軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

255 人魚の女学校

わらわこそ『アビスの魔女』ゾス・サイラじゃ。

わらわは今、人魚国の首都、人魚宮に来ておる。

なんで?

それは農場の連中から預かった小娘どもを引率してきたからじゃ。尻びれの青魚な、おぼこい稚魚娘どもをな。

なんかコイツらが里帰りするとか言うので。子どもだけだと不安じゃろうと。

なんで?

なんで『アビスの魔女』たるわらわが、そんな慈善めいたことを?

わらわ自身が心底納得しておらぬ。

これにはしっかりとした、やむなき理由があるはずじゃ。

そうまずは、いつも通りオークボに会うため聖者の農場を訪れた時のこと。

そのタイミングが悪かった。

これが最初の、もっとも大きな理由であるはずじゃ。

そこで『王冠の魔女』の小娘から言われたのじゃ。

* * *

「ねえ、ウチの妹たちが里帰りするのよ。アナタ引率して」

「なんでじゃ?」

「いやー、不安要素が一つあってさあ? あの子らだけじゃ荷が重い事態が起こりかねないのよ」

「何故わらわなんじゃ?」

「ウチの関係者人魚でアナタが一番暇じゃない?」

「暇ではないが?」

「正式にここの住人でもないくせにちょくちょく遊びに来るじゃない。アタシは妊娠中で海に潜れないし。パッファは醸造蔵の仕事とアロワナ兄さんとラブラブの掛け持ち。ガラ・ルファは住人全員の健康管理。ランプアイも何やかんや言って忙しいし……」

「わらわも暇ではないぞ? 自分の研究所で研究する合間を縫って来ておるんじゃぞ?」

「あと、ウチにいる先輩人魚って、祖国では囚人扱いって子たちばっかなのよ。さすがに首都を大っぴらに歩かせるわけにはいかなくてさあ」

「わらわも思っくそお尋ね者なんじゃが? 捕まってるか、まだ捕まってないかの違いしかないんじゃが? 六魔女は全員そんなもんじゃろう?」

「よろしくね六魔女最年長」

* * *

てな感じで押し切られた。

何なんじゃ? 何なんじゃあの有無を言わせぬ押しの強さは?

この『アビスの魔女』に、よりにもよって子守を押し付けるとは。

ヒトの話を聞かないのは血統なのか!?

あっ、いや……。

まあ、そんなわけでわらわ、久方ぶりに人魚の都に足を踏み入れておる。

何年振りかの?

十年……も隔ててないと思うが。深く考えたら怖いので考えないことにした。

そして若さゆえに恐れを知らぬ小娘ども。

なんでも、あの農場に住まう正式な許可を得るための里帰りなんだとか。

まあ許可でもなんでも好きに取るがいいわ。

親に甘えられる年齢のうちに甘えておくがいい。

数日ほど、実家で寝泊まりしていた連中は、期日通りに集合してきた。

「許可取れました!」

「バッチリです!!」

「立派な魔女になって来いよって言われてきました!」

そか。

よかったの。

っていうか親御さん本当にいいのかえ? 娘さんが魔女になって?

「ほんなら用事は済んだの。さっさと農場へ戻ろうではないか」

そしてオークボに会いたい。

「待ってください!」

「むしろここからが本番なんです!!」

小娘どもから一斉に縋りつかれた。

ええい、一体何なんじゃ。

わらわを、他の若魔女どもと一緒にするな。わらわはあやつらほど過保護でもなければ面倒見がいいわけでもないんじゃ!

「むしろ親は前座というか! 四天王最弱とでも言うか!」

「ラスボスが後に控えてるんですううう! どうかそこに至るまでご同行をおおおお!」

「一緒にいてくれるだけでもいいんです! 心細いからあああ!!」

ラスボス?

何の話じゃ?

縋りつく四人とは一線を画し、ただ一人仁王立ちする人魚の小娘。

たしかヤツは『王冠の魔女』の妹じゃな?

