコレクションとなるに相応しい優れた獲物を期待しよう。

さあ来るがいい。

死の運命に縛られた哀れな下等種ども。

死を超越したこのノーライフキングの伯爵が、お前たちと吾輩との絶対的な違いを教えてやろう。

吾輩は死なず、お前たちは必ず死ぬ。

その余りにも絶望的な存在の差をな!

さあ来い!

どかーん!

やられたー!?

* * *

『……と、このように……』

ノーライフキングの先生が仰りました。

自分と同じ存在、同種にして別個のノーライフキングを一撃で葬り去りながら。

『ノーライフキングとは極めて危険な怪物なのだ。死を超越したがゆえに命の尊さを忘れた、救いがたい阿呆よ。時折こうして命ある者を見つけては、戯れに殺して遊ぼうとする。……本当に救いがたい阿呆だ』

申し遅れました、フラミネスオークのハッカイです。

……。

なんか懐かしいなあこの感じ。

アロワナ王子の武者修行に同行していた私ですが、その旅を終えてからは以前同様聖者様の農場で他のオークたちと共に働いています。

今日は、先生発案の社会見学に護衛として同行いたしました。念のためということで。

しかしやっぱり杞憂でした。

引率の先生が、見学対象のノーライフキング別個体を一撃の下に屠り去ってしまったのですから。

『ふぎゃあああッ!! ななななな、何なのだあッ!?』

あ、屠り去られてなかった。

先生の魔法攻撃をまともに食らいながら必殺されてないなんて、さすが凶悪な不死の王。

『さすがに立ち上がってきおるか。……見たであろう? 不死の王を僭称するだけあってノーライフキングは死なず、異様なタフさが特徴じゃ。基本、命ある者がノーライフキングに対抗する手段はない。それこそ聖剣か、天使のマナカノンのような聖属性の極まった攻撃手段でもなければ』

見学にやってきた生徒たちは、感心した様子でコクコク頷いたりメモを取ったりしています。

……よかったねキミたち。

今物凄く貴重な体験しているよキミたち?

『ノーライフキングは全員クズで最悪じゃ。この伯爵など典型的。「狩り」と称して人を追い回し、苦しめて恐怖させ、徹底的に絶望させてから殺す。……そんなことを趣味としている悪趣味野郎じゃ』

当人の前でボロクソ言いおります。

『そのようにノーライフキングは根本的に性格捻じ曲がったカスばかり。例外はない! 絶対近づいてはならん。それが生き残るための鉄則じゃ。わかったかな?』

「「「「「わかりました先生!」」」」」

いい返事だなあ。

色々ツッコミどころが満載だけど。

『ふざけるな狼藉者があッ!!』

このダンジョンの主であるノーライフキングが激高しました。

……しますよね、あれだけボロクソに言われたら。

しかも自分ちに押しかけられた上でだし……。

『一体何事かと思ったら……!? 何故!? 何故ノーライフキングがここにいる!? 吾輩と同じ存在が!?』

『前途ある若者に有益なことを教えてやりたいと思っての。ノーライフキングの愚かさ、救いようのなさを』

対峙するノーライフキングとノーライフキング。

本来一人であるべき王が、同じ場所に集ってしまった。

『風の噂で耳に入っての。旧人間国の片隅に、不死となって一際思い上がった愚か者がいると。これはいい教材となると思い訪ねたわけじゃ。無論「こうなってはいけませんよ」という悪例としてな』

『ほざけ! この吾輩を何と心得る! 死すら打ち負かした超越者に向かって!?』

『ワシもそうだ。だがそれがなんだ? 死なぬことが何の自慢になる?』

先生は静かにおっしゃりました。

『人は死ぬ。生きとし生ける者は必ず終わりがあって、それが死だ。それが当たり前のことであり自然なこと。我らはその自然の理に逆らっているにすぎん』

『……ッ』

『人は死ぬからこそ、新しい命を生み育てる。その連綿たる繰り返しこそが真の永遠なのだ。その繰り返しから外れた我々は、醜く惨めだ。その醜さを知ってもらうためにも、この子らにお前を見せたかったのだ。ノーライフキングを恐れ、かつノーライフキングになどなってはいけませんよとな』

ノーライフキングは、過去人であったもの。

生ある者が禁忌の法に触れて不死者となったもの。その知識と力を得れば、あの若者たちの中からもノーライフキングになれる可能性を持つ者が現れる?

『それを教えることが、呪われた身となったワシにできることかと思うての』

『賢しらぶるな出来損ないがああああッ!!』

相手のノーライフキングさん、さらに激高。

『知ったふうな口を利きおって、お前などノーライフキングの下等種だ! 末席だ! 比べて吾輩は高等なノーライフキングのはずだああああ! この場で破壊してやるうう!!』

伯爵の禍々しい魔力が昂ります。

『我が究極のオリジナル魔法で滅ぶがいい「ノブレス百烈弾」ッ!!』

凄まじい数の魔力弾が一斉に先生目掛けて飛びます。

これをまともに浴びたら先生どころかその背後にいる生徒たちまで跡形もなく吹き飛びそう。

ですがそうはなりませんでした。

凄まじい魔力弾の大群は、先生が指を一振りしただけでディスペルされて、霞のように消え去ってしまいました。

『はッ!?』

魔力を放った伯爵が一番驚いていました。

『未熟な魔法制御だ。ノーライフキングになって二、三百年の若僧が、魔法戦でワシに勝てると思うてか?』

先生は言いました。

『ノーライフキングにも格の違いがある。お前ごとき新人がワシに挑むには千年早かったな』

『千年……ッ!? お前は……、いやアナタは……ッ!?』

実力差を感じ取れたのか、ノーライフキングの伯爵はカチカチと骨を鳴らして震えました。

……ああ、これやっぱ私の出番ねえな。

『聞いたことがある……! ノーライフキングの中でもさらに最強最悪の頂点に立つ限られたノーライフキング……! 「三賢一愚」! アナタはもしやその中の一人!?』

『そういえば博士がそんなことを言っておったな……。勝手に任命されて迷惑なことよ』

ちなみに……。

『お前のことを教えてくれたのも博士だ。「教材になりそうな最低のノーライフキングはいないか?」とマナ通信で尋ねてな。お前を紹介された。まったく自分以外のノーライフキングの詳細データまで保管しているとは、「博士」の肩書きに相応しい酔狂人よ』

『博士、先生……! 不死の王すら超える、不死の上級王……ッ!? ノーライフ・ハイ・キングが吾輩の目の前に!?』

『しかし実際に会ってみれば、聞きしに勝る最低ぶりよ。小耳に挟む程度ならともかく、実際に目にしてこの邪悪を見過ごしては、生徒たちに示しがつくかな?』

『待って! お待ちください! それほどの重鎮とわかれば最上の礼をもって歓待しましたものを! 今からでも全力でおもてなしを……!!』

『必要ない。お前のことは滅ぼすことに決めた』

『ひぇッ!?』

『二度とくだらぬ狩り遊びなどできぬようにな。死を忘れた不死者に死を与えることも、不死王の特権と知れ』

『やだあああああッ!? 死ぬのは嫌だああああああッ!?』

* * *

冒険者を獲物と称し『狩り』の名目で殺してきた残虐な伯爵は、先生の怒りに触れ永久封印されることとなりました。

これ以降、『カントリー・キャッスル』は主不在のダンジョンとして冒険者で大いに賑わうようになったそうです。