作品タイトル不明
282 キノコの帰還
リテセウスくんとエリンギアが付き合いだしたことにより、留学生たちの交流も一段と安定化したように思える。
一番目立つ問題でもあったからな、あの二人の対立は。
要は軌道に乗ったということで一安心し、久々に別の作業を始めてみることにした。
農場の本来の作業と言えば、農作物を育てること。
そろそろ本分に立ち返ってみますか。
実は前々から『作りたいなあ』と思っていた作物がある。
それは……!
「キノコだ!!」
……。
いや、違うよ?
新キャラの中にエリンギアって名前の子がいて……。
エリンギア→エリンギ→キノコ。
……っていう連想ゲームになったわけではないよ? ホントだよ?
とにかくキノコ。
食材としては一ジャンルを築き上げて、むしろこれまで『どうして手つかずだったの?』って言われかねないぐらいだけど。
これはもう順番としか言いようがない。
あのシャクシャクとした独特の食感は、ヒトによって嫌われるが俺自身は大好き。是非とも料理のレパートリーに加えたい。
勿論この世界にもキノコはあって、森に入ったらフツーに自生しているが、それらは採って食べたことがない。
やはり毒が怖いからだ。
前いた世界では、素人が採取したキノコ食べて中毒なんてニュースをよく見たし。
恐怖が充分に刷り込まれたので、俺自身こちらの世界でキノコを見かけても採らなかったし、続々加わる農場の仲間にもキノコは採るなと厳命してきた。
何しろ異世界のキノコだから、前の世界の知識とか一切通用しないもの。
どれに毒があって、どれに毒がないかとか全然わからん。
まさか実際食してみて『死んだら有毒』とトライ&エラーを積み重ねていくわけにもいかんし。
それでも、かの森マスター、エルフたちが加入した時は期待したんだがな。
森を住み処とし、自然を利用する知恵を積み重ねてきた彼女たちなら、毒キノコぐらい一目で見分けると思ったんだが……。
「キノコ嫌い! キノコ嫌い! キノコ食べるなんて信じられない!?」
と。
「傘の裏のヒダヒダが気持ち悪い!」「胞子が付く! 手に胞子の粉が!」「ヌメヌメする!」「臭い!」「ヒワイ!!」
と散々。
エルフはキノコに詳しいどころか、種族としてキノコ自体が嫌いだった。
おそらく過去、毒キノコに当たった祖先の記憶からキノコそのものを避ける方向で本能が根付いたのかな。
というわけで結局、これまでキノコは我が農場に接しなかった。
今回ついに接しようとするわけだ。
採取したキノコには毒がある。
かもしれない。
毒の問題を解決するには、自分で育てるのがいいだろう。
毒がないこと確定しているキノコを。
「そんなんどうやって見分けるんだよ?」という声が上がりそうだが、そういう時こそまさに『至高の担い手』の出番。
なんか偉く久しぶりな気もするが。
土を触っただけで色々な野菜作物を芽吹かせることができるように。
シイタケ、シメジ、エノキ、ナメコ。
前の世界で食べられていた人気のキノコを栽培してご覧に入れよう。
* * *
では実際にキノコの栽培にチャレンジしてみよう。
やり方はテレビか何かで見たことがある。
キノコは木から生やすんだろう、たしか。
木を伐り出し、適当な長さの丸太に調整して、そこにキノコの種というべき菌を植え付ける。
前の世界で見た説明だと、ドリルで木に穴を空けて、そこに菌入りの木の釘みたいなものを打ち込むらしい。
そこからキノコが生えてくる。
その方式に倣おうと思う。
それらの過程は地味だから中略。
できた。
あとは湿気や気温に注意しながらキノコが生えるのを待つばかり。
他の作物だと、プラティの作ってくれるハイパー魚肥のおかげで速攻育つんだけど、さすがに原木の中にまでハイパー魚肥は浸透しない。
ここは普通に時間かけて育つのを待つか。
時には気長にかまえることも肝要だ。
菌を植え付けた原木をよさげな場所に置いて、しばらく時間の経過に任せる。
生えるのはいつぐらいかな? 来年かな?
珍しくちゃんと農業している感覚にワクワクしていると……。
* * *
数日後。
キノコが生えてきた。
「たった数日で!?」
早すぎる。
ハイパー魚肥の使えない今回、自然のままに育成されるのを待つしかないはずが、こんなに早く結果が出るなんて異常過ぎる。
また俺の知らないうちに異世界的な作用が発揮されたとでも!?
どう思う!? この結果を見て!?
よくよく生えてきたキノコを観察してみると、わかった。
「これやっぱ異世界的な異常だわ」
大きい。
生えてきたキノコが物凄く大きい。
巨根とか、そんなチャチな比喩では断じて収まらない。
俺の身長と同じくらいの大きさのキノコだった。
巨大キノコ。
これが異世界ファンタジーと無関係であるわけがない!!
「何故こんなものが生えた……!?」
俺は『至高の担い手』で原木に、たしかに普通のキノコの菌を植え付けたはずだ。
最初はスタンダードにシイタケにしてみた。
しかしたった数日で生えてきた巨大キノコは断じてシイタケではない!!
どうしよう!!
いっそ基礎の原木ごと燃やしてしまおうか!?
『ちょっと待ってください……』
!?
なんだ!? 今の声は!?
何処からともなく声が聞こえてきた!?
聞き覚えがないぞ!
女性っぽい清涼で甘い声だ!
続いて目の前で起きる異変。
巨大キノコの柄の部分から、何か浮かんできた。
これは……、目!?
『やあ』
「お前か喋ってたのはッ!?」
俺は迷わず巨大キノコにグーパン叩きこんだ。
『ぐえほぅッ!? げふ、やめてやめて! 衝撃を与えないで胞子が飛び散る! ちゃんと天気のいい日に飛ばしたいの!』
もう確定。
これはシイタケではない。
異世界由来のファンタジーキノコだ!!
「お前何者だ? 何処から湧いて出た?」
『わかりきったことを聞かれますなあ。アナタが用意してくださった原木から湧いて出たに決まっているじゃないですか』
そう言われればその通りだが……!?
『そしてそれ以前は、微小な胞子として空気中を漂っておりました。この世界あまねくすべての場所に私は存在しているのです』
「やめろ! 呼吸するのにいちいち躊躇するようなこと言うのやめろ!!」
空気清浄機が欲しくなってくるじゃないか!
『こうして再び目に見える大きさにまで生まれ変わることができたのも、聖者様が依り代を用意してくださったおかげ。本当に感謝しております』
「依り代って、お前が生えてきた原木のことか?」
お前のために用意したんじゃないのだがな。
本来生えてくるはずだったシイタケは、この巨大キノコという侵略者によって菌糸の段階で駆逐されてしまったのだろうか?
だとしたら楽しみがダメにされてしまって、俺は少々不機嫌になっているぞ?
「それで、お前は一体何なんだよ?」
会話可能ということなので改めて問いただしてみた。
コイツが何者なのかはっきりしてから焼却処分しよう。
『これはつれない。アナタとは以前お会いしたではありませんか?』
「喋るキノコの知り合いはいないぞ?」
『当時はまだ会話機能を獲得しておりませんでしたから。しかし私はアナタとたしかに出会ったのです。あの紅葉舞い散る山上で』