ソイツが言った。

「アタシたちが通っている学校からも、許可を取って来いって言われたのよ。あの鬼姉に……!」

学校?

「そう、人魚国最高峰の魔法薬学師を養成するエリート学校。マーメイドウィッチアカデミアの!!」

言いつつ、『王冠の魔女』の妹の尾びれが小刻みに震えておった。

やっぱり怖いんじゃな。

* * *

しかし。

マーメイドウィッチアカデミアとは大した名前が出てきおるわ。

名門校だからの。

人魚族が、他の人類に誇る薬学魔法。

それを若人に教える学校が人魚国には散在する。

その中で圧倒的な規模と学力を誇るのがマーメイドウィッチアカデミア。

人魚王家が直営しておるんじゃから、そりゃ名門になるわ。

入学を許されるのは、まず人魚王家の息女。それに準ずる貴族の娘。さらに人魚国全土から選抜された才媛たち。

『王冠の魔女』の妹ならば、その立場は人魚国の王女なんじゃから入学の資格は充分にある。

その取り巻きも、学び舎でつるむようになった悪友と言ったところじゃろう。

なんじゃコイツら全員いいとこのお嬢様なのかえ?

元々気乗りせぬ仕事であったが、ますますどうでもよくなってきたの。

何故『アビスの魔女』たるわらわが、毛並みよい令嬢のケツ持ちなどしてやらねばならんのじゃ?

わらわが魔女と呼び恐れられているのは何故か?

わらわの研究が世界を滅ぼすものと危険視され、異端認定されたからじゃ。

そんなアウトローのわらわと、温室育ちのお嬢様など対極。

よくまあ組み合わせようと思ったものじゃ。

あー、なんかどうでもよくなってきた。

テキトーに同行するだけで、口出しせんでおこうかな。

あとで何か言われようと知ったことではないわ。

わらわは『アビスの魔女』。

魔女をすんなり信用する方が悪いんじゃーい。

* * *

で。

やってきたぞ。

マーメイドウィッチアカデミア。

実のところ、アウトローのわらわは初めて足を踏み入れたんじゃが、想像通りに豪勢でイヤミったらしい建物じゃな。

なんかこの部屋で担当者と面談するらしい。

ドアの前で小娘どもが円陣を組み出した。

「いい? アタシたちは試練を乗り越えて、必ず農場に帰るのよ!」

「「「「ハイ! エンゼル様!」」」」

「正統五魔女聖! ファイッ!」

「「「「オー!」」」」

「ファイッ!!」

「「「「オー!!」」」」

「ファンッ!!」

「「「「タスティックッ!!」」」」

なんでそんな気合い入れまくっとるんじゃ?

あとなんじゃ『正統五魔女聖』とかいうのは? チーム名か? 恥ずかしいのう?

気合い新たにドアを開け、入室するヤツら。

「し、失礼しまひゅ……ッ!?」

噛んだ。

そんなに緊張しておるのか?

室内は、名門校の一画というだけあってこれまた見事にイヤミったらしい整いっぷり。

そこに一人の人魚が待ち受けておった。

「お久しゅうございますわねエンゼル王女? 本来ならば私の授業を受けるために毎日顔を合わせているはずですが?」

言い方もイヤミったらしい。

まあ学校側から見ればこの五人、月単位で無断欠席をやらかしておるんで皮肉程度で抑えているだけでも優しいと言うべきじゃが。

それで……。

「……誰じゃ?」

このいかにも『腐ったミカン』とか言い出しそうな女人魚は?

人魚小娘の一人が、答えないわけにもいかないと思ったのか密かに耳打ちしてくる。

「マーメイドウィッチアカデミアの教師で、カープ教諭です」

教師か。

まあそうでないかと思っていたが。

ん?

カープ?

もしかして、あのカープか?

この几帳面すぎる服装から当時の面影をまったく感じ取れんが……。

『アルスの魔女』カープか?