軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

283 不死身の菌糸類

「うん? う~ん?」

『思い出しませんか? 私はあの竜が支配する迷宮で生まれました』

「それってヴィールの山ダンジョン? あそこで生まれたモンスターか?」

『そこで私は、アナタたちに戦って敗れました。あの恐ろしい狼とオークたちに……!』

「あー!」

何か思い出してきた。

あれかなあ? 以前ヴィールがダンジョンを改造したって言って、その出来栄えを見るために皆で攻略したことがあった。

改造ダンジョンは春夏秋冬のエリアに分かれていて、それぞれに特色あるモンスターが襲い掛かってきたと記憶している。

「その中にキノコ型モンスターがいたような…!?」

たしか秋エリアに。

「お前あの時のキノコか!?」

『ようやく思い出してくださいましたか。そうです。そして我が名は……』

溜めて……。

『マタンGO!』

「どうでもいいわ」

随分前のことだからすっかり忘れていた。

何故今さらになって出てきた?

『ずっといましたよ?』

「ええ……?」

『アナタ、私の体をここへ持ち帰ったではないですか』

そうな。

山ダンジョン秋エリアで倒したキノコモンスターの死骸を、一応食えるんじゃないかと持ち帰って吟味したことがある。

しかし、不味そうだわ健康に悪そうだわと言って結局利用不可とし、廃棄処分になった。

『しかし私は滅んではいませんでした。私は、この基本体を構成する菌糸一つ一つが私なのです。アナタ方が持ち帰った前の体から零れる胞子が空気中を舞い、私はずっと存在し続けていたのです』

「山ダンジョン攻略後からずっと!?」

今すぐ家中消毒したくなってきたぞ!!

『あ、ご心配なく。人体に害はありませんので』

「本当かよ……?」

『それに私の目的は別にありますから』

「目的? なんだよ?」

今さら目に見える形で現れたのと何か関係あるのか?

『私は、屈辱を受けました……!』

「ん?」

『アナタたちは私を審査し、何の役にも立たないと烙印を押しました。犬や亀どもはそれなりに役に立ったのに、私だけ不合格。とても悔しい!』

だってお前食材にもならなそうだし、道具に加工もできそうにないだろ?

亀の甲羅なんかは盾にして、それなりに役に立ったけど、そのキノコの体をどう活かせってんだよ?

『なので私は機会を待ちました! 胞子として空気中を漂っている間、何度も分裂を繰り返し、進化していったのです!!』

キノコってそういう生き物だっけ?

いいや、ファンタジーの出来事と割り切ろう。

『今こうして会話できているのも、進化によって獲得した機能! 今度こそ私は、アナタのお役に立ってみせましょう!』

「何故そこまで献身的なの……?」

巨大キノコは情熱的に奮い立っていた。

片や俺は、楽しみにしていたシイタケ栽培がオジャンになって限りなくテンションが低い。

巨大キノコの言い分も流されるままに聞いているだけで、今からでも気を取り直して焼却処分してしまおうかと思わないでもない。

が、もう少し付き合ってみるか。

「それで? 何ができるようになったの?」

進化したんでしょう?

話ができるようになった以外にも新能力あるの?

『よくぞ聞いてくださった! これをご覧ください!!』

巨大キノコは急に力を込めだした。

『うぬぬぬぬぬぬぬぬぬぬ……!』

何やら踏ん張っているような?

すると、巨大キノコの踏ん張りに呼応するかのように変化が。

ヤツの土台となっている、キノコの苗床用の原木。そのそこかしこから白いものが生えだし、茶色い傘が開いて、キノコの形となった。

「これは!?」

この形、この傘の色。

キノコはキノコでも、間違いなくシイタケ!

原木から巨大キノコとは別に、多数のキノコが生えている!?

『これがアナタのお求めキノコですな?』

「はいそうです!」

でも何故!?

てっきり原木内で巨大キノコとの生存競争に負けて淘汰されたと思ったのに!?

『アナタが植え付けた菌糸は滅んでいません。私と融合したのです』

「融合!」

『そして融合した菌糸の形を私は記憶し、いつでも再現することができるのです。そして生えたのがこのシイタケ!』

これがマジなら凄いこっちゃ。

今シイタケが生えてきた速度は、自然のものとは比べ物にならない。

早送り映像を見ているかのようだった。

これだけの速度でシイタケを生産してくれるなら凄く助かるんだが……!?

「…………」

『さあ、一本味見してみてください! 味もしっかり再現していますので!』

執拗に推してくる巨大キノコに、俺は勧められるがままシイタケを一本引き抜いてみる。

原木から。

傘の黒々としたシイタケはたしかに美味そうだが……。

「……」

俺は空を見上げた。

いい天気だった。空の青が目に染みる。

そんな青空にかかる一点の黒。

カラスだ。

日頃から農作物を掠め取っていく憎たらしい害鳥。

「おーい、カラスおいでー」

と俺はシイタケを掲げた。

「ここにエサがあるぞー。毒あるかもだけど」

『聖者様あああああああッ!?』

毒見役のカラスは、美味そうにシイタケをガッついて元気に飛び去っていった。

「……少なくとも速効性ではないか」

『毒なんて入ってませんよ! アナタのために進化したんだから信用してくださいいいいいッ!?』

巨大キノコから泣かれた。

でもこれ、お前の体の一部なんだろう元々?

ちょっと食うのに勇気がいるというか……!

そもそも野生キノコの毒が怖いから栽培に踏み切ったというのに、その栽培キノコでも当たるのを心配してたら世話ないじゃないか。

『お願いします! お願いします!』

巨大キノコがあまりにも切実に頼んでくるので断ったら鬼畜みたいな雰囲気になってきた。

俺は圧力に屈した。

「まあ、火を通せばヤツの細胞も死ぬか」

まず水で洗って……。

超スピードで生えたのを即座に毟ったんだから虫の心配はしなくていいか。

その辺で火を焚き、串に挿したシイタケを丸ごと焼いてみる。

じっくり焼く。

執拗に焼く。

シイタケを構成しているヤツの細胞がすべて焼死し、ただの食い物に変わるまで。

『あの……、焼きすぎじゃないですか? 黒焦げになってますよ?』

「もう少し……」

念には念を入れる。

よし、真っ黒焦げだ。

これなら完全にすべての細胞が死に絶えているだろう。

いただきます。

「あむッ……」

外見は焦げてジャリッとしたが、中身はどうして……。

「あつあつ……ッ!?」

シャクシャクした食感。

これはまさにシイタケだ!

傘の裏にほんのちょっと醤油を垂らして……。

「これは美味い!」

『やったー! ついにこれまでの苦労が報われたーッ!!』

俺はシイタケを食べられたことに。

巨大キノコはシイタケを食べてもらったことに。

それぞれ同じぐらい喜びを表した